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新たなる切り札

「こりゃ本格的に面白くなってきたな」


 俺は『隠者』の会話を盗み聞きしながらそんな言葉をつぶやいた。


「何かあったの?」

「ベレト。念のためユウ達を連れて家に籠ってろ。新しい『切り札』様の登場だそうだ」

「その情報共有させてちょうだい」


 俺は魔法でさっき聞いた内容をそっくりそのままベレトに流す。

 するとベレトは警戒しながら言う。


「神託で選ばれたなんて相当怪しいでしょ。人間かどうかも怪しいじゃない」

「だからこそ面白くなりそうなんだろ?でも念のためユウは外に出さないよう頼む。文字通り正体不明だからな」

「1人で行く気」


 ベレトは強く言って俺を止めようとするが、俺は全く気にせず1人で行く気だ。


「おう。まずは敵情視察だからな。映像越しでもユウの『知恵』、相手のステータスやスキルを読む効果は使えるかどうかの確認も頼む。それが出来れば1番楽に攻略方法を調べられる」

「……死亡フラグ、踏み抜かないでよ」

「ならあえてここで踏んでみよう。俺、必ずみんなの元に帰るんだ」

「それって死亡フラグだったかしら?」

「ぶっちゃけ適当。じゃ、行ってくる」


 出来たばっかりの家を壊されては困るので、ダンジョンから少し離れたところで待ち構える。

 と言ってもこちらは何も知らないふりをする必要があるので、周辺で狩りをするふりをしておく。


 なんて考えながら待ち構えていると、『森羅万象』に反応があった。

 超高速の攻撃が俺の方に来ていた。

 回避できる速度ではなく、絶対攻撃を食らってしまう速度なので俺は『暴食』を使ってその攻撃を食う。


 俺の感知スキル外から正確に攻撃を放った?

 スキル任せではなくプレイヤースキルだとしてもあまりにも異常だ。

 おそらく攻撃そのものは光魔法。

 しかし誘導型の魔法ではなく、直線で進む普通の魔法。


 おそらく魔法は光魔法、『ポイントライト』だと思われる。

 攻撃力はろくになく、飛距離が無制限と言うところ以外の特徴は、クリティカル判定が出た時のみ攻撃力が非常に上がるというところだ。

 今回の急所は頭、もしくは心臓なのだが、これを当てるのがかなり難しい。

 クリティカル判定が出れば上級魔法以上の攻撃力が出る、非常に癖の強い魔法だろう。


 それを超長距離で狙って当てる?

 本当にそんな事が出来る存在がいるのか?


 もし本当にできる事がいるのであれば、射撃能力に関してはジラントと同等と言える。

 あくまでもジラントは視覚で相手を捕らえなければ『射抜女神アルテミス』の効果は発揮できない。

 それに射抜女神には魔法や長距離攻撃の際に自動補正機能が付いているから当てる事が出来る。

 もしそう言ったスキルなしだとすればジラント以上の射撃能力だ。


 俺は『暴食』で魔法を食らったが、ほんの少し体を動かしただけで正確に俺の心臓を狙ってきたので、向こうはすでに俺の事を捉えているらしい。

 そうなるとこちらから動くのはかなり危険だ。

 これから俺は相手を見つけ出すところから始めないといけない。

 圧倒的に俺の方が不利だ。


 そんな間にも何かが上空に飛んできた。

 ちょうど俺の真上辺りで止まったのを確認すると、そこには意外なのがいた。


「……初めて見た」


 それは正真正銘の天使。

 サマエルも天使の亜種と言えるが、純正の天使を見るのは初めてだ。


 真っ白な翼に人形のような無表情な顔。

 身体は非常に華奢な女の子らしい体格であり、とても戦えるような見た目ではない。

 見た目年齢は……小学校高学年から中学生くらいか?


 そんな天使は俺の事をしっかりと捉えると、掌を上空に向けた。

 そして天使はあり得ない行動に出た。

 炎の最上位魔法、『ザ・サン』。

 超高火力という言葉がふさわしい魔法であり、究極のネタ魔法の1つと言われている。

 その理由は『ザ・デス』の炎バージョン。

 攻撃対象に関係なく地面などにぶつかっただけで爆発を起こし、辺り一帯を火の海に変える。

 その範囲が半端なく、半径10キロを焼き尽くすと言われている。

 しかも水や土をかける程度では絶対に火の勢いは収まらず、自然鎮火に1週間はかかるらしい。


 そんな周りへの被害を一切考えない魔法攻撃を俺1人に向かって放とうとしているのだ。

 こいつら本当にバカ。

 今も超長距離攻撃をしてくる誰かもいるし、もしかしたらそいつも天使か?


 いや、そんな予想をしている暇はないか。

 流石に最上位魔法、『ザ・デス』と同等の魔法をそのまま食らうのは俺でも危ない。

 それ以上に周りへの被害が大きすぎる。


 俺は転移で上空に移動し、地上に攻撃が当たらないように誘導する。

 天使はすぐに攻撃を俺がいる上空に変え、『ザ・サン』を放った。

 再び転移で回避した後叫びながら天使を攻撃する。


「バッカモーン!!」


 そう言いながらドロップキックをくらわす。

 天使は無表情のまま地上に落ち、俺は上空の『ザ・サン』に向かって魔力弾を放つ。

 魔力弾が当たった『ザ・サン』は大きな爆発音を炸裂させながら空を真っ赤に染めた。

 もちろんそれだけではなく、強烈な熱波が辺り一帯に襲い掛かる。

 俺は『覇王覇気』で身を守ったが、それでも森の一部に火が燃えた。

 このままだといずれ他の木に燃え移り、森が燃えてしまうかもしれないがこれでも規模はまだマシ。

 直撃していたら辺り一帯が焼け野原になり、木だけではなく他の生物も関係なく消し炭になっていてもおかしくなかった。

 燃えた木は俺が魔力砲で炎ごと吹き飛ばし、他の木に燃え移らないように消失させた。


 一息ついていると、俺の頬を小さな炎の弾がかすっていく。

 視線を向けると先ほどの天使の両腕にはSFアニメで見るかのような巨大なガトリング砲が装着されていた。

 右腕に装着したガトリング砲が勢いよく回転し始めると、そこから炎の弾が次々と俺に向かって発射される。

 即座に転移で回避しながら様子を見ると、右腕を下し、今度は左腕を俺に向ける。

 同じガトリング砲に見えるが何か違いがあるんだろうか?


 注意深く観察していると、先ほどとは違う感じで炎の弾が放たれた。

 右腕のガトリング砲はまっすぐ飛んでくるものなら、左腕のガトリング砲は周囲一帯に炎の弾をばらまくという感じか。

 さっきより広範囲にばらまくため、とにかく撃って当てるのがコンセプトかもしれない。


 だが俺には転移がある。

 ただ空を飛んで回避するのであれば当たっていたかもしれないが、俺の場合はただの移動ではない。

 だから線を引くような動きは必要ない。

 転移で天使の後ろに移動し、鋭い蹴りで天使の背を破壊するつもりで攻撃した。


 しかし天使も戦闘に関しては頭が悪いわけではないらしい。

 身を守るため、そして攻撃されたときのために『フレイムオーラ』を使っていた。

『フレイムオーラ』は炎系の魔法であり物理防御系魔法に分類される。

 正確に言うと防御と言うよりは不意に物理攻撃してた相手に火傷を負わせる魔法なのだが、一応防御系に分類されている。


 と言っても俺も『覇王覇気』で防御しているため火傷にはならない。

 天使は振り返りながら俺に両腕の銃口を向けるが、俺は走って近付いて銃口を両足で踏んで俺の方に向けられないようにする。

 ガトリング砲を消して魔法攻撃しようとする天使だが、その前に俺は天使の腹に深く拳を沈め、内臓を破壊した。


 神様の命令で動く生き人形だと聞いていたが、生き人形でも血の色は赤いらしい。

 口から血がこぼれながらも俺に掌を向ける。

 そんな天使の頭を掴み、木に叩き付けた。

 木は折れてしまったが、天使はさらに後頭部から血を流す。


「お前、何もんだ」


 どうせ答えないだろうと思って聞いてみたが、天使は口を開いた。


「私は『ザ・サン』。光の神の天使」

「答えるのか」


 意外だったのでついそう言ってしまうと天使は続けた。


「私の命令は大罪人を殺す事」


 そう言うと天使は躊躇ためらいなく炎の自爆系魔法を使用しようとした。

 だがそう簡単にそれを許す俺ではない。

 魔法を最低限発動するためのMPを『暴食』で食らう。

 これでどれだけ魔法を使いたくても意味がない。


「魔力の減少を確認。これは……」

「俺のスキルだ。答えろ、なぜ光の神は勇者を狙う」

「理由は不明。我々はただ命令を守るのみ」


 そう言って天使は俺に向かって拳を振り下ろす。

 と言っても天使の腕では俺の身体には届かないし、天使の頭を掴む腕を攻撃しているつもりなんだろうが、待ったダメージになっていない。

 おそらく天使と言うのは魔法攻撃が前提のモンスターなんだろう。

 だから物理攻撃などは魔法で補強する典型的な魔法特化型。


「答えないと殺すぞ」

「我々は死ぬとは言わない。壊れるという」


 …………気に入らない答えだ。

 このまま破壊しようとしていると、また遠くから攻撃してきたので天使を盾にして防ごうとする。

 が、彼らの目的は俺ではなかったようで、天使が転移で逃げた。

 今の転移は消耗品アイテムを使った転移だな。

 おそらくあらかじめ登録していた場所にしか転移できないアイテムだろう。

 逃げられたことに関しては残念だが、新しい敵は本気で俺の事を殺しに来ている事を知っただけでも上等だと思った。

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