光の神対大罪人 神目線
私、光の神は驚きと苦汁を味わっている。
その理由が目の前の男、大罪人と呼ばれるナナシという男の存在だ。
彼の事は当然事前に調べ、悪の神が彼を召喚していたことも気が付いていたので即座に行動に移した。
当然私が正義の神となるための障害になるのは目に見えていたので排除するつもりだったが、ことごとく失敗し、最終的には彼が奪って言った勇者を取り返すという方向に変えざる負えなくなってしまった。
そしてようやく勇者だけを取り返す事には成功したが、切り札と言える3体の天使を使用したのは非常に痛手だ。
その3体の天使達もまさか地上の物に敗れるのは想定外としか言いようがない。
私よりも格が上の神、星の神、月の神、そして親と言える太陽の神が特別に与えてくれた天使であり、私にはあそこまで強力な天使を作ることは出来ない。
だがそれでも私が大罪人に勝利する事ができれば計画は一気に修正できると考えていたが、彼は想像以上に手強い。
何せ今の彼は先ほどの様に荒々しい戦い方を一切せず、こちらを冷徹に観察し、ほんの一瞬の隙を狙って私と勇者を分裂させようとしてくる。
勇者という器、肉体を得たことで本来の速度、光の速さで移動したりすることは出来なくなったがそれでも人間が追う事が出来ないほどの速度のはずだ。
それなのに彼はスキルの力とはいえその差を軽く埋めてきた。
ドラゴンの姫の攻撃を防いでいる間の出来事とは言え、やはりあそこで見逃すのは悪手だったのは目に見えている。
だがあの攻撃に関しては勇者の結界で守る以外の選択肢がなかった。
現在の速度では避けきれないほどの広範囲、それに加えて掠りでもすれば大きな傷を負う事になるは確実。
あの場ではあれでしか身を守る方法がない。
勇者の防御力と私のスピードがあれば大罪人はあっという間に倒せると思っていたが、色々想定外だ。
特に自力で魂だけに直接傷をつける技術に関しては本当に驚きだ。
この技術は地上を生きる人間には必要のない技術と言っていい。
我々神の様に魂だけで生きている存在ならともかく、地上の人間であれば肉体を傷付ければそれで済むので覚える必要のない技術だ。
それを必要だからというだけであっという間に覚えて実際に攻撃してくるのはあまりにも理不尽すぎる。
特にあの声が非常に厄介だ。
魂に直接声をかけるという応用は、神が巫女に対して神託を語り掛けるときの技術に非常によく似ている。
実際そのせいで勇者の意識は目覚めかけており、大罪人への攻撃の他に勇者の眠りをより深いものにしなければならない。
そうしなければ大罪人が狙っているように勇者の意識が目覚め、大罪人への攻撃どころではなくなってしまう。
それに私への攻撃も少しずつ届き始めている。
しかもわざと手加減をして手や足の先を狙う余裕すらある。
両断するような行動をしないのは勇者の事を気遣ってだろう。
私が言った事ではあるが、まさか本当にそれを実践するとは思っていなかった。
これは戦いであり、言ってしまえば相手の口車に乗る必要はどこにもない。
だが彼は両手に双剣、浮遊している武器は大剣、槍、薙刀、盾の4種類。
それらを使いこなして高い防御力を発揮しているのだから恐ろしい。
私は小さく息を整え、この器で限界までの速度を出しながら連続で攻撃する。
私の攻撃速度なら0.01秒とかからずに次の攻撃を繰り出す事が出来る。
正面に攻撃した後、無防備になった背後を斬ろうとしたがまた防がれた。
正面の攻撃は槍でふさがれ、背後の攻撃は薙刀で阻まれる。
突きの攻撃はさっきよりも小さな点のような攻撃だがこれは双剣で弾かれる。
それにしても彼は本当に人間なのか?
私の動きについてくるだけではなく、正確に捉え、カウンターも出来る人間がいるとはとても思えない。
今の連続攻撃でも私の動きについてくること自体が異常であり、しかも彼自身私とそう変わらない速度で動いている事実が恐ろしい。
これではまるで神と変わらない。
私は限界の速度のまま彼の前後左右、上からも攻撃するが全て防がれてしまう。
切り下し、切り上げ、連続で突きを繰り出し、光の魔法で攻撃するが全て防がれる!
何故だ!!
いくら強いと言っても人間であり、勇者には及ばないはず!!
勇者を器に選んだのはその身体能力から私の力を大きく失う事はないはずだからだ。
それにどんなスキルを持っていたとしても、正義の神が作り上げたスキルで負けるはずがない。
いくら悪の神が作り上げたスキルを持っていようとも、正義は悪に勝つ。
これは法則として創り上げているのだから負けようがない。
それなのにこのありさまは何だ。
全く勝てるようには思えない。
互いに決定打があるわけではないが、このままでは正義が悪に勝つという当然の結果が生まれない。
「いい加減起きろ!!」
「くっ!」
この声だ。
この声が勇者の意識を起こそうとするたびに勇者の肉体と私の魂がずれる。
目覚めそうな勇者を再び眠らせようとしている間に攻撃されてしまう。
そして勇者の肉体には一切傷を残さず私にだけダメージを与える。
このままでは負けてしまう可能性の方が非常に高い。
それを認めるのは屈辱だが、最終的には私が勝たせてもらう。
「どうした。もう攻撃してこないのか」
彼は変わらず私の事を睨むように見つめてくる。
元々目が細いのか、睨んでいる自覚はないのかもしれないが睨まれているようにしか感じない。
しかしその目に感情は感じられず、ただ眺めているようにも見える。
まるでただの景色を眺めているかのように。
この男は様々な意味で危険だ。
単純な強さ、常に冷静な視線、そして神であろうと一切怯まない胆力。
そして何より、あの目。
神だと分かっていても変わらない冷徹な目。
あの目が私にとって最も恐ろしい物に見える。
「諦めたんならユウの事を返しな」
何度も同じ事を言う彼に私は苦笑いを浮かべる。
残念だが勇者は私が正義の神になるために絶対に必要な要素の1つ、そう簡単に渡すわけにはいかない。
「何度も言うが貴様に渡すわけがないだろう」
「でもお前俺が思っている以上にダメージがあるだろ。多分だけどユウも起きかけてる。そのせいで動きにバグみたいなのが出てるんだからもう負けを認めろ」
バレていたようだ。
だからと言ってそう簡単に諦めることは出来ない。
元々神のルールの中でもかなりギリギリを攻めた作戦であり、もう二度とこの作戦は使えない。
だからこの場で決める必要がある。
「申し訳ないが認めるつもりはない。私は正義の神となる」
「ぶっちゃけ人間から見れば光でも問題ないと思うんだけどな~。あ、これ前にも話したな」
「そうだ。私は人間のために正義の神となり、人間を守護する存在となる。この手段は使いたくなかったが、仕方がない」
私は勇者の持つスキルを最大まで使用し、いくつもの段階を一気に飛ばして行う。
これをすると今後私の力が弱まってしまうが、計画そのものがご破算になってしまうよりはよっぽど良い。
「お、おいお前!ユウの身体使って何する気だ!!」
彼も何かに気が付いたのか、慌てて止めようとするがもう無駄だ。
私は勇者の力を最大まで引き延ばし、計画を実行した。




