光の神対大罪人④
相棒と『憤怒』によるバフにより動きの差はかなりなくなった。
つまり動きだけ見ればほぼ五分。
しかし光の神は現在ユウの持つスキルを全て使えるだけではなく、光の神自身のスキルも使えるはずだ。
それを考えるとまだまだ光の神の手札はまだまだ隠し持っていると考えるべきだろう。
それに比べて俺の手札はほとんどバレていると俺は思っている。
確かにユウの前で使っていない魔法や戦闘技術はあるが、ぶっちゃけ力任せの脳筋戦法。
相手の動きを利用して、みたいなかっこいい物ではなく、ただ相手を叩き潰すという暴力を極めまくったような戦闘しかできない。
だから前半ユウの事を殺してしまう可能性があったため使えずにいた。
だがそれも相棒の補助のおかげで肉体にではなく、魂に直接ダメージを与える事が出来るようになったため遠慮なく使える。
「暴力剣技、堕天!!」
俺は極夜を大きく振りかぶり、上から下に向かって振り下ろした。
ただ空中にいる敵を地面に叩き付けるだけの技。
空間魔法の1つである下級魔法『グラビティ』で敵の重力を増加させながら叩き付ける。
それだけ聞くと大したことないように感じるが、叩き付けられた速度×10倍になった自重により普通に落下するよりも大きなダメージを与える。
そしてこの『グラビティ』は俺が解除するまで相手の動きを阻害し続ける。
つまり重力が増えたことによって動きを鈍くする。
「剣技、かまいたち三連!!」
通常のかまいたちは首だけを狙うが、三連の場合は相手に突撃しながら突きを3回繰り返す。
人体の急所である心臓、首、目玉を狙った突き。
風魔法で超加速した中で腕を動かすのも大変だが、今の強化状態なら問題なく動ける。
だが突きが届く前に光の神は結界で身を守った。
ユウの持つ『正義』による結界はやっぱり厄介だ。
3回の攻撃全てが硬い地面にバットを振り下ろしたような痺れが俺の手に響く。
それを隙と見たのか光の神はポラリス流の剣技を繰り出す。
下から上に向かった剣の攻撃を極夜で防ぐが、今までとは違う攻撃の重さ。
おそらくパワー重視の攻撃であり、おそらく相手を斬るとか倒すとかではなく、相手と距離を取るための技だ。
切り上げにより砂も巻き上がったが、大したダメージにはならない。
だが光の神は俺の後ろに回り込み、剣を振り下ろしたが俺は空中で回転してかわす。
そして魔力砲撃で攻撃するが光の神は超高速で避ける。
それにしても、さっきから光の神の動きを見ていたが、魔法などを使っていないのにかなり速い。
『憤怒』によって強化してあるのにスピードでは全く勝てる気がしない。
文字通り光の速さで動いているように見える。
そしてその速度のまま光の神は連続で突きを繰り出す。
やはり動きが早過ぎる。
1秒に10回は突きを繰り出しているだろうか。
一撃一撃は大したダメージではないが長時間食らうのはさすがにまずい。
ずっと食らい続けるのは危険なので極夜で攻撃ごとぶった切る。
『暴食』でHPを際限なく増やしているので今のところは問題ない。
そんな攻撃を俺の重たい攻撃で叩き潰しながら吹き飛ばす。
光の神の攻撃の弱点は軽い事。
軽く素早い攻撃でコンボを狙う、というのがコンセプトだと言ってもいいほどに技の速さにこだわっている。
まぁ確かにこれほどまでに速いのであれば、雑に超高速で動いて相手に気付かれる前に殺せば1番楽だ。
まぁ俺は対応できるんだけど。
「ずいぶん肩で息してるじゃないの。もしかして殺し合いは初めてか?」
「……少し違う。思っていた以上に肉体というものは不便だと感じていただけだ」
「あ~。そういう感じ」
ゲームとかで見る奴だ。
肉体を持っていないのが普通の生物が急に肉体を得て調子が悪くなる奴。
「ユウの身体は最高の器だったんじゃねぇのかよ。というか『節制』があるんだからその辺もカットしてるはずだろ」
「それでも精神的疲労までは抑えられない。何より貴様自身だ」
「俺?」
「貴様の殺意が想像以上に重たい!!」
そう言って再び高速で動き回りながら攻撃してくる光の神。
こういう動き回るタイプの攻略方法はいつだって同じだ。
まぁ俺がバカでワンパターンなだけかもしれないけど。
高速で浅く攻撃してくる光の神のダメージは俺にとっては小さい。
だが今俺の鎧として一緒に居る相棒は別だ。
だから俺は勘を頼り光の神が最も近づいた瞬間に顔面を掴んだ。
「っ!?」
そのまま俺は大聖堂の庭園にまで高速で降り、庭園の床に顔をめり込ませながら光の神を引きずった。
床のタイルはぐちゃぐちゃになりながら端から端まで引きずった後、俺は庭園に着地した。
流石に少しはダメージがあるだろうと思い、少し離れた位置から光の神が起き上がるのを待つと、顔がぼっこぼこになった光の神がいた。
すぐに回復魔法で怪我を治した後、光の神はキレながら言う。
「貴様!本当に勇者を救う気があるのだろうな!!少女の姿をした者に対しての攻撃とはとても思えないぞ!!」
「いや、だからって攻撃の手を緩めるわけないでしょ。俺は真の男女平等主義者、男だろうが女だろうが躊躇なく攻撃します」
お俺が平然と言うと光の神は非常に驚いていた。
なんだよ、そんなに変な事言ってないだろ。
「そもそも人の身体勝手に奪って使ってる奴に言われたくねぇよ」
「それでも躊躇いは出てくるものだ。本当に勇者を愛しているのか?」
「え、当然じゃん。何当たり前の事言ってるんだよ」
俺は平然と返す。
だが光の神は信じられないようで聞き返す。
「勇者にこのような事をしていてか」
「だからそれはお前が憑りついてるから仕方なくやってんだよ。そんな事言うんだったら今すぐユウを解放しろ」
「それは出来ない」
「なら無理矢理にでもひっぺがえすしかないだろ。もしくはユウ自身がお前を追い出すか、だけどな」
一応相棒が言うには一応できない事もない、らしい。
実際『憑依』系のスキルもスキルによる防御だけではなく、気合だけで防ぐことは実はできる。
必要なのは強靭な自我。
こういうとかなり大変そうに聞こえてくるが、実際の所はただの我儘でも何でもいいから意志が強すぎると憑りつけない事がある。
だがまぁ光の神の言う通り、ユウの身体なのだから少しは手加減した方が良いのかもしれない。
それに俺が光の神にダメージを与えるのも全くの無駄と言う訳ではないし。
言ってしまえば今までの攻撃は光の神がユウに憑りつくためのエネルギーの消耗と、精神面での弱体化が目的だ。
精神が弱くなればそれだけユウの自我を取り戻す事につながるし、もしかしたら追い出す事が出来るかもしれない。
だが一応相手は神。
そう簡単に追い出せるほど甘い相手ではない。
だから俺が光の神にダメージを与えて少しでも隙を作ろうとしているっというのが現状だ。
「だがま、お前の言いたい事も分かる。もうちょっとだけ手加減してやるか」
それに相棒を通して相手の魂に直接ダメージを与える方法は何となく覚えた。
相棒は大丈夫かと少し俺の事を心配していたが、ほんの少しだけ主人公っぽくやってみるのも悪くないかもしれない。
相棒は俺の鎧状態からドラゴン状態になり、ジラントの方に飛んで行った。
おそらくジラントが担当していたところをフォローしに行ったんだろう。
俺はそれを見届けた後、少し息を多めに吸って、大声を出した。
「ユウ!!起きてるか!!」
俺の大声に思わず耳をふさぐ光の神。
だがこれはさっきから魂に直接ダメージを与える技術の応用。
俺はユウの魂に届くように大声を出す。
「これ以上俺にぶん殴られるのが嫌だったらいい加減起きろ!!そんな寄生虫みたいに憑りついてる奴のいいようにされてんじゃねぇぞ!!起きるまでぶん殴り続けるから、さっさと起きた方が良いぞ!!」
俺はそう言って光の神に向かって突撃した。
さっきまでと違い極夜を両手で構えず、左手だけで持つ。
光の神は聖剣で極夜を防いだが、相手いる俺の右手が顔を捉える。
殴られて吹き飛び、空中で静止した光の神の中にいるユウに向かって叫ぶ。
「そうしないと愛が何なのか分からずに終わっちまうぞ」




