神仏両断
ここからは純粋な力比べとなった。
お互いスキルとステータスだけで戦う事になる。
どういう訳か分からないが、この時間停止空間では魔法が使えない。
各属性の魔法も、空間魔法も、身体強化の魔法すら使えない。
理由に関しては全く分からないが、まぁどうせこの空間の中限定の現象だ。気にする必要はない。
俺が極夜を大きく振りかざし、背中にくっ付きそうなくらい振り上げる。
もちろんその大きな隙を光の神が狙ってくるが、ユウが聖剣で攻撃を妨害して俺の身を守ってくれる。
ただの力任せではなく、今までの戦闘経験から学んだ技術を生かして100%以上の力を光の神に振り下ろす。
光の神は『正義』の結界で俺の剣から身を守ったが、少し触れた感覚が変だ。
結界に触れた際の圧倒的な硬さが弱い。
まだほんのわずかだが剣先が結界に食い込んでいる。
こりゃあいい。
絶対防御が売りの結界から絶対がないのならいくらでもやりようはある。
剣先が結界に食い込んだことは光の神も驚いており、目を大きくしていた。
俺は調子に乗って結界を叩っ切るつもりで何度も極夜を振り下ろすと、結界を解除して俺に突きを浴びせようとするがユウが防ぐ。
これなら本当に攻める事だけ考えていていい。
ユウに俺の命を預ける。
光の神の首を狙い極夜を横に振る。
バク転で回避する神に俺はさらに追撃を仕掛ける。
魔法が使えない状況なので魔法で長距離攻撃を行うことは出来ない。
でもスキルは使う事が出来るのでここは極夜の力を使わせてもらう。
魔剣から奪った力、劣化版魔剣を召喚する力を使う。
劣化版魔剣を光の神の目玉に向かって飛ばす。
顔を上げた光の神は慌てて劣化版魔剣を弾く。
そこに俺が突っ込んで極夜を下から切り上げる。
光の神は劣化版魔剣を弾いた後だから腕が伸びているせいでもう剣を使うことは出来ない。
だから極夜は十分に届く。
極夜の剣先は光の神の右下の腹から左の肩まで切り裂く。
だがまだ浅いか。
血を出す所までだったが致命傷にまでは届いていない。
内臓にまで届いてない事に俺は舌打ちをする。
確実に殺せるように狙ってたんだけどな。
光の神は苛立った様子で表情をゆがませる。
そんな光の神の背を押して逃げるのを妨害するユウ。
光の神は驚きながらユウの事を見る。
防御ばかりだと思っていたユウが妨害してくるとは思っていなかったんだろう。
もしくはユウは勇者だから正々堂々とした攻撃しかしてこないと思っていたのかもしれない。
その隙を俺は見逃さず、極夜で光の神の心臓を貫く。
しかし光の神はすんでの所でかわした。
代わりにユウが極夜に貫かれそうになったが、結界で身を守っていた。
「危な!ちょっと今の危なすぎない!?」
「すまんすまん。でもお前なら大丈夫だろ」
「そりゃね。でもびっくりするって」
逃げた光の神は息を荒げながら剣をこちらに向ける。
「おいこら、さっさと殺させろ」
「そう言われて殺される者がいるわけないだろう」
「殺されなさいよ。このクソ神」
だから口が悪くなり過ぎだって。
やっぱり育て方間違えたかな……
「……勇者に聞きたい事がある」
「なによ」
「貴様にとっての正義とは何だ」
時間稼ぎかどうか分からないが光の神が聞いてきた。
俺は無視して殺そうと思ったが、なぜかユウが止める。
しぶしぶ止まるとユウは目を閉じて何か思い出すかのようにしながら話し始めた。
「私は元々この国の勇者として色んな魔物達から力のない人達を守ってきた。その途中で例の部屋の前でただひたすらあの部屋の中にある何かを守る仕事をしてきた。あの時は本当に楽だったよ。何も考えなくていいし、ただ結界を張っていれば良いだけの仕事で、睡眠とかも『節制』の影響で必要なかったから苦しいとかそういうものもなかった。でもやっぱりあの時の私は正義ではないと思う。
だって正義って自分で守りたい、守ってあげたいって感情を持って行動する事が正義だと思うから。
だから何の感情もなく、ただ命令されて行動していたあの頃は本物の勇者じゃない。偽物だよ。
でも今は私自身の力で守りたいって思う人達はいる。私の事を守ろうとしてくれるみんな、種族も違うのに、魔物だったりするのに私の事を可愛がってくれる。だからそんな人達と二度と会えなくなるようなことはしたくないし、人間とそれ以外の種族の人達をバラバラにするのは間違ってる。もちろん奴隷として獣人の人やエルフの人達を好きに使っている人達は嫌いだけど、でもだからって結界で覆って隔離するのは違う。
私は私が好きだって言える人達同士が仲良く出来るようにするのが勇者としての役目だと思う。
それが私の『正義』」
ユウは光の神の前で堂々と言った。
そして精神的な成長をしたからなのか、ユウの身体がさらに変化していく。
中学生か高校生くらいの姿から完全に大人の女性の身体になっていた。
足も伸び、体付きも女性らしくなり、非常にバランスの整った男から見ても、女性から見ても綺麗だと感じる姿だ。
そんなユウは自分の変化に気付かず続ける。
「それに私、ようやく見つけたの」
「何をだ」
「“愛”」
本当か?
ユウはずっと発動すらできないスキル『愛』について知りたいと言っていた。
最愛の誰か1人だけを超強化するスキル。
愛を知ったという事は誰かの事を好きになったという事でもあるのではないだろうか。
一体誰の事を好きになったんだろうと、興味を持ちながら次の言葉を待っていると、ユウは俺の方を見ながら言った。
「私、やっぱりナナシの事好きだよ」
「おう。ありがと」
「私はナナシの事を色んな意味で好き。お父さんみたいに見守ってくれたり、強くしてくれたり勉強を教えてくれたり、今みたいに背中を任せられるくらい好き。それから私に感情を思い出させてくれた事、そして……1人の女として愛されたいって思ってる。他のお姉ちゃん達みたいに愛されたい、愛してみたいって思ってる。だからナナシ」
「お、おう」
「私はナナシの事を愛しています」
そうユウから告られると俺の力が一気に増幅された感じがした。
まさかこれが『愛』の力か?
これはまた……チートなのも納得できる。
それを見た光の神はもの凄い表情をする。
その表情は怒りと嫉妬が混じったような表情で、強く噛みしめている。
おそらく光の神は『愛』を発動させる事が出来ないのだろう。
きっと光の神は人間を愛しているが、なぜかスキルは発動しない。
だが光の神にはまだ『正義』による絶対防御が存在する。
これがあっては確実に倒せるなんて言えない。
「ナナシ。あいつ倒した後答えちょうだいよ。かなり恥ずかしかったんだから」
「今じゃなくていいのかよ」
「……戦いに集中できなくなるからあとでいい……」
顔を真っ赤にしながら言うユウ。
そんな姿に俺は少し笑いながら俺も光の神に言いたい事を言っておこう。
「おい光の神。俺にも一言言わせてもらうぞ。人間、神様におんぶに抱っこされなきゃ生きていけないほど弱くねぇぞ」
「それは貴様達が強いだけだ。強い者から弱い者の視点など分かるはずがない!!」
「ああ知らねぇよ。でも俺だって最初から強かったわけじゃない。強くなった。だから弱い奴は強くなろうとしない奴らだと思ってる。だから守る気なんてないし、どうなろうが知ったこっちゃない。でもな、ユウは違うんだよ。自分でやりたい事を見つけるために、強くなったんだよ。この先それを無かったことにするのなら、ぶっ潰す」
俺はそう言って光の神に極夜を向ける。
そして大きく振りかぶり、上段の構えから手と足に力をこめる。
「全ての人間が貴様のように強いわけではない!!人間だけではないが、必ず差というものは生まれてしまう!!これはステータスだけの話ではなく、精神も含まれる!!強くなろうとしない者達!?それは貴様たちが強いから言える言葉だ!!私は力なき者達を守る極光となる!!それが我が正義だ!!」
光の神も剣を大きく振りかざし、俺に向かってくる。
だがこの空間内で光のような速度を出せない光の神は俺の敵ではない。
ほんの少しだけ息を吐き出して肉体をリラックスさせる。
そしてほんの一瞬、力をこめて飛び出し光の神に刃を通す。
頭の先からちょうどまたの所まで極夜はすっと通り、光の神が持っていた剣も一緒に両断した。
「剣技、神仏両断」




