最短攻略を目指す
地面を何度もぶち抜いて下る事数時間。もうどれくらい下ったのか分からない。
俺は普通に落ちてきているが、他のみんなは翼を広げてゆっくりと下りてくる。
流石に少し疲れたので息を吐き出すと今まで見たことのない悪魔がいた。
「てめぇ!!」
「ルールを守り――」
人間の言葉を話す悪魔だ。
ユウとネクストが相手にしていた悪魔よりも知識はあるようだが俺から見ればそう変わらない。
たかが人語を話だけの悪魔なんぞ大した敵ではない。
最初っから強い魔法を使えば勝てるとでも勘違いしているのか、上位魔法を詠唱しながら放とうとする悪魔の眉間に極夜を突き刺す。
上位魔法の詠唱ってどんだけ頑張っても10秒以上かかるだろ。
『詠唱破棄』とか持っているのであればそこまで時間はかからないが、持っていないのに堂々と詠唱を唱えるところから始めるとか馬鹿がすることだ。
なので俺は詠唱し終える前に悪魔達を狩り尽くす。
攻撃力の高い魔法ばかり出そうとするバカ悪魔どもの相手は本当に簡単だ。
こりゃ俺じゃなくてもレベリングになるな。
「ナナシ!!ちょっと待ってよ!!」
ぶち抜いた穴からユウの声が聞こえた。
ジラント、ズメイ、サマエルはドラゴンの姿になってゆっくりと下りてきた。
レナは狼の姿になってネクストを背に乗せた状態で降り立った。
「よう。そっちは襲われなかったか」
「他の悪魔は全部ナナシの方に向かっていったから大丈夫。それより悪魔って話せたの?」
「いや、俺も人語を話す悪魔は初めて見た。あえて言うなら下層って言うべきところにいるからレベルも結構高そうだぞ。ただ実戦経験が全くない感じだったからユウとネクストでも簡単に経験値にできそうだ」
「マスター。ならば私も悪魔狩りに参加しても大丈夫でしょうか」
「参加は認めるが1対1の状態を維持しろ。俺が1匹だけ残して殲滅するからそいつと戦いな」
それにしても悪魔達の復活が遅いな。
やはりレベルが高い分あの紫の霧を大量に消費するからだろう。
下層に張ってくると紫色の霧もだいぶ薄くなってきたし、リポップする悪魔達の速度も遅い。
とりあえずレベルの高い悪魔達に囲まれて一斉に攻撃されることはほぼないだろう。
1体だけ復活したのか、もしくは俺を攻撃するのに出遅れたのか悪魔が1体だけいた。
「あいつ、糧にしてこい」
「はいマスター」
ネクストも悪魔を見て即座に行動した。
ネクストが持つスキル、『日陰者』の効果で悪魔もネクストに気が付くのに一瞬遅れた。
その一瞬が致命的な好きとなり、短剣で首を斬られると紫の霧になって消える。
するとネクストは褒めてほしそうな表情をしながら言う。
「マスター。今の悪魔を倒したところ、レベルが一気に2も上がりました」
「え、マジで。よかったじゃん。その調子でどんどんお前のレベルの糧にしちまえ」
「はい。それから報告します。『日陰者』が新たなスキルになろうとしています。選択肢は2つ、『忍者』と『暗殺者』です」
「お、とうとうそこまで来れたか。好きな方を選ぶといい」
「マスターはこの2つのスキルの違いを知っていますか?」
「あ、教えてなかったっけ。『忍者』は人間だけじゃなく精霊や今戦ってる悪魔みたいな存在にも効果があって、『暗殺者』は対人特化型スキルって感じだ。どちらも相手に気付かれる前に倒すことを前提に使用するスキルだが……どっちがいい」
「……私は『忍者』の方が汎用性が高く、様々な場面で活用できるのではないかと予想します」
「なら『忍者』を選ぶといい」
「ではスキル『日陰者』を『忍者』に進化させます」
これによりネクストのスキルもさらに強化された。
ただレベルが上がるだけではなくスキルの方も強化できているのであればかなりいい方だろう。
このダンジョンを制覇し、何時でも来れるようになったら最初からここにきてレベリングをする方が効率が良いのかもしれない。
余裕があればな……ユウとネクストに十分レベリングをしてあげたかったな……
「ところでユウ。お前この階層の悪魔達のレベル分かるか」
「うん分かるよ。レベルは大体70~80以内って感じだね。すごくレベルは高いんだけど……あんまり強く感じないのはなんで?」
「多分ここまでプレイヤーがやってきたことがないからあいつら戦った事すらないんじゃないか?だから派手で攻撃力の高い上位魔法ばかり使おうとしてデカい隙を作り、ネクストでも簡単に殺せるほど弱い」
「そんなことあるの?あり得るの?」
「普通はあり得ないが……悪魔の事はよく分からん。多分あの紫の霧の密度でレベルが決まってると思うから本当に戦ったことないかもよ」
本当にこれは勘だがそう遠くない予想だと思う。
おそらく悪魔とはあの紫の霧の集合体であり、霧の密度が高ければ高いほどレベルが上がる。
だから上層に比べて悪魔のリポップは遅いし、その代わり質の高い?悪魔が生まれる。
まぁ実戦経験のない高レベルの悪魔とか狩り放題のボーナスステージにしか見えない。
いや~本当に経験値が美味しいな~
「それにしても俺達ってどれくらい下ってきたんだ?」
「現在は37階層です」
「教えてくれてありがとうサマエル。しかしまだ下あるよな」
「感知してみたところ転移できるのは42階層までのようですね。その先は魔法による防御障壁が張られているようなので転移による移動が出来ません」
「転移できないように干渉している奴は43階層より下にいる可能性が高いな。よし。またぶち抜くか」
「ねぇナナシ。そんな攻略法じゃつまらなくない?経験値が美味しいのならもう少しゆっくり経験値を稼ぎながらでもいいんじゃない」
また地面に拳をぶつけようとしているとジラントがつまらなそうにして言った。
まぁ元々はユウとネクストのレベリングが目的だったとはいえ、ここまでじっとしているのもつまらないか。
食料は残り半分だからできるとすれば……
「例の転移できないところから俺達もレベリングに参加するか。それまでは食料の問題もあるし、地面をぶち抜いて進む。これでどうだ?」
「……まぁ戦えないよりはマシかも。それにご飯食べれなくなるのは私も嫌だし」
ジラントはそれで納得してくれた。
それじゃと思い俺は再び地面に拳を当て、地面をぶち抜きながらダンジョン攻略を目指すのだった。




