ベレトの錬金術
「ネクスト。意識は大丈夫か」
「マスター……何か、のぼせたような。湯あたりしたような、感じがします」
「症状は分かった。意識があるならベレトの戦闘をちゃんと見ておいた方がいいぞ」
「何故ですか」
「真正面からの暗殺っていう矛盾した行為をできる奴だからだよ。とりあえず見てな」
俺は完全に『魅了』にはまっているレナ、ジラント、サマエルを縛り上げてから結界を張る。
ユウの方は……レナ達ほどではないがネクストよりは症状が重いな。
ズメイも俺に迫ってくるようなことはないが熱にうなされているようで戦うのは無理だろう。
2人を草むらの上で寝かせてから俺達はベレトの戦闘を見守る。
最初に攻撃を仕掛けてきたのは悪魔の方だ。
10種類の魔法をベレトに向かって撃ち、ベレトはジグザグに素早く避けて悪魔に近付いた。
そしてすぐさまに抜き手で攻撃するが、すでに『色欲』で自身の爪を変形させ、爪が全て円錐状に変形している。
しかし爪は悪魔に当たる事はなく、後ろに飛んで避けた。
空中でこちらの様子をうかがっているが、それだけだとベレトの思うつぼだ。
すでに攻撃は仕掛けていると思うが……やはり悪魔という種族は肉体がないというメリットを最大まで利用していると考えるべきか。
なんて思っていると地面が突如悪魔を飲み込んだ。
悪魔は空を飛んでさらに逃げるが地面はどこまでも悪魔を追いかける。
「マスター。あれは魔法ではありませんね」
「その通りだ。あれはベレトが持っている『色欲』を使った攻撃だ。まだベレトは全然本気を出してないが、あの悪魔もどれくらい強いのか分からないから判断に困るな」
「『色欲』とは私のようなホムンクルスを製造するためのスキルではないのですか」
「まぁ正しい使い方って意味ではその通りだと思うぞ。ただ戦闘となるとベレト以上に上手い奴は存在しない」
俺の言葉にネクストは非常に驚いたような表情をする。
確かに俺は全ての大罪スキルを持っているが、だからと言って全てのスキルの使い方をマスターしているとは言い切れない。
特に『色欲』の戦闘使用はかなり難しい。
「『色欲』の根幹は『錬金術』だ。元素やそこら辺にある有機物無機物関係なく自由に操る事が出来る」
「では先ほどの地面の攻撃は」
「『色欲』で操ったんだろうな。それに素材さえあれば何でも生み出せる」
「生み出せる?」
「さっきあの悪魔が空中にある間も攻撃は仕掛けてたんだぞ」
「……?何かをしているようには見えませんでしたが」
「あの時ベレトが狙ってたのは一酸化炭素中毒を使った窒息死だ」
一酸化炭素中毒。
刑事ドラマとかで有名なあれだ。
無味無臭の気体がいつの間にか体の中に入り込み、吸った相手を死なせる危険な気体だ。
ネクストもその事は知識として知っているのでぞっとした表情を作る。
「その場合普通の生物だったら……」
「死んでただろうな。俺だって不意打ちでそんなもん食らったら簡単に死ぬ。ついでに言うが『状態異常無効』を突破する方法の1つでもある」
「そうなのですか」
「状態異常無効はあくまでも『毒』や『麻痺』と言われる物に属するものしか防げない。つまり毒だと判断されていない物だったら簡単に突破できるんだよ」
おそらくだがレナ達の『魅了』はアルコールを中心とした精力剤のような物だと思う。
どのやってヤギ肉に混ぜたのかは分からないが、そんなところだろう。
色々解説しながら悪魔とベレトの戦いを見続ける。
悪魔の方はとにかく長距離攻撃にこだわっているようで、ベレトの事を様子見しながら距離を保つ。
ベレトはオーラを纏った近接攻撃をなぜか繰り返す。
俺も違和感を感じているとベレトは空中での追いかけっこをやめ、地上に降りてきた。
ああ、あれの準備が出来たのか。
「悪魔さん。一応話してみるけど、降伏する気はないのよね」
ベレトはそう問いかけるが悪魔は一切反応せず、ただ空中にいる。
「そう。それじゃ小手先の技は効かないみたいだし、すぐに終わらせてあげる」
そういうとベレト何もない空間から巨大な銃を創り出した。
その銃はSF映画に出てきそうなほどメカニックなデザインであり、ベレトの背丈よりも巨大だ。
その銃口が悪魔を捕らえ、引き金を引いた。
「フルバスター」
金色の光が一瞬で悪魔を飲み込んだ。
天井に穴が開いたかと思って期待してみたが、穴は開いていなかった。
それにしても手応えなさすぎじゃないか?
俺が違和感を感じていると『森羅万象』にこれからが本番であると知る事が出来た。
「ベレト」
「分かってるわよ~。どうやらあの子達全員やっぱり悪魔だったみたいね~」
さっきまでヤギだったはずの生物が全てさっき倒した悪魔と同じ姿になった。
これじゃ食ったら状態異常になるわけだ。
「どうする。手伝うか」
「う~ん。多分大丈夫ね。それに私もレベル上げしておきたいし、この程度なら余裕よ」
そう言いながらベレトは次はマシンガンを創り出した。
襲ってくる無数の悪魔達に対しマシンガンで応戦するベレト。
相変わらず上手いな。
「マスター。先ほどからのベレトの武器はどこから取り出したのですか」
「取り出してない。その場で創ってる」
「創って」
「錬金術は通常素材がないとできないが、代わりに魔力を消費する事でほしい物質を手に入れる事が出来る。と言ってもこの方法は希少な物質になればなるほど消費量も激しくなるから滅多に使わない。でもベレトの場合は服に様々な素材を用意しているからそこからだな」
「服に使っている糸などを再利用している、という事ですか。しかしそれだけであの巨大な銃を創り出せるとは……」
「圧縮してるんだよ質量は変わらないが圧縮する事で持ち運びやすくはなる。それを使ってベレトはあの服様々な素材をわざと含ませた服を着ている。見た目重視のごてごてした服だが、実はそういう素材を隠すためのいいカモフラージュなんだよ」
と言ってもかなり重いんだけどな。
金属の類でもかなりの量と種類になるだろうし、そこからさらに気体や液体の素材なども用意するとなると非常に重いはずだ。
でもまだ服を着ているって事は余裕があるという事だろう。
ベレトはマシンガンで正確に悪魔達を撃ち抜き、確実に倒していく。
どいつもこいつも弱いと感じていると、最後の悪魔が眉間を打たれて一発で紫色の霧になった。
他に敵はいないか調べてみると……弱いがまだ1体だけ残っている。
「ベレト。ラストはどうする」
「確実に仕留めてくるわ。ちょっとだけ待っててね」
そう言って残りの1体を確実に仕留めに行った。
攻撃しに来ないという事は弱い個体だと思うが……どちらかというと逃げてるな。
さっきの悪魔達と同様にヤギに擬態しているようで、全速力で逃げている。
…………あれ?逃げてる??
さっきまでの悪魔達は無感情で襲ってきていたような感じなのに?
「マスター」
「どうしたネクスト」
「この悪魔達に不可解な点があります」
「え、どこがだ」
「良くご覧ください。ほんのわずかにですが、肉片のような物が落ちています」
ネクストが摘まみ上げた小さな赤いかけらは確かに肉片だ。
これはいったいどういう事だ?
悪魔なら完全に紫の煙になるはずなのに何故肉が落ちている。
肉、つまり物質は悪魔には必要のないはずの物だが……
「うわーん!!」
「ちょっと待ちなさいよ!!」
肉片に疑問を持っていると遠くから誰かの悲鳴とベレトの大声がこちらにまで届いてきた。
誰かの悲鳴は幼い女の子のような声で、ベレトの方も戸惑いが混じっているように聞こえる。
「…………何してんだベレトの奴。あとあれ誰だ?」
ベレトは小学生くらいの女の子を追いかけまわしていた。
頭にはヤギの骨をかぶっているので顔は分からないが、ゴスロリ……いや甘ロリって言うのか?
ピンク色でレースやふんわりした雰囲気の服を着た女の子が必死の形相でベレトから逃げている。
他の特徴は……あ、悪魔みたいな尻尾が付いてる。
あれはいったい何なんだ?
なんて思っている間にベレトがその女の子を捕まえたのだった。




