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大罪人の日常

 次の日、ユウは顔を真っ赤にしながら起きた。

 でも俺から離れるつもりはないらしく、顔は合わせないが俺の脇の下あたりに隠している。


「……臭くない?」

「……嫌な臭いじゃない」


 あ、答えた。

 てっきり答えないとばかり思っていたからちょっと意外だ。

 と言ってもどれだけ恥ずかしがっても起きなくてはいけない。

 起きて2人で風呂に入り、特になんてことなく上がるとズメイが嫌そうな顔をしながらベッドからシーツを取り出していた。


「おはようございます。昨夜はお楽しみだったようですね」

「お前、もういいのか?」

「私はドラゴンです。あの程度の傷なら食べて寝ればすぐにふさがります」


 その辺は流石ドラゴン。

 食って寝るだけであの重傷を癒すとは本当に呆れた回復力だ。

 だがネクストの治療もあったし、本当にただの自己回復だけではないだろうが。

 それにユウの方が何を思ったのか、ズメイに気付かれないようにそっと近づき、指で腹の横を突っついた。

 するとズメイは大きく身体を振るわせたが、表情だけは変えない。

 だが明らかにやせ我慢しているのは目に見えているし、脂汗のような物が浮かんでいるように見える。


「やせ我慢せずに休めよ。ジラントに怒られるぞ」

「しかしこの家も汚くなってきました。特に昨日の祝勝会でキッチンが油などで汚れています。洗濯物も溜まっていますし、私が綺麗にしないとイラつきます」

「あ~それに関してはすまん。もうちょっと掃除とか頑張るからもう少し安静にしててよ」

「嫌です。朝食なども準備できています。もし私の身体を気遣うというのであれば早くダイニングまで来てください」


 そう言われては素直に行くしかない。

 にしても本当にズメイは綺麗好きだな。

 そう思いながら着替え、さっさとダイニングに行くと女性陣からニヤニヤ顔で出迎えられた。


「……おはよ」

「おはよ~」


 またしょうもないこと考えてるな~っと思いながらも言う。

 そしてすぐユウの周りに集まって昨夜の事を聞いている。

 ユウも恥ずかしながらも答えているので俺ちょっと複雑。


「雑談もよいですが朝食が冷めないうちに食べてください」


 俺もは既に食っていたが、他のみんなはズメイに言われてから食べ始めた。

 朝飯を食った後は食器を流しに入れて朝のニュースを付ける。

 と言っても流れているのは元居た日本の天気だけでこの世界の天気は当然だがやっていない。

 でもまぁ向こうの社会情勢とかは普通に暇つぶしになるのでエンタメ関連は意外とためになる。


「あ、この俳優結婚したんだ」

「え、どの人どの人?」

「こいつ。へ~、一般女性と結婚したんだ」


 こんな感じでゆる~く過ごす。

 この間まで戦いで忙しかったからこれくらいの緩さは許されるだろう。

 ただ問題があるとすれば、今日は平日なので午前中は大した面白いテレビなどがない事か。

 まぁそんなときはパソコン使って動画見たり、ゲームしたりすればいいんだけど。


「ナナシ様。お風呂掃除をお願いします」

「あいよ~」


 気の抜けた返事をしてから風呂掃除に向かう。

 拘って作ったのはいいが、その分結構広いし、機能も色々つけたから掃除が面倒くさかったりする。

 まぁおかげでボタン一つで泡ぶろになったり、背中にジェットが当たってマッサージのまねごとも出来る。


 そんな風呂掃除が終わってまたグダグダして昼飯の時間。

 今日の昼はユウにレナ、ジラント達が作った自称合作料理。


「いや、これ焼きそばじゃん。具は色々だけど」


 今日の焼きそばは塩をベースにそれぞれの好きな物を入れて最後に野菜を入れてバランスを取ったような焼きそばだ。

 ちなみに具はキャベツ、にんじん、玉ねぎの他、焼いた鶏肉に卵のそぼろ、細かく切った豚バラ肉が入っている。


「せめて肉は鳥か豚かどっちかの方がよかったんじゃない?」

「そこは……レナさんとジラントさんがお互いに譲らなくて……」


 色々納得。

 互いにライバル意識をしている2人だからこそこんな結果になってしまったのだろう。

 だがまぁ豚や鳥から出た余分な脂はきちんととっているようだし、意外と脂っぽい感じはしない。


「ナナシ様」

「ナナシ」

「「どっちのお肉が好み(ですか)」」

「いや肉かよ。普通に焼きそばの感想を聞けよ」


 そう言いながら焼きそばを口に運ぶ。

 味は……意外と悪くない。

 鶏肉と豚肉一緒ってどうよ?って思ったが意外と整っている。

 なので。


「焼きそばうめぇ」


 どっちの肉が好きかどうかは放っておいて普通に焼きそば食ってた。

 まぁそれでまたレナとジラントが睨み合いを始めるのだが、無視していいだろう。


 飯を食った後は軽く昼寝。

 布団をかける事もなく、ただ大の字になって目を閉じるだけ。

 ウトウトとしていると自然と誰かがやってくる気配がする。

 そのまま俺の近くで布団を踏んで簡単なベッドメイクをしている感じがした。


 これもまたいつもの光景だと思いながら目を閉じて、ほんの少しだけ時間が流れた気がしたが、いつの間にか夕方にまでなっていた。

 俺の周りには動物の姿で横になっているレナ、ジランド。ユウやネクスト、ベレト、サマエルもいつの間にか近くで寝ている。

 そして寝ていた俺の顔を興味深そうにのぞき込む白猫。


「どうした?」

「平和は楽しい?」

「楽しんでる最中だ。お前にとってはつまらないか?」

「つまらないというよりは意外だと思う。天下の大罪人様がのんびりしてるのは」


 そう言いながら白猫は俺の頭の上の所で丸くなる。

 ぶっちゃけいつも通りの光景に俺はまた目を閉じる。

 閉じてから白猫に話しかける。


「お前はいっつものんびりしてるよな。お前こそ平穏を楽しんでいるような気がするが」

「平穏を楽しんでいるとは少し違う。ただ私の役割が来るのを待っているだけ」

「それって悪の女神と関係あるのか?」

「ない。でも神とは関係ある」

「なるほど。一応気を付けておこう」


 どこかの神様とまた喧嘩しないといけないと考えると面倒だな……

 つまりこの白猫はその神様に関係する立ち位置なわけだ。

 せめて光の神のような奴じゃない事を祈る。


「いつまで寝ているつもりですか。夕飯の準備を手伝ってください」


 二度寝しようとしていたのにズメイから援護要請されてしまった。

 仕方ないと思いながら起き上がる。

 そして晩飯の準備を始める。

 手際よくズメイの料理の下準備をする。

 包丁の音や煮込む音などが静かに響く中、ズメイは言う。


「お嬢様の事、よろしくお願いします」

「突然どうした」

「あなたの行動で最も面倒なポラリスが行動を縮小していくでしょう。そうすれば我々ドラゴンももう少し自由に動けます」

「元々自由な種族だろうが」

「ですがそれは力を持っているからこそです。貴方やユウ様のような特殊な人間が全く現れない訳ではありませんから。こちらもそれなりに警戒し続ける必要があるのです」

「俺がお前達ドラゴンの自由を邪魔してるような言い方は止めろ。俺はお前達の自由な姿が好きなんだから」

「そう言っていただけると助かります。そしてお嬢様との間にできる子の事をよろしくお願いします」

「それに関しては焦っても仕方ないだろ。時間が解決してくれるのを待つしかない」

「ですができるだけ早くお願いします」

「だから焦っても仕方ないって」


 俺とジラントとの間の子供をズメイ、というよりはドラゴンの国全体が望んでいる事と言える。

 まぁこれはレナの所も同じだろう。

 なんだかんだでお姫様キャラ多いし。


 あ~あ。

 まだまだ大変そうだ。

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