天使を調べる
ダンジョン内の我が家に帰ってくると全員心配した表情で出迎えてくれた。
「ただいま。サマエル以外の天使と戦ったのは初めてだったよ」
「そんな簡単に言えるものではありませんよ。天使が主を殺しに来たという事は、本格的に光の神が動き出すという前兆です」
俺の軽い言葉にサマエルが真面目に答えた。
確かにその通りだが、例の神様ルールのせいで光の神本人が出てくることはない。
それなら今はまだ大丈夫だろう。
「大丈夫だろ。神様ルールがあるんだから」
「そのルールの抜け道を見つけ出して好き勝手行うのが光の神よ。注意なさい」
サマエルに言ったつもりだが、善の神と共に現れた悪の女神が俺そう言った。
俺はため息をついてから言う。
「でもそのルールを管理しているアストライアがこっちの味方なんだろ?なら問題ないだろ」
「彼女は正確に言うとルールを守っているだけでこちらの味方ではない。あくまでも彼女は中立を保つ。それが神としての本質だからこちら側に転がる事はほとんどないわ。あるとすれば光の神が明確なルール違反をした際だけね。そして今はそのアストライアのルールがこちらにとって都合がいいだけでしかない」
随分警戒した言い方だ。
ま、確かにあのアストライアが誰かの味方をするというのは……考えにくい。
実際俺もやり過ぎた場合は俺の事を止めに行くと言われている。
今はそれ以上に光の神がバカな事をしているから俺達の行動を止めようとしない、と言ったところか。
「その辺りの事は分かった。で、あの天使は本当になんだ。いきなり周囲の影響考えずにバカなことしでかそうとしてたぞ」
「本来の天使はそんな物よ。主の命令に忠実であり、目的を果たすためにはどんな手段も選ばない。それが天使」
なるほど。
確かに俺を仕留めるためにあっさりと自爆魔法を使おうとしていたもんな。
転移を使った理由はおそらく俺を殺す手段がなかったからくらいの理由だろう。
他に殺す手段があるのであればそれを使っていたのは間違いない。
それにしてもガトリング砲を使う天使か。
意外と近代兵器を使うんだな。
「そんであの武装はなんだ。どう見てもこの世界じゃオーバーテクノロジーだろ」
「あれも光の神が異世界を観測して見つけ出した兵器よ。あなたが見たことあると思うのなら、私同様にあなたの世界を見て模倣した可能性が高いわね」
「それでファンタジーとSFが混じったような感じになってたのかよ。容赦ねぇな」
そうなると俺に超長距離攻撃をしてきた方法も近代兵器の補助があったと考えるべきか?
遠距離ミサイルのように特定していたのか、それともスナイパーライフルのようにただ遠くから補足していただけなのか、特定方法も調べておく必要があるかもしれない。
「思っていた以上に面倒だな……特に周囲への影響を考えてない」
「それは昔のあなたも変わらないように感じるけど」
「流石に何の関係もない森や地形を無意味に変形するようなことはしなかったっての。無駄に恨みを買うのは面倒だ。俺が殺したり犯したりして恨みを買うときは仕方ないと思うがな」
「で、具体的にこれからどうするの」
悪の女神に言われて今後の対策を考える。
少し考えた後に出た答えは非常に単純な物だ。
「まず前提としてあいつ、ザ・サンを名乗る天使は俺を殺す事しか興味がなかったように感じる。悪の女神の言葉を信じるなら、光の神は天使に命令したのはおそらく俺の殺害だけなんだろう。もしくはユウの捕獲もあるけど、ユウがその場にいなかったから実行しなかったってところか。そうなるとしばらくは俺がダンジョンの外に出るのはまずいな。特に世話になっている人が大勢いるところで攻め込まれたらそいつらまで巻き込む。それだけは俺のプライドが許さない。だからしばらくは買い出しとかは避けるべきだろうな」
「もっと今後の行動に役に立つ事を言いなさいよ」
「まずは実験してみる。本当に天使が俺の殺害のみを実行する際に制限が本当にないのか、それを確かめてみないといけない」
「具体的には?」
ユウが聞いてくるので俺は一応の考えを言う。
「流石の光の神も信者たちがいるところで大量虐殺は避けたいはずだ。だからわざとポラリスの中で天使たちが今まで通り攻撃してくるかどうか確かめる。それと同時に超長距離からどうやって俺の事を捉えていたのか調べてみるつもりだ」
「では私達はどうしますか」
「レナ達も一度俺と一緒に行動してポラリス内で天使たちがどんな行動をとるのか確かめてほしい。メインはユウの護衛、次の天使達の行動パターンを見極めてほしいってところだな。本当に俺の予想通り俺を殺す事だけが目的なのか、それともユウを連れ去る事の方が重要なのか、せめてどっちが天使にとって重要と見ているのか見極めたい」
「ちなみにポラリス内でさっきみたいな戦闘を行うようだったら?」
ユウの質問に俺は悪い笑みを浮かべながら言う。
「わざと人が多い所で戦う。俺と直接戦った天使が大規模魔法を使って住民への被害を一切考えず行動するのならそれもよし、俺は同情しながらも何もしない。信者が減れば光の神の弱体化も見込めるし、敵も減る。良い事尽くめだ」
そう言うと、ユウは「本当にナナシは悪人だよね……」とつぶやいた。
俺の発言に対して悪の女神は頷きながら言う。
「まぁ無難なところね。でも先に言っておくけど天使の思考パターンは少ないわよ。特に戦闘系の天使は自分で考えることは出来ないから、複雑な命令は行えないはず。多くても3つの単純な命令をこなすくらいね」
「単純な命令ってどんな感じだよ」
「例えば……勇者を連れてこい、大罪人を殺せ。このくらいじゃないかしら」
マジで単純な命令だな。
だが俺1人を殺すために炎魔法の最上級をぶっ放したんだからそんなもんかもしれない。
そうなるとポラリス内でもさっきと同じ暴れっぷりになる可能性は高いな。
その時は本当にポラリスの首都周辺でわざと相手の攻撃を避けながら戦おう。
そして信者の数を天使達に減らしてもらおう。
「よし。大体の方向性はこれで大丈夫そうだな。とりあえず天使の現状を確認。そして俺の事を超長距離から狙撃していた奴の正体を知りたい。多分同じ天使である可能性は高いが、一応他の可能性も考えておく方が良いだろうな。とりあえず次はポラリス内でわざと姿を出してどんな行動をとるのか確認する。良いな」
俺がそう聞くとみんな「了解」と答えてくれた。
それでも後からそっと出てきた善の神が申し訳なさそうに言う。
「できればできるだけ被害があまり出ないところで行ってほしいのですが……」
「まぁ今のポラリスは広いし、場所を選べば大丈夫だ」
まぁ人がいるところでやるつもりだから、どこかの村の近くでいいかな?
そう考えながら俺は地図を広げるのだった。




