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憤怒の狼対月の天使

 レナは月の天使を追いかけまわしていた。

 元々月の天使は超長距離からの攻撃と隠蔽が得意、なので距離を取った状態から一方的に射撃する予定だったが光の神に出撃されるよう命令されたため仕方なく前に出た。

 その結果、レナに発見され距離を稼ごうとし、レナは逃さまいと追いかけ続ける。


 特に今回のレナは非常に表情が恐ろしい。

 その目は一度捕らえた獲物を決して逃さないという強い意志を感じ、決して月の天使から目をそらさない。

 それ以外の事は一切考えていないようで、その表情はまるで地獄まで追いかけるような気迫だ。

 月の女神は時折振り返ってライフルを放つが所詮は銃、一直線にしか飛ばない銃弾はレナの身体能力にかかれば避ける事は造作もない。

 よって距離の近い月の天使は逃げ回りながら攻撃できる場所の捜索、そしてレナから振り切ろうとしていた。


 それに対しレナは月の天使への怒りで執拗に追いかけていた。

 レナはドラゴン、ジラントやズメイよりも仲間というものに対して執着心が非常に強い。

 元々狼は群れを大切にする種族だが、レナはその中で特に群れというものにこだわりがある。

 元々王族で群れの大切さを教え込まれてきたが、元々人とのつながりを非常に大切にしたがる性格だ。


 その理由は300年前、ナナシが最初の人生を終わったのが切っ掛けだ。

 死ぬとは思っていなかった者が突然いなくなり、二度と会う事が出来ないと理解した瞬間から人がいなくなる恐怖というものを知る。

 しかも初恋の相手が突然この世からいなくなったのだからその衝撃は大きい。

 もちろんすぐに助けに行こうとしたが、両親に止められ、助けると言っても実力もない。

 だからレナは泣く事しかできなかった。


 その後ナナシが処刑されたことを知ると、しばらくの間ふさぎ込んだ。

 そして群れを大切にする気持ちと、相手に対する依存性が増した。


 ユウが連れ去られた時、すぐに助けに行こうとしたのがその証拠であり、ナナシに止められなかったら1人でポラリスに突撃していたことだろう。

 しかしレナがそれを思いとどまったのは、ナナシから自分以上の怒りを感じたからだ。

 自分以上の怒りを無理やり抑えつけて、取り返す、奪い返すというナナシの姿を見て、自分もその時まで力を蓄える事にした。


 そして今その力を開放するときが来た。

 これ以上我慢する必要がない事からレナは全力で殺しに行く。

 特にこの天使、ユウの事を直接連れ去った天使が憎くて仕方がない。


 月の天使が振り向いてライフルを撃とうとした瞬間、レナが右手を大きく振りかぶった。

 右手を振り下ろすと地面にも巨大な爪でえぐられたような跡が付き、天使はその1つに落ちていく。

 月の天使の鎧は紙の様に簡単に引き裂かれ、腹部から大量の血があふれ、小腸が少し飛び出している。

 天使は小腸を元の位置に戻しながら回復しようとするがレナがそれを許さない。

 周囲への被害を一切考えず全力で攻撃する。


 元々敵ばかりの戦場。

 後ろにいるジラント達に攻撃が当たらなければそれでいい。

 前方にはナナシ達がいるが、攻撃の余波を食らうほど間抜けではない。

 そして何より、光の神がユウの身体を奪った事をナナシが許すわけがない。

 あの時感じた自分以上の怒りは1日経つ毎にさらに燃え盛っていた。


 光の神は完全に起こらせてはいけない相手を怒らせた。


 ナナシの冷たい視線はレナ達最強に近い者達でも寒気が止まらないほどの視線。

 その視線をまっすぐに向けられている光の神はナナシの事を舐め過ぎた。

 ナナシは確実に光の神からユウを救い出す事は初めから決まっている。

 だからレナがこの戦争に参加する理由は懺悔と八つ当たり。

 ナナシが光の神からユウの事を助けるまでの時間稼ぎと邪魔者の排除、そしてあの時奪われてしまった怒りを光の神を信仰する信者達と天使に怒りをぶつける。

 レナもこれが八つ当たりである事は自覚しているが、それでもこの怒りを少しでも発散させたい。


 月の天使はその八つ当たりの対象になってしまった事は災難としか言いようがない。

 必死に逃げ回りながら攻撃するも、ライフルと言う大型の銃が動きを悪くさせる。

 得意とする隠蔽も使っているが、どういう訳か発見されてしまう。


 当然だが逃走している間も隠蔽を使いながら逃げていた。

 敵対対象から視覚、嗅覚、聴覚と五感で感じる事が出来ない魔法であり、透明になって匂いや音も聞こえないのだから普通であれば無敵のチート能力である。


 だがレナは月の天使の行動を勘だけで対応していた。

 300年間、戦いに明け暮れていた事で得た勝負勘。それが今、スキルとして目覚めた。

 スキルの名は『第六感』。

 ナナシにとっては汎用性の高いスキルとしか見ていないが、実際はかなりの高難易度で得る事が出来るスキルだ。


『第六感』は他のスキルよりも圧倒的に長い時間を掛けなければならない。

 しかも取得条件はいまだにはっきりと分かっておらず、狙って取得するには不確定要素が多い。

 スキルの効果は直感的に動く事が出来るという非常にあいまいな表現だ。

 だが実際には直感的に相手の位置を捕らえたり、相手を攻撃する際の最善手が思考よりも先に分かる事が出来るというかなり強力なスキルだ。

 そしてこれは偶然だが、この『第六感』は月の天使にとって天敵と言える。

 何せ目に見えず、聞こえず、感じ取る事が出来ないはずのスキルを使用しているのに、それが五感に関係なく分かるのだから月の天使にとってメタスキルだ。


 レナはその事を知ってか知らずか、的確に月の天使を追い詰める。

 後方に飛びながら月の天使は発砲するものの、普段の的確な射撃も出来ずレナに詰め寄られる。


 月の天使は既に壊れかけていた。

 今まで感じたことのない恐怖という感情を生まれて初めて感じ、しかも最上級の殺意を浴び続けているのだから当然とも言える。

 しかし他の天使同様初めての感情が恐怖という理解したくない物であるため、月の天使は恐怖と同時に混乱していた。


 直接神の手によって創られた天使じしんが何故地上の生物に追い詰められているのか分からない。

 地上の生物くらいあっさりと倒せるほどの性能を持っているはずなのに、なぜ圧倒するどこか追い詰められているのか分からない。

 何故私は負けそうになっている。


「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 月の天使は絶叫し、最上位魔法を使用した。

 最上位魔法の名は『ザ・ムーン』。

 大抵の最上位魔法は攻撃系が多いが、この最上位魔法の効果は幻術。

 一定空間内を使用者がイメージした幻覚を見せるという効果だ。

 説明だけだと他の最上位魔法と比べていくつかランクが下がりそうなイメージだが、実際はそんなことない。

 簡単に言えばイメージだけで本当に人を殺す事も可能、地形を変えて自身の有利な場所を形成する事も可能な魔法。

 しかも使用後は何事もなかったかのように元の地形に戻るのだから、周囲への環境も考えると最も使いやすい最上位魔法と言える。


 その幻術によりレナは一瞬月の天使を見失った。

 しかしすぐに『第六感』でどの位置にいるのかを判明し、襲おうとするが月の女神は魔法の効果ですでに自身が得意な地形に変化し、魔法効果範囲内ギリギリで腹ばいになり、ライフルでレナの眉間を狙う。

 冷静に、的確に引き金を引いた。


 ライフルから放たれた弾丸は振り向いたレナの眉間を見事に打ち抜いた。


 月の天使はようやく終わったと安堵する。

 他の天使達はうまくやったかと思いながら魔法を解除すると、仕留めたはずのレナの牙が目の前に迫っていた。

 結果、月の天使は喉笛をレナに噛み千切られた。


 何故月の天使の銃弾がレナの眉間を捕らえたはずなのに生きていたかというと、それはレナが生み出した残像だったからだ。

 月の天使が引き金を引いた瞬間、危険を感じたと同時に月の天使の居場所を捕らえたレナは超高速で移動しながらライフルの弾丸を避ける。

 その速度は月の天使の目にも映る事が出来ないほどの超高速移動。

 レナの死体を確認せず魔法を解除した瞬間、月の天使はレナに倒されてしまった。


 レナは月の天使の死体を見て死を確認した後、ポラリスの大聖堂を見た。

 どうか、誰1人として欠けることなく戻ってこれるようにっと。

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