ユウ解放
俺が叫んだあと世界が真っ白になり、いったい何が起こったのか分からなかった。
辺りを見渡してみると、真っ白な空間の中に俺と光の神だけではなく、騎士達もふわふわと浮いた状態なっており、まともに立っているのは俺と光の神だけだった。
光の神は息を荒げており、苦しそうに胸を押さえている。
まさかさっきの魔法が何らかの異常を起こしたのかと思ったが、どうやらそれだけではないらしい。
光の神が何かブレているように見えたかと思うと…………2人に増えた。
片方の光の神は膝をついて呼吸を落ち着かせているが、もう片方の光の神は姿を変えながら俺に向かって飛んできた。
「ナナシ!!」
その声と久しぶりに聞いた声に俺は彼女を抱きしめた。
「ユウ!!ようやく出てきたか!!」
「うん!ナナシの声のおかげでようやく出てくれたよ。それから光の神に閉じ込められている間の事全部覚えてるからね」
なぜか恨みのこもった感じの声で言うユウ。
はて?何か恨まれるような事を言ったか?
「私の身体乗っ取られてるって分かってるのに遠慮なく攻撃しすぎじゃない!?もう少し遠慮と言うか、躊躇ってもいいんじゃないかな!地面に叩き付けられてそのまま引きずられえるとは思わなかったんだけど!?」
「あ~それか……」
言葉ではなく戦闘の方か。
「あれは真面目にやらないといけないと思って……」
「あれ本当に痛かったんだからね!!確かにナナシの直接攻撃は私にダメージなかったけど、ああいう攻撃は普通に私も痛かったんだら!!」
「わ、悪かったって……」
解放された直後に文句言ってくるとは、結構元気だったのかもしれない。
まぁ元気な事は良い事だ。
ただ気になる事はユウがこうして表に出てきたのに、光の神は相変わらずユウの身体でいる事だ。
だから指を指しながら聞く。
「で、あれは何のバグだ?」
「バグ?」
「あ~、異常というか、あれ普通の状態じゃないだろ?その原因分かるか」
「多分『ザ・ワールド』の影響だと思う」
「『ザ・ワールド』?」
俺も聞いたことがない単語だ。
おそらくあのご都合主義の世界を構築した魔法の事だろう。
「あの魔法は本当は世界を創る魔法らしいんだけど、クソ神はそこまでの力はないから世界の一部を好きなように書き換えるって感じらしいよ」
「ほ~。つまり本当は世界を創る魔法だと」
「うん。でもクソ神にそこまでの力はないからこうするしかなかったみたい」
「あと今思ったが知れっとクソ神呼びしてたのな」
「人の身体を勝手に乗っ取る相手はクソでしょ」
「それは確かに」
それは誰にも否定する事が出来ない。
「それよりも何でお前が2人いるんだよ」
「それも『ザ・ワールド』の影響。もともと私の『正義』で覆った範囲、つまりポラリスの領土全体を包んでたんだけど、私がこんな世界創る気ないって強く思ったらなぜか2人に分かれちゃって……」
「それも多分バグだな。詳しい事は分からないが、色々はしょって強引に魔法を発動した感じあったし、あいつ自身まだユウの肉体が必要だと思ってたから偽物の肉体を作った。って感じか?」
あくまでも予想でしかないが多分そんなところだろう。
光の神はユウと初めて出会った時の幼い姿、今俺の隣にいるユウは見慣れた中学生から高校生くらいの姿。
見間違う事はないが、それでもやっぱり同じ人間が2人いるって変な感じ。
なんて思っていると光の神がゆっくりと立ち上がる。
まだ体調は悪いようでフラフラしてる。
「はぁ……はぁ……はぁ。まさか、こんなことが起きるとは……」
「いい加減死ね。クソ神」
「ユウ。俺の影響なのは分かるが口調がきついぞ」
ユウがここまでキレるとは、恐ろしや光の神。
まぁ体無理矢理奪い取ったんだから仕方ないけど。
だが光の神は含み笑いを浮かべると、聖剣で攻撃してきた。
さっきと同じ目で追うのがやっとなほどの高速の剣技だったが、ユウが俺に剣が届く前に聖剣で防いでくれた。
「神様のくせに不意打ちしかできないの?」
「勇者こそ、よく対応できたな」
「この空間内で元の神としての力が使える事も私は分かってる。それに防御特化って大罪人に言われるくらいなんだからこのくらい出来て当然」
ユウが光の神の剣をはじくと、また瞬時に元の場所に戻る。
本当によく対応できたな。
何度も防御特化とは言ってきたが、あの速度で防御できるとは思ってなかった。
「ナナシ。何か良い案ないかな。ちょっと想像力が足りない」
「どういうことだ?」
「言ったでしょ。この世界は一応私とクソ神で作った空間だって。だから私のこうしたいって願いも反映されるの。だからあの面倒な高速移動についていけるイメージで付いて行ったんだけど、ナナシはついて行けないんでしょ。だからナナシがあいつの高速移動を止めるイメージを教えてほしいの」
「普通に止まるイメージだけじゃダメか?」
「その場合中和されちゃうから空間というか、世界に?影響を与える感じで」
俺と話しながらも光の神とユウの攻防は続いている。
マジで漫画の高速バトルのように火花だけが飛び散り、本人達の姿は一切見えない。
ただなんとなく分かるのはユウに守られている事。
光の神が高速戦に対応できていない俺の事を狙っているのでユウが対応している。
「もう少し情報をくれ。ただ世界に影響を与える感じで高速戦を止めろって言われても思いつかん。それに詳しい原理も分からないし」
「原理は光の神だから魔法で光その物になって攻撃してくるって感じ」
「なるほど。それって物理法則に従ってるのか?」
「従ってるね」
そうなると物理法則を止めるようなイメージの方が良いか?
それを世界に影響を耐える感じとすると……あ、思いついた。
「それじゃ時間止めるか」
「…………しれっととんでもない事思いつくね」
「イメージで何でも出来るならできるかな?っと思って。ただ本当にそんなことできるのかどうか分からないし、実行した場合どうなるのかも分からん。だから結構大きな賭けだぞ」
「でも私イメージできるかな……」
そう言われると確かに。
イメージは伝えたがそれをどう解釈するかはユウしだい。
ユウに伝わる分かりやすい時間停止のイメージ……時間停止……止まる……
「あ、写真なんてどうよ?」
「もらった!!」
ユウがそう叫ぶと本当に世界が止まった。
光の神、ユウ、そして俺以外の生物たちはすべて停止し、空中で全く動かない。
時間停止空間ってこんな感じなんだ……
俺がユウに写真というイメージを言ったからか、俺達3人以外は本当にピクリとも動かない。
そして光の神の動きは普通になり、十分目で追う事が出来る。
「うまくいったみたいだな」
「うん。でもスキルは使えるからそこだけは注意だね」
ようやくまともに参加できると思い、俺は極夜を抜いて肩に乗せた。
光の神は苦笑いを浮かべながら俺達を見る。
「神に対してたった2人でいいのか」
「この訳分かんない魔法使われるまでは俺1人でも十分だっただろうが。強がってんじゃねぇよ」
「そうそう。所詮私のスキルを使わないとこの魔法を維持する事も出来ない自称神が何言ってるんだか」
そう言って俺は極夜で、ユウは聖剣を光の神に向けて言った。
「「てめぇごときが俺(私)達の未来奪うんじゃねぇよ」」




