レディ
俺、ナナシはサマエルの頭の上に乗ってポラリスの大聖堂を目指していた。
地上の方ではジラント達に向かって走り出すポラリスの兵士達が見える。
どいつもこいつも実力差の分からないバカばかりのようだ。
普通に考えれば人間がドラゴンを相手に勝てるわけがない。
俺だって本当は大罪系スキルの力がなかったらきっと誰にも勝つことは出来なかっただろう。
それだけ俺達人間と人間以外の人種の差は大きい。
だから冷静に考えてみるとポラリスの連中が神にすがるのも仕方がない事かもしれない。
だがそれはあくまでも向こう側の勝手だ。
俺には関係ない。
遠くで見ず知らずの他人がどうなっていようがどうでもいい。
幸せに生きていようが、不幸まみれになっていようが興味はない。
だが俺の群れを巻き込むのであれば善人も悪人も関係なく絶滅させる。
「マスター。私はここから敵の指揮系統を破壊しようと思います」
そろそろ天使達と交戦するくらいの距離に近付いた時、ネクストが言った。
「ああ、そろそろ向かった方が良いかもしれない。雑魚でも一応天使ならレベル50くらいはあるかもしれないからな。それからどっからカードの連中が出てくるか分からないから気を付けて行けよ」
「了解」
一応気を付けるように言うとネクストは飛び降りた。
それなりの高度だが風魔法を得意とするネクストにとっては少し高い所からジャンプするのと変わらない。
風魔法で衝撃を和らげながら落ちる地点を調整、音もなく着地すると敵指揮官の首を遠慮なくはねた。
「ネクストもそれなりに強くなったもんだ」
『あれでまだまだ成長期なんだから恐ろしいですね』
「そういうサマエルはどうなんだ。元同僚との一戦は」
『そうですね……あんなクソ上司にまだ仕えているかと思うと不憫です。憐みの感情の方が強いでしょうか』
「そうか。で、殺す覚悟は」
『当然できています。というかご主人様をお守りするために元同僚を殺すことにためらいはありません』
「そんじゃ大聖堂を目指しながら雑魚共を蹴散らしてくれ」
『了解しました』
そう言うとサマエルは口から魔力砲撃を放った。
雑魚天使共はあっさりと魔力砲撃に飲み込まれ、血の一滴も残さず消え去った。
まぁあの程度の雑魚の肉片が残っていようがいまいが関係はない。
ただきれいに掃除が出来ました、くらいの感想か。
サマエルは魔力砲撃を中心に雑魚天使達を撃ち落としていくが、どうも数が多い。
1体1体は本当に雑魚で大した脅威ではないが、これほどまでに数が多いと気持ち悪い。
何せサマエルが魔力放出で消えた空間をすぐ埋めるようにどこからか現れるのだから、本当に虫の大群のようだ。
「大聖堂まであと少しか。俺もそろそろ飛び降りるか」
『ご武運を』
俺はサマエルの頭から大聖堂にいるクソ神に向かって飛び出した。
ただのジャンプなのに誰も邪魔しようとはしない。
いくつかの疑問があるが、俺はクソ神がいる大聖堂の屋上に到着した。
着地するときに埃が舞い、クソ神以外は顔を覆ったが、クソ神は涼しい顔をして俺の事を見ている。
「よう、パチモンクソ神。ユウの事取り返しに来たぞ」
「取り返す?すでに勇者は我が器として存在している。元より勇者とは私の器になるための人間の事を指す。よってこれが本来の形と言えよう」
流石神様、超傲慢なセリフをいただきました。
そのまま話そうとするとよく分からない騎士が口をはさむ。
「貴様!!神の御前で――」
「うるせぇ」
口をはさんできた騎士を俺は極夜で首を斬り落とした。
騎士の顔は驚愕に包まれたまま地面に落ちた。
全く興味のない騎士の事なんてどうでもいい。
それよりもユウの方が大切だ。
「いいから返せよ。誰もてめぇから許可をもらう必要なんて最初からねぇんだからよ」
「口が汚いな。だが先ほども言ったように勇者は我が器として育ててきた物、そう簡単に渡すわけがない」
「器としてって偶然勇者を見つけてそのまま祀り上げたんだろ?知ったこっちゃねぇ」
「いや、偶然ではない。勇者は私が確かに生み出し、育てさせた。そのために英雄達を利用したのだから」
「利用?」
「大罪人を倒した6人の英雄を覚えているか」
「まぁ一応。俺を殺した張本人たちだからな」
一応あいつらがポラリスからの依頼を受けて俺を殺しに来たというところまでは知っている。
だがもちろんその後の事は全く知らないし、それが一体どうしたというのだ。
「その6人の英雄は大罪人を倒した後、ポラリスに残り子を残した。そしてその子達を秘密裏に保護し、我が器を生み出すための物に仕上げた。その究極の器こそ勇者。よって私は勇者を生み出し、育てた」
なるほど。
つまり俺を殺したあいつらの子孫がユウであり、ユウは勇者にするために意図的に生み出させた。
確かにそう言った過程を聞くとユウは確かに最初からクソ神の物だったのかもしれない。
だが。
「それがどうした」
「勇者は我が器。よって返せという表現は間違っている」
「そんな話じゃねぇんだよ。確かに元をたどればお前の計画によってユウは生まれたのかもしれねぇけどよ、それは勇者であってユウじゃない。ユウは俺の家族だ」
「理解不能。勇者と大罪人の言うユウは同一人物である。よって我が物である」
「違う。もうあいつは勇者なんて肩書だけの女の子じゃない。ユウと言う1人の人間だ。あいつは最初から最後まで自分で考え、正義ってなんだ、愛ってなんだって考え続けてきた。それをお前の器なんてしょうもないものにさせてたまるかよ」
もうユウはただ神様の器なんてよく分からないものじゃない。
ただの世間知らずな女の子であり、俺の家族だ。
俺は『傲慢』で瞬間転移した後クソ神を殴ろうとしたが結界に阻まれた。
その瞬間後方からビームが飛んできたので即座に避ける。
「自称神様にしてはずいぶんせこい攻撃するじゃないの」
「そちらもすでに気が付いていたようだが」
そう言いながらクソ神は俺の後ろから歩いて姿を現した。
今俺の拳を止めたのはユウの『正義』、だが俺が殴ろうとしたのはおそらく光魔法で作った幻だろう。
光の神と言うだけあって光魔法はかなり得意らしい。
「他の者達は他の大罪人の仲間達を始末してきなさい。大罪人は私が断罪します」
「は!」
クソ神にそう指示された屋上の連中はそう言われて階段を駆け下りていく。
だがなぜか1人だけ動こうとしない女がいる。
現法王だ。
「私は法王としてこの戦いを見届けたいと思っております。よろしいでしょうか」
「許す」
「別にいいけど自分の身は自分で守れよ。守る気なんてないからな」
俺がそう言うと法王は花壇の陰に隠れて身を小さくした。
さて、さすがに本物の神様と一戦やるのは初めてだ。
どれだけの経験値を持っているか、ぶっ殺した時に何らかのボーナスが付くのか楽しみだ。
俺は極夜を抜き、クソ神は聖剣を抜く。
ほんの一呼吸置いた後、俺とクソ神の戦いは始まった。




