俺達の知る悪魔
「何というか……中途半端な強さだったな」
俺達はマンホールの穴から繋がっている階段を下りながら『暴食』の悪魔を相手にした感想を言った。
確かの『暴食』のスキルは強い。
だがそれだけだ。
結局一方的に倒す事が出来たし、悪魔と言うのであればもう少し強くてもいいと思う。
このまんまだと本当に経験値以外何の価値もないダンジョンになるだろう。
「いや、普通の人から見たら『暴食』を持っているだけでもすごく大変だと思うけど……」
「あの程度俺じゃなくても勝てたっての。多分ユウでも勝てるぞ」
「あぐ、ふぐ」
俺の言葉に傷付いている嬢ちゃん。
ダンジョンの運営という点から見て本当にここは最低だろう。
手に入る報酬はなく、経験値だけを稼ぐのであれば他の魔物を相手にした方がメリットが大きい。
七つの大罪をコンセプトにするのは別に構わないが、トラップなどが中途半端。
あれか?神様ってのは何かを創ったり発展させるのが不得意なのか?
「うぅ……そんなに下手ですか……」
「下手糞にもほどがある。これなら小学生が考えた最強のダンジョンの方がよっぽどマシだわ」
絶対パワーバランス崩壊してて誰も来ないだろうけど。
「な、なにがそんなにいけないんでしょう?」
半泣きで本気で聞いてくるので俺は呆れながらどこか休憩できるところはないか聞いてみる。
「嬢ちゃん。この階段の所って誰かに聞かれたりしてるか」
「え、ええっと……女神様ならできるかも?」
「ダンジョン運営している悪魔達に聞こえてないならいいかな。ちょっと休憩するスペース作ってくれ。今日は休むとしよう」
「わ、分かりました」
嬢ちゃんはそう言って階段の一部を『色欲』で変化させて、俺達全員が余裕でゴロゴロできるだけの広さにしてくれた。
そこで俺達はキャンプの準備をし、飯を用意しながら嬢ちゃんに言う。
「嬢ちゃん。ダンジョンを運営するなら相手の欲を刺激しないといけない。つまりダンジョンに来るだけのメリットがないといけないって事だ」
「欲を刺激する?メリット?」
「俺達生物は飯を食う。だから嬢ちゃんがやってたトラップみたいに食べ物に毒を混ぜるのは良い手だが、それまでが長すぎるんだよ。上の雑魚悪魔達の所にも食べ物を支給するくらいの配慮はしてやれ」
「支給ってただ渡せばいいんですか?」
「そんなわけあるか。警戒心の強い人間がそう簡単に落ちてるもん食うわけないだろ。嬢ちゃんがやっていた時みたいに食べれる動物を放っておけばいいんだよ」
「……そんな事でいいんですか?」
「そんなことが重要なんだよ。人間は食べないと生きていけない。だから食料が手に入らないダンジョンってだけで人は自然と減るんだよ」
この辺は他のダンジョンも同じだ。
食料が手に入らないゴーレムのダンジョンなどは上層でゴーレムを狩ってばかりで、なかなか下層には入ろうとはしなかった。
だがネタダンジョンの1つと言われる肉ダンジョンと言われるダンジョンはかなり人気だ。
その理由の1つが現地で食料を補給できる安心感。
つまり長時間ダンジョン内にとどまらせる事が出来るダンジョンが安定した客の出入りが行う事が出来る。
「食べ物……暴食の所にあった感じですか?」
「あんなもんは下の下だ。お前ら本物の食材食べたことないだろ」
「ないです。本来必要のない物なので」
「だったらまずは俺達生物がどんなものが必要で、どんなものを目当てにダンジョンに集まるのか研究しろ。本当に基礎の基礎からたたきこむ必要があるな。とりあえず食ってみろ」
俺はそう言いながら嬢ちゃんに簡単なスープを渡した。
野菜とベーコンを入れただけの本当に簡単なスープ、味付けは塩コショウだけで整えただけだ。
それをおずおずと受け取った嬢ちゃんは恐る恐る口にする。
「…………温かい」
「味はどうだ」
「…………初めて食べたからよく分かんない」
「初めてって本当に食うって行為そのものが初めてなんだな」
「うん。本当に……初めて。これが、人間の。生物の欲望……」
嬢ちゃんはちびちびとスープを飲みながら味わっている。
そして俺達はそんな嬢ちゃんを眺めながら普通に食事をとる。
「悪魔とは私達が想像していたよりも大幅に違う点が多いですね」
「だよね~。悪魔ってもっとこう、うちの長老達みたいな連中だと思ってた」
「何でも知恵袋で解決できると思っている方々ですね。しかし長い時間を生きているとやはり自然とそうなってしまうのではないでしょうか」
「まぁそればっかりはね~。結局誰かに何かを話すっていうときは自分の成功談や失敗談を元にするから、どうしても経験談になっちゃうから」
「私にはマスターやみなさんのようにイメージがはっきりとしていないのでよく分からないのですが、こういうものではないのですか?」
「私は教会で悪魔は人間を惑わす邪悪な存在として言われてたから本当に意外」
「まぁここまで外の世界を知らない悪魔はそういないわよね~」
レナ、ジラント、ズメイ、サマエル、ネクスト、ユウ、ベレトが言う。
俺もまぁ悪魔がこんな何も知らない赤ん坊のような存在だとは思わなかった。
と言っても基本的に知っているのは上層の雑魚悪魔達ばっかりだったし、こうして話をするのは初めてだが聞いていた情報とはかなり違う。
「俺もかなり意外だ。魔法の中には召喚系の魔法もあるから、欲しい素材がどうしても悪魔を経由してしか手に入らない物だったからその時に悪魔と会ったが、さすがにここまで子供っぽくなかったぞ」
「悪魔に会うと言ったら普通はそっちね。でも召喚系の悪魔とお嬢ちゃん、かなり違うわよ」
「だよなだよな。あっちの方が悪魔としてのイメージ通りというか、ぶっちゃけ嬢ちゃん達よりも強いよな」
悪魔。
改めて言うと悪魔と一括りで言ったも実は2種類の出会う方法がある。
1つはこのダンジョン、黄泉の道に行く事。
2つ目は召喚魔法で悪魔を召喚する方法だ。
ぶっちゃけほとんどのプレイヤーが会う悪魔は2つ目の方法で出会う事の方が多い。
何せ召喚魔法で召喚するだけなので、ちょっと魔方陣を描いて十分な報酬を用意すれば問題ない。
十分な報酬と言うのはいわゆる対価だ。
悪魔は人間と契約して力や知識を貸してくれるという話は有名かもしれないが、召喚魔法で呼び出す悪魔は基本的にそれ。
悪魔を召喚して対価を支払う代わりに何かをしてもらう、みたいなイメージでいい。
と言っても悪魔に他の願いと対価が釣り合わない場合はプレイヤーから何かを奪う事も多いので注意が必要だ。
その代わり十分な報酬、またはそれ以上の価値のあるものを用意すれば悪魔は素直に召喚者に従って言う事を聞いてくれる。
ぶっちゃけ俺にとっては対価を用意する事が出来れば何でもやってくれる便利な何でも屋さんみたいな感じで気軽に頼んでいた。
基本的には物々交換ではあるが、金貨の支払いでも一応行う事が出来る。
と言っても悪魔にとって金貨はただの金でしかなく、悪魔達にとって価値は低い。
その代わり大喜びされるのは器だ。
器とは現実世界で実態を保つために必要な偽りの肉体だ。
低級の悪魔だったら人間の死体などでもいいし、手作りした人形でもよかったりする。
ただし上級の悪魔を呼び出した場合は高性能な人形、言ってしまえばホムンクルスなどが喜ばれる。
肉体を得た後は何をするか知らないが、悪魔も弾には人間の世界で何かしたい事があるみたいだ。
悪魔は何度も言うが肉体を持たない。
そのため物理的な物を用意したりするにはどうしても物理的な干渉が出来るようにならなければならない。
それを手っ取り早く行う方法が肉体、器を用意する事だ。
「嬢ちゃん達は召喚して呼び出された悪魔達とはなんか違うんだよな……何だろこの違い」
「う~ん。それに関してだけど、あっちはおそらく天使とそう変わらない感じだと思うわよ」
「どういうことだベレト」
「おそらく召喚に応じる悪魔達はお嬢ちゃんが言っていた女神様の手下、つまり立場的には天使とそう変わらないと思うの。神様に使える存在としてね」
「……確かに」
「私が嫌い嫌い言っていたのも多分こっちね。でもお嬢ちゃん達はずっとこのダンジョンの中にいたから……」
「世間知らずの箱入り娘ってか?まぁ仕事でこもってたから外の事を知らなかったって完全にブラック企業じゃん」
何やってんだよ、あの悪の女神。
悪党は体が資本だからしっかり休めるようにしないといけないってなんかのアニメで言ってた気がする。
何というかよく似ているのは気のせいじゃなかったようだ。
まだ出会ったばかりの頃のユウと似ている気がしたのだ。
外の事を知らず、飯の美味い不味いも知らない。
そんな様子がなんとなくユウと重なったのだろう。
時々見た目と合わない言葉使いもしていたが、その辺も余計にそう感じさせたのかもしれない。
「とりあえず俺達が知ってる悪魔とはかなり違うって事だけは分かった。ダンジョンの運営に関してはこっちでアドバイスしておくか」
「え、本当に手伝うの?」
ユウが意外そうに言ったが俺は本気だ。
何せダンジョンを手に入れるというのは結構大きなメリットが存在する。
「ま、今のところはだけどな。嬢ちゃんもアドバイザーとして俺に居てほしいか」
「うん!このダンジョンに人間がよく来るようにしてくれるなら手伝って!!」
「という事だ。俺はこのダンジョンを改良する。まぁまずは地上に出れるようにするところからだけど」
俺がそう言うと全員頷いてくれた。
さて、明日も下の階層に向かうとするか。




