ラスボスまであとちょっと
「どうだった?」
扉が開いたことでユウが恐る恐ると言う感じで覗いてきた。
「もう終わった。次の所に行けるぞ」
みんなが部屋に入ってくると嬢ちゃんは驚いた表情を作った。
「本当に勝ったんだね……」
「そりゃ勝てるように頑張ったからな」
「憤怒は攻撃力が1番強かったんだよ。一撃でどんなものでも壊せちゃうくらい強かったのに……」
「あいつのはただの暴力、俺のは技術。本当に戦闘経験がもっとあれば俺の方が危なかっただろうな」
あいつの戦闘経験の吸収具合は異常と言えるほどに早かった。
一度死んだかと思えば足りない防御力を補ってきたり、武装してきたりと成長具合ではピカイチだろう。
それでも俺を相手にするには経験が少なすぎたとしか言いようがないが。
「とりあえず次行くぞ。どうせ次は嫉妬だろ」
「なんで分かるの!?」
適当に言うと嬢ちゃんは驚いたように聞く。
俺はこういうのってお約束だよな?っという雰囲気を出しながら言う。
「だって七つの大罪シリーズって大抵傲慢がラスボスじゃん。なら嫉妬が次の相手だろ。あと2つしかないし」
「そんなお約束みたいな感じで……」
「お約束だよな?」
多分だけど悪の目が見もその辺意識してると思う。
俺の偏見ではあるがあいつベタな悪役みたいなのが好きそうな気がするんだよね。
そんな話し合いをしながら階段を下り、扉があった。
「もう面倒だからドーン!!ジラント、ズメイ、サマエル。後は頼んだ」
「は~い」
「了解しました」
扉を蹴破った後、3人に思いっきりブレスをぶっ放してもらい、この階層を火の海にした。
「ちょっと!?いきなり何してるの!!」
「だってもう飽きたし、次は嫉妬の悪魔だろ?誰の姿をパクるのか知らないし、どうせパクる事が出来なかったら雑魚っぽいし、だったら弱い内に倒しておくのがいいだろ」
「でも試練……」
なんて言っている間にどこかで何かが開くような音がした。
とりあえず鎮火のため扉を閉じてしばらく待つと、まだサウナみたいに熱かったが移動したりするのに問題はない。
そして部屋の中心に階段が出現しており、ここから下に降りれると分かった。
「よし。そんじゃ次がラスボス部屋だな」
「嫉妬……本当にごめんね」
嬢ちゃんだけ何もできずに負けた嫉妬に向かって涙を浮かべる。
そんな嬢ちゃんを連れてさらに階段を降り、俺はみんなに言う。
「みんな。次が最後の階層のはずだから気合い入れていくぞ」
「もちろんです」
「分かってるって」
「了解しました」
「お任せください」
「頑張っていこー!」
レナ、ジラント、ネクスト、サマエル、ベレトが言う。
しかしユウと嬢ちゃんだけはこれでいいのかと視線を合わせ、ズメイは我関せずという感じで黙り込んでいる。
ちなみに猫は飽きた感じで顔を洗っていた。
そして階段を下り……下り……
「いや長いな!」
「ごめん……傲慢はこういうところあるから……」
流石に長すぎる階段を下りている間に俺はそう叫んだ。
多少長いのは構わないが、下り始めて体感30分は長い。
こんな長い階段そうないぞ。
「こういうところってどんな奴だよ」
「その、設定にこだわり過ぎてどんどん訳分かんなくなっちゃうというか、どう考えても非効率的なのにかっこよさ重視で設定盛り盛りにしちゃったりとか、よく分かんない言葉を勝手に作ったりとか……」
「よし分かった。そいつ中二病だな。殴って現実ってものを分からせてやる」
この長ったらしい階段の憂さ晴らしにとりあえず殴ろうと決めた俺。
そう思っているとユウが俺の服を引っ張りながら聞いてきた。
「ねぇ。最後の悪魔の前だけど、さっきみたいに適当に倒すの?」
「適当でいいだろ。このダンジョン叩き潰して俺達の家にするのは思いつきだし、ただ単に閉じ込められた腹いせでしかないし」
「そんな感じの理由だったの!?」
嬢ちゃんが驚いているが面倒だから突っ込まない。
「そんな理由でいいの……」
「いいんだよそんな理由で。おとなしく帰らせてくれれば元々こんな深くまでくる理由がなかったんだ。うまみの一切ないダンジョン。経験値はよくても長時間過ごすのには不利すぎる。食う物も飲む物もろくにないダンジョンなんて長時間潜れるわけないだろ」
「だからって……あんな適当に倒さなくても。特に嫉妬」
「嫉妬は多分面倒な事になると思ったからさっさとぶっ殺しておいただけだ。コロコロ俺達の誰かに変身されたら面倒なのは目に見えてる」
おそらくだが今の俺達にとって1番面倒な事になっていたと思われる相手は『嫉妬』だと思っていた。
その理由は俺達が強すぎるから。
ユウとネクスト以外はレベル90前後が平均であり、俺に至ってはレベルマックス。
例え俺に変身しなかったとしても、レナやジラントに変身してその能力を全開で使われたら苦戦していたかもしれない。
仮に俺に変身して『憤怒』のスキルでどんどん強化されていくようなことになったら、それこそ悪夢と言っていい。
おそらく『嫉妬』しか持っていない悪魔を倒すとすれば、最も弱い状態である変身前の内に殺しておくべきだと俺は考えていた。
だから俺は一切の容赦なくドラゴン組に全力で攻撃してもらった訳だ。
「だからってあれは酷すぎると思うけど……」
ユウに説明すると、理由は分かったが納得は出来ないという感じだ。
しかしそんなもん当然だとしか言いようがない。
「元々レベル差、スキルの強さと数、ステータスなどなど、最初っから差があって当然なんだから自分が確実に勝てるって状態で勝負を挑むのは当然なんだよ。いつも言ってるだろ?自分が得意な状況に持ち込めって」
「それは……確かにいつも言われてるけど……」
「とりあえずユウはレベルが上がったことで各スキルの効果も増してる。ステータスだってかなり上がったはずだ。そういうのを世の中では才能って呼ぶんだぞ」
「それはよく分かんないけど、才能だけでナナシに勝てる気は全然しないもん」
「だから今レベル上げって言う努力を積んできてるわけだろ。頑張ってさっさと追い越しちまいな」
「そんなことできる想像できないってば~」
そう言いながら頭の後ろで手を組むユウだが、嬢ちゃんの言葉を信じるのなら、将来的には俺を超えるステータスになるのは間違いない。
それに美徳シリーズの効果だって確かに上がっているはずなのだ。
分かりやすいのは『節制』。
レベルが上がると同時に効果も上がるこのスキルは、強欲の悪魔との戦いでその真の価値を表し始めたと言っていい。
俺の『暴食』とは真逆で使用する魔法の消費量を抑える事で、高火力の魔法を連発する事が出来るのだから脅威と言って間違いない。
他のスキルに関しては必ずしもレベルに左右されるわけではないが、それでもレベル差によるアドバンテージがなくなる事は非常に勝ちやすくなる。
そう考えると俺を追い越すというのは遠い未来ではないと思う。
どれだけ強くても俺は所詮人間。
獣人やドラゴン、天使やサキュバスにステータスで勝つことは出来ない。
今まで勝つ事が出来てきたのは大罪シリーズを持っていたからだ。
もし持っていなかったら、彼女らに会う事すらできなかっただろう。
なんて考えながら階段を降り続けると、ようやく扉が見えた。
扉の絵は……今までと全く違う。
ラスボス臭のするかっこいい扉、ではなく子供が描いた訳の分からない絵の扉だった。
何というか……自分の思うかっこいいをとにかく詰め込んだだけという感じ。
ごちゃごちゃしてて何を描いてあるのかさっぱり分からない……
「嬢ちゃん。このかっこ悪いのなんだ。他のゲームだったら手抜きって言われるぞ」
「えっと……この扉に関しては傲慢が好きに加工しちゃったから、その~……私にもよく分かんない」
嬢ちゃんが困り果てた様子で言うのでこれ以上聞くのは止めた。
何はともあれ、一応ラスボスなのだから強いのだろうなっと思いながら扉を開けると、そこには珍妙なポーズを取りながら俺達の事を待ち受けているベタな中二病デザインの男がいた。
「よくぞ我が配下――」
俺は勢いよく扉を閉めた。




