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武闘会、始まる

 武闘会に参加するにあたって、とりあえずユウのレベルを60にまでレベリングを行った。

 レベリング方法はいつもと変わらずモンスターを殺すだけ単純作業の繰り返し。それに今までのように巣の殲滅を行う訳ではないのであまり一気にレベルが上がる訳でもないのでかなり地味な作業となる。

 俺の『傲慢』によりモンスターがどの辺にいるのかは分かっているが、転移して狩る、また転移して狩ると言うのは正直面倒としか言いようがない。


 ちなみに狩ったモンスターの肉は全て肉屋に卸した。

 獣人の国には冒険者ギルドのような組織は存在せず、直接肉屋に売るのが一般的だ。

 と言ってもレベルが高い=美味しいではないので二束三文にしかならないが。


 そして武闘会当日。

 俺達は武闘会の受付に来ていた。


「人間の人か。一応大会は二種類あるけどやっぱりネタの方に行くのかい?」

「二種類?そんな話聞いてないぞ」

「そうかい?なら説明させてもらうと片方はネタの武闘会。好きな子にアピールするためだとか、普段のちょっとした喧嘩事を舞台の上で決着を付けたいって人達用だな。こっちには優勝とかそもそもないし、周りも楽しめる感じだな。もう片方が真剣な方の武闘会。こっちは王族とかに自分はここまで強くなりましたってアピールするための大会だ。優勝すれば王族から褒美をもらう事も出来るし、実力を認められれば100人隊長に就任する事も出来るぞ」

「なら俺達はガチの方で頼む。力試しに来たんだ」

「おいおい。あんたは良いがそのお嬢ちゃんは大丈夫か?人間の子供ってのは俺達の赤ん坊より貧弱だって聞いた事あるぞ」

「どうせ自己責任なんだろ?大丈夫だ。こいつ防御力だけはピカ一だから」

「……その辺分かってるなら良いよ。うちの若い連中も力試しにこっちに参加する事もあるし、まぁいいだろう。ほいこれが登録番号だ。予選はなしでいきなりトーナメントが始まるから時間は守れよ。それからガチの大会は明日からだ」


 受付の狼さんに言われて俺達は受付を終わらせた。

 それにしても二種類に増えてたなんて知らなかったな。それにガチ大会は明日って2日間かけて大会するのかい。

 なんだか昔よりも賑やかになったな……


「ナナシ、あれなに?」

「ん?あ~あれは出店だ。食い物を売っていたり、ちょっとしたゲームに参加できる。やってみるか?」

「見てみたい」


 こうして初日はネタの大会を見たり出店に並んでいる料理を食べながらリラックスすることした。

 出店に並んでいた串肉を買い、大会を他の観客と共に楽しむ。

 ネタの大会と言われるだけあり結構融通してもらっている感じがする。

 例えば舞台の上で喧嘩をしたり、ランダムで組んだ相手に勝手力を証明した後に観客に居る女の子に告白したり、逆に女の子が男の子に告白したりと面白い。

 それで上手くくっ付いたら冷やかしたり祝福したり、楽しむ事を重点的にしている事が見て分かった。


 ただ気になったのは王族が座る予定の席に1匹の狼が椅子の上に座っていた事だ。

 恐らく王族の誰かなんだろうが……かなりレベルが高い。

 全身白いのはおそらく元からではなく老化から白髪になった爺さんか婆さんだ。それでも俺を見る目は鋭く、年によって衰えている様には感じられない。

 一体誰なのかは分からないが、できるだけ敵対したくはないな。


 夕方になり帰る途中、不良達にからまれた。


「人間の参加者み~っけ」

「なんか用か」

「いや~俺達ちょっと頼まれちゃってさ。王族の前に人間が大会に参加するってどうよ?って話になってさ。それじゃ参加できなくしてやろうと思ってさ」

「さがうるさい。具体的にどうする気だ」

「そりゃもちろん――ぶっ殺し」


 ぱっと見はハイエナに近い獣人か?

 ヘラヘラと笑っている様に見えるがこいつ等にとっては真面目な顔をしてるつもりなのかね。

 ユウは剣を抜いて戦う気満々だが、こんな雑魚どもと戦う価値なんてない。

 俺は覇王覇気を起動させた。


「「「「「!!」」」」」


 覇王覇気には魔王覇気のように相手に干渉する力はないが、それでも相手をビビらせる事は出来る。

 それに獣人達は気配に敏感だ。少しでも勝てないと感じると一目散に逃げる。

 丁度目の前にいたハイエナ達の様に。


「ユウ。あの程度の雑魚相手に剣を使う必要はない。お前も覇気系のスキルがあれば何となく分かるようになるとは思うんだけどな」

「……魔王覇気?」

「違う。覇王覇気だ。こいつに相手に干渉する効果はねぇよ」

「でも逃げた」

「スキルだけの効果じゃない。確かに威圧感を増すために覇王覇気を使ったがあくまでも演出、実際の所はぶっ殺すと言う意志を込めて睨み付けただけだ。獣は視線に敏感だ。これを覚えておくと無駄な戦いを避けられるから便利だぞ。それにプレイヤースキルだから誰にでもできる」

「私にもできる?」


 そう言って俺のマネをしているのか目を半開きにするユウ。

 うん。もう少し成長しないと厳しいかな。


「今回俺があいつらに威嚇が成功した理由は相手を見下ろす、レベルの差が激しい、覇気の使用だから今のユウだと難しいな」

「誰にでもできると言った」

「でもお前には早かったみたいだな」


 そう言って笑って誤魔化したがユウは不満そうに頬を膨らませるのだった。


「出来ないことを教わっても強くなれない」

「悔しかったらできる様になれ。嫉妬と言う名のあこがれは強くなる燃料になる」


 そう言いながらむくれるユウの手を引いて宿に戻るのだった。


 ――


 次の日、つまり武闘会ガチの部に俺達はエントリーしていた。

 俺達人間の存在に他の獣人達は珍しそうに、そしてバカにするような雰囲気がプンプン出ている。

 俺は気にしないがユウはどこかイライラしている様な気がする。

 怒りと言う感情も出て来たと言うのであればこれは良い傾向だな。


「どうしたユウ。イライラしてるように見える」

「イライラ?……怒り?」

「程度の低い怒りって所だな。もしくは怒りをこらえている感じか」

「どうすれば消せる」

「消す事は出来ない。でもスッキリさせる方法は知ってる」

「どうすればいい」

「バカにしてる連中ボコボコにして来い。そうすれば少しはスッキリするだろ」

「分かった」

「なら俺の怒りもお前を倒す事でスッキリさせてもらおうじゃねぇか」


 ふとそんな声が俺の後ろから聞こえた。

 誰だろうと思って振り返ってみるとそこに居たのは坊主のライオン……


「あ、もしかしてこの前の酔いどれライオンか」

「その酔いどれライオンだよ!!テメェよくも俺のたてがみを斬りやがったな……」

「逆恨みって言葉知ってる?それにお互いの髪の毛をかけたのは合意だったはずだ」

「うるせぇ!!逆恨みってのは分かってる。それでも気に入らねぇんだよ!!」

「何故こんなにこの獣人は怒っている?」

「ライオンの獣人って連中は髪が長くてもっさりしてる奴ほどモテるんだよ」

「もっさりした髪じゃねぇ!たてがみだ!!俺の立派なたてがみをよくもこんな坊主にしやがって……この借りは武闘会で返す!!」

「でもこれトーナメント戦じゃん。上手く俺とお前が当たる保証はないだろ」

「クックック。そうでもねぇぜ」


 トーナメント表を指差すライオンは何故か勝ち誇っている。

 どういう意味なのか分からず首を傾げるとライオンは親指で自分自身の事を差しながら得意気に言う。


「お前の1回戦の相手は俺だ。首洗って待ってるんだな……」


 随分自信ありげだが、腕相撲で負けたの忘れたのか?それとも腕相撲では負けても戦闘では負けないと思っているのだろうか?

 遊びの範疇はんちゅうだからそう思うのも分からなくはないし、それとも酔っぱらっていたから負けたと思っているんだろうか?

 でも次の試合ではっきりと力の差が分かるだろう。

 ちょっと楽しみになりながら俺は自分の試合まで待つのだった。

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