再びエジックへ
「これは使える。これは使えない。これは……一応持っておくか」
ポラリスに行った2日後、俺はポラリスから盗んだ呪われた武器、魔導書などを確認していた。
ぶっちゃけ魔導書のほとんどは呪われていると言っていいくらいの割合であり、呪われていない魔導書は町で普通に売っている魔法の入門書くらいしかない。
元々『ザ・デス』も呪われた魔導書の1冊から手に入れた魔法の1つだ。
その魔導書の著者は魔力放出の極みと言う物を実現したかったらしく、様々な魔力放出について研究していた。
しかし魔力放出は魔法ではないと当時の他の魔法使い達に言われていたらしく、どうしてもこの研究をのちの世に残したいと思って魔導書を書いたらしい。
ちなみに呪われた魔導書に呪われるとどうなるかと言うと、精神が汚染される。
より正確に言うと魔導書がその知識を手にした者に強制的に知識をぶち込んでくるため、それに耐えきれないと脳みそバーンになって死ぬ。
でも俺は何故頭がバーンとならないのかはよく分からない。
興味のある内に関係なく知識を強制インストールされるような物だから普通はバーンすると思うがこれなんかのスキルが助けてくれてるのかな……?
理由は不明だがとりあえず俺にとっては知識が強制的に入ってくるので、途中で飽きたりよく理解できないという事はないので便利な部分はある。
たまにだがいい情報や魔法を手に入れる事が出来るし、当たりは本当に大当たりだったりする。
それにしても魔導書だけでも100冊を超えてるって本当に凄いな。
300年前よりも前の魔導書もあったし、おそらくプレイヤーが書き残したのではないかと思われる魔導書も見つかった。
てっきりあそこには呪われた魔導書しかないかと思っていたが、そうでもないらしい。
とりあえず今は呪われているか、呪われていないかを区別し頭の中に強制インストール作業中。
やっぱ強い分使いどころが限られる魔法が多いな~。
呪われた武器に関しては俺とうまくやろうとする連中はそのまま残し、ぶっ殺す気満々の連中は極夜に食わせている。
俺と性格的に相性が悪い、その呪われた武器を使いこなせないと判断した武器だけなので数としては少ない。
なんだかんだで様々な武器を使いこなそうとしてきただけあって半分以上はそのまんま残っている。
そして極夜に食わせているのは下級の呪われた武器ばかり。
自我がなくて手当たり次第攻撃するだけの武器は要らん。
そんな呪われた武器は極夜で両断して食われてしまえ~。
こんな感じで呪われた武器関連は極夜に食わせ続ける。
極夜の力は底上げされるし、要らないもんは整理できる。
いや~ほんと極夜様様。便利すぎる。
「さて、こんなもんか」
腰を伸ばして背も伸ばす。
愛車様はドラゴンの姿で肉を食べる。
ドラゴンの姿になれるようになってから俺の魔力だけではなく普通に肉も食えるようになった。
いや、なったというよりは戻った?
もともとドラゴンだったんだから。
久々の1人旅、これはこれで悪くない。
300年前、俺が1人で自由に好き勝手にしていた頃に戻ったような気になる。
…………あれ?でもなんか違うな。
確かに昔に似ているが……同じじゃない。
違うと分かるのは奴隷がいない事?それとも愛車がドラゴンになった事?
他には……
………………帰る場所がある事か。
300年前は拠点なんてその場その場で作って、敵に見つかったら捨てて逃げる。
でも今は拠点という物ではなく帰る場所がある。
場所と言うのは少し違う気がするが、あいつらがいるところが俺が戻るべき場所だとなんとなく感じていた。
1人になってようやく分かった300年前との違い。
俺の周りにはいつのまにか仲間がいた。
「……なぁお前ら。俺らいつの間にか1人じゃなかったのな」
俺がそう言うと極夜とドラゴンから今更?っと言う雰囲気が伝わってきた。
そして極夜から不満そうな雰囲気と、ドラゴンからは呆れ返っていた。
あ、これもっと前から俺は1人じゃないと言いたい感じだ。
「悪かったよ。でも一緒じゃなくて帰る場所みたいなのがあるのが新鮮なんだよ」
そう言うと納得するような雰囲気になった。
納得してくれるのは良いが、これからはその帰る場所を守るために頑張らないといけない。
とりあえず俺が今目指しているのは檻の国、エジック。
おそらくだがここに『怠惰』がいる可能性が高い。
木を隠すなら森の中という言葉を信じてエジックに行けば『怠惰』につながる情報、あわよくば『怠惰』を見つけて殺す事が可能ではないかと考えている。
それに、前回エジックに来た時に非常に気になったことがあった。
それを確かめるためにも向かっている。
少し遠いが今のところユウ達に異常はない。
俺がいない事に不満を感じているようだが、特にこれと言った出来事もない。
もちろんサマエルも異常はない。
俺の考えすぎだったかと思い始めているが、油断してはいけないな。
サマエルだって俺の大切な宝の1つ。
奪われてたまるか。
俺はエジックに向かってドラゴンの背に乗って走る。
――
無事エジックまで到着し、さっそくこの国を調べ始めた。
調べ方は大したことではない。
この国で最も大きな奴隷商に探りを入れるだけだ。
前にレナと一緒に入った店であり、わざとらしく聞いてみるか。
向こうも金貨をチップとして出す客として俺の顔を覚えていた。
「これはお客様、お久しぶりです。本日はどのような奴隷をお求めでしょう」
「この間の白い猫の獣人はいるか?言い値で買おう」
「ああ……その、申し訳ありません。あの獣人はすでにほかのお客様に買われてしまいまして……」
「そうなのか?それは残念だ」
本当は俺が奪った訳だが知らないふりをして自然に聞く。
そして次はこれだ。
「では代わりになりそうな奴隷がいないか見てみたい。色々見せてくれ」
そう言いながらまた金貨をはじいて商人の前に投げる。
商人は両手で金貨を受け止めるとほくほく顔で言う。
「必ず納得していただける奴隷をご用意しましょう」
商人はそう気合を入れて案内を始めた。
前回行った高級奴隷を紹介されながら世間話をする。
「それにしても最近はエジックでしか奴隷を見ないな」
「そうですね……このエジックが国ではなくなり、都市になってから他の所ではあまり見ないようになってしまいました」
「どれくらい前に吸収されたんだ?」
「およそ……120年前くらいでしょうか。そのように聞いております」
「それからエジックの収入は一気に減っただろ。相手はあの潔癖なポラリスなのだから」
「そうですね……ポラリスの一部となったことで奴隷はよくこの国に来るようになりましたが、売る相手が少なくなってしまった事は大きな損失です。最近買っていただけるのは旧帝国くらいでしょうか」
「昔は奴隷はどこにでもいたのだがな……う~ん。やはり獣人がいいか」
「お客様は獣人がお好みですね。猫の獣人がよろしいでしょうか?」
「それは一通り見てから決めさせてもらおう。犬も猫も好きだ」
だが正直に言うとあくまでも情報収集が目的で買うつもりはない。
どの奴隷も悪くはないが、買うほどではないと思い昔やっていたサービスを思い出した。
「悪いな。どれも買いたいと思うほどの者はいなかった」
「それは残念です。こちらもお客様にご満足いただける奴隷をご用意できるよう精進したいと思います」
「よろしく頼む。それから1つ頼まれてくれないか」
「頼みとは好みの奴隷を仕入れてほしいという事でしょうか」
「そうではなく、前からいる奴隷は今別なところにいて夜は寂しい物でな、ちょうどいい抱き枕はあるだろうか」
抱き枕。
これは300年前に使っていた隠語であり、簡単に言うと娼婦を買いたいという意味だ。
キーワードは夜と抱き枕。
当時と全く同じではないだろうがニュアンスはそう変わらないと思って聞く。
それを聞いた商人はニヤニヤと頬を緩ませながら言った。
「そういう事でしたら今夜またこちらに来てください。いい所をご紹介しましょう」




