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中立

 次の日、俺はアストライアに会うためにリブラに来た。

 そして秘書君に会い、軽く挨拶し来た目的を話す。


「よ、久しぶり」

「お久しぶりでナナシ様。本日はどのようなご用件でしょう」

「光の神がよこした天使についてだ。アストライアと話を合わせたい」

「どうぞこちらに」


 俺が要件を言うとあっさりと案内してくれた。

 普段は忙しいアストライアなので、アポなしで来ると大抵改めて会いに来てほしいというのに。

 それだけ彼女も今回の件は重く見ているという事なんだろう。

 エレベーターに乗り、社長室に通されると、疲れ切った表情のアストライアがいた。


「よ、久しぶり」

「久しぶりだな、ナナシ君。要件は秘書から聞いている」

「相変わらず仕事が早いな。だから簡単に言う。光の神殺してもいいか」

「構わない。地上にこれだけの被害を出すことをためらわない光の神をこれ以上野放しにする訳にはいかない」


 アストライアの表情は非常にまじめな物で、これ以上は過ごせないと態度に現れていた。


「でも俺が動くのは良いのか?一応神様の部下と神様をぶっ殺すと言ったんだが」

「構わない。こちらもやり過ぎだと太陽の神、光の神の保護者にも正式にこの事を伝えるつもりだ。『ザ・サン』の時も思ったが、まさか『ザ・スター』まで使うとは思わなかった」

「俺だってまさか周囲の被害ガン無視の魔法を遠慮なくぶっ放すとは思わなかったぞ。というかあの場にはユウも居たことは知っているはずなのに何であんな魔法使ったんだよ。ユウの事は捕まえるつもりじゃないのか」

「それに関してはこちらは全く知らない。勇者の事どのように利用するのかは光の神しか知らない事だろう。その辺りに関しては善の神、もしくは悪の神の方が詳しいだろう」

「その2人の神様に頼るならアストライアに頼れと言われたんだが」

「ふむ……一応中立の神として信頼は得ていると見るべきか。とにかくこちらは神側から光の神を裁く準備を始める。地上の事はそちらに任せる」

「いいのか?それこそどれだけの被害が出ようが俺はお構いなしに戦争を仕掛けるぞ」

「光の神はやり過ぎた。それにナナシ君が動く方がまだマシと言える」

「何で?」

「神と神の戦争というのはそれだけ規模が大きいという事だ。いわばナナシ君には善と悪の神の代理、ポラリスは光の神の代理として戦争をしてもらうのが神側としては理想の形になる。人間同士なら神々の戦争に比べればまだマシだとみな思うだろう」


 その言葉に嘘のような物は感じないが……それを本気で言っているのも何というかな。

 神様同士の戦争ってどんだけ大規模なんだよ。


「でも絶対光の神は乱入してくるぞ。これだけは今までの行動から察する事が出来る。というか天使を運用している時点で自ら手を下してるっているんじゃないのか?」

「それは細かいルールなのだが、意外と各神の天使はそこら辺にいるのだ。人々の暮らしに紛れながらな。だから天使を利用すること自体は自ら手を下しているとは言えないのだ」

「本当に細かいルールだな……他の連中と違って軍事運用してるんだからその時点で裁けよ」

「こちらもあれほど分かりやすく、君を殺すために天使を利用するとは思わなかった。それに少しだけ厄介なところもある」

「というと?」

「君を襲った3体の天使、あれらは光の神の天使ではない」

「…………は?」


 意味が分からない。

 光の神が用意した天使でないというのであればあれは他の神様が用意したことになる。

 単純に仲間の天使か、それともスポンサーのような神様がいるのか、おそらくそんなところか。


「つまりあいつの仲間が用意した天使だから直接裁く事が出来ない、そんな感じか?」

「大雑把に言うとな。しかしその相手が非常に厄介でな……」

「誰だよ、その厄介な神様ってのは」

「太陽の神、月の神、星の神だ」

「…………」

「どの神もこの世界を維持するには必要不可欠な存在でな、そう簡単に裁くわけにはいかない。それにすでに話は聞いている。あの天使達は光の神に何かあった際の防衛用として譲った天使らしい。光の神はそれを悪用したと言える」

「…………躾けもできねぇのかその神。どう考えても親の責任じゃん」


 よく言えば過保護、悪く言えばバカ親だ。

 それに光の神自身も親が心配して渡した天使を防衛ではなく攻撃に運用するとは、愚かという他ない。


「それに関しては……」

「別にどうこう言ってほしいわけじゃない。俺が聞きたい事は1つだけ、あのクソ神殺してもいい?」

「構わない。それにおそらく殺しきることは出来ないだろうしな」

「どう言う意味だ」


 殺しきれないという妙な言い方に俺は引っかかりを覚えた。

 それに関してもアストライアは答えてくれる。


「そのままの意味だ。仮に光の神がこの地上で活動できる肉体を得たとしよう。しかしナナシ君が破壊できるのはその肉体だけ、本体と言える魂に関しては触れる事すらできない」

「それは『ザ・デス』でも出来ないのか」

「できない。元々魔法は我々神の権限による奇跡の模倣でしかない。どれだけの魔法が使えようとも神を殺す、つまり魂まで通じる攻撃方法がないのだ。だからナナシ君が殺せるのは精々その肉体まで、魂には傷をつける事が出来ない。こういう事だ」


 なるほど。

 あくまでも神様を殺したいのであれば、神様の魂を破壊できるようにならないといけないって事か。

 確かにこれに関してはどこにも情報がないし、手に入れる事が出来るとすれば善の神か悪の女神に聞くしかない。

 そして聞く事が出来たとしても、それを実行に移せるのかどうかはまた別問題だ。


「なるほどね。とりあえず分かった。でもそのあとちゃんとそっちで光の神を処理してくれるんだろうな」

「それは約束しよう。今は雲隠れしているようだが、執拗に勇者の事を狙っているから必ず姿は現す。そこを狙う」

「……ユウに何かされる前にどうにかしてくれよ」


 俺はそう言って立ち上がった。

 後は帰ってクソ神対策を考えて……


「ナナシ君」


 帰る前にアストライアに止められた。


「なんだよ?」

「光の神は今もどこに潜伏しているのか分からない。十分に気を付けて欲しい」

「分かった」


 俺はそう言って家に帰ろうとした時、レナから連絡が来た。


「どした」

『申し訳ありません!ユウが、天使によって連れ去られました!』


 それは最悪の連絡だった。

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