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光の神対大罪人①

 クソ神との戦闘は小競り合いから始まった。

 クソ神は初手と同様に光の屈折による幻影魔法を使いながら自分の居場所を隠しながら光の初級魔法を使う。

 ただのビームみたいな感じで貫通力はあるがダメージそのものはあまり大きくない。


 俺はそんなクソ神と初級魔法の打ち合いをしながら位置を探る。

 常に幻術を使っているため、視覚で捕らえているクソ神と攻撃してくる場所は違う。

 それでも対応できているのは、こういったこそこそした攻撃をしてくる連中の心理をよく知っているからだ。

 300年前、普通のプレイヤーとして生きていた頃は妙な正義感を出すほかのプレイヤー達によく狙われた。

 もちろん俺が大罪系スキル、正体不明の強力なスキルを所有している事は知られているので遠くから攻撃してきたり、幻術で身を隠しながら攻撃してくることは当然の事だった。


 だがこのクソ神、傲慢な言い回しにしては随分警戒してるな。

 幻術で隠れながら超長距離から攻撃してる。

 クソ神の事は見つける事が出来ないが、『森羅万象』でどこから魔法を撃っているのかは分かる。

 それにより撃っているのはポラリス中から放たれている事が分かった。

 今戦っている庭園からだけではなく、遠くの見張り塔のようなところからも攻撃している。

 攻撃そのものは単純なものだが、ここまでこそこそされると気に入らない。


 ユウを開放するにはどうしてもクソ神に直接攻撃できる状況を作らないといけない。

 超長距離では一々近付くのは面倒だし、避けられる可能性の方が高い。

 それなら確実に殴る事が出来るところまで今は耐える。

 クソ神が撃ってくる光の魔法と同じ魔法を使ってクソ神の魔法を撃ち落とす。

 防御魔法を使うよりもこの方が早い。


 ただ冷静に、ユウを救い出すためのタイミングは重要だ。

 それに俺の力だけでユウからクソ神を追い出す事が出来るとはまだ決まっていない。

 確実に助けるには出来る限り情報を手に入れる事から始めるか。


「自称神のくせにちまちました攻撃してんじゃねよ。ビビってんのか?」

「慎重と呼ぶべきだろう」


 そう言って攻撃を一切変えない。

 本当につまらない奴だと思いながら、俺はさらに集中してクソ神の居場所を探る。

 攻撃パターンを感じ取りながら、クソ神の居場所を特定した。


「みっけ」


 居たのは庭園のさらに上、大聖堂の真上の空中。

 そこに向かって光の魔法を放つとユウの結界によって阻まれた。

 本当に厄介だなあの結界。

 俺の攻撃でも壊れない絶対防御、本当に面倒くさい。

 近付いて防御魔法陣を足場代わりにして立つとクソ神は言った。


「邪魔をするな」

「邪魔するに決まってるだろ。ユウを返せ」

「…………」

「無視すんじゃねぇ」


 結界を斬りつけたがやはり効果はないし、突破できる気はしない。

 クソ神は結界の中に籠っているだけかと思ったが、クソ神は意外な変化をしていた。

 それはユウの姿が初めて会った時のように女の子の姿になっていたことだ。


「お前、ユウがせっかく成長したのに何で昔の姿に戻してんだよ」

「……貴様は本当に美徳系スキルの事を何も知らないのだな」


 少し意外そうに言うクソ神。

 そして美徳系スキルについて話し始めた。


「貴様達が呼ぶ美徳系スキルは、心が美しい者ほど効果を高く発揮させる。確かにレベルによる補正はあるが、それ以上に使用者の心に反応する。心の美しさとは、子供のような純粋さだ。疑う事を知らず、どこまでも透明な心。それがスキルの力を最大にまで高める」


 そう言うとなぜかクソ神は結界を解除した。

 いつまでも引き持っているだけだと思っていたが、少しは戦う気があったらしい。

 俺が極夜を構えるとクソ神は想像以上のスピードで剣を振り下ろした。

 どうにか極夜で受け止め、鍔迫り合いの形になるとクソ神は言う。


「これで分かるだろ。美徳系スキルの本当の力を引き出せば貴様など敵ではない。元より勇者は人間の中で最大のステータスを持っている。そこから無駄な力をなくしただけでここまで強くなる。貴様に勝てる可能性はない」

「ないわけねぇだろ!!」


 俺がそう言いながら強く押し返すとクソ神は後ろに飛んだのを逃がさない。

 すぐに跳んでクソ神の肩を狙ったがまた結界に守られる。

 極夜でもびくりともしないのは本当に面倒だ。


「ステータス至上主義者か?残念だがそんなクソ雑魚の人間である俺でもドラゴンや獣人の王族を相手に勝ってるんでね。何も出来ずに、はい負けましたとはいかねぇんだよ」

「それは貴様の勝手なプライドだ。それより他の戦場を見てみろ」


 結界に引きこもっている間は俺にも手が出せないので仕方なく戦場を見る。

 戦場ではジラントの砲撃やネクストの暗殺が功を奏し、順調に聖騎士団の数を減らしているようだ。


「これを見てどう思う」

「嬉しいね。うちの子達がユウを助けるために頑張ってるんだ。俺もお前からユウを取り戻すのに頑張らないとな」

「本当にそれだけか」

「なに?」

「本当にそれしか感想がないのか」


 クソ神に聞かれている物がよく分からない。

 意味が分からず黙っていると、クソ神は俺をさげすむように見ながら言う。


「今戦っているほとんどの者達が人間であり、誰も彼らを倒すまでに至っていない。これが人間とそれ以外の差だ」

「それがどうした」

「大半の人間はあの様に無力だという事だ。ドラゴンや獣人でなくとも、下位の魔物であるゴブリンなどに殺される者達だって存在する。そんな彼らを守るべきだと貴様は思わないのか」

「知るか。ドラゴンや獣人を相手にするのが怖いというのなら最初から戦場に来るな。家に帰って戦いがなくなるまで引き籠ってろ」

「貴様の言うような場所はどこにもない。故に私が創る。人間が何不自由なく、天敵のいない世界を創造する事で私の正義は達成される。誰もが貴様の様に貪欲に強くなれるわけではない」

「それは確かに。みんな俺のように強くなりたいって思いがあったら、俺の大罪スキルはとっくに誰かに奪われてたろうな。でも俺はこの戦いをやめる気はないぞ。ユウを返せ」

「勇者1人が私の器になる事で他の人間達はみな幸福になれる。まずは戦いのない世界を創り、そこから食事も衣類も、寝るところも全て平等に与えよう。そうすれば幸せになれるはずだ」


 そう堂々と言いながら空を見上げるクソ神の印象が少しだけ変わった。

 だから少しだけ聞いてみる。


「お前の言う幸せな世界ってなんだ」

「もちろん人間が誰一人として不幸にならない世界。いや、それではまだ足りない。全ての人間が幸福だと感じられるまでやってこそ神だろう」

「その幸せな世界のために何をする気だ」

「他の人種、獣人、ドラゴン、人魚、エルフ、ドワーフ達と隔離する。他の者達では決して人間を傷付ける事が出来なようにする。そのうえで病のかからない体、決して空腹にならない環境を作る。衣類も何もかも用意し、不幸という言葉が分からなくなるまで私が責任をもって人間を愛そう」


 言っている事は立派かもしれない。

 確かに人間には出来ない事であっても、神様ならできるかもしれないという期待も分かる。

 だが、それでも俺はその計画は失敗する未来しか見えない。


「お前、楽園実験って知ってるか」

「楽園、実験?」

「ある学者がネズミを使って試してみた事件だ。内容はさっきお前が言ったような感じで、豊富なエサ、水、寝床、病気にかかったらすぐに治療する、そして天敵のいない環境。つまりネズミにとっての楽園を作り出しそこでネズミはどうなるのか、という実験を行った。その結果は絶滅だ」

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