黄泉の道
俺達はユウの急激なレベリングを図るため愛の国からさらに西側、『黄泉の道』へ向かっていた。
黄泉の道とはプレイヤーの中で勝手に言われている名前で正式名称は『地獄の門』。
この先にいるのはレベルがそれなりに高い悪魔達。確認最高レベル60という未踏破のダンジョンだ。
ついでにいうとこのダンジョン、プレイヤーの中では全くと言っていいほど人気がない。
その理由がドロップするアイテムなどが一切ない事だ。
悪魔を殺したところで塵になり、素材らしいものは一切取れない。
しかも悪魔の装飾品なども全て幻であり倒したからその装備を奪えるわけでもない。
つまりうまみが一切ないクソダンジョンと言う訳だ。
まだ誰も最下層に行ったことがないので、さすがにそこには何かあるんじゃないかっというプレイヤーもいたが誰も確かめていない。
「そんな本当に怖い所に行くんだ」
「ぶっちゃけ人間を殺すのが1番の近道だが、それ以外となるとここしかないだろうな。この先本当に何もないから食料とか水とか大量に持って行かないといけないのも面倒なところだ」
「ナナシは行ったことあるの?」
「物珍しさで上層を散歩程度にな。上層だとレベル20~30程度の悪魔が出てくる。俺から見れば弱いが、初見殺しの技が多いんだよな~。ただの物理攻撃が効かないし」
「攻撃が効かない?」
「ああ。悪魔って連中は全員肉体がないんだよ。いわゆる精神生命体ってやつだ。アストライアも似た様なもんだと思ってるが、微妙に違うみたいだ」
「神様と悪魔を一緒にしたら怒られそうだけど……でもそこにいるベレトさんは肉体があるよね」
「あるぞ。サキュバスと悪魔は別物だ」
しれっと言ったが今回からベレトも旅に参加する事になってしまった。
愛の国の裏ボスとして君臨しているはずのベレトだが、今回の事でユウの事が心配だと言って勝手についてきた。
個人的にはこのまま情報管理に力を注いでほしかったのだが、みっともない駄々をこねたので仕方なく連れて行く事にした。
「そうだよ~。悪魔達、サキュバスの事バカにしてくるから本当に嫌い。身体がないからエッチも出来ない、子供も残せない下等種族にバカにされる筋合いはないもんね~」
「こんな感じで悪魔とベレト達はめっちゃ仲が悪い。肉体があるかないかでどっちが優れているか喧嘩してんだよ」
「それって余計にベレトさんは置いて行った方がよかったんじゃ……」
「俺も正直そう思ってる。今からでも遅くないからかえって事務仕事してくれよ」
「ナナシが『怠惰』のスキルで奪った奴隷達の情報を私が管理してるからどこにいても問題ないでしょ」
そう。
俺が檻の国で奪った奴隷達の管理はベレトに任せている。
正確に言うと管理している男と同じ情報を共有していると言った方がいい。
男が管理している情報からベレトがこれは使える、使えないと判別し俺に教えてくれる。
「それでさっそく情報なんだけど、『切り札』達がまた何か企んでるみたい。それに本格的にナナシちゃんの事を狙い始めるつもりみたいよ」
「あんな雑魚共に俺を殺せるかよ最低でもレベル60の連中を軍単位で連れてこないと話にならないぞ」
「60程度の連中6人に負けたでしょ」
「美徳スキルはノーカン。それにあの時の俺はやる気なかったって言っただろ」
「それでも負けは負け~」
ベレトはからかうように言うが俺は特に乗らない。
また一緒に旅が出来ると思ってはしゃいでいるだけだ。
それに今向かっているところに到着したら簡単に軽口を出すことは出来ない状況になる。
だからそれまでの間だけだ。
「それにしても白猫。お前影薄すぎない?」
白猫にそう聞くと白猫は首を傾げた。
サマエルが身体を乗っ取られた後もどっかで昼寝をしていたみたいだし、飯の時は必ず姿を現すので本当に人間の子供の姿をした猫だ。
確かに俺の感覚では獣人ではなく魔物の類なのだが……本当に何者なのかさっぱり分からん。
イベントの引き金役だと思っていたがイベントと思われる行動もないし、正直エサをもらえるからついてきているとしか思えない。
「一応言っておくが俺達は悪魔しか出てこないクソダンジョンに行くんだぞ?そこにエサはないからな」
しかし白猫は俺達がいればエサはもらえると分かっているからか普段と何も変わらず、いつも通りついてくる。
俺はため息をつきながらも目的地、『黄泉の道』に到着した。
「ここがクソダンジョン黄泉の道だ。一応ここで説明しておくが、ユウとネクスト。まずは悪魔に慣れるために上層で訓練をしてもらう。悪魔を倒すのにはコツがあるからそれを掴んでから本格的にレベリングを始める」
「分かった」
「承知しました」
ユウのレベルは69、ネクストのレベルは37だ。
生まれて間のないネクストには十分すぎるレベルだが悪魔を相手にするという点においてはまだまだ心もとない。
悪魔はレベル以上に面倒な点がいくつも存在する。
「まず悪魔には通常の物理攻撃が一切聞かない。つまりただ攻撃しても意味ねぇんだ」
「その攻撃が効くようにするのがコツ?」
「そうだユウ。そのコツって言うのがオーラを纏った状態で攻撃する事だ。悪魔って言うのは基本的に魔法の効果を付与した状態で攻撃しないとダメージを与える事が出来ねぇんだ。ネクストはスキル『オーラ』を取得してたっけか?」
「後天的に取得する事に成功しました。これにより短剣や弓による攻撃が可能と判断してよろしいでしょうか」
「いや、短剣に関してはおそらく大丈夫だろうが、弓に関しては少し待て」
「それは何故でしょう?」
「単純に難易度が違うんだよ。持ったままの武器を使って攻撃するのと、手から離れた物にオーラを付与し続けるのとではかなり話が違う」
武器を持ったままだったら普段オーラを纏うようにすれば効果は発揮される。
しかし投げた物、放ったものにオーラを持続させるのはかなりの技術を必要とする。
普通の連中なら弓を構え、放つ瞬間まではオーラを纏わせる事が出来るだろう。
しかし手から離れた瞬間、矢はオーラを纏っていない状態になってしまうのでただの物理攻撃になってしまう。
そうなった場合当然悪魔にダメージを与える事が出来ない。
そうならないためにはオーラを矢に付与する必要がある。
最も楽な方法は『付与術』というスキルを習得しておくことだ。
『付与術』は様々な道具に追加効果を与える事が出来るというスキルだ。
例えば普通の剣に炎を付与すれば炎の剣が出来るし、木の棒に光魔法を付与すれば光る棒を作る事が出来る。という感じ。
元々は戦闘用というよりは武器や防具を作っている生産系のスキルであり戦闘時に慌てて何かを付与するという場面は非常に少ない。
戦闘での使い方は基本的にステータスを上昇させる魔法を自身、または仲間に向かって使う事。
一応バッドステータスを敵に付与することは出来るが最低でもレベルが10以上離れていないと付与できないと言われている。
話を戻してこの『付与術』がない場合どうやって自分でやるかというと、MPを削ってオーラを纏わせるという事だ。
口で言うのは簡単だがこの調整が非常に難しい。
簡単に言えばMPという燃料を自分の力量で矢に注ぐという感じだ。
もちろん大量に流した方が持続性は長いが矢などの消耗品に大量にオーラを流しても避けられればただの無駄遣いだし、少なすぎた場合は先ほど言ったように効果が出ない。
それに無駄にMPを削るという事は今後の攻撃手段が少なくなるという事だ。
つまり何が言いたいかというと。
「悪魔相手にするなら素直に魔法使った方が効率的って事」
なんだか無駄な話をしてしまった気がする。
「了解しました。悪魔には魔法が効果的とインプットします」
「まぁそんな感じ。近接戦闘ではいつも通りオーラを纏った状態で殴ったり蹴ったりすればいいから」
「分かった」
「了解」
「それじゃちょっと厳しいだろうが、2人のレベリングと行きましょうか」




