悪の神との再会
「……ナナシ?」
「あ~……色々ごめん。あれは痛い。俺、経験ないけどあれはさすがに痛いわ~……」
中二病悪魔のファッションセンスは本当に目を覆いたくなるほどのベタで痛々しい姿だった。
なぜか不均等に生えてる悪魔と黒い鳥のような翼。
右手には包帯を巻きその上にはチェーンで巻いている。
左目には眼帯。
全身黒で揃えられた服。
それに無駄にバカデカいだけの剣を背負ってた。
更にさっきのセリフもなんか気持ち悪い。
何が我が配下だよ。全然かっこよくない。
俺は嬢ちゃんに同情と哀れみの視線を送りながら言う。
「苦労……してきたんだな」
「うん……苦労してきた……」
疲れ切ったような表情を見せる嬢ちゃん。
その表情にはそれはそれは、深い疲労の跡が見えた気がした。
きっと中二病と言う大きすぎる病をどうにか治療しようとしてきたんだろう。
しかしこればっかりは自然治癒を待つしかない。
俺?
俺の中二病はゲームとかに出てくる神様の事を調べてみたくらいで、変な言動をしたりはしてない。
というか現実で中二病こじらせてる奴見るのが初めてなくらいだ。
本当に恥ずかしげもなくやるんだな。
「とりあえず……あいつぶっ殺していい?」
「むしろ確実に殺して、そしてあのよく分からない状態になる前の傲慢に戻して……」
嬢ちゃんは懇願するように言った。
いや、こうならないように頑張ったのかもしれないが、本当にどうする事も出来なかったのか?
とりあえずぶっ殺して経験値にするのは最初から決まっていたことなので改めてぶっ殺しに行く。
もう1度はいると傲慢の悪魔は不満そうに言う。
「一体君たちは何のつもりだ。こちらの――あぶな!」
また痛々しいセリフを吐こうとしていたように感じたので、問答無用で俺達は攻撃を開始した。
とりあえず手始めに長距離攻撃で適当に攻撃したが、予想通り結界で守った。
「ふふ、我が実力を――って今度は上!?」
こいつが張っている結界はユウが使っているような特殊な物ではなく、普通の結界だ。
普通の結界は円柱型になっているため少し上に侵入すれば簡単に攻撃できる。
というかその辺の設定自分達で普通調整するだろ。
円柱型とは結界の基礎であり、上達していくにつれて好きに形を変える事が出来る。
それが出来ないのは中級魔法も使えない初心者くらいだ。
「全く。名乗りくらいは上げさせてほしい物だ!!」
そう言いながら傲慢の悪魔は空間魔法を使用する。
俺も実験でいろいろ使ったからよく知っているし、他のみんなもよく知っている。
だからその弱点はとっくの昔に解明済みだ。
「む。何故避けれる」
今傲慢の悪魔が使ったのは中級の空間魔法、『エアインパクト』。
一定空間に衝撃波を出すだけの空間魔法。
なんか凄そうに聞こえるかもしれないが、実際の所は風魔法の『エアーハンマー』と変わらない。
ちなみに『エアーハンマー』の方は強力な空気砲のような物で、エアインパクトの方が少し広範囲と言うだけ。
ぶっちゃけ空間魔法って上級以下は他の魔法とそんなに大きな違いがない物が結構多かったりする。
利点と言えば、他の属性系魔法と比べて属性によるダメージの軽減がないくらいか。
「想定通り見た目の派手さだけで攻撃してくるタイプだぞ。大技使ってくる可能性大だから、ある程度気を付けてな」
俺がそう言うと全員頷いた。
というかもうみんな気付いてるよな。
こいつ、絶対弱い。
「おい。何か俺に向かって何か言ったら――ぬお!?ちょっ!無言で攻撃するな!!全員好き勝手に攻撃しすぎだ!!こういう最後の敵と言うのは苦戦するのが当然で――」
「知るかボケ」
結界で身を守るか、避けるかしか知らないのかこいつの動きは非常に単調だ。
翼を広げて空中を飛び回りながら俺達の攻撃を回避できている事に関しては評価しよう。
しかしそればっかりで攻撃は全く大した事がない。
全て魔法による長距離攻撃なのだが、意外と空間魔法だけではなく様々な魔法を使っているが……全て下級から中級までの魔法なのはなんでだ?
確かにほぼすべての各属性の魔法を使えることに関しては珍しいと思う。
でも珍しいだけでうまくコンボを決めたり、はめ技を使ってこないのは不思議だ。
以前俺が戦った中で魔法に特化したプレイヤーがいた。
そいつは様々な魔法をその場その場で適切に選び、常に相手に有利に立ち続ける事が出来るようなプレイスタイルだった。
簡単に言えばわざと長期戦に持ち込み、相手が何が得意で何が不得意なのかを見極めてから多くの手札、つまり様々な属性の魔法から相手が不得意とする魔法ばっかり使って確実に勝とうとするプレイスタイル。
もちろんそんな事が出来るのは稀だし、俺とそいつの戦いでは途中でそいつが転移で逃げたために無効となったが、あんな器用なプレイヤーが実在できるのだと改めて認識したくらいだ。
しかし目の前にいる傲慢の悪魔は使える魔法をただ使っているだけで、コンボや相手を誘導するような技が一切ない。
例えばわかりやすいのが火と風の魔法を使ったコンボ。
火の威力を風でさらに効果を上げる王道のコンボ魔法だ。
そんなすぐに分かるコンボも一切使ってこない。
ただ火の魔法を放ち、俺達にぶつけようとしてくるだけだ。
こんなの戦闘でも何でもない。
ただのお遊びだ。
だから、殺そう。
「どうしたどうした!貴殿たちの――」
「死ね」
俺は全スキルを使って身体強化の他に付与魔法による強化を重ねて傲慢の結界を破壊。
その瞬間他のみんなの全力の攻撃が傲慢の悪魔を襲った。
「え、まだ何も――」
俺の耳に最後に聞こえてきたのはそんな声だった。
傲慢の悪魔は一切いいところはなく、俺達もこんなのがラスボスでいいのかと疑ってしまう。
「ねぇ。これで本当に終わりなの?」
「多分?聞いた話だとダンジョンを攻略するとダンジョン運営証明書が手に入るとかなんとか」
俺も実際にダンジョンを攻略したのは初めてなのでこれはよく知らない。
どうなんだろうと思っていると、何かが頭の上に落ちてきた。
非常に軽くて少しだけ大きい物。
手に取って確認してみるとそれは羊皮紙だった。
みんなも俺が持つ羊皮紙を覗き込むとそこにはこう書かれていた。
『初めてダンジョンを攻略したことを認めます。よってこのダンジョンを運営する権利を与えます』
そんな短い文の下には俺達の名前が書かれている。
書かれていないのは白猫の事だけ。
名前がないからか、それとも戦いに参加しなかったからなのかは分からないが書かれている様子がない。
「これでこのダンジョンは私達の家になったの?」
「多分……ってあれ?もう1枚ある」
羊皮紙はぴったりと重なってあり、もう1枚ある事に気が付いた。
そっちには『PS.ダンジョンの外に出る前にもう1つ階段下りて。そこで待ってるから』っという文章が続いていた。
いったいこれ以上何が待っているというのだろうか。
顔を見合わせた俺達はとりあえずダンジョンの外に出る魔法陣を見つけてから階段を下りた。
階段を下りるとそこには玄関のような扉があった。
しかも扉のすぐ隣にはインターフォンもあり、明らかにここだけ日本の家のようだ。
「この扉……何?」
「さぁ?でもここに居るなら呼べば分かるだろ」
「呼ぶってどうやって?」
「このボタンを押すんだよ。これが呼び鈴だ」
俺に聞いてくるユウに対して俺はボタンを押すと、ピンポーンっとよくある音が聞こえた。
そして奥から「は~い」っという声が聞こえ、扉を開けてくれた。
「ようやく来たわね。遅すぎない?」
扉を開けたのは普通の主婦をしているような、エプロンを付けた悪の女神だった。




