強欲の階層
怠惰の階層を攻略して下りていく俺達。
嬢ちゃんだけは後ろをちらちら見ながら、申し訳なさそうな表情をする。
「あの、本当にあんな攻略でいいの?」
「別にいいだろ。怠惰なら効率的に動いて楽しても問題ないだろ」
「でもあれじゃ……何というか……顔も見てないよ?」
「別に顔を合わせる必要もないだろ。こっちだって無理矢理閉じ込められてるんだからこんなもんでいいだろ。それより次の階層は?」
俺が当然のように聞くと、嬢ちゃんはため息をついてから答えた。
「次は強欲の階層だよ」
「強欲か……そこくらいは真っ当に欲を刺激する作りになってるんだろうな」
強欲と言えば最も欲を象徴していると言っていいと思う。
なにせ全てを欲しがる欲だ。
これで欲を刺激されない方がおかしいと思う。
少し期待しながら次の階層に入ると、そこは目が痛くなるような階層だった。
見渡す限り金貨の海。
空からもゆっくりと金貨が雨のように落ちてきて、頭に当たっても痛くない。
そんな光景が永遠と続いている。
「これはまた悪趣味な」
「ここもダメなの~?」
「まぁ金貨ってのはある意味わかりやすい欲を刺激する方法だが、俺としては金貨を見てもな。でもドラゴン組は食いついてるぞ」
ジラントとズメイがこの光景に目を輝かせている。
ドラゴンは本当に光り物が好きだな……
「ナナシ!これ全部奪っていいんだよね!ね!!」
「お前ら理性ぶっ飛びすぎ。それに触って確認してみろよ、これ純金じゃねぇぞ」
俺は落ちている金貨を1枚拾って重さを確かめてみるが、どうも重さが違う気がする。
多分これ10金じゃないか?
10金とは簡単に言うと最も純度の低い金、1位盤純度が高いのは24金だ。
何故他の金属を混ぜるのかというと、単純に使いやすいよう金に混ぜているというのが理由。
俺の言葉に目が覚めたジラントとズメイは慌てて金貨を持つと肩を落とした。
「本当だ。これ純金じゃない……」
「儚い夢でしたね……」
本気で落ち込んでいる2人。
そんな2人を見て喜んでいるのは嬢ちゃんだ。
「これってうまくいってるって事だよね!?」
「まぁ分かりやすいからな。人間社会で金は分かりやすい、最もありふれていて重要な物だからな」
「なにそれ?」
俺の言葉に反応したのはユウだ。
これはあくまでも俺の考えだが、一応言っておくか。
「金は世界中に存在する。それこそ世界共通の通貨だったり、その国特有の金だったりする。種類や呼び方は違ったとしても金である事は変わらない」
「そうだね」
「そんなありふれた物がいろんな連中の命を握ってる。飯を買うため、家を買うため、薬を買うためって感じで様々な物に変える事が出来る。だから人間は少しでも多くの金を手に入れようと必死になるんだよ」
だから金は面白い。
金があれば何でも買えるというが、あれは嘘じゃない。
飲食店に行けば獲物を狩るなく食い物を食う事が出来る。
家を買えば雨風をしのぐ事が出来る。
病院に行って治療すれば命をつなぐ事が出来る。
他にも色々使い方はあるが分かりやすいのはこの辺りだろう。
それに金があるというだけで権力を得る事もあるのだから金とは素晴らしい物だ。
「へ~。それは面白いね」
「だから金かっていう分かりやすい物を使うのは分かるが……どうせならもっと分かりやすくこれもトラップに組み込めばいいのに」
俺は足元の金貨をすくってから落とす。
ジャラジャラと重たい音がするが、空から落ちてくる金貨は全然重さを感じない。
どうやら地面に落ちた物は質量を持つみたいだが、空中では幻とあまり変わらないのかもしれない。
とにかく辺り一帯金ぴかで目が痛いからできるだけ早く攻略するとしよう。
これが本物の純金だったら俺も興味を持ったが、ほとんどパチモンと変わらない合金なら俺はいらない。
にしてもこれまた相手を見つけるのが大変そうな階層だ。
偽物だと分かっていてもジラントとズメイは金貨に目移りしそうだし、さっきと同じようなことは出来ない。
「嬢ちゃん。強欲の悪魔ってどんな姿なんだ」
「えっとね……あそこにいるよ」
「ん?あそこ?」
嬢ちゃんが少し探して指さした先は空中だった。
じっと見ると奇妙なカラスがいた。
見た目に関しては頭が2つもあるカラス。
「もしかしてあれか?」
「あれだよ」
「なんか……襲ってくる雰囲気めっちゃあるな」
「だってここ強欲の巣だもん」
「納得」
誰だって自分の家に不法侵入されれば気に食わないわな。
まっすぐ飛んできて俺達をくちばしで攻撃しようとしてきた。
もちろん分かり切った攻撃だったので避け、強欲の悪魔は金貨の山に頭を突っ込んだ。
すぐに強欲の悪魔は頭を上げ、その視線の先にはジラントとズメイがいた。
「あれ?もしかして私達狙われてる?」
「そのようですね」
「多分お前らが金貨に1番興味を示したから優先的に狙ってるんじゃね?」
不法侵入したうえに金貨を奪おうとしたのだ。
怒って当然だ。
「それじゃ私達が倒してもいいの?」
「いんじゃない?」
別に誰が倒しても問題ないだろ。
そう思い軽く言うと嬢ちゃんが俺にムッとした視線を向ける。
一応試練なんだっけ?
忘れがちだが一応俺への試練らしいが、みんなで入れたんだからみんなで攻略して何が悪い。
まぁ俺も少しは手伝ってやろうかと極夜に手を置こうとしたら、無かった。
ずっと腰に差していたのに突然なくなるはずがない。
となると……やっぱりか。
俺の極夜は強欲の悪魔によって奪われていた。
片方のカラスの頭が極夜を咥えており、それを使ってジラント達に攻撃しようとしていた。
「おいてめぇ。ぶっ殺すぞ」
そう言ってから俺は極夜を咥えたカラスの頭を思いっきりぶん殴った。
殴られた頭は衝撃に耐えきれず引きちぎれる。
極夜は衝撃で離れたので極夜の元へ転移。
もう片方の頭が口から魔力放出を使おうとしているが、リルが下あごを蹴り上げたことにより口の中で暴発した。
後は重力に従って下りると、俺が殴って引き散ったはずの頭がすでに修復し終えていた。
肉体がないからこそできる高速再生と言ったところか。
いや、肉体がないから再生とは言わないのか?
「やっぱり無駄にデカいだけで木偶の坊だな。これユウに任せても勝てるんじゃね?」
「確かに。今回戦ってはっきりと分かりました。悪魔達は自分達の名前の元になっているスキルしか所有していないようです」
やはり俺の予想は当たっていた。
別にスキルの数が強さの証明というつもりはないが、手数は多い方がいいと思っている。
悪魔達のレベルは知らないがどうとでもなるだろ。
「ユウ!この雑魚お前倒してみな!」
「え!私1人で!?」
ユウが結界で身を守っているときに言うと随分驚かれた。
「元々ユウとネクストのレベリングのために来たんだ。倒せばかなり経験値入ると思うぞ。ネクストもやってみな」
「承知しました」
「え、ネクスト本気なの!?」
「マスターが勝てると言ったのですから勝算はあると思われます。何よりスキルが1種類、『強欲』だけだと分かっているのなら対策はあります」
「それ本当?私達が持ってる装備全部奪われちゃう可能性もあるんでしょ?」
「問題ありません。対策は十分にとる事が出来ます」
ユウとネクストが相談しながら傲慢の悪魔をどう倒すのか相談し始めた。
なら俺達は軽く遊びながらユウとネクストの作戦が完成するまで少し時間稼ぎをしておくか。




