色欲の悪魔
「ひくっ……えぐ……殺さないでぇ~」
ベレトが捕まえたヤギの頭蓋骨をかぶった甘ロリ悪魔?は半泣き状態で俺達の前で正座されている。
今はすっかり正気に戻ったレナ達もじーっと見るが悪魔というには随分と人間臭い。
「なぁベレト。悪魔ってこんなんのもいるのか?」
「私は会ったことないわね。というかお嬢ちゃん名前は?」
「……名前、無い。担当は『色欲』」
担当が色欲?
さっぱり分からない俺達を前に嬢ちゃんは泣きながら愚痴をこぼす。
「何で……外の生物はもっと弱いんじゃないの……やっぱり『傲慢』の言葉なんて信用できないよ。他のみんなも私の事で実験台にする気満々だったし、神様もぜんぜん助けてくれないし……そもそもダンジョン運営とか全くうまくいってないじゃん。もう数百年もダンジョンに来ないし、いい加減引き籠るのも疲れたよ……」
詳しくは分からないが泣きながら色々言っている。
流石に全ては分からないが……つけこんでみるか。
「なぁ嬢ちゃん。俺達はこのダンジョンの外に出たいんだけどさ、嬢ちゃんも一緒に行くか?」
「ぐす。それは無理」
「何で?ここから出たいんだろ」
「出たいけど……神様との約束があるから出ちゃダメなの。それに『傲慢』がそんなこと許さないだろうし」
「ならそいつをぶっ飛ばしちまおう。だから帰り道教えてくれねぇか」
「……本当に外に出してくれる?」
「帰るついでだ。そのぐらい構わないぞ」
俺がそういうと嬢ちゃんは近くの草むらに行くと、地面を持ち上げた。
スキルを使った操作などではなく、ただ地面に擬態させた潜水艦の蓋のような物だ。
「……こっち。あと6つの階層を下りれば帰れるよ」
「それじゃ行くか」
レナ達と共に穴を潜ると今までとは違う立派な階段が存在した。
今までの階段はただの土を固めたような物だったが、ここにある白い柱と階段はどこかの神殿のような神々しさのような物を感じる。
その階段を下りながら俺は嬢ちゃんに聞く。
「他の階層はどんな感じなんだ」
「神様に言われた通り私の所を含めて7つの階層を創ったの。『色欲』『暴食』『強欲』『怠惰』『憤怒』『嫉妬』『傲慢』の7つを最低創るのが神様からのお仕事だったから。でも神様はそれだけじゃつまらないから人間達がよく来るダンジョンを作るように私達に言ったんだけど……上手くいかなくって……」
「人間は全く来てないな」
「うん。神様が私達に貸してくれた偽物の悪魔を作る装置も本当は凄いらしいんだけど、全然うまく使えてないから……」
「それってまさかあの上層の悪魔か?」
「そうだよ。紫色の霧を出して簡易悪魔を製造するの。学習能力もあるからいろんな人間が来て戦えば戦うほど学習して強くなっていくはずなんだけど……」
「戦う奴がいないから弱いままと」
「うん。だからレベルだけ高いけど弱いの」
色々納得。
それにしても本当にダンジョンの経営とかやってたのか。
攻略側にメリットがないというか、こんなんじゃ人が来るわけないだろ。
もう少し人間の事を学ぶべきだったな。
「って簡易悪魔の製造って事はあいつら本当は悪魔じゃない?」
「うん。本物の悪魔は私達7体だけだよ」
そうなると昔ベレトが言っていた悪魔って残りの6体のどれかって事か。
「ベレト。そいつの特徴は」
「男と言われれば男っぽいし、女と言われれば納得もできるし……ものすごく中性的な顔だから見た目じゃ性別が変わらなかった。体付きも筋肉はあるけど鍛えているって程じゃないし、軽く運動してるくらいの見た目だったかな」
「もうちょっとわかりやすい特徴はないの?」
「カラスみたいな翼が6枚あった」
「それ多分『傲慢』だよ。カラスの翼を持った悪魔は1体しかいないから」
嬢ちゃんから肯定されたな。
そうか、ベレトが嫌いって言ってた悪魔は『傲慢』なんだ。
「というかなんで七つの大罪を元にしたダンジョン製作してるの。神様の趣味?」
「その通りだよ。こういうのは分かりやすい方がいいからって」
「分かりやすさは確かに必要かもしれないが……あれ?さっきの所は『色欲』に関する階層って事でいいんだよな?『色欲』要素どこ行った」
「えっと……私が創ったヤギのお肉食べたお姉ちゃんたちがエッチな気持ちになったでしょ。あれが『色欲』のつもりだったんだけど……」
「アウト」
「え!?」
「それ俺1人で入ったら完全に意味ないじゃん。女の子と一緒に入る事が前提って結構運要素高い。だったら普通にあのヤギ悪魔?みたいなのにエロい意味で襲わせるとかの方が分かりやすくない?」
「え!!そ、それは無理!!」
「何で?」
「だって……分かんないから……」
おい。誰だこんなエロ知識ないのに嬢ちゃんを『色欲』担当にした神様。
嬢ちゃん顔真っ赤にして絶対エロいこと少ししか知らないぞ。
多分セッ〇スがエロい事だとは分かっていても実行できないウブと、それしか知識がありませんって感じの雰囲気がめっちゃ出てくるんだけど。
というかもしかしたら程度に予想はあるけどさ。
このダンジョン創れって言った神様。
「少しよろしいでしょうか」
レナが嬢ちゃんに対して真剣な表情をしながら聞いてくる。
「は、はい……何でしょう……」
嬢ちゃんは緊張し、怖がりながらも返事をする。
「ナナシ様には何故効果がなかったのでしょうか」
「それは、あのお肉の事ですか」
「はい。あのヤギの肉を食べたのはベレト以外の全員であるのにナナシ様にだけ効果が現れませんでした。あれは何故でしょう」
「それはナナシさんが『色欲』のスキルを持っているからです。あくまでも『色欲』のスキルがない人間を狙ってのトラップのつもりでしたから」
「ではナナシ様に合わせてあの媚薬を調薬することは出来ますか」
「レナ!?」
急にレナが欲望全開の事を聞いてきた!!
それに関してはジラント、サマエル、ベレトの耳もピクリと反応する。
「そ、そうだね。少し時間はかかるけど、作れなくはない、かも」
「では制作をお願いします」
「なぁレナ。そういうのって俺がいない時に話すもんじゃないの?それからなんかそっち方面で不満もたせるようなことしたっけ」
「いえ、そういった事はありません。ただしばらくダンジョン攻略でしていなかったので、そういったものを使用して盛り上がるのもよいかと。それにあのヤギ肉を食べた時、あ、子供出来るかもしれないっという勘も働いたので」
「戦闘系の俺達が子供作ったらしばらく戦えないからな!それに個人的にポラリスの連中をどうにかした後じゃないと心配して子供作れねぇよ!!」
「旦那様、その時は私も一緒に本気の子づくりしたいで~す」
「主様……私も、その……」
「あ~その時が来たら大人しく1人の男として家庭を第一に考えるからもうちょい待ってろ」
俺がそういうとユウとネクスト以外の女性陣はハイタッチで喜びを表現する。
全く。俺だって子供が欲しくない訳じゃないんだ。
ただタイミングがな。
「……モテモテだね」
「まぁあいつらは基本的に自分より強い男が好きだから。俺は俺でまんざらでもないし」
全員美少女で俺の事を好きだと言ってくれる。
俺が大罪人である事を知っていながらだ。
普通なら罪人、人を殺した事のある奴を避けるのが当然だ。
なのにあいつらは好きだからの一言で付いてきてくれているのだから手放したくない。
どちらかというとそういう独占欲の方が強いかもしれないが。
『……少しだけ真面目な話をします』
ふと嬢ちゃんが魔法を使って俺に話しかけてきた。
嬢ちゃんの声はさっきまでの子供っぽい声ではなく、落ち着いた女性のような声色だった。
『あなたの思考を少し魔法で読ませていただきました。あなたの予想通りこのダンジョンは悪の女神さまが創るよう指示された場所です。そしてその目的はあなた、ナナシ様の称号を強化するためです』
称号の強化?
ゲームでは経験のない強化内容だ。
『ナナシ様の持つ『大罪を背負う者』『悪神の代行者』の強化が目的です。これにより大罪スキルの使用効率がより上昇します。言い方を変えるとアップデートと言った方が伝わりやすいでしょうか。偽りの善の神、つまり光の神がまた妙な強化をしようと企んでいるようですのでその対策です』
称号のアップデートね~。
でも効果や使用方法は変わらないんだろ?
『その辺りに変化はありません。ですが大罪スキルをより効率的に使えるようになればそれだけ戦略も増えます。光の神は信仰心を強化する事で自身の強化を目論んでいるようですが、それはナナシ様の暴れっぷりでかなり邪魔する事が出来ています。これには女神さまも笑い転げていました』
喜ぶんじゃなくて笑い転げてたのかよ。
『女神様なりの最上級の喜びだと考えてください。あの方は善の神以外で笑う事は滅多にありませんから。それからもう1つ大切なお話があります』
なんだよ。
『「決して勇者を奪われるな」。女神さまからの伝言です。それからこの先は出来る限りナナシ様ご自身の手で切り抜けてください。これはナナシ様への試練ですから』
試練ね……
ま、さらに強くなる事が出来るのなら何でもやってやる。
『ちなみに私の試練は「仲間からの誘惑に耐えること」、ですので合格しています。あと6つの試練を乗り越えられるようお祈りしております』
はいはい。
死なないように頑張りますよ。
「あの扉の先が次の階層だよ」
嬢ちゃんは魔法を解いてさっきまでの雰囲気を消し飛ばしてまた子供っぽい口調で言った。
それにしても俺の周りは見た目と年齢が一致してない奴多すぎないか?
なんて思いながらも扉は勝手に開く。




