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トラップ

 地面をぶち抜きながら下っていくと、明らかに今までと違う階層に出た。

 今までは紫色の霧しかなかったのに、急に緑色の草原、上には青い空、穏やかな気候を再現した階層だった。

 しかもちらほらとヤギがおり、さらに牧草地のような穏やかな空間が広がっている。

 これに関してはおりてきた他のみんなも驚いていた。


「ここ……まだダンジョン内だよね。ダンジョンの中ってこんな感じなの?」

「場所にもよるが……ここまで外に似せた階層は珍しい方だな」


 ユウの質問に俺は答える。

 他のみんなも周囲を探ってみるが、いるのはヤギだけで他に目立つ物はない。

 とりあえずこの階層も壊して下ろうと思い地面を思いっきり殴ったが、破壊する事が出来なかった。

 ただ衝撃で草が揺れただけ。

 明らかにこの階層そのものが強化されているように感じる。


「ここから先はズルはダメか」

「ナナシ様。ここからは階段を捜索する必要があるみたいですね」

「そうだな。できるだけ早く見つけたい。それからネクストとユウ」

「はいマスター」

「なに」

「2人は近くにいるヤギが食べられそうかユウと一緒に確認してみてくれ。食べられそうなら食料にしたい。食べられそうか確認してくれ」

「承知しました」

「分かった」

「ベレトは2人の護衛を頼む。俺とレナ、ドラゴン組はこの階層を調べながら階段を探す。まずはこれでいいよな」


 俺がみんなに確認するとみんな頷いた。

 そして俺達は行動する。

 今までのように階段を破壊してショートカットが出来ないのであれば、ルールに従って階段を見つけ出すしかない。


 そう思い捜索する俺達だったが……階段が全然見つからない。

『森羅万象』を使っても全くと言っていいほどに階段らしきものは発見できない。

 ただこの階層の事はそれなりに分かった。


 気候は一定でありヤギしかない。

 今までのように悪魔が勝手に襲ってくるような作りになっているわけではない。

 そしてさっきからうろちょろしているヤギたちだが、こいつらはほぼ無害だ。

 誰だこいつ?見ない顔だな。みたいな表情をしているが基本的に俺達に干渉しようとしない。

 悪魔がヤギの姿になっている、だったらもっと分かりやすかったのだがそんな様子もない。

 本当にただのヤギだとしたら何故悪魔ばっかりのダンジョンの下層にいるのか全く理解できない。


 仕方なく帰ってくるとネクストがヤギの解体をしていた。


「ただいま。もしかしてそのヤギ本物か?」

「お帰りなさいマスター。ユウが確認したところレベル1の普通のヤギだそうです」

「飼われている様子はないけどね。ステータスとか見てみたけど本当に普通の動物みたい。そっちはどうだったの?」

「こっちは全然だ。色々探してみたが階段らしいものは見当たらない。でもまぁ食えそうなら多少は時間がかかっても大丈夫そうだが」


 ヤギを食料にすればしばらくは手持ちの食料に手を出さなくても済むかもしれない。

 でも油断は禁物であり、まだダンジョンの中にいるのは変わらない。

 他のみんなの報告を待つしかないか。


 しばらく待ち、レナとドラゴン組の報告を受けたが、向こうも階段らしきものは発見できなかったという。

 そしてダンジョン内も暗くなり夜のような様子を見せる。

 天井には月と星の景色が広がり非常にのどかな雰囲気を出すが、俺が壊した天井はすでにふさがっていた。


 それにしても外の景色?を再現するダンジョンは聞いたことがない。

 ほとんどのダンジョンは洞窟型で舗装もなにもされていない。

 舗装されているとしてもゴーレムばっかりのダンジョンだったり、どっかのゴブリンが巣として利用していた洞窟など、誰かが最初から作ったかモンスターの巣であることが多い。

 ゴーレムのダンジョンは大昔の魔法使いが自身の研究資料を守るために配置した守護者だったし、案外忘れられた誰かの家だったこともある。

 だがこの外の景色を再現したダンジョンというのは聞いたことがない。

 明らかにこれは異常な光景だ。


「ナナシ。このダンジョン本当に階段があるの?床を壊して進んだから変なところに紛れ込んじゃったとかそういう事はないの」

「ぶっちゃけそれはない。ダンジョンの中ってのは一種の結界のような物なんだよ。侵入者を捕らえて外に出さない要する結界とでも例えれば分かりやすいか」

「私の結界みたいに出入りできないんじゃなくて外からは入れるけど出れない結界ってあるんだ」

「ただ頑丈な結界を張るよりも難しいし、細かい調整が必要だけどな。だからほとんどのダンジョンは出入り自由で結界のない物ばっかりだ。でもそういう時は床を壊しても地面が出てくるだけだし、結界で守られていたとしても転移を阻害する系のダンジョンはそうないな」

「だから転移で帰れるからって言ってたんだ」


 ユウはそう言いながら肉を食う。

 仕留めたヤギ肉を食いながら俺達は交代しながらこのダンジョンを捜索しなければならない。

 スキルと視認で階段を確認できなかったという事は何か必要な事があるのかもしれない。

 さっき言ったゴーレムのダンジョンでは1番強いゴーレムを倒さないと先には進めないというギミックが隠されていた。

 それと似た物があるとすれば階段を見つけられていない事にも納得できる。

 だがそうなると本当に階段を探すのに時間がかかる。


 何せ未踏破のダンジョンだ。

 そのギミックが何かを倒す事なのか、それともトラップのような物を見つける必要があるのかさっぱりだ。

 それにここまで様子が変わると階段を使って下の階層に行くのか、それとも設置型の転移装置を使って移動するのか?

 何もかもが分からない状況では動きたくても動けない。

 ため息をつきながらも肉を食って食料の補給が出来る事に喜んでいると、なんかこの肉変じゃね?っと思った。


「え、これ本当にただのヤギの肉か?おいお前ら、そっちは違和感っ!?」


 ないかと聞こうとしたらレナに突然押し倒された。

 レナの表情は完全に興奮していて顔を赤くしながら呼吸を荒くして俺の事を血走った目で見ている。

 まるでその表情は飢えた獣と変わらない。


「お、おいレナ。突然どうした?」

「ごめんなさいナナシ様。よく分からないけど、すごくムラムラする。だからエッチ、しよ」

「おい待て!ここはダンジョンの中だぞ!ここでそんな事してる状況じゃって誰だ今俺の息子触った奴!」

「旦那様……赤ちゃん欲しい」

「スゲー直接きたな!でも何でこのタイミングなんだよ!!」

「よく分かんないけど、すごく興奮して子宮がうずいてるの。いまなら赤ちゃんできる気がする。だからしよう」

「ダンジョン内じゃなかったらな。いったい急にどうしたんだよ。突然にもほどが――むぐ」


 なんて話していると今度はサマエルが自分の唇を使って俺の唇をふさいできた。

 そのままねっとりと甘すぎるほどのキスをした後、懇願こんがんするように甘えた声を出しながら誘惑してくる。


「主様。私にもその、お慈悲をください……」

「サマエルまでかよ。ユウとネクストは無事か!」


 俺はそう聞くと2人はどこか上の空で焦点の定まっていない視線でぼんやりとしている。

 2人の場合は酔っているような感じ。

 3人のように俺に迫ってくることはないが、ただぼんやりとして眠たそうな表情をしていた。


 これは絶対このヤギの肉を食った事が原因だろうな。

 何かしらのトラップだったのかもしれない。

 俺はレナ達の事を調べると意外な状態になっている事を知った。


 レナ達の状態は全員バットステータス、『魅了』だった。

『魅了』というのはサキュバスなんかに精神支配されている状態であり、主に性的な欲求が増してしまい思考が定まらなくなる。

 ある程度は精神で抑え込む事が出来るが……根本的な解決にはならない。

 解決する方法は『魅了』を解除する回復薬を飲むか、性的欲求を満たすかのどちらかだ。


「ベレト!魅了を解除する薬作れるか!」

「ごめんね~。ちょっとお客さんみたい」


 ベレトが警戒している視線の先には今までとは全く違う悪魔がいた。

 ヤギの頭の骨をかぶった悪魔。

 胸も尻も非常に大きく、とにかくエロい。

 男の欲望だけで女のイラストを描いたらこんな感じになるのかな~っというくらいエロい。

 乳首と股はシールみたいなものを張り付けて終わり。

 つまりほぼ全裸と言う訳である。


「ベレト。あいつ知ってるか」

「初めてに決まってるじゃない。それにしても『状態異常無効』を持っているレナちゃん達を魅了させるっていうのは興味深いわね」

「確かに。でも逆に言うと俺とベレトはなんで異常が出てないんだ?」

「それは……あの悪魔を倒せば分かるんじゃないかしら」

「結界はこっちで張るが、ユウほど強固じゃないから気を付けてくれよ。あとこの状態だと助けに行けない」

「大丈夫。私だって『色欲』の罪人なんだからあの程度の悪魔さくっと倒してくるわよ。でも後でご褒美欲しいな~」

「満足するまで抱いてやる。頼んだぞ」

「ふふ。勝った後の楽しみが出来ちゃった」


 そう言ってベレトは尻を振りながら悪魔に向かって歩いていくのだった。

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