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大罪人VS『傲慢』の堕天使

 連続で転移するよりもドラゴンの背に乗ってかっ飛ばす方が速いので俺はエジックから愛の国まで一直線で空を飛んでいた。

 その間にもレナから現在の状況を確認する。


『サマエルは転移していないのか』

『現在転移してポラリスまで移動する様子はありません。私達の攻撃を回避する際にも転移を使わずに避けていますのでかなり奇妙かと』

『だな。もしユウを連れ去るだけなら戦闘なんてせず、さっさと転移で遠くまで逃げる方がよっぽど効率的だ。戦闘っていうのは今も戦っているって事でいいんだよな』

『はい。逃走の阻止だけではなくサマエルは私達の事を倒そうと行動しています。ただ一点だけ問題が』

『なんだ』

『すでにサマエルの手の中にユウがいる事です。現在『正義』で展開した結界を球体状にして身を守っているのですが、サマエルの掌の中にいるのでいつ転移で逃げられるのか分かりません』

『奪い返せそうか』

『私とベレトだけでは難しいかと』

『他のみんなはどうだ』

『残念ながらあまり戦力にはなっていません。ジラントとズメイの攻撃は何故か効かず、ネクストは単純にレベル差があり過ぎて傷を与えるどころか気を引く事も出来ません。白猫はすぐに逃げました』

『白猫の事は元から戦力として数えてない。それより攻撃効いてないのか?ジラント達の』

『危険ですので魔法やブレスによる長距離攻撃が中心ですが、どの攻撃も一切効果ありません。物理攻撃はどうか分かりませんが、近づきすぎると呪毒によるダメージを受けてしまうので試していません』

『それでいい。あくまでも今回の目的はユウの奪還とサマエルの逃亡阻止だ。無理する事はない』


 会話をしている間に少しずつ戦闘音が聞こえてくる。

 もうすぐ到着する事を理解しながら俺はレナに言う。


『少しでも変なところがあったら教えろ。そこから突破口になるかもしれない』

『……ユウを捉える少し前、サマエルの様子が明らかに変でした』

『どんな感じに変だった』

『頭を抱えながら何かに耐えるようなしぐさをしていました。その際「お前なんか嫌いだ。早く出ていけ」っという言葉も聞こえました』

『……絶対に逃がすな。これは命令だ』

『承知しました』


 サマエルのブレスが上空に向かって放たれるのを見てから俺はさらにドラゴンを加速させる。

 ドラゴンはサマエルを本能的に怖がっているので正直嫌そうにしているが、俺からの頼みだから仕方がないという感じで協力してくれる。

 だが戦闘には参加しないという意思は強く感じるので無理に戦わせることはしない。


 元々サマエルは『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』として最上位の存在だ。

 俺がコレクションしている魔剣にもドラゴンスレイヤーはあるが、サマエルと比べれば大したことはない。

 簡単に言ってしまえばドラゴンを相手にした場合のみ切れ味が鋭くなる剣でしかない。

 だがサマエルの場合は固有スキルである『呪毒』がドラゴンに触れただけで死ぬまで苦しませ続けるほどの威力を放つ。

 前にも説明したように『呪毒』は呪いと毒の2つが混じりあったサマエルにのみ使用可能なスキル。

 自称正義の神がサマエルを堕天させる際にドラゴンを皆殺しにするように与えた、いや、無理やり付与されたのがこのスキル。

 元々サマエル自身も使いこなせていたわけではなく、しかもサマエル自身も純粋な天使からドラゴンの属性を後付けされたため『呪毒』の対象になってしまった。

 そのせいで苦しみ、のたうち回っても最後の神からの命令を果たそうとしているときに俺と出会った。

 一応その時に『呪毒』がサマエルの身体に影響を与えないように『色欲』で改造する事でサマエルは俺に恩を感じて現在に至る。


 どのような経緯でユウを連れ去ろうとしているのかは分からないが、おそらく自称正義の神が関係しているのは間違いない。

 俺は自称正義の神に対して強い怒りを覚えながらも、まずはサマエルとユウを助ける事に頭を切り替える。


 愛の国の首都の上空に着いたとき、ドラゴンは俺を思いっきり尻尾を使ってぶん投げた。

 もちろん落下地点にいるのはドラゴン状態のサマエルで、俺は飛び蹴りをしながらサマエルに叫んだ。


「正気に戻りやがれ!!サマエル!!」


 突然の強襲にサマエルは頬を蹴られたが顔を横に振って俺の事を振り払う。

 町のいたるが破壊され、同時に呪毒が霧状になってしまい修復するのにそれなりに時間がかかるだろうなと思いながらサマエルに向き直る。


 サマエルの目は……何かが混じっているような気がする。

 眼は開いているが片方の目だけ焦点が合っていない。

 そしてその焦点の合っていない目の奥に本当のサマエルが泣き叫びながら身体を取り戻そうと必死にあがいているのが見えた。


 おそらくこれは身体を奪われたな。

 魔法によるものかスキルによるものか、どちらなのかは分からないが、気に入らない。


 俺の頭の中で怒りに支配されながらもどんどん冷静になっていく。

 勝利条件はサマエルとユウの奪還、そしてサマエルの中にいる何かの殺害。


 サマエルは俺の物だ。

 サマエルは俺の宝だ。

 それを奪おうとするやつ、犯そうとするやつ、壊そうとするやつは、殺す。


「レナ!!」


 俺はそう叫びながらユウの結界の上に転移して思いっきり下に向かって踵落としをした。

 すでに戦闘態勢は整っており、全てのスキルを使用している。

 蹴りの威力に耐えられずユウを手放した。

 すぐさまユウの下にレナが走ってきてユウの開放はこれで完了。あとの事はレナ達に任せる。


 ユウを奪い返されたことに気に入らなそうにしているサマエルの身体を奪った誰かだが、俺は一切の容赦せず殺しにかかった。

 誰かは俺が本気でサマエルの身体を傷付けることを覚悟で攻撃してくるとは思っていなかったのか、深々とその鳩尾に拳が突き刺さる。

 空中で踏ん張りがきかない事でかなり飛ばされるが十分転移で追いつく事が出来る距離だ。


 人気のない森近くまで飛んでいったのを確認してから転移で後ろに着き、今度は背中を蹴り飛ばす。

 ようやく吹き飛ばされるのが終わった誰かは俺を睨み付け、ブレスを放った。

 俺は真正面から受けるが『暴食』を利用してブレスを食らいつくす。

 これにより俺のMPを増やすだけで終わる。

 その事に驚いている様子の誰かは連続でブレスを放つが俺には一切ダメージはない。

 俺は極夜を引き抜きながら『色欲』を発動、そして極夜に魔力を乗せて準備は終わった。


『色欲』の真骨頂は唯一蘇生薬を作れることだけではない。

 それは魂に干渉する事が出来る事だ。

 魂に触れるという事は相手の精神よりも奥深くに存在する最も触れてはいけない神聖な領域と呼ぶ事が出来るだろう。


 普通なら触れることも認識する事も出来ない魂と言う存在に関してだが、この『色欲』を使用した状態で見ると意外と人魂のような形ではない。

 魂も本人と全く同じ形をしている。

 その理由までは解明できていないが、おそらく頭から指の先まで魂は通っているという事だろう。

 見方を変えれば血液なんかと同じで全身に広がっているのが当然なんだろう。

 だから自然と本人と同じ形になるし、もし部位欠損した場合も魂が欠けると言えばいいのだろうか。

 魂も本体と同じように腕がなかったりする。


 では現在他の誰かに憑りつかれているサマエルはどのように見えるかというと、サマエルの魂の後ろによく分からない魂が羽交い絞めにしているような感じだ。

 これは完全に憑依が成功していない証拠であり、成功していた場合は本人の魂の周りに黒いオーラを纏っているように見える。

 つまりもう1つの魂がはっきりと見えている時点で中途半端にしか憑依できていない。

 実際サマエルの魂は羽交い絞めされている事に必死に抵抗している様子が見える。


 だから俺が攻撃するのはあくまでも羽交い絞めにしている魂の方。

 これを最も効率的にダメージを与える方法こそが『色欲』を使用した状態での魔力を込めた攻撃だ。

 実は魔力攻撃は物理ダメージよりも精神ダメージの方が圧倒的に大きい。

 ただの魔力と言うのは想像以上に密にしないと相手に物理的ダメージを与える事が出来ないが、精神ダメージは別だ。


 理屈までは分からないが純粋な魔力は魂にまで届く。

 多分これが正解だろう。


 他の魔法に変化させることで効率的に物理ダメージを与える事の方が重視しているが、こうして憑依系で身体を乗っ取られているのであれば純粋な魔力で攻撃した方が相手にダメージを与えやすい。

 サマエルの事を羽交い絞めにして好きに操ろうとする不届き者は殺すに限る。

 だがそのためにサマエルを傷付けては元も子もない。

 だから魔力で殴り、これから極夜で切り離す。

 多少は物理ダメージはあるが、ただ殴るよりはよほど効率的だ。


 サマエルを羽交い絞めする誰かも俺が遠慮なく攻撃してくることに戸惑いつつ、疑問に思っているようだ。

 そしてサマエル自身ではなく誰か自身にダメージが多く入っている事に疑問を覚えているように感じる。


 だがそんなことは関係ない。

 相手がどこの誰だろうが、殺す。

 俺の宝に触れた報いを受けろ。


 魔力を纏わせた極夜でサマエルを斬る。

 だが実際にはそのサマエルの魂に寄生虫の様にこびりつく気持ち悪い誰かを斬る。

 極夜はサマエルの腕を斬るが外傷は一切ない。

 その代わりサマエルに憑りつく誰かの魂の腕を斬る。

 切られた魂の腕はあっさりと消え去り、サマエルの腕はまるで糸が切れた人形のように突然垂れ下がる。

 サマエルは無傷で誰かの魂だけを斬った事実に驚く誰かだが、その隙にサマエルの魂は誰かを振りほどいた。


 これによりサマエルの身体から追い出されたのは褐色の男。

 顔に入れ墨が入っており、ピアスを多くつけたりしているガラの悪い男だ。

 こんなのがサマエルに憑りついていたのかと思うと殺すだけでは足りないように感じる。

 しかしこれで遠慮なく、一切の躊躇ちゅうちょなく殺す事が出来る。


「て、てめぇどうやって俺を引き離した!!俺様の『憑依』はそう簡単に――」


 ガラの悪い男が何か言っているが、そんな事よりサマエルの様子の方が気になった。

 サマエルはドラゴンの姿から人の姿に戻り、男の首を掴み持ち上げた。

 男は首を絞めつけられている事で言葉が止められる。

 そしてサマエルは俺以上の怒りをもって男に宣言した。


「貴様には死すら生ぬるい。永遠に苦しめ」


 そう言ってサマエルは『呪毒』を男に使用した。

 本家本元が使う『呪毒』は本当に強烈だ。

 男は喉が裂けたかのように甲高い悲鳴を上げ、首を絞められたまま苦しむ。

 泡を吹き、のたうち回り、白目をむき、奇声を上げる。

 そしてサマエルはポラリスがある方向に向かって男を思いっきりぶん投げた。


 おそらくポラリスに向かってぶん投げたんだろう。

『呪毒』は伝染する。

 大地を腐らせ、水は乾き、木々を枯らし、空気もけがれる。

 そして浄化するには非常に長い時間がかかり、最低でも50年はかかるだろうか。

 ポラリスのどのあたりに向かって投げたのかは分からないが、あの男は永遠に死ねないギリギリのところで苦しみ続け、ポラリス中に『呪毒』をばらまく事だろう。


 戦闘が終わり地上に降りると、サマエルは土下座した。


「申し訳ありません。本当に、申し訳ありません。油断していたところに一部とはいえ力を奪われ、いいようにされてしまいました。ユウにも危害を加えてしまうところでした。虫がいい事は分かっていますが、どうか。どうか捨てないでください。もう捨てられるのだけは……」


 サマエルは決して顔をあげない。

 そしてただひたすらに謝罪を続ける。

 ここでサマエルに気にしていないと言ったところで決してサマエルは自分を咎める事をやめないのは目に見えている。

 だからここで必要なのは罰だ。

 大きい小さい関係なく罰を与える事でサマエルはようやく落ち着かせる事が出来る。


 と言っても俺にとってサマエルが無事ならそれでいい。

 俺は土下座するサマエルの顔を無理やり上げてからその目をじっと見ながら聞く。


「もう大丈夫か」

「は、はい。もうあの男に憑りつかれていません」

「それならいい。そしてお前に罰を与える」


 それを聞くとサマエルは気を引き締めた。

 そんな大した事を言うつもりはないがまぁいいか。


「旅の途中いい感じにヤれる相手がいなかったからしばらく相手しろ。以上」

「え、あ、え。それではいけません!!それでは贖罪しょくざいになりません!!どうかもっと罰をお与えください!!」

「何勘違いしてるんだ?」

「それは……どういう……」

「俺最近自分だけが気持ちよくなれるようなヤり方出来てねぇんだよね~。だからお前にするのはそういう事だ。性交というよりは自慰じい行為に近い自分勝手な物。お前はその道具代わりに使われるんだ。普段以上にきついぞ」

「……本当にそれで罰になるのでしょうか」

「それじゃ逆のやり方に変えるか。みんなとヤってるときにお前だけ見学な。オナんじゃねぇぞ」

「そんな!?」


 そういうとサマエルは大きな心のダメージを負った。

 こっちの方がダメージ大きいとは思わなかったな。

 そう思いつつもレナに確認を取る。


『レナ。こっちは終わった。そっちはどうだ』

『お疲れ様ですナナシ様。現在解呪と解毒、被害状況を確認しています』

『ユウとかは大丈夫か』

『無事です。結界で身を守っていたので他の者に精神系の攻撃を受けている様子もありません』

『分かった。後みんなに伝えてくれ。今夜みんなとヤる』

『身体を綺麗にしてお待ちしています』


 これで良し。

 いや~これで今夜楽しみだ。


「あの、本当にそんな残酷な事をしませんよね?主様?主様!!」

名前  サマエル

レベル 94

称号  堕天使 堕ちた聖者 傲慢の大罪人

スキル 傲慢 呪毒 聖者覇気 森羅万象 魔神 無限再生 聖魔混濁

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