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大罪人VS『憤怒』の狼

 その後の試合は極端な物だ。

 ユウと戦う時は王道と言える武器と技術を持って戦い、俺の場合は一方的に破壊され尽くし、一部の獣人は少しだけマシだったがレベル差があり過ぎて結局技術を使う事なく、ただの暴力だけで終わってしまう。

 ユウの戦績は準決勝出場であり、俺とぶつかる前に負けてしまった。


 ユウに勝った獣人は白髪の狐の獣人の爺さん。

 おそらく200年以上戦っている獣人だろう。筋肉は多過ぎず少な過ぎず、適した筋肉量を保持している。

 そのためパワーもスピードもなかなかで長い時間生きていた技術も十分発揮していた。

 こればっかりは相手が悪かったとしか言いようがない。

 ユウも修行でそれなりに技術を得ていたが、主にモンスターの相手ばかりしていたので対人戦の技術はやはりまだまだだっただけだ。


「……負けた」

「お疲れ。こればっかり仕方ない」

「この感情は何」

「感情?」

「燻っている。負けた事が頭から離れない」


 どこか苛立っている様な、敗北した事実を正面から見る事を嫌がっている様に感じた。


「恐らくそれは悔しい、だ」

「悔しい?」

「負けたくなかった、勝ちたかった、そんな感情だ。つまりお前はあの爺さん相手に本気で勝とうとしていたと言う事だ」

「……本気で勝とうとしていた……」

「その気持ちは強くなるために必須の感情だ。ちゃんと持っておけよ」


 俺はそう言ってからステージに向かう。

 俺とさっきユウに勝った爺さんとの決勝戦だ。

 特に報酬に興味はないが、あの爺さんは久しぶりにまともに相手にしてくれそうだ。

 それだけを期待にステージに足を運ぶ。

 爺さんの表情は変わらずただ俺の事をじっと見て戦いに備えている。

 既に剣に手を置いていた。


 そんな彼に対する俺の感想は残念と言う感情だ。

 ほんの5年、少し早く来ればもっといい勝負が出来た事だろう。

 年のせいで体力が落ちているのは目に見えていると言ってもいい。


『それでは始めて下さい』


 俺が出場する試合では歓声は一切上がらない。

 ただただ祈りを捧げるだけで勝利を望んでいるよりは死なないように祈っていると言った方が良い。

 そんな空気の中爺さんは俺に言う。


「貴殿、名は」

「ナナシ」

「……大罪人と同じだな」

「本人だからな」

「……なるほど」


 どこか納得したように剣を構える爺さん。

 おそらく居合いから攻撃する気満々でその場を動かない。

 それに対して俺は堂々と前に歩き、爺さんが一気に剣を抜きながら攻撃した。


 それに対して俺は初めて極夜で防いだ。

 もちろん爺さんは即座に連続で剣を振るう。

 動きながら、主に俺の後方から攻撃を続ける。

 俺も振り返りながら極夜を使うがなかなかの速度で動き回るので簡単に攻撃に移れない。

 背と足を狙った剣だが、全て防ぐと爺さんは軽く距離を取った。


「……これを、軽く流すか」

「悪くはない。だが年を取り過ぎたな。非常に残念だ」

「貴殿に力を使わせる事も出来ないか。もう少し早ければ力を使わせるくらいはできただろうか」

「さぁな。で、どうする。続けるか」

「お願いします」


 例え老いて力を失い続けても目に宿る戦うと言う意志は一切消えていない。

 それどころか強敵を見付けて更に輝かせる。

 ああ、これが俺が知っている獣人だ。

 戦いの中で生き、戦いの中で死ぬ。

 これこそが俺が憧れた獣人の姿だ。


「なら俺も敬意を示そう」


 そう言ってから初めて俺はスキルを使用した。

 使用するスキルは『覇王覇気』と『憤怒』。俺が慣れ親しんだスキルで相手をする。

 爺さんは居合いが得意なのか再び構える。


 俺は構えと言えない片手で極夜を持って爺さんの前をゆっくりと歩く。

 そして爺さんの攻撃範囲に入ると全力の一撃を俺に与えようとする。

 剣を抜いた音も、風を切る音も置き去りにした剣は確かに達人の領域に達している。


 だが俺にはまだ届かない。


 ただ単にそれよりも早く動き、腹を斬る。

 レベルによる地力の差、スキルの強さ、スキルの熟練度がこの差を生む。

 俺の動きは誰にも反応できないほどの速さであり、動いて止まった後に風がちょっと動いた程度にしか変化がない。


 単に俺の方が速いから先に切った。

 結果だけで言えばそれだけの話。

 どんな事も結果だけを見るとつまらなく見えてしまうのは非常に悲しい事だ。

 この事を理解できるのは同レベルかそれを超える熟練者たちしかその難しさが分からない。


「……お見事」


 そう爺さんは呟いてから前に倒れた。

 重症ではあるがあるが死ぬほどではない。

 おそらくこれは強敵と戦って満足した事で一気に肉体が弱体化してしまったのだろう。

 獣人の厄介な点として誇りある傷と言う物は永遠に身体に残ってしまう、と言う所がある。

 言ってしまえば堂々と戦士として戦った傷はそのまま残って誇りとにする者が多い。

 まぁ今もそうなのかどうかまでは分からないが。


 倒れた爺さんは直ぐ様に医務室に運ばれ、俺にはこれから王族からの褒章式らしいが……

 アナウンスの声が非常に遠い。

 俺の視線の先にいるのは王族席に座っている白い狼。

 狼も俺の視線から一切離さず、ただ真っ直ぐ睨み合う。


 褒章式に向かってステージを整備し直している途中で狼がステージに降りてくる。

 俺達はまだ互いに視線を逸らさずに狼がステージに上がるのを待つ。

 周囲は俺と狼の不穏な空気を感じつつも作業を続けようとしたところで、狼は人型に変化しながら俺に襲い掛かってきた。


 俺も襲い掛かってくるのは分かっていたので極夜を使って最初の一撃を防ぐ。

 狼だった獣人、白髪の美女と言って十分通用する美貌からは200年以上生きている様には感じない。

 先程の狐の爺さんの様に年を取った形跡が一切見当たらない。肌に張りがあればみずみずしく、髪は白くなっていても決してボサボサになっていないし薄くなってもいない。

 顔に皺は一切なく、たるみも一切ない。首から下の手足は細過ぎず太過ぎず、胸と尻も大き過ぎない俺好みの大きさを綺麗に維持している。

 まるで肉体の全盛期が来てから時間が止まったかのように感じた。

 そこから更に戦闘経験を積み、強力なスキルを手に入れたとしか言いようがない。


 狼は片手で極夜を持ち開いた手で俺の脇腹を鋭い爪で肉をえぐろうとしたが、狼を蹴りながら無理矢理極夜を引いて脱出する。

 狼は極夜によって切れた掌に付いた血を舐める姿は扇情的で、その瞳は狙った獲物を決して逃がさないと背筋が凍る程の視線を俺に送ってくれる。


 あれは捕食者の目だ。

 俺が強いと感じた獣人達の中で特にヤバいと感じた眼光。

 その視線を感じた俺は、非常に興奮していた。


 恐らくあの狼のレベルは90台、強力なスキルをいくつも持っている化物クラス。

 どんなスキルを持ってるのかは不明、どんな戦い方をするのかも不明。

 分からないけど強力な敵である事だけは間違いない。

 そんな強敵を前に俺は昔を思い出す。

 ただひたすらに力を求めたこのゲームを始めて間のない頃を――


「なぁ、賭けをしないか」


 俺の言葉に反応する狼。

 だが向こうから話しかけてくる様子はないので一方的に話させてもらう。


「俺はお前が欲しい。お前は良い雌だ。強くてスタイルも俺好み、その足のつま先から頭のてっぺんまで全てが欲しい。髪の毛1本、血の1滴まで俺はお前を愛したい。だから俺が勝ったらお前は俺の物になれ」


 そう言うと狼も嗤った。

 その笑みは王族で育ったとは思えないほどの凶悪で淫らな笑み。

 まるでその言葉を待っていたと言わんばかりで狼からオーラがあふれ出す。


「勝ったら私がお前をもらう。首輪をつけて、私の愛玩動物として一生私の傍に居て、私が満足するまで交尾を繰り返してもらう」

「負けてもお前の身体をむさぼれるのは嬉しいが、自由がないのはごめんだ。それじゃ俺が勝ったらお前が俺の愛玩動物ペットになれ」

「それにしよう」


 相手の合意を得たので賭けは成立っと。

 俺は極夜を鞘に納め、別の呪われたアイテムを装着。


 今回使う武器は籠手。

 籠手と聞くと防具をイメージしがちだが、これは立派な武器だ。

 指先は硬く尖り、手の甲の部分には相手を切り裂く事の出来る鉤爪もありどちらでも攻撃できる。

 単に殴るだけならメリケンサックでもいいかも知れないが、籠手の方が掴んだり引っ掻いたり、色々できるので俺はこっちの方が好みだ。

 どのような攻撃をしてくるのかは分からないが獣人である以上魔法は不得意。近接戦闘に持ってくるのは目に見えている。

 どう攻撃してくるのか警戒していると狼のオーラの色が変わった。

 白から血のようなあか、オーラの形もまるで巨大な狼のような姿に変化している。


 これを見て俺は驚愕した。

 まさかと思ったが狼は血走った目で俺を捕らえながら右手を広げながら振り下ろした。

 素早く攻撃を避けると攻撃の余波で地面から闘技場の壁まで爪痕は真っ直ぐ伸び、観客席にも被害が出ている。

 今の攻撃に巻き込まれた観客の手や足が吹き飛び、手を失った者はともかく足を失った者達は泣き叫びながら逃げる。


 分かっていたがこれはどういう事だとしか言いようがない。

 この目の前の狼が使っているスキルは『憤怒』だ。


 大罪系、美徳系スキルは誰か1人が手に入れたら他の誰かが手に入れる事はできないはずだ。

 最低でも前所有者が死に、スキルを所有していない状態でなければならないはず。

 もしくは強欲で奪うくらいか?強欲でスキルを奪う事ができるかどうかはプレイヤー次第だが、可能性は0とは言い切れない。


 まさか……俺が死んでいる間に取得したのか?

 俺が死んだのは300年前。その間に目の前にいる狼が『憤怒』を取得していたとしたら?

 もしくは……俺が所有している『大罪人』は別のスキル扱いだったら?

 全ての大罪系スキルが統合されたからと言って俺が『傲慢』『憤怒』を所有していると判断されておらず、完全に別のスキルとして扱われているとすれば矛盾は生じない。

 実際スキルを統合させると所有していたスキルは消失した、と言う扱いになっていたから俺の持っていた大罪系スキルは全て消失したと言っていい。


 あの悪の神め。重要な事わざと黙ってたな。

 これも面白要素だと言ってはぐらかされそうだ。


 狼は『憤怒』と覇気によって基礎部分を大きく向上させている。

 他のスキルに関してはまだ不明だが現時点で俺が勝っているのはパワーと耐久力。

 狼が勝っているのはスピードとクリティカル率。

 技術に関してはほぼ五分だろうか。

 俺は強敵と戦い続けてきた勘、狼は長い時間戦ってきた勘と言う所か。


 狼の攻撃は完全に急所狙いで心臓に首、鳩尾などを中心に攻撃を仕掛ける。

 おかげで俺の手足は既に切り裂かれた傷でとっくの昔にボロボロだ。

 出来るだけ避けているが避けきれずに腕や足、脇腹など肉がかなりえぐられている。

『色欲』によって開いた傷をすぐに塞ぐ事はできるが、体力が回復する事はない。ただ傷を塞いで血がこれ以上流れる事がないだけで体力は地味に削られる。


 だが俺も鈎爪で狼を切り裂く事には成功している。

 殴り切り裂く事で傷を負わせているが自己再生系スキルを所有している様で傷は癒えていた。

 決定打にはならないが、俺の拳や蹴りは時々急所に当たる。これは俺の方が体格とパワーで勝っている事から手などで払おうとしても払いきれなかったからだ。

 と言っても当たっているだけで大したダメージにはなっていない。

 当たりそうな攻撃は自ら後方にジャンプして衝撃を少しでも殺したり、ひたすらに避けて対応する。

 と言っても俺は現在憤怒をのみを使った状態で戦っているので他の大罪系スキルも使わせてもらう。


 雰囲気の変化に気が付いたのか身構える狼。

 俺は傲慢を利用して瞬間移動で狼の後ろに現れ、振りむきながら爪を振るう。

 狼も驚いた雰囲気は感じたが冷静に前に走って回避する。

 初見でこれを回避できる奴は久しぶりだ。雑魚だったらこれでとっくに終わっている。

 終わらない事は分かってたけど。


 走って逃げた狼に対して俺は瞬間移動で連続で移動しながら攻撃する。

 前に現れて顎を狙う。

 狼はそれも避けた。

 これは……面白い。本当に、面白い。


 狼は舌打ちをした後に避けながら俺の脇腹をえぐろうとする。

 少しでも攻撃しようとしているのは分かるが、無理な体勢をしているせいで爪の先も届かない。

 しかも無理な体勢をしているので横に入り狼を蹴り上げた。


「がっは!」


 狼が宙を舞いながら血を吐き出す。

 内臓は潰したはずだが、狼の目はまだ死んでいない。

 追撃を繰り出す前に狼は体勢を直し、こちらに向かって飛び掛かった。

 おそらくスキル、『空歩くうほ』だろう。空中に足場を作ってジャンプしたりする事ができる基礎スキルの1つだ。

 それを使って狼は素早く俺の元に戻って攻撃をする。


 どうやらこの狼は空間魔法の弱点を即座に理解したらいい。

 瞬間移動は座標の指定に1秒かかる。

 元の世界だったら早いと思われるかも知れないが、この世界の強い連中からすれば1秒は大きな弱点だ。

 俺だって1秒好きに出来ると言われたら相手を最低10回は殺せると思う。

 それだけの速度を出せるのがこの世界の強い連中なのだから空間魔法は雑魚相手にしか使う事がない。

 それにしてもやっぱりもっといろんな魔法を覚えておいた方が良かったかな……

 元々物理攻撃特化で魔法とか覚えてないしスキル任せ。

 この空間魔法だって『傲慢』の中にあったから使っているのであって覚えようと思ったわけじゃないからな。


 普通のプレイヤーは最初に好きな魔法を覚え、それを極めようとする。

 魔法を覚える方法は様々で、魔法使いのNPCに弟子入りする、魔法を学ぶ学校に入学する、図書館に行って独学で魔法を覚えるなどだ。

 まぁこれは王道的なやり方であり、リスクを度外視するならレベルの高い魔導書を片っ端から開いていった方が早い。

 レベルの高い魔導書は呪われたアイテムとほぼ同じであり、魔導書を開くとその内容を強制的に頭の中に叩き込まれる。

 それが原因で普通の人が目にすればいきなり大きな情報量が頭の中に叩き込まれて良くて発狂、悪けりゃ廃人コースだ。

 レベルの高い魔導書はその本の著者の意思を継ぎ、本を開いた者に強制的にその本に書かれたすべての知識を伝えるのが仕事の様な物だ。

 だから開いた本人のレベルなんて関係なく、とにかく開いた者に知識を叩き込む。


 まぁ大抵はポラリスの図書館の様に厳重にしまわれているから見る機会はそうないと思うけどね。

 俺の場合は『色欲』を手に入れるクエストで初めて魔導書の事を知ったくらいだし、恐らくあの魔法使いを殺す必要はなかったんじゃないかな?本当はあの魔導書を発見して読む事が条件だったのかも知れない。


 っと。

 無駄な事を考えている間も攻撃されているんだった。

 狼は自慢のスピードを利用して瞬間移動を封じるつもりらしいが、先程の攻撃を受けたせいで動きが鈍い。

 ふらついた隙をついて攻撃するがギリギリの所でかわしているけど明らかに動きが悪い。


 少し離れた狼は口の中に溜まっていた血を吐き捨てて構える。

 そろそろ腹の中の自己修復が済んだんだろう。と言ってもまだまだ完全ではないが、戦える程度には回復したと言うべきか。

 でも俺はそんな隙を見逃すほどやさしくない。

 次は俺から攻める。


 似た戦法で戦う者同士の場合どちらが勝つかと聞かれれば、それは自分の得意な流れに引き込んだ者が勝つと言っていいだろう。

 お互いに近接戦闘が得意だが、狼はスピード重視、俺は攻撃力重視。

 狼は長期戦で俺のHPを少しずつ削っていくつもりだろうが、俺の攻撃は一撃で相手のHPを一気に減らせる戦法。

 狼の防御力は低そうなので一発でも喰らえば危険なはず。

 もう既にこちらが良い一発を入れているので自己修復系スキルがあっても時間はかなりかかるだろう。


 だからここからは俺が攻め続ける番だ。

 言い方を変えればここでまた狼の流れに変わるのは非常に危険だ。

 勝ってどうやって『憤怒』を手に入れたのかも聞きたい。


 俺の拳や蹴りは狼にとって遅いからかまだ避けるが、時折りふらついて攻撃が掠る。

 それだけでも『憤怒』と『覇王覇気』を使った攻撃なのだからかなりのダメージになってるはず。レベル1のNPCだったら掠っただけで吹き飛んでとっくに死んでいるはず。

 狼も隙あらば俺に攻撃を仕掛けるが、俺にとっては大きなダメージになりにくい攻撃ばかり。

 元々喧嘩式、何て言われる様な相手の攻撃をわざと受けながら相手の急所に重たい一撃を入れる戦法とは言い難い戦い方だったのだからこの程度何ともない。


 そして狼がふらついた瞬間、ようやく捕まえた。

 左手で狼の首を掴み、空中に持ち上げる。

 それだけで狼は自重で苦しむし、首を掴まれているので呼吸困難、もっと簡単に言えばこのまま俺は首をへし折る事も出来る。


 狼は危機感から叫び声をあげながら両手の指、より正確には爪に覇気と『憤怒』の力を集中させる事でより切れ味を増した爪で俺の顔を切り裂く。

 その爪の余波でステージに深い抉り取られたような傷が出来たが、俺はまだ健在。流石に無傷とはいかず頬の肉がえぐれたり、耳が切り落とされたりしたがこれで俺の勝利は確証した。

 右手に力を込めて殴る前に、狼は俺の鳩尾に蹴りを入れるが、俺の攻撃を止めるられる程ではない。

 それで俺の腹に狼の足が食い込んで血が溢れ出るが内臓には到達してない。


 最後の最後に決められなかった狼の腹に俺は拳を深く突き刺す。

 鈎爪は深く突き刺さり、背中まで貫く。

 その衝撃は狼の身体を通して空にまで上がり、雲を散らす。

 狼は血を大量に吐き出し、俺の顔や肩にかかるが俺はまだ油断しない。

 首を掴んだまま地面にクレータが出来る程の力で叩き付け、俺は聞く。


「どうする。まだやるか」


 狼は首を絞められながら、血反吐をある程度吐き出して苦しげに言う。


「……服従、します」


 俺はそう聞いてから狼に隷属の首輪をはめてから手を離した。

 狼はすぐに四つん這いになり、思いっきり血を吐き出した。

 身体中の血を吐き出しているのではないかと思えるくらいの量だが、自己修復系スキルはおそらく上位だろう。最低でも『高速再生』、予想では『無限再生』を所有していると思う。

 ただこの再生系スキルは次々と新しい細胞を作るので、古い細胞、つまり傷を負って流れた血を再生のために再利用される事はないのでこうして見た目以上に血を吐き出す事になる事が多い。


 それから服従の首輪をつけたが今は意識を消したり操作したりはしていない。

 この辺は首輪を付けた側が操作できるので消さないでおこうと思えば出来る。と言っても最低限主人に攻撃できない、と言う呪いは常時発動されているが。


「中々強かったな。お前名前は?」

「……お忘れですか?300年ほどお待ちし続けたのですが」

「その言い方、まさか俺と会った事があるのか?」


 それは純粋に驚きだ。

 獣人の中で俺の事を知っている奴がまだ生きているとは思わなかった。

 だが俺にとっては300年後の人物。300年前の誰かと言われて誰だか分からない。

 俺が悩んでいると残念そうにため息をつき、仕方ないかと言う雰囲気を出しながら名乗った。


「私はレナ。レナ・フェル・ヘルシング。覚えておりませんか?」

「レナ?レナって……まさか子犬!?」


 俺は驚きながらそう叫んだ。

 レナ・フェル・ヘルシング。

 300年前はまだまだ小さな狼の獣人であり、俺のあだ名通り子犬の様な性格で構え構えと甘えて来たり、俺が狼っぽくないと言うと怒って噛みついてきた女の子だ。

 ただ当時は子供で髪も黒く、幼い印象の方が強かったのですぐに結びつかなかった。


「お前……強くなったな~」

「そう言っていただけると嬉しいです。年のせいで白くなってしまいましたが、あなたの愛犬、レナです」

「愛犬って……お前犬扱いするすると怒ってたじゃん」

「もうこの首輪をはめられたのでナナシ様の愛玩動物ペットなのは確定しましたから。奴隷落ちしたのでもう王族は名乗れませんね」


 クスクスと笑っているがこの国にとっては大きな損害だと思うけどな。

 まぁ300年も生きていればいいいい加減いなくなれ~って思っている連中もいるだろうが、大罪系スキル所有者であり、レベル90前後と思われる奴がいなくなるのは大きな損失だろ。

 実力至上主義のこの国でこれは大損害だ。


「と言っても政治には参加していませんし、子孫も残していませんのでただの老害。居なくなっておい達も精々している事でしょう」

「そんな風には見えないが……」


 観客席にいる王族達がなんでもないように装っているがダラダラと脂汗を流している。

 俺達の戦いに対してなのか、それともレナを奪われた事に対してなのかは分からないがまぁろくなことにはならないだろう。

 とりあえず俺はボロボロのステージと観客席の前で現獣王から言葉をもらう。


「良き試合を見せてもらった。褒美を与える。謁見の間まで来い」


 どうやらちょっとお話があるみたいだ。

 名前  レナ・フェル・ヘルシング

 レベル 91

 称号  獣人の女王 闘争者 狂戦士 憤怒の大罪人

 スキル 憤怒 英雄覇気 森羅万象 魔神 身体強化 無限再生 嗅覚探査 覇気操作 空歩

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