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閑話 ポラリス上層部4

『『悪魔』が失敗しました』


『塔』からの報告でポラリスから放った刺客、『悪魔』が失敗したことが伝えられた。

『悪魔』は人間でありながら魔物にしか使えないはずの『憑依』というスキルを使える希少な人間だ。

 その『憑依』を使って様々な事件を引き起こしたことから大監獄に投獄されていたが、ポラリスからの依頼をこなす事が出来れば刑期を短くするという契約で利用していた。


「そうですか。それで現在の『悪魔』はどうしていますか」


 教皇が聞くと『塔』は答える。


『殺しました。サマエルという堕天使の攻撃を受け、呪いと思われる症状に苦しみもう使えない事と、その呪いの影響で大監獄全体が呪われてしまう可能性が高い事から死刑を実行しました』

「了解しました。それでは仕方がありません。死後は神の采配にお任せしましょう。それに約束通り刑期を短くしたのですからきっと喜んでいるはずです」


 ポラリスが取引などで本当に刑期を短くすることはない。

 その真実は刑期を短くするのではなく、死刑を早めるという物だった。


「しかし彼も残念でしたね。自由になる時間ではなく、ただ死刑を早めていたという事実は」

『何を言うのです『法王』様。彼らは自ら罪を犯し、神の慈悲を自ら捨てた者達。彼らに慈悲など必要ありません』

「しかし罪人相手でも嘘をつくのはよくない事でしょう。なんにせよ悲しい事です」

『『法王』様は慈悲深いですな』


『戦車』が感動したように言うが結局『悪魔』は失敗し勇者を連れ帰す事が出来なかった。

 これに対して次の手を打つ必要がある。

 最近は神の言葉がなかなか聞こえない。

 重要な事を話し合っていれば自然と聞こえてきたはずの神の言葉が法王の耳に届かない。

 法王は何故と感じながらもこちら側からできる事は祈り、神託が来ることを待つことだけだ。


「『法王』様。主は、神託はないのですか?」

「残念ながら最近は声を聴かせていただいてません。この状況に満足していない事は察する事が出来ますが、どのように打開すればよいのか教えてくれません」


『女帝』から神託はないのかと聞かれたが法王は聞こえないと首を横に振ると『魔術師』が持論を話し始めた。


『恐れながら。おそらく神は我々の事を試しておられるのではないでしょうか。神は我々人間に試練として『大罪人』を人間の力のみで捕まえよとおっしゃっているのではないでしょうか』

「詳しくお願いします」

『は。このポラリスという国が大きく反映した理由は300年前、現在復活して再び悪事を繰り返している『大罪人』を捉え、刑を実行したことから始まります。故に神は再び我々人間にもう一度自分達の手で『大罪人』を処刑台に連行しろとおっしゃりたいのではないでしょうか』


『魔術師』の言葉に『切り札』達はその可能性もあると考えた。

 神は慈悲深く人間を導いてくれる存在だが、時に突き放し自力でどうにかしろと言うときもある。

 それこそが試練であり、人類の手で超えるべき問題だとポラリスの人間達は考える。


「なるほど。『魔術師』の考えは分かりました。ですが『大罪人』はあくまでも勇者様を連れ去った罪しかありません。あくまでも彼は勇者様を連れ帰す邪魔をしているからこそこうして対策を考えているのです。一度六英雄の手で捕らえる事が出来たことは事実ですが、それと関係しているかどうかまでは分かりませんよ」

『すみません。ですが神託がないのであればその可能性もある、という事だけ心にとどめていただければと思います』

「そうですね。では次はどのように勇者様を連れて帰る事が出来るのか考えましょう」


 といった物のやはり現実的な案は出てこない。

 むしろ今回の作戦ならさすがに成功するだろうとみな考えていた。

『怠惰』からの情報によると『大罪人』は意外と仲間意識が強いらしく、仲間を傷付けないようにしているらしい。

 だからこそその仲間を利用して『悪魔』に憑依させたのだが、結果は失敗。

 おそらく成功率の高い作戦だっただけに代案が浮かばない。


『しかし結局のところ『大罪人』をどうにかしなければならないのは確定したのではないか』


 そう『戦車』が言い出した。

 確かにそれはみんな考えていたことだ。

 勇者を奪還する最大の障害であり、どうにか避けるか倒すかしなければならない相手。

 だが現状『大罪人』を倒す事が出来るとしてもポラリス側も大きな損害を覚悟しなければならないという結論は出ていた。


 というより『聖域事件』で証明されてしまったという方が正しい。

 聖域にいるせい騎士達が皆殺しにされ、生き残ったのが聖女のみという最大最悪の事件。

 あの場にいた教会騎士達はみな厳しい訓練と実戦を経験したことのある騎士達であり、教会騎士の中で上位に存在していた。

 そんな彼らが傷一つ付ける事が出来ずに全滅したのが聖域事件。

 これにより『大罪人』を倒すのは最終手段とし、できるだけ避けるべきだと結論が付いた。


『ですがどうするのです。確かに最大の障害は『大罪人』ですが、あれをどうにかする手段を持っていないでしょう』

『だからこそその手段を用意するのだ。『魔術師』が作っている()()、あれを使えばどうにかなるのではないか』

『あれはまだ調整中です。使用したとしても1日もてばいい方で全く実用的ではありません。あれを戦力に数えたところで無駄ですよ』

『だが目くらましにはなるのではないか。どうせ元々道具なのだからどう使おうが問題あるまい』

『そのような状態で使用することは出来ません!そんなことをすればただ情報を渡してしまうだけ。戦場で情報がどれだけの優位性を得る事が出来るか理解できるでしょう』

『だが他に気軽に使える戦力はない。ここは損害を考慮したうえで相手の実力を再度確かめてみるというのはどうでしょう』


『戦車』がそう『法王』に提案すると少し考えた後許可を出す。


「『戦車』と『魔術師』で『大罪人』の戦力を割り出すのに必要な数をまず相談してください。その後それが適切だと判断した場合許可を出します」


 ()()については本当に最後の手段しておきたいという気持ちがある。

 神の許可があるとはいえ他の者達から見れば納得できないと感じる者達の方が多いだろう。

 法王は今神の御心はどうなっているのか、知りたくて仕方がなかった。

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