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ザ・デス

 さて、これでこの階層はクリアーできたと思うが……待っても次の階層に行ける階段が現れない。

 まさかと思っていると、紫の煙がつむじ風を起こしながら再び集まってきた。

 こういう連戦ってラスボス戦だけじゃないのかと思うが、まぁ戦えというのであれば仕方がない。


 再び現れた憤怒の悪魔はさっきとだいぶ違った。

 さっきのようなドラゴンもどきの姿ではなく、真っ赤な全身鎧に身を包んだ騎士風の姿だった。

 でもまぁ鎧にはドラゴンっぽいマークが付いてるし……ドラゴンモチーフは変わらないのか?

 その目には確かに理性があり、先ほどのようにただ暴れるだけではない事は想像に難しくない。


 これでさっきみたいにただ暴れるだけだったら残念だなっと思っていると、悪魔は俺俺に向かって胴を斬る様に剣を振るった。

 その剣を極夜で防いでみるが、パワーに関しては特に変化なし。スピードに関しても特に変化はないな。

 何が変わったのか確かめるために距離を置くため、悪魔の腹をヤクザキックで無理やり後ろに下げさせる。


 それで変化が分かった。

 さっきより防御力が高い。

 鎧になっているんだから当然と言えば当然なのかもしれないが、それでも悪魔が武装するというのは結構珍しい。


 悪魔は物理攻撃が効かない。

 オーラや覇気を纏えば触れたりダメージを与える事が出来るのは既に話したが、武装という面で見ると基本的に攻撃力を上げる武器の装備ばかりで防具を身に付ける事はない。

 何せ攻略法を知っていない奴の方が多いから防具を強化する必要はないのだから。

 ただの物理攻撃が一切聞かないのに物理防御を上げる事は無駄だからだ。

 だから普通の悪魔も防御ではなく攻撃力を重視する。

 悪魔同士の殺し合いでもどちらが先に殺せるか、パワーだけではなくスピードも重視している印象を受ける。


 だから剣や槍と言った武器を手にすることはあっても、鎧や盾と言った防具を身に付ける悪魔は本当に珍しい。

 防御を上げると言ったら基本的に魔法による補助、付与魔法であることが多いし、装備で強くなるのは滅多にないな。


 蹴られた悪魔は腹を撫でながら感触を確認し、効果があったことを実感すると意外と綺麗な剣筋で攻撃してきた。

 さっきの力任せの攻撃ではなく流れるような連続攻撃。

 横、切り上げ、切り下げなどなど、思っていたよりも滑らかな動きで攻撃してくるのは本当に意外だ。

 だがどの攻撃も素直すぎる。

 いわゆるフェイントがないので避けようと思えば簡単に避ける事が出来てしまう。

 実戦経験のなさが問題なのであまり強くなったようには感じないが。


 俺は悪魔の剣を極夜で防ぎ、あとは蹴りを中心に攻撃する。

 この辺は素人特有の癖と言うか、勘違いと言うべきか。


 どんな素人でも思いつくのが武装すれば強くなるという勘違い。

 例えば悪魔の様に剣を持って振るえば強くなる、銃を持って引き金を引けば強くなったように感じる。

 しかしそう考えてしまうと武器を使う事ばかり思考が行ってしまい、普段ならもっと多くの攻撃手段があるのに武器を使うことばかり考えてしまう。

 武器を持っていない状態なら殴る、蹴る、掴む、引っかく、噛みつくなど様々な攻撃方法が思いつくだろう。


 しかし武器を持った人間はそうじゃない。

 確かに銃で長距離から狙えば何も持っていない人間なんて簡単に殺せるだろう。

 相手を斬って命を絶つ事が出来る武器があれば使うのは当然だ。

 でもそれだけで殺せるのは素人同士の場合のみ。

 つまり同じレベル同士でないとそう簡単に殺すことは出来ないのだ。


 だからプロや普段から武器に触れている者達からすれば、あくまでも手段の1つでしかない。

 確かに人を殺すことは出来るが、そればかりにこだわってしまえば武器でしか攻撃してこないとばれてしまう。

 それなら単純に考えて、武器を防ぐ事が出来れば傷付けられることはない。


 これが素人と普段から戦いを想定している者の差。


 確かに武器は人間の力だけでは足りないところを補ってくれるが、所詮は道具。

 使いこなせるかどうかが重要となる。

 そして武器だけに頼らない事だ。


 だからまぁ……この悪魔は素人だ。


 極夜で防いだ後ローキックを繰り出して体勢を崩し、そこで強く押して極夜の威力を十分に発揮させる事が出来る距離が出来たら極夜を振るう。

 悪魔も極夜を剣で防いで攻撃しようとするが、剣だけで攻撃してくるのは既に想定済み。

 剣の動きだけを見ていれば自然と答えが出てくる。

 武器を手に取りさっきのようながむしゃらな動きだけでなくなったことは評価するが、やはり圧倒的に戦闘経験が少ない。


 悪魔は大きく振り下ろし、床が割れるほどの勢いだったが当たらなければどうってことない。

 俺は姿勢を低くし、極夜を握ったまま両手両足を付け、勢いよく飛び出した。

 低い体勢のまま獣のように動くのは結構疲れるが、相手に動きを読まれにくいし攻撃されにくい。


 そして狙うのは当然足首。

 どんな生物でも地面の上に立っている以上必要なパーツ。

 そして避けたり防いでいる間に鎧の構造は人間の物とそう変わらない事も分かっている。

 つまり関節部分には必ずつなぎ目がある。


 俺はそこを狙って極夜を横に振った。

 すれ違いながら斬った足は、鎧のつなぎ目を綺麗に通って両足を両断した。

 それにより悪魔は一瞬崩れたがやはり肉体がないからだろうか、もうすでに鎧だけ修復されている。

 だが動く事が出来ないその数秒が死につながる。


 鎧のつなぎ目を狙って金属同士のぶつかる音も聞こえないほど鋭く、風を切る音もしない。

 まるで撫でただけのように感じるほどあっさりとした手ごたえ。

 やはり悪魔と生物では斬った感触が少し違う。


 そして足首の次は両腕をV字を書くように両肩を切断。

 少し違うがだるま落としとそう変わらない。

 確実に殺すために相手を動けなくしてから殺す。それだけだ。


 最後に首を斬り落とそうと極嫌を振るうと、意外な感触が手に伝わった。

 悪魔は俺の事を血走った目で見ながら極夜を噛んで防いでいた。


 そして斬られた足がある程度修復できたのか、俺に蹴りを放った。

 流石に今回のは対応不可能だ。

 初めて腹を蹴られた俺はそのまま壁まで激突し、その衝撃を全て壁に流す。


 この防御方法は覇気で守られているからこそできる緊急時の防御方法だ。

 オーラ越しに与えられた衝撃を覇気を使って操作、肉体に伝わる前に衝撃が覇気だけを通して外に逃がす。

 結構精密なコントロールが必要な防御方法だが、長い経験でどうにかできる。


 悪魔は口の端を軽く切っていたが、気にした様子もなく変身前の凶暴な表情を再び俺に見せながら、修復した腕で俺に斬りかかってきた。

 また上段からの振り下ろしかと思ったら、俺の胴辺りで動きを止め、そこから突き刺しに来る。

 意外な成長に極夜ではじいたが、今度は弾かれた反動を利用して回転しながら俺の身体を浅く斬った。


 どうやら俺と戦う事で戦闘経験を補おうとしているらしい。

 悪くない。悪くないが……遅すぎた。

 俺の動きを模倣して対策を取るだけでは十分とは言えない。

 俺には恐れ以上の戦闘経験があり、たった数分で覚えきるだけの薄っぺらい時間を過ごしたつもりもない。


 俺はこの狭い空間で魔法で攻撃する。

 本来であれば魔法は広い空間で使用しないと自身も巻き込んでしまうため普通は使おうとはしない。

 しかも俺の場合ほとんどが強力な広範囲攻撃なのでさらに危険が高まる。

 と言ってもそれは普段の場合だ。

 俺の場合は禁書でショートカットしているのだが、その中に相手を確実に倒すための魔法だっていくつかある。


「付与魔法『ザ・デス』」


 それは禁書の中でも近接戦、そして呪いに特化した付与魔法だ。

 極夜は付与魔法の効果で纏った覇気が鎌のように変化する。

 光を飲み込むような漆黒ではなく、どこか汚いすすで汚れてしまったような黒い鎌。

 悪魔も異様な気配を感じたのかさらに警戒心を高める。


 この付与魔法『ザ・デス』の効果は相手を即死させる最強の魔法の1つだ。

 と言ってもその条件は厳しく、この鎌を相手の首を斬り落とすよう水平に動かさなければならない。

 更に他の攻撃、腕や足を斬ったとしても相手にダメージを与える事が出来ないという大きすぎるデメリット。

 でも言い方を変えれば首を捕らえれば確実に勝ちと言う訳だ。

 そして俺は確実に首を狩る事が出来ると自信を持って言える。


 異様な雰囲気を感じたからか、悪魔の方が先に動いた。

 今までよりも高速で、かつ大きな力を感じさせながら上から下へ大きく振り下ろす。

 俺も確実に首に当てるため、ギリギリのところで前に出た。

 悪魔の腕が完全に振り下ろされる前に俺は飛び出し、すれ違いながら鎌を首に通した。


 そして数秒後、斬られた悪魔は完全に紫の煙になった。

 カチッと鍵が開くような音がしたと思うと床から階段が現れ、そして俺が入ってきた扉も開いた。

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