獣人の国
モンスターの巣を壊滅しながら獣人の国に向かう俺達。
やはりモンスターの巣を殲滅するのはレベリング効率が非常によく、すでにユウのレベルは57まで上がった。
え?なんでユウが稼いだ経験値が普通にユウの所に入っているか?
だってそれはスキルによる影響だもん。スキル『怠惰』によって経験値稼ぎを代行させる事ができるが、使わなければ普通に殺した本人に経験値が入る。
そして俺達は獣人の国にたどり着いた。
「ここが獣人の国?」
「おう。この森の中心にあるあのでっかい木の根元に街がある」
「でも」
「でも?」
「関所がない」
「それはこの国のやり方だ。ぶっちゃけこの森に棲んでる魔物ってどいつもこいつも普通の人間から見ればヤバい連中ばっかりなんだよ。たまに人間の冒険者パーティーが挑戦しに来るがみんなで生き残ればかなりの実力者、半分死んだらまだマシ、全滅したらやっぱりなって所だ。最低Aランク、最高Sランクの魔物がいる普通入ったら二度と帰って来れない死の樹海だ」
300年前と変わってなければな。
心の中でそう付け足したが多分環境はあまり変わっていないだろう。
この国に近付くにつれてモンスターの強さはどんどん上がり、レベルだけで見ればユウよりも強いモンスターが出現する方が多くなってきていた。
そしてこの先には絶対にユウよりも強いモンスターしかいない。
死んで当然の森の中心に俺達は向かう。
「本当に獣人が居る?」
「いるぞ。ここにいる獣人達はかなり強くてな、レベル60越えの大人は普通にいるし、子供でもレベル20を超えてる。人間だとレベル20で一人前扱いされるんだからほんとバグってる」
まぁもっと強い連中はいるけどね。
「そんじゃさっさと行くぞ。流石にこの森で夜を過ごすのは面倒臭い」
「分かった」
と言う訳で森の中心部を目指して俺達は進む。
この森には獣型のモンスターばかり出てくる。他の森に行くと昆虫中心の森もあるが、厄介なのはどこも同じ。
放電したり高速移動してくるライオンとか、炎の球を吐き出すトラとか、メチャクチャしつこい狼の群とか、影の中から飛び掛かってくるモグラとか、とにかく色々いる。
危険生物が密集しているこの森は大抵の者にとって地獄である。
「それにしても……300年経ってもあんまり変わらねぇな~。相変わらず元気な魔物がいっぱいだ」
「300年前も同じ?」
「だいたいね。でも300年もたつと魔物も進化するのか見た事のない種がちょいちょい居るからちょっと楽しい」
俺にとってはサファリパークを歩いている様な感じだ。
放し飼いにされた動物達の近くを歩いている様な感じで楽しい。
まぁ襲ってくる魔物は一撃で首を切り落としているので身体は綺麗に残っている。
「そう言えば忘れてたが、魔物の首と身体は持って行くぞ。あとで色々使えるから」
「?売る??」
「その目的もあるけど、ちゃんとした関所が町にあってな。その時にどれだけ強いのか狩った魔物の種類や数で評価するんだよ。だから俺達は最低でもこいつ等を倒せるくらい強いって証明書にもなるんだ。300年前と変わってなければ」
「分かった」
そういう理由で俺達は倒した魔物をメニュー画面にしまい先を目指す。
既に『傲慢』の効果で首都がどのあたりにあるのか捉えているが、突然転移して不法侵入する理由はないし、真正面から入る方が色々楽だ。
「知り合い、居る?」
「ん~……多分いないだろうな……俺が居たのは300年前だし、生き残ってたとしても爺さん婆さんになってるだろうな」
獣人と人間の違いは見た目や変身能力だけではなく寿命の長さも違う。
獣人の寿命はおよそ300年であり、俺が知っている最高齢は320歳くらいまで生きていた。
しかも戦闘のためなのか子供は10年くらいで身体は成人と変わらないくらい成長するのに、200歳を超えるまでは若々しい姿を保ち続けるので見た目だけで年齢を察するのは難しい。
200歳を超えてからは年齢とともにおっさんおばさん、爺さん婆さんになってあっさりと寿命で死ぬ事が多い。
その理由はいきる理由がなくなってしまう事だと当時の獣王が言ってた気がする。
獣人達は若い内は子供を1人でも多く残し、立派に育て上げその後は寿命と共に眠るように死を迎える。
それが終わったら自分達の役目も終了したと感じ、生きる気力を失ってしまう事が最大の原因だと獣王が言っていたはず。
逆に言うといつまでも生きる理由がある獣人達は結構生き残る。
理由は様々で単純に寿命が尽きるまで力を高めたいと考えている者、孫がどうなるか見届けたいと考えている者、死ぬのが怖くて生き残ろうとしている者。本当に様々だ。
特に王族は欲深い者が多いと笑いながら自虐していたので王族は結構300歳くらいまで生き残るそうだが……どうなんだろう?
「300年前に子供だった子達はギリギリ生きてるかどうかって所かな……まぁ居ないと想定していく方が自然かな」
「拒絶されない?」
「あの国は良くも悪くも力のある存在は受け入れる国だから。俺みたいな犯罪者でも結構モテたし、かなり抱いたし」
「エッチした?」
「したした。責任取れないぞ~って言ったけど逆に一度子供出来れば後は自分達で育てられるから種だけ寄越せって言ってくる連中の方が多かったくらいだ。貴族の強い女の子達が多かったし、経済的理由で育てられないって事はなさそうだったからな~」
「肉食系?」
「まさにそれだ。雄は外で狩りをして、雌は子供を守るっていうのが本能的に刻まれてるらしいから夫婦で子供を育てるって感じは薄いかな?だから結婚はしないけど強い雄と子供作って雌だけで育てるってのが普通らしい。だから俺も気兼ねなくエロい事出来た」
貴族には当然雄も雌も居るが政治的な事は雌が仕切っている事が多い。その代わり外交や狩り、戦争の時は雄が仕切っている。
それにまぁさっきの結婚と子育てに関しては種族によって考え方は変わる。
地球でも同じだが動物の種族によって雌だけが育てるパターンと夫婦揃って育てるパターンがある。獣人も種族によって夫婦で育てる事もおかしくない。
ただ雌だけで育てる種族の方が多いだけの話である。
だから俺と本気で結婚して夫婦になりたいと言う女の子から求婚された事もある。流石にその子達とは責任が持てないからエロい事出来なかったけど。
「国によって愛が違う?」
「そうだな。国によって愛は違うし、種族によって違うとも言える。こればっかりはな……」
獣人って本能に任せて生きてる所が多いし、力はあるけどバカな奴なんて山ほどいる。
力があれば認められるがバカだと獣人の女の子達にも力尽くでどうにかしようとする事が多いのでモテない。
ほんと知能指数の差が激しいんだよなあいつら。
そう思いながらモンスターを殺し、自分達の実力を認めさせるために回収し続ける。
そうしている間に俺達は関所にたどり着いた。
俺達の事を確認した獣人達は珍しそうに俺達の事を見る。
「人間か。ここのルールは知っているか」
「力の証明だろ。これでいいか」
関所の獣人に俺達が狩ったモンスターの死骸の山を見せると1つ1つ確認し始める。
匂いを嗅いだり、切り傷を見たり、血の用を見たりする。
「すべて今日狩った物の様だな。2人だけか?」
「2人で狩った。実力は足りないか?」
「いや、十分だ。所でそこの少女は人間の奴隷か?」
「一応な。あれ?人間の奴隷って入国ダメだったっけ?」
「そんな事はない。ただ一応入国時に奴隷が1人入国したと伝える必要があるからその確認だ。入国を認める」
「どうも~」
こうして俺達は獣人の国に入国した。
関所を通り過ぎた所でユウが言う。
「これだけ?」
「これだけ」
「……人間の国はもっと厳しい」
「そりゃ戦える奴よりも戦えない奴の方が多いからな。この国の戦えない人って言うのは病人か怪我人だけ。あとは子供だろうが爺さん婆さんだろうが真正面から戦いを挑んでくる戦闘狂ばっかり。この国の住人全てが戦士だと思っておいた方が良いな」
マジでこの国の住人全員戦えるのが恐ろしい。少し油断していたら簡単に殺されるくらいには強い。
そして獣人の国は様々な所に家を建てているため、ちょっとしたビルの様な家もある。
高い所に住むのが好きな種族は木の上の家、ツリーハウスに住む事もあるし、地面の上に家を建てる事もある。
と言ってもほとんどの種族は木造の家、日本風の家に住んでいる事の方が多い。地上に住む種族のほとんどが大家族を作りやすくするために地上に家を作った。
「……家、色々」
「基本的には木登りが得意な猫系の種族が木の上に家を作るな。地上を突っ走る系は地上が多い。まぁあくまでも目安程度で一番偉い奴あそこに住んでるけどな」
言いながら指を差した所にあるのはこの国の中心に生えている木。不自然な程に巨大な木の頂上に城が建っている。
そこに住んでいるのが獣王だ。
「獣王はこの国にとって最強の証だから、一番強い奴が玉座に座る。ただ下克上上等でたまに途中で獣王が変わる」
「バカな獣人が王になって困らない?」
「ただのバカは獣王になれねぇよ。と言うかなれてもこいつダメだ、もう一回やり直そうって思ったら国中の獣人達が次々喧嘩売ってくるから相応しくない奴は引きずりおろされるんだよ」
「実力主義」
「その通り。嫌な王が現れたら国中から物理攻撃食らうからバカな奴はお山の大将してる方が良いんだよ」
「次の王が現れなかったら?」
「前王の血筋の中で一番強い奴が選ばれる。確かバトルロワイヤル、乱戦方式で最後まで勝ち残った奴が次の王だ」
「バカな王子」
「兄弟で結託してこいつだけは最初に潰そうとする」
「…………」
実力至上主義だが本当に武力だけで王様になれるかと聞かれるとそう上手い話はない。
結局気に入らない相手が上に立たれれば抵抗する。
本当にヤバい場合はぶっ殺す。
「過激」
「でもそうやってきた国だし大丈夫だろ」
そう話しながら街を歩くがやはり人間は珍しいのか、俺達の事を珍しそうに眺めている。小さい子供の獣人は俺達に指を差して「あの人達なに?」と親に聞いていた。
今でもこの国に人間が来るのは珍しいんだな。
プレイヤーでもあまり来ないし、入り口付近でモンスターを狩りして人間の国で売ると言う事も珍しくない。と言うかそっちの方が一般的と言える。
とりあえず宿を探し寝泊まりできるようにする。
「人間でも泊めてもらえるか?」
「構わないよ。2人でいいかい」
「2人同じ部屋で頼む」
こうして俺達は『草原をかけるトラ亭』に泊まる事となった。
女将さんはトラの獣人でありまだ200歳にはなってなさそうだ。
食事は1階に降りて食べる事を言われた。
あとはまぁ好きにしてろって感じ。昼間に掃除するから昼間はどこかでブラブラしてろってさ。
自分のベッドに腰を下ろすとユウは聞く。
「知り合い、探す?」
「う~ん……多分みんな寿命尽きてると思うけどな。この国もポラリスと仲悪いから俺の情報届いてるとは思えないし、普通は死んでるだろ」
「寂しい?」
「寂しい……とは感じないな。寿命で死んだのなら仕方ないし、本当は俺の方が先に死んだんだから悲しむのもなんか違う様な……」
「探す?」
「でも何でユウはそんなに俺の知り合いを探したがるんだ?」
そこが疑問だ。
ユウは俺の過去に興味なんてないと思っていたから正直意外だ。
感情は今も表情に出にくいが、確かに感情は復活しつつあるのかも知れない。
「興味ある」
「俺の知り合いに?」
「ナナシの過去」
「え、俺の?」
これはまた意外な理由だ。
「何が気になる」
「全部」
「全部?」
「罪人は悪人。それなのに周囲から慕われている。分からない。すごく、不思議」
「……大した理由じゃねぇよ。俺が主に悪人やって他のポラリスとその傘下に収まっている国ばっかりだ。ポラリスの事を気に入らないと思っているほかの国は意外と多い。そいつらとは仲良くやってたから絶対悪じゃないだけだ」
そう俺が伝えるとユウは考える。
好きなだけ考えればいいと思うが……理由は薄っぺらいぞ。
俺が欲しいと思っていたアイテムの類や、大罪系スキルを手に入れるための条件を満たすところがポラリスの傘下ばっかりだっただけだ。
それにエロい事をするのに獣人とかの方が都合が良かったし、美形も多いからな。
獣人ってみんな動いているからかスタイル良いんだよね。
なんて思いながらも晩飯の時間になったので1階に降りて飯を食う。
俺達の様に宿泊客だけではなく普通に飯を食べに来た人達も居るので食堂の様に見える。
「はい出来たよ。ちゃんと食べな」
女将から出されたのは分厚い2キロステーキと肉団子の入ったスープ。
肉しかないがこれがこの国での一般的な食事だ。
だがユウは初めて見た2キロのステーキを見て俺に聞く。
「大きい」
「これで1人分だ。ちゃんと食べきれよ」
「……難しい」
「獣人の国はみんな肉食で野菜を食べない。それでも健康を維持できるのはおそらく体質が動物に近いからだろう。俺達人間には無理だけど」
「野菜必要?」
「そうだ。種族的な物だからこればっかりはどうしようもない」
そう言いながら俺達はステーキにかじりつく。
ステーキとスープだけなので量は問題ないが顎が疲れる。
2人で少し硬めの肉を食べていると後ろの方が騒がしくなってきた。
「おらぁ!!酒持って来い!!」
どうやら酔っ払いの様だ。
ライオンの獣人が酔っ払って周りにからんでいるらしい。
俺はため息をついた後に何か言う訳でもなく食事に戻ったが、ライオンに目を付けられてしまったようで絡まれる。
「おうおうおう!!こんな所にクソ雑魚の人間様が居るじゃねぇか。よく入れたな~」
「最低限の実力はある。飯食わせろ」
「つれねぇな~。どうせなら一緒に飲もうぜ!!」
「酒より飯。そっちはそっちで仲良くやってろ」
酔っぱらっているのはこのライオンだけではなく、この酔いどれライオンの仲間っぽいライオンもほろ酔い状態の様だ。
フラフラとしているがいい加減ウザい。
こういう所でさっさと勝負がつくのは楽だな。
「なら腕相撲で勝負を付けよう。罰ゲームは何が良い?」
「なら髪をかけろ。その頭、ツルッパゲにしてやるぜ」
「いいのかよー!お前が負けたらモテないぞ~」
その言葉にほろ酔いライオンたちは止めようとするが酔いどれライオンは止まらない。
丁度開いていたテーブルを指差しながら言う。
「あそこでやろうぜ。獣人の実力見せてやるよ」
「はいはい。さっさと終わらせるぞ」
酔いどれライオン対俺の腕相撲対決に沸く周りの客。
酔いどれライオンに「負けんじゃねぇーぞ!」「獣人の力見せつけろ!!」と言う応援の声。
俺には「すぐに負けんじゃねぇぞ~」「頑張れ~」っと大穴狙って応援してくれる。
ちなみにレフリーは女将のお孫さんである20歳超えたばかりのお嬢ちゃん。
あ、俺そんなこと言える年じゃなかった。
「テーブルとか壊さないでよ」
「そいつはこいつ次第だな」
「気を付ける」
「それじゃレディー……ファイト!!」
お嬢ちゃんの声とともに酔いどれライオンは力を籠めるが、俺の腕はピクリともしない。
おそらくこの酔いどれライオンのレベルは59って所かな。ユウより強いが俺の方が上だ。
酔いどれライオンはすぐに酔いがさめたのかスキルを使って自身を強化してさらに力を上げるが、レベル差の暴力はその程度では埋められない。
レベル制ゲームの恐ろしい所だ。
俺は必死に頑張る酔いどれライオンを無情にもそっと倒し、俺の勝ちが決まった。
周りの客は酔いどれライオンに「何してんだよ」「酔い過ぎて力が入らなかったか?」なんて言われているが、酔いどれライオンは俺の事を見ながらつぶやく。
「お前……何もんだよ」
「ただの極悪人だ。それより、約束覚えているんだろうな」
俺は居合いでライオンのたてがみを切り落とした。
頭の上の方にあるたてがみがふわりと落ちたのを見て、酔いどれライオンはハッとすると一目散に逃げた。
「ちくしょー!!」
逃げた酔いどれライオンの事を追おうとした仲間がいたが、女将が飲んだ分を払うように手を出したのできっちり払ってから酔いどれライオンを追いかけた。
俺は再び席に戻って食事を再開するとレフリーをしてくれたお嬢ちゃんが俺に話しかける。
「人間さん随分強いだね。力試しにでも来たの?」
「いや、こいつのレベリングのために来た。この辺りは魔物に困らないからな」
「なるほど。お嬢さんのレベルを上げるためか。それならこいつに出たらどうだい」
そうお嬢さんが指を差したポスターには武闘会のポスターが張られていた。
「あ~。もうそんな時期か」
「あれ?人間さん知ってるの?」
「前に1回間違えて出場した。これ婚活武闘会だろ」
「そりゃそうだよ。異性が欲しかったら実力を見せるのが1番!それに貴族に王族も見てくれるからもしかしたら王族の仲間入りができるかもよ」
「武闘会?」
ユウが不思議そうに言うので説明する。
「年に1回武闘会が開催されるんだよ。元々は王族に自分はこれくらい強いんだーってただアピールするだけの場だったんだが、全然俗っぽくなって告白するためだとか、恋人欲しいから出場するって奴らが多くなったんだって前に教えてもらった」
「そうそう。だから最近は王族が見に来るのは4年に1度だけ。今年はちょうど王族が見に来るから良いアピールの場になるかもよ?それに王族の目に止まれば何か褒美がもらえるかも知れないし」
「……ふむ」
これは丁度いいのかも知れない。
ユウの対人戦のレベルを上げるのには丁度いいし、レベルは上がらないが良い経験にはなる。
「それっていつから始まるんだ?」
「5日後の朝から始まるわ。お兄さんも参加する?」
「面白そうだから俺とこいつで参加する」
「お嬢さんも?この国に来たから強いのは分かるけど、相手は大人で本当に強い人も出るから大変よ。それでも出る?」
「出る」
「受け付けって予約制か?」
「その日の朝で十分よ。軽いイベント感覚で参加する人の方が多いから良いかもね」
と言う訳で俺達は武闘会に参加する事にしたのだった。




