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『怠惰』の襲撃

『森羅万象』を使ってこの国を調べると1人だけ全く動かない生物が存在した。

 そこは俺がよく行く奴隷商の地下であり、下手をすれば使えない奴隷を捨てる場所と勘違いしていたかもしれない。

 だが不思議な事にこの部屋には必ず人が入る。

 観察し続けると介護のような感じだ。


 特定の時間がくると誰かが来てその者の身体を拭き、何かと繋がる物を確認。

 そしてまた布団をかけると仕事が終わったのか数時間過ぎてもその者はピクリとも動かない。

 寝続けていると言われればそれでだが、どうしても違和感が頭から離れない。

 なら俺は実行する。

 ご都合主義全開のチートスキルがあるのだから確認しに行けばいいだけだ。


 なんて宿の中で考えていると、どこからか針が飛んできた。

 極夜で針をはじくとすぐさま真っ黒なマントで身体と顔を隠した連中が襲ってくる。


 いかにも暗殺者と言う風貌ふうぼうの連中を極夜で首を斬り落とすと、どこに潜んでいたんだと言いたくなるほど現れた。

 俺は窓から外に出る前に殺した奴の落ちた首を見た。

 暗殺者だった男の首には武骨な鉄製の首輪がはめられている。

 それだけで俺は今の状況を理解した。


 俺は今『怠惰』に襲われている。


 窓から飛び出した後『傲慢』で国の中心に建てられているポラリス式の教会の屋根に転移し、状況を確認する。

 俺が出て行った宿はすでに多くの住民がそれぞれ武器を持って待機していた。

 人種も性別も、年齢もバラバラで年寄りから小さな子供まで武装している。

 と言ってもまぁ小さなナイフや包丁、中にはフライパンを持っている主婦もいたが、とりあえず武器になりそうなものを持って外で集まっていたという感じ。


 そしてその目は完全に焦点が合ってなく、うつろと言うかハイライトが消えているというか、とにかくまともな状態ではない。

 久々に見たがこれが生きた人形の本当の姿だ。

 本人達の意識を完全に無視し、主人の言う事だけを聞く生きた人形。

 まさかと思うが……この国全員が奴隷って事はこの国の人間全員と戦わなければならないという事か?


 …………バカバカしい。

 そんな面倒な事に付き合う理由はない。

 さっさと転移して直接『怠惰』を――


 なんて思っていると魔法が一斉に飛んできた。

 様々な種類の下級魔法と中級魔法の攻撃魔法が一斉に飛んでくるのはある意味美しいかもしれないが、その程度で俺にダメージなど与えることは出来ない。

 すぐに『暴食』を発動。

 放って来た魔法すべて食らい、MPに変換。時々飛んでくる銃弾はHP行きだ。

 攻撃してきたのは国に居る奴隷剣闘士や冒険者達。

 いつの間にかは分からないが冒険者達に関しては新たに奴隷として隷属の首輪をはめられている。

 俺以外の観光客、奴隷を買いに来た冒険者達の事は襲って隷属の首輪をはめて戦力に変えているようだ。

 抵抗はしているようだが、明らかに正気ではない一般人に対して躊躇ちゅうちょしている間にはめられたり、単純に『怠惰』によって強化されたことでステータスを上回れてしまった情けない連中もいる。


 俺は欠伸をしながら転移でもしようかと思ったが、少し遊んでやろう。

 わざと転移を使わずに『怠惰』がいる奴隷商の地下までのんびり行くとする。

 屋根を飛び降りて地面に降り立つとすぐさま教会の騎士達が俺の事を殺そうとしてきた。

 こいつらの目もハイライトが消えているが剣の太刀筋だけはそれなりに綺麗だ。


 だが雑魚魔剣を食らってさらに強化された極夜の相手にはならない。

 極夜は普通の剣を紙を斬る様にすっと刃が入ったかと思うとそのまま教会の騎士を両断した。

 次にシスターがロウソク台を両手で振り下ろすがデコピンで軽く吹き飛んで、教会の壁にひびを作りながら止まった。

 少し確認程度でやったが、やはり身体のダメージには関係なく動くか。


 隷属化された奴隷は主人の命令がリセットされるまでずっとそのまま動き続ける。

 流石に絶命したら動かないが、言い方を変えれば絶命しない限り主人の命令を続行し続ける。

 おそらくさっきの吹き飛んだシスターも本当はダメージで動けなくなっているはずだが、構わず動く。


 確かにこんなことをしていたら最低だって言われるわな。

 俺も昔似たようなことしたな~。

『怠惰』っていう事はかなり楽が出来るスキルだと思って実際にその通りだったが……ゲームしているのにNPC任せってゲームしている意味あるの?って思ってからやってないけど。

 その時の奴隷を処分するためにポラリスの町に隷属化した冒険者やら騎士やら送り込んで皆殺しにさせたな~。

 本当に懐かしい。


 だが今回は俺が殺される側だ。

 遠慮なく殺してもいいが……ほとんどが一般人というところがやり辛い。

 殺しに来た冒険者や騎士なら殺そうと思うが、ただ操られているだけの一般人を殺すのかと聞かれると少しやり辛い。

 殺すことそのものは簡単だが、俺が喧嘩を売る相手はあくまでもポラリスであってエジックではない。

 これはあくまでも余計な相手に恨みを買いたくないだけだ。

 大本命であるポラリスの後ろにいる神を殺すために余計な敵を増やしたくないだけ。

 今回はそのポラリスに所属していると思われる奴に操られているからマジで国から襲われているんだけど。

 だからまぁ殺してもいいかな~なんて考えたりもするが、やはり元はただの一般人だと考えると手を出さない方がいいだろう。


 なんて思いながら極夜を収め、一般人の攻撃はできるだけ避けたり、手にしている武器だけを破壊して先に進む。

 本当にありとあらゆる場所から一直線に俺の事だけを狙ってくるのだからすごい統率力だ。

 中には窓から飛び降りながら武器を振り下ろしてくるし、どこかで拾った石を投げてくる子供も参加している事から、どれだけの数を統率している事やら。


 厄介なのは獣人やエルフと言った他の種族であり、特に素手で攻撃してくる獣人達が厄介だ。

 殺さないと決めただけで殴ったり蹴ったりしているが、殺さないように手加減していれば当然すぐに起き上がって再び攻撃してくる。

 そしてその中にはこの前俺の相手をした獣人達もいた。

 彼女達の目もうつろで意識がないというよりは意識を表に出せない状態になっている。

 やはり獣人だと身体能力も高く、しかも素手なので『暴食』で武器だけを破壊するなんてことは出来ない。

 だって武器なんて使わずに爪や牙で攻撃してくるからな。


 だから彼らには申し訳ないが『色欲』で強化した俺の髪の毛を伸ばして頑丈にして即席のロープ代わりに使う。

 一瞬のスキをついて手を後ろにし、足も縛る事で動けなくする事が出来る。

『怠惰』使用者は有り余る人数を利用して縛られた彼らを助けるような行動はしないようにしているので1度縛れば多分正気に戻るまであのままだろう。

 縛られた誰かを開放するより、他の観光客や冒険者達を仲間にする方が効率的だと考えているようだ。


 なんて思いながら避けていると武器を破壊された一般人が俺にタックルして捕まってしまう。

 すぐに力尽くで外そうとする前に文字通り人が津波のように俺に覆いかぶさってきた。

 おそらくこのまま俺を押しつぶして殺すつもりなのだろう。

 だが俺はこの程度では死なないし、むしろ最初の方に押しつぶしてきた人達の方が死ぬ。


 まさに数の暴力という言葉がふさわしい光景だろう。

 圧倒的な数の力によって『大罪人』を倒そうとしているのだから、これは凄まじい事だ。

 たった1人の人間が数千から数万という数の人間を操っているのだからこれを脅威と言わずに何といえばいいのか。

 普通の人間ならここまでだろう。

 上から人が乗ってくるだけで押しつぶされて終わりだ。


 だがタイミングとしてはバッチリ。

 俺はこのタイミングで転移を行う。

 その理由は逃げながらも目的地である奴隷商の店から遠い場所に誘導する事が出来たからだ。

『森羅万象』で知っていたが、文字通りこの国中の人間が俺に向かっており、それは今現在も変わらず一直線で向かってきているのでほとんどの人間がこの奴隷商から遠い国の端に誘い出す事が出来た。

 これで『怠惰』の元に転移してもすぐには邪魔できないだろう。


 だからこそこのタイミングで『怠惰』と思われる誰かの部屋に転移した。

 俺を押しつぶそうとしていた一般人たちは大丈夫なのか少し心配だが、操っていた本人を殺せば『怠惰』の呪縛は解ける。

 そうすれば勝手にいつもの日常に戻っていくだろう。


 俺は『怠惰』が眠るベッドに近付く。

 1人こちらに向かって走ってくるものがいるようだがもう遅い。

 布団をはぎ取って『怠惰』の顔を見た。


「………………これが『怠惰』を本気で使った奴の末路か」

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