帰れなくなった
中層でレベリングを始めて多分3日目。
何故そんな風にあいまいなのかというと、ここでは時間の感覚が狂ってしまうからだ。
元々洞窟状のダンジョンなので太陽の光は届かないし、ずっと紫色の霧の中にいるから何時間経ったのかよく分からない。
なので3回飯を食った後に寝た時に1日経ったという事にしている。
ユウとネクストのレベリングは順調だ。
ユウは最初こそ剣による攻撃ばかりだったが今では魔法攻撃も行いレベル40以上の悪魔達を一掃できている。
ネクストの方も順調だ。
元々レベルとしては同じくらいだったからか、レベルの上がり方が非常に早い。
やはり同レベルを倒す方が効率いいか。
そのおかげかネクストのレベルはすでに51にまで上がった。
オーラを纏った状態を維持しながら攻撃する事が出来ている。
短剣もオーラを纏わせている方が切れ味がよくなり、頑丈にもなる。
MPも無駄に消費せず、近くの相手には短剣で倒しているのでだいぶ使い慣れてきたみたいだ。
「順調に育ってるな」
「ナナシ様。どこまで潜る予定ですか」
「予定と言われてもここはまだ未踏破のダンジョンだろ。それに食料の問題もあるし、食料が半分くらいになったら帰ろう」
「承知しました」
レナの質問に俺は答える。
正直問題はそこだけなんだよな……
何もないダンジョンの最大の難関。
それこそが食糧管理。
普通は転移で一気に外に戻るなんてことは出来ないし、そうなったら階段を上ってきた道を戻るしかない。
それも大変で、この何もない場所から階段を見つけるのも一苦労だ。
しかものぼりの階段には悪魔が結構集まるんだよな……まるで逃がさないように。
なので食料が半分くらいになったら帰るというのはそれなりに良い判断だと思っている。
いざとなったら俺とサマエルで転移すればいいはずだ。
転移の邪魔されないよな?
「それにしても2人ともいい動きをするようになりました」
「ようやく複数の敵を相手にする動きが出来るようになってきたって感じだな」
レナの言う通りユウとネクストの動きは格段に良くなっている。
冷静に悪魔の動きを正確にとらえているので余裕がある。
ユウは何かのスキルの影響なのかどうか分からないが、後ろからの魔法攻撃や物理攻撃もきちんと認識して避けてカウンターを決める。
ネクストの方はおそらく『魔力感知』だろう。
悪魔は魔力の塊みたいな感じなので『魔力感知』でもはっきりと分かる。
これならおそらく問題なく感じ取る事が出来るだろう。
集団戦での基礎は目に見えない相手に対しても常に気を張り続ける持久力だ。
どれだけ強くても体力や集中力が欠ければ簡単に攻撃されるし、隙をつかれて重傷を負ったらその後はいいように倒されてしまうだろう。
だから集団戦で必要なのはそう言ったもろもろを含めた持久力。
例え疲れたとしてもそれを隠す事が出来るメンタルも必要となるだろう。
疲れている事を感じさせないのもテクニックの一つだ。
流石に今はそこまで求めていないが……対人戦となればこういった細かいテクニックは必ず力になる。
この時代そこまで考えている奴がいるのかどうかは分からないけど。
「よし。そろそろ休憩だ」
俺はそうユウとネクストに言ってから周囲にいる悪魔達を殲滅した。
最初こそレナ達に任せようと思ったが、レナ達は何故か俺に任せると言ったので俺がやっている。
と言ってもやってることは非常に単純で『覇王覇気』しか使っていない。
覇気の密度を高める事で身体能力を更に上昇させる事が出来るのでそれを使っただけ。
これに関してはちょっとした裏技というか、プレイヤースキル、つまりプレイヤー自身の技量によって変化するものだから訓練すれば誰にでも出来る。
今回は極夜と腕には気を少し多めに使用して腕力の強化、そして足に覇気を多めに使用すれば脚力も上がる。
ただこれだけだ。
「いや、それが難しすぎるんだよ」
ユウがそう不満そうな表情を作りながら言った。
何故俺が『覇王覇気』だけであそこまでの火力を出せるのか聞いてきたので先ほどの説明をした。
そしてユウはすぐにできる訳がないと頬を膨らませている。
「そんなに難しいか?感覚としては腕や足に力をこめるのと変わらないと思うんだけどな」
「マスター。私にも訓練をお願いします。覇気やオーラは汎用性が高く、使いこなす事が出来れば大きく成長できると予想されます」
「向上心があるっていうのは良い事だ。とりあえず落ち着いたら詳しく教えてやるよ」
流石にダンジョン内でゆっくり教えるのは無理だ。
今もユウの結界で守られているが外には悪魔達が蔓延っている。
そして俺達の事を確認すると結界の外から攻撃をしてきてうざい。
「レナ。残りの食料はどうよ?」
「そろそろ半分を下回りそうになっています」
「それじゃ一旦帰って食料調達をした後にまたここに来るとしよう。とりあえず今日はゆっくり休むか」
このまま結界の中で寝た後帰る事にした。
――
寝て起きて再び食事をした後、また悪魔達がそれなりに集まっていたので再び俺が瞬殺。
その後階段があったところに来たのだが……
「確かにここに階段あったよな?」
「あったよね?」
階段が消えていた。
何かしらの幻覚や魔法の類ではないかと思ったが、全員で確認して確かにここに階段があったはずだと結論が付いた。
「それじゃ階段はどこに行ったの?」
ユウの当然の疑問に俺達は何とも答えらないが、俺に言えることは1つだけだ。
「とりあえず転移が出来るかどうか確かめてみよう。サマエルも手伝ってくれ」
「はい」
俺達で転移を使用し、ダンジョンから脱出を図ったが……
「阻害されたな」
「はい。しかし主様、これは魔法による空間転移の阻害魔法です。おそらくダンジョン内に張られた物でしょう」
サマエルの言葉に俺も頷いた。
まさか空間魔法を自力で使う非効率的な奴がいるとは思わなかった。
「それってつまり……」
「帰れないって事だ」
ユウの質問にはっきりと答えるとユウはうなだれた。
まぁ出口がなくなったと考えれば当然の反応だろう。
しかし帰り道が完全になくなったとは考えにくい。
「レナ、残りの食料からここにとどまれる日にちはどれくらいだ」
「食料を最低限にすれば2週間、普段通りに食べれば1週間もてばいい方でしょう」
「よし。それじゃこのダンジョンを最短で攻略する。最下層は存在するはずだからそこから帰れるはずだ」
「そうなの!?」
ユウは驚いて聞くがこれは他のダンジョンでも共通している事だ。
ダンジョンの最下層には配置型の転移魔法陣があり、そこから外に出る事が出来る。
ダンジョンとただの洞穴の大きな違いがこれだろう。
最下層に着くと逆に帰れるって言うのは変なのかどうか、ゲームだからあまり違和感なかったけどこうして考えると変な感じ。
「だから俺達は食料の問題から最短でダンジョンを攻略する」
「でも最短ってどうするの?一々階段を探すのは大変でしょ。しかもあといくつ階層を降りないといけないのかも分からないのに大丈夫なの」
「おそらく転移はあくまでも外に出る事だけ制限されてる感じだ。だから内部を転移で移動する事は可能だ。と言っても何も分からない空間を転移だけで移動するのも危険だから物理的に移動を繰り返す。転移はいざって時のために使う」
「それじゃどうやって下に行くの?」
「どうやってって、そりゃもちろん地面をぶち抜くんだよ」
「……え?」
俺は覇気を纏いながら地面を殴る仕草を見せるとレナ達はすぐに俺の周りから飛び退いた。
ユウはサマエル、ネクストはレナに抱きかかえられて下がる。
それを見た俺は地面を思い切り殴り、地面を破壊した。
さて、最下層はどこにあるのかな。




