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side 法王

 警報が鳴る中ゆっくりと図書館に向かう法王と聖女。


「法王様、お急ぎください」

「犯人は判明しているのですから急ぐ理由もないと思いますが」


 急ぐ聖女に対して法王だけはのんびりと歩いている。

 法王としては誰が何をしたのか判明している事からそこまで焦る事はないと思っている。

 さらに言うと図書館内に封印されているのは基本的に呪われた道具や魔導書ばかり、危険だから封印しているのではなく、破壊できなかったから仕方なく封印しているという方が正しい。

 そのため法王にとってはいらないゴミを大罪人が持って行ったような感覚でしかない。


 しかし聖女にとっては大罪人が強化される可能性があるために放っておくことは出来ない案件だと考えている。

 てっきり法王は大罪人を思い通りに動かせないようにするためにあの話し合いをしていたのだと思っていたのだが、それすらあっさりと突破して図書館内の呪われたものを回収されるとは思ってもみなかった。

 殺すことは出来なくとも、意識をそらすことくらいはできたのではないかと後悔する。


 そして2人がたどり着いた時にはすでに多くの神父やシスター達が呪い対策の装備を身に付けながら突入する準備をしていた。


「こ、これは聖女様!法王様!!」

「構いません。準備を続けなさい。そして図書館長はどこにおられますか」

「図書館長はあちらで共に突入する準備を整えております」

「分かりました。ではご案内します」


 案内された聖女と法王は図書館長の元に案内される。

 突如現れた聖女と法王に驚いた図書館長は片膝をついて謝罪をする。


「法王様、聖女様。この度は申し訳ございません!!」

「構いません。それで状況は」

「これより調べます。あまりにも突然な事であり、対応できているとはいい難い状況ですがすぐに図書館内を調査、原因を発見してまいります」

「よろしくお願いします。それでは私達は戻りますね」

「は!!」


 そう法王は言ってあっさりと図書館長に任せる。

 聖女は少し戸惑いながらも法王の後を追う。

 そして法王は聖女に言う。


「あまり他の方に面倒をかけてはいけませんよ。私が直接動くのは他の方にとって面倒でしかありませんから」

「す、すみません。しかし法王様もご興味があったのでは?」

「興味はありますが全て自分の目で確かめないといけないほど几帳面でもありません。報告書が来るのを待ちましょう。それに少しは寝ておきたいですし」


 大罪人との会話は特別長いというほどではないが、それでもおしゃべりで寝る時間が短くなってしまった。

 まだ一応夜と言える時間なので軽く寝て朝まで待ちたいと思う。

 寝室まで聖女は法王を部屋まで送りその後聖女も寝た。


 そして数時間後の朝。

 法王は朝食を取り終えた後、図書館の被害報告を見た。


「ふふ。これはまた大規模な事を」


 これは表も裏も関係無く上層部に話しておかなければいけない案件だと判断した。


「枢機卿達を集めてください。これはみなに相談しないといけませんね」

「すぐに通達します」


 聖女がそう言って部屋を後にした。

 法王の護衛である女帝が短く聞く。


「『切り札(カード)』にも連絡しておきますか」

「ええよろしく。いつもの時間に呼んでください」

「承知しました」


 法王はすぐ近くの女帝が大罪人の手で何かされたはずだが、見た目に変化はない。

 普段と違う様子もなく何をされたのかさっぱり分からない。

 とにかく今は様子見をするしかない。


 その後業務として枢機卿達に図書館内のすべての魔導書、呪われた道具などが全て盗み出されていたことが判明した。

 ただしこれらの盗まれた物全て同時に盗まれたことが警報用魔道具から判明する。

 その方法は不明だが魔法防御は十分されていたことからスキルである可能性があるが、どのようなスキルによって行われたのかは不明。

 だが何者かにより図書館内にあった品、全7777種の魔導書及び呪われた道具が盗まれた。

 この結果から犯人はであると想定され、販売、譲渡も想定したうえで捜索されることが決定した。


 そして深夜。

 法王は『切り札(カード)』達の前で言う。


「情報はすでに伝えられているでしょうが、大罪人が図書館内の魔導書、及び呪われた道具を全て奪って逃走しました」

『その際人的な被害はあったのですか?』

「人的な被害はありません。しかし呪われた武器などをどのように使われるのか不明のため、注意して捜索すると決まりました」

『では盗人に関しては表の連中に任せるのですね』

「いえ、おそらく図書館の物を盗み出したのは大罪人だと思われますので、私達も捜索を行います」

『何故です?奴が盗んでいったものは全て呪われた物ばかりなのでしょう。ならば勝手にくたばるのでは?』


『戦車』の言葉に法王は首を横に振る。


「彼は呪われた武器を使いこなす事が出来るからこそ盗んでいったのです。ですからその分大罪人が強くなっている可能性を考慮し、警戒するべきでしょう」


 法王はそう言うとわずかに動揺の声がこぼれた。

 しかし『戦車』は全く意に返さず当然のように言う。


『何をおっしゃるのです。呪われた武器に頼る者など半人前である証拠ではありませんか。私が倒すことで証明いたしましょう』

「まだその時ではありません。それに取り返したところでこちらではただの粗大ごみ、無理に回収する必要もありません」

『ではどのようなご用件で?』


『魔術師』が聞くと法王はおかしそうに答える。


「どうやら大罪人は『隠者』の事を探しているようです。ですから『隠者』、あなたはしばらく姿を隠す方がよいのでは?」

『私を見つけることは出来ません。ご安心ください』

『生きこもってばかりの寄生虫が。油断しているとあっという間に潰されるぞ』

『ご忠告痛み入りる。しかし大罪人の動向は常に見張っている。よって私にたどり着く前に潰す事も可能だろう』

「『隠者』。あまり油断しないように」

『は。しかしご心配いりません。私は隠れるのが最も得意ですから』


 静かな口調でも見つけ出すことは出来ないと豪語する『隠者』。

 それを聞いて頼もしいと感じると同時に、本当に大罪人相手でも大丈夫なのか少し気になる。


切り札(カード)』達の話し合いも終わり、寝室に戻る法王。

 その頭の中にあるのは大罪人の事ばかり。

 初めて出会った自分とは全く違う思考を持つ存在に興味を持ち続ける。

 もしかしたら誰も知らない『隠者ハーミット』を本当に見つけるのではないか、神も知らないと言われるほどの誰かを見つけ出す事が出来るかもしれない。


 あくまでも予想だが大罪人は『隠者ハーミット』が持つ付与術に似たスキルを使用しているのかもしれない。

 大罪人は魔法よりもスキルの方を重視している。

 教会ではスキルよりも魔法の方を重視しており、スキルは自然と身に付けた物が多い。

 スキルは才能によって左右されるものだが、魔法なら知識さえあれば誰にでも使える物であり、平等だからだ。


 だが偶然同じようなスキルを得る事があるのだろうか?

 大罪人は確かに300年前に生きており、このポラリスが処刑を実行し、確かに死んだと記録されている。

 それから300年も経てば同じスキルを持つ者が2人いてもおかしくないのかもしれない。

 なんにせよ法王にとって大罪人との話し合いは驚きと興奮の連続だった。


 全く違う価値観。

 全く違う思考。

 全く違う善悪の概念。

 全く違う感性。

 全く違う神の捉え方。


 これらが法王にとって非常に大きな刺激となった。

 今までは法王とそう変わらない価値観や思考を持った者達ばかりで、過程は違えど最終的に神のためにというところは変わらなかった。

切り札(カード)』達の個性が強いのに協調性を保てているのがその証拠だ。

 みな最終的には神のため、主のためと言って神の言葉を信じて疑わない。

 だからこそ私達は繋がっている。


 最も不思議だと思うのは神への信仰心だ。

 大罪人は神を信じていない物だと思っていたが、そうでもないようだ。

 ただポラリスで信仰している神とは違う神を信仰しているのかと言うとこれも違うように感じる。

 信仰心がないわけではないのに神を崇めるような行為をしない。

 いったい彼の至高はどうなっているのか、彼はいったいどのような価値観で動いているのか非常に気になる。


 法王は大罪人と言う自身とは全く違う存在に大きな興味を持ったのだった。

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