黄泉の道、中層
ユウ達がレッサーデーモンを倒し終えた時にはすでに肩で息をしていた。
特にネクストの方が消耗が激しく、まだまだ集団戦に慣れていないことが浮き彫りとなった。
「お疲れ2人とも。ネクストはほいこれ、魔力回復薬」
「ありがとう、ございます。マスター」
「ふぅ。さすがにあの数はキツイよ……」
「でも俺達は頭数少ないからどうしても集団対個人は覚えておかないと危ないぞ。それからネクストは『オーラ』のスキルを取っておいた方がいいな」
ネクストはまだオーラ系のスキルまだ取得できていない。
オーラのスキルを得れば悪魔相手でも近接攻撃が可能となる。
今回ネクストの体力が消費した理由は近接攻撃が出来なかったことだろう。
オーラ系が使えない事で近くのレッサーデーモンにすら近距離で魔法攻撃をせざる負えない状況になってしまったし、魔法の使い過ぎで精神的に疲労している。
魔法を使うのにはMPを消費するのはあくまでもシステムの話。
実際に戦うと近付いてきた相手に殺されるかもしれないという精神的負担がシステムに表示されない部分で削られていく。
今回のネクストの場合は近距離でも魔法で攻撃しなければならない事と、相手をいくら倒しても数が減らないストレスのせいだろう。
「スキルとはそんなに簡単に手に入る物なのですか?」
「基礎的な物なら意外と簡単に手に入るぞ。まぁよく分からないうちに条件を満たして上位のスキルを手に入れると取得できないけど」
ここが意外と落とし穴だったりする。
簡単に言うなら『暴食』を手に入れた少年と同じような感じになってしまうのだ。
各スキルの基礎的なところから手を出していかないとスキルの力に振り回されてしまう。
その代わりと言っては何だが各種基礎スキルは取得しやすく、特に経験者がいる事でさらに取得が容易となる。
「ユウ。一応結界で俺達の事を守ってくれ」
「分かった」
こうして簡易的な休憩空間を用意し、ネクストに『オーラ』を取得させる。
「それじゃネクスト、おいで」
「はい」
ネクストは素直に俺の前に立つ。
俺はネクストの事を抱きしめながら『覇王覇気』を発動させた。
「マスターこれは?」
「俺の覇気をネクストに当てる事でネクスト自身の覇気、まだ弱いからオーラでしかないが感じ取ってくれ。俺の覇気という異物がネクスト自身のオーラを浮き出させてくれる。俺の覇気ではないオーラを感じてみろ」
「…………」
ネクストは目を閉じて集中する。
じっと俺の覇気を感じながらも自身の中にあるオーラを探っている。
俺もネクストのオーラを探りながら待っている、見つけた。
俺の覇気から身を守るように薄い膜のような力を感じる。
ネクストもその力に感じ取る事が出来たのか、エルフ特有の長い耳がピクピクと動く。
そしてネクストの全身に薄い膜のような物が光り始めた。
「うまくいったみたいだな」
「『オーラ』の取得完了しました。そして『魔力感知』も習得する事が出来ました」
「お、マジか。それはうれしい誤算だな」
『魔力感知』とは相手の魔力を感じる事で相手の位置を探る事が出来るスキルだ。
しかし『森羅万象』のようになんでも感知できるわけはない。
あくまでも魔力がある対象を感知する事が出来るだけなので地形の把握などは出来ない。
でもこれも基礎スキルの1つなのでここからさらに発展していく事だろう。
「よし。それじゃネクスト、オーラを使ってみてくれ」
「『オーラ』使用します」
そういうとネクストの身体を薄い膜が包み込み、確かにオーラが使用されている事が分かる。
「よし。それじゃここから中層に向かいながらレッサーデーモン達を倒していく。攻撃しながらスキルを使い続けるのも疲れるから気を付けろよ」
「了解しました」
「ユウ。結界を解除してくれ。中層に向かうぞ」
「分かった」
こうして俺達は中層に向かうため、階段を見つけ、下りるのだった。
――
中層、20階層以降に到着すると悪魔達も少しずつ強くなる。
レベルは大体40前後、ネクストにとっては油断できない相手が多い。
しかし上層で雑魚共の一掃でレベルがまた少し上がる。
これによりネクストのレベルは41にまで上がった。
悪魔狩りはやっぱり経験値だけは美味しいんだよな。
悪魔が強くなっていくと一気に出現してくる悪魔の数も減っていく。
この辺りから上層のようにとにかく数で攻めてくるという事はなく、知性も出てきて魔法も使ってくる。
個人的に経験値稼ぎが良いと思うのはこの中層からだ。
このダンジョンに入ったばかりの頃のレベルがちょうどよかったというのもあるが、ここに出てくる悪魔達から程よい手強さがあってしっくりくる。
魔法とスキルを使ってくるモンスター。
これくらいじゃないと戦闘訓練とは言えないと思っている。
「ネクスト。ここからレベル40の世界だ。さっきみたいにいきなり集団で襲ってくることはないが、それでも質は上昇してる。油断しているとあっさり殺されるぞ」
「警戒を続けます」
「まぁずっと警戒しているっていうのは難しいからな、仲間がいるんだから疲れた時は素直に頼る事も覚えろよ」
「それなら私少し休みた~い」
少し話題に出したらユウがそう言った。
それならちょうどいいから休憩にしよう。
ユウに結界を張ってもらい、その中で食事をする。
と言ってもいつものように好きなだけ食べられる環境ではないので、ほんの少し我慢がいる。
もしかしたら本当に恐ろしいのはこの環境かもしれない。
水も食料となる物も存在しないこの環境下で長くとどまり続ける事こそが自殺に近い。
このダンジョン内で本当に食べ物や飲み物が存在しないのかどうかは未到達の所を超えたら何か分かるか?
一応ダンジョンと言っても他のゲームのように出入り口までご丁寧に歩いて帰る必要はない。
『傲慢』の転移を使えば簡単に外に出る事が出来る。
だがそれでもレベルを上げたいのなら少しでも長くこのダンジョンにいるしかない。
そして1体でも多くの悪魔を倒さなければならない。
そのためにはどうしても長くこのダンジョンに居る必要がある。
「にゃ~」
「白猫。今日は無し」
白猫は飯が少ないと思ったのかお代わりを要求してくるがさすがに今回は無し。
なら俺以外からもらおうと思って他のみんなの所に回るが、少しだけ飯をもらえたのはユウだけだ。
「ユウ。お前はレベル上げの中心にいるんだからしっかり食え」
「いや、でも私には『節制』があるからそんなに食べなくても大丈夫だし……」
「スキルの補助があるとはいえ油断するな。まったく」
そう言ってから俺は自分の肉をユウにあげた。
ユウが驚いていると白猫がならその肉を最初からくれっという感じで鳴く。
「お前はただ一緒に居るだけだからダメ。そのままただ食べてばっかりだと太るぞ」
そういうと渋々白猫はユウからもらった肉を食べる。
さて、飯を食ってしばらく休んだ後、結界の周りには悪魔がびっしりと存在していた。
安全だからと言ってゆっくりしすぎたのだろう。
結界を引っかいたり、初級魔法をぶつけてくるが結界はびくともしない。
しかし長くとどまっていたせいで50体以上の悪魔達の相手をユウとネクストだけに任せるのは危険だ。
基本的にレベル上げというのは安全な形で行う物だ。
「ここは俺がやるからユウとネクストは落ち着いた後でレベル上げをしよう」
「え、でもこれだけの数大丈夫なの?さっきよりレベルが上がってるのに」
「大丈夫大丈夫。この程度数秒あれば十分。結界の解除頼んだ」
俺は軽く手を振りながら言うとユウは少し心配しながらも結界を解除した。
その瞬間襲おうとしてくる悪魔達だが、その爪も魔法も全て届かない。
俺は極夜を抜きながら素早く悪魔達を斬る。
飛ぶ斬撃を使用しているので奥の方にいる悪魔も当然届く。
前後左右、上にいる悪魔を1体も取りこぼさないよう一撃で致命傷を与える。
手も腕も目には止まらないほどの速度で斬り終えた後、極夜を鞘に収めた。
斬られた悪魔達は何をされたのかも分からず紫色の霧に戻っていく。
「あ、俺が倒してもどうせレベルにはならないんだからレナにでも倒させるべきだったか?」
ふと倒し終わった後に思ってしまった。
あ~勿体ねぇな。
レベル40の雑魚でも50体分となればそれなりに良い経験値になったはずだ。
それをこれ以上レベルが上がらない奴が倒しても勿体ないだけだ。
やっちまったな~っと思いつつもユウ達に言う。
「ま、いっか。それじゃここからユウとネクストの本格的なレベル上げを行うぞ。まずはネクストから始めようか」
「了解、しました」
どこか緊張気味に言っているが、同レベルの悪魔を相手にするのだから当然と言えば当然か。
「あまり気を張り過ぎるなよ。動きが硬くなる」
そうリラックスさせるように言いながらネクストからレベリングを始めた。




