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上書きされた世界

 俺、ナナシの前で光の神が突然光り始めたと思うと、とてつもなく嫌な予感がして慌てて攻撃した。

 極夜による一切の手加減なしの本気の一撃。

 しかしその攻撃は掠る事もなく空振りした。


 光が収まった後、光の神は大聖堂の真上に浮いているが、それ以上に周りに違和感がある。

 同じ場所なのに全く違う場所にいるような感覚、まるで幻術に囚われているようなぬぐい切れない違和感を感じる。

 更に周りの空気も非常に重く感じ、まるで水中にいるかのように身体を動かし辛い。


 おそらく俺自身ではなくこのポラリスと言う土地、もしくは空間に何か魔法をかけたのではないだろうか。

 空間魔法を覚えている俺だからこそ考えられる予想。

 あの光の神はこの世界に何かした。

 だが具体的にどうしたのかは分からない。


 大聖堂の真上に浮いていた光の神は脂汗をかき、肩で息をしながら笑った。

 その笑みは勝利を確信している者の表情で、疲れ切っているのに俺には負けないという強い自信を感じる。


「お前、何しやがった」

「ふふふ…………ただ、計画を実行しただけだ。貴様が思っていた以上に強いので少し計画を前倒しさせてもらった。これが私の望む世界だ」


 そういう光の神は達成感に浸っている。

 その隙に俺は光の神を切り伏せようと極夜を振り下ろしたが、光の神の前で止まった。

 結界で守ったわけではなく、なぜか俺自身が止めてしまった。

 ほんの数ミリだが連続で極夜を上下左右から切り刻もうとするが、なぜかすべて数ミリ手前で止まってしまう。


「本当に何しやがった」

「簡単な事だ。大規模な空間支配を実行しただけだ。これによりこの空間内で私以外の神はこの世界に干渉することは出来ず、私の理想通りに事が進む。これが私が理想とした世界だ」

「お前に攻撃できないだけの世界だろうが」

「では貴様の身体が思うように動かないのは何故だと思う。私の作った世界にいるからだ。この世界で悪は決して認めない。よって断罪、神罰を実行する」


 更に嫌な予感がしたと思った瞬間、雷が俺に落ちてきた。

『暴食』でダメージの軽減とMPに変換しようとしたのになぜか変換されない!?

 ダメージの軽減も出来なかったし、俺はつい膝をついてしまった。

 その様子を見て光の神は言う。


「これがこの世界のルールだ。この世界の中では私は何でも出来る。人々の飢えをなくすことも、病を治す事も、戦いをなくす事もできる。こうして大罪人に罰を与える事もな」


 そういう光の神は勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 確かにそういう空間支配系の魔法が存在する事は知識の中で知っていたが、まさか本当に使える奴がいるとは思わなかった。

 MPの上限で使うことは計算上出来ない。

 それほどまでに圧倒的なMP消費量。

 文字通り人間業ではない。


 だが相手は神である。

 そしてなぜそんな使ったら価値と言える魔法をすぐに使わなかったのか、そこも非常に気になる。

 話から察するに本当はもっと時間がかかる、もしく何か特別な準備が必要だったのだろう。

 それを省略するために光の神は何かしらのデメリットを負っている可能性は非常に高い。


 それならそのデメリットを見つけ出して、そこから突破口を切り開くしかない。

 俺はそのまま足に力をこめ、飛び出し再び極夜で切り刻もうとする。

 が、やはり数ミリ手前で止まってしまう。


 それなら魔法はどうかと使ってみたが、どういう訳かあり得ない方向に曲がって飛んで行った。

 ただまっすぐ飛んで行くだけの光の攻撃魔法。

 それは光の神の手前で大きく湾曲し、空に向かって飛んで行く。

 他の魔法、火や水の攻撃魔法も試してみたが、全てあり得ない動きをして当たるところが満足に飛んで行く事すらない。

 このあり得ない状況に光の神は説明する。


「これがこの結界内の効果だ。私に対して悪意を持つ存在が攻撃してきた際、自動的に攻撃があらぬ方向に飛んで行くように設定している。さらに言えば攻撃も無自覚に止めるようにした。先ほどから攻撃が止まっているようにな」


 これは……マジでヤバいかもしれない。

 何もかもが光の神の思うがままになってしまうのであれば、本当に勝ち目がないのかもしれない。

 そう思っているとベレトから連絡が入った。


『ナナシちゃん。ちょっと危ない事になってきたわ』

『具体的に言ってくれ』

『おそらく光の神が作った結界が発動してから急に聖騎士達が強くなったし、殺したはずの騎士達が生き返ってきた』


 ………………マジか。

 マジでそんなことまで出来るのか。


『それに私達の弱体化もかなりひどい事になってる。一度引いた方が良いわね』

『ジラントとズメイは大丈夫か』

『弱体化の影響で少し危ないわね。2人を連れてこの結界外に逃げられるか確かめてみる』

『なら俺が殿をする。できるだけ早く逃げてくれよ、こっちも余裕がない』


 正直に言うとベレトがジラントとズメイを連れて遠くに離れる気配がした。

 レナとネクストもベレトの動きを見て撤退を始めたようだ。

 そうなると、俺も撤退した方が良いんだろうが……


「ずいぶんとんでもねぇ事してくれるじゃん。死者蘇生に人間の強制的なステータスの底上げ、俺達の弱体化と本当に何でもありか」

「何でもありだ。これで私の理想はここから始まる。人間のための神の統治が始まる」

「残念だが、そんなつまらない未来はごめんだね。神様の愛玩動物ペット生活は楽そうだが、それ以上につまらなそうだ」

「今なら見逃してやろう。他の者達のように逃げれば断罪せずに終わらせてやろう」


 普通ならこの話に飛びついて逃げるべきだろう。

 光の神がどのようにこの空間内で自由自在に俺達の弱体化や騎士達のステータスを上げている方法が分からない以上引いて態勢を整えるのが正解だ。

 だがその場合ユウを見捨てる事になる。

 流石にそれは――


「ヤダね。俺はユウを連れて帰る。見捨てるつもりなら助けに来てねぇよ」

「その姿勢だけは美しいと言ってやろう。それならこのまま神罰を実行する」


 そう言って光の神は上空に最上位魔法を複数同時に展開した。

 ザ・サンにザ・スター、あの黒いのはザ・デスか?

 コスパ最悪の超広範囲攻撃魔法を同時に使うとか、この国ごと消すつもりか?


「正気か?そんなの下に落としたらこの国終わるぞ」

「終わらない。この魔法は貴様にしか効果を出さない。よってこの国も人間達も無事に明日を迎える事が出来る」

「それは素敵な話で。見た目は完全に世界の終末だけど」

「それは貴様だけだ。それではさらばだ」


 光の神が手を軽く振り下ろすと、全ての最上魔法が俺に向かって落ちてきた。


「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は叫びながら重たい極夜を振るう。

 最初に近付いてきたザ・デスを切り刻み、ザ・サンを切り刻み、ザ・スターを切り刻む。

 切り刻んだ細かい破片は全て『暴食』で食らう事でMPに変換。


 そして一か八かの大勝負をしてみようと思う。

 全てのMPを次の行動に全て使う。

 もしそれでどうにも出来なかったら……2度目の死だな。

 正直に言えばまだ死にたくないし、この世界でまだ好き勝手していたい。

 何よりユウが人間らしくなって今後どのような人生を送るのか見てみたい。


 だから俺は最後の賭けに出る。

 全く、人間最強だと思っていた俺が、最後に人頼みとはな……

 全ての攻撃を切り刻み、再び光の神の前に降りて俺は思いっきり叫んだ。


「いい加減起きろ!!ユウ!!」


 MPをユウの魂に直接届ける声に変換すると、光の神は思わず手で耳を覆った。

 攻撃する事も出来ないようなのでこのまま言いたい事を全て言う。


「このまんまだと光の神の手によって人間の自由がなくなる!!そうなったらお前が探してる“愛”って奴もこれまで味わってきた自由も全てなくなるぞ!!神様に管理されて生きていくって事はそういう事になる!!神様の気まぐれて滅ぶかもしれないし、生かされるかもしれない!!だが俺の予想では光の神の理想の世界は絶対に創れない!!どうせ失敗を繰り返して最終的に本当は何がしたいのか分からなくなる!!そんな未来はごめんだ!!だからさっさとそんな自称正義の神なんざ追い出しちまえ!!」


 俺がそう叫ぶと世界が真っ白になった。

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