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心変わりの理由



「えっ、で、でも、黒猫ちゃんに聞いてみないと案内してくれるか分からないですよね?」


「ご安心ください。先程、彼に確認いたしましたところ、快く了承していただきました」


「え? あ、そうなのですか」



 事もなげに答えたロンルカストに、なんだ案内してくれるんだと、一気に脱力する。

 そうだよね、ロンルカストが私を困らせるような事言うわけないよね。


 でも黒猫ちゃん、私やロンルカストがお願いした時は、のらりくらりとかわして嫌がっていたのに、レオ様だということ聞いてくれるんだ。ちょっと気分屋さんすぎじゃない?

 ぶーっと頬を膨らませてみたものの、偶然目が合った廊下の柱の炎は、楽しそうに自分の燭台で遊んでいるだけだった。


 大剣を持ったアルトレックス像の上半身が突き出た形の燭台の根本部分に絡み付くと、ないはずの下半身を炎で形作り、ヒョコヒョコと足を動かす真似をする。

 ものすごく精巧な仕上がりだ。そして上半身にインスパイアーされたのか、服は着ていなかった。


 見てはいけない部分があらわになってしまったアルトレックス像に赤面して、黒猫へ感じていたモヤモヤは、何処かへ行ってしまった。

 そのかわり、急に頬を赤らめた理由を聞きたがるロンルカストにうまく答えられず、私はしどろもどろになったのだった。



 1日が終わり、ベッドに潜り込む。

 意識が落ちる前に、ロンルカストがレオ様の脅し文句を伝えて無理やり従わせた可能性もあると気づき、明日確認しなきゃと思いながら就寝した。




 新しい朝が来る。

 天気は快晴だ。木枯らしの音も聞こえない穏やかな冬晴れで、杖結びには吉日だと思う。

 黒猫用に開かれた扉の隙間からテトテトとやってきたご本人に挨拶をする。



「黒猫ちゃん、おはよう」


「おはよう、今日もくれる?」


「うん、お花だよね、もちろん。ねぇ、今日は本当に杖結びの続きしてくれるの?」


「僕、嘘なんてつかないよ。君こそ、今日でいいんだ?」


「私はありがたいけど、でも、もしかして黒猫ちゃんがレオルフェスティーノ様に脅されたのかなと思って」


「そう、君がいいなら僕もいいよ。それに僕は僕の道しか歩かないから、例え脅されてもね」



 渡したいつもの赤い花をベッドの上でフンフンと嗅ぎながら、黒猫は答えた。

 脅されていないと分かって安心したけど、それじゃぁ何で急に案内してくれる気になったんだろう? 

 今度はベッドの上で後ろの右脚を上げて、背骨入ってないんじゃないかと思える柔軟性で、ザリザリとお腹と右脚の毛繕いをしはじめた黒猫に、1番気になっていた事を聞く。



「じゃぁ、どうして急に気が変わったの? 前は嫌そうだったのに」


「彼は対価を払った。その分を返すだけだよ」


「え? 対価?」


「そう、僕はそういうものだから。知らなかった?」


「えーっと、それって、レオルフェスティーノ様が私のために何かを払ったってこと?」


「まぁ、彼のためでもあるからね」



 対価と聞き驚いたが、彼自身にもメリットのある事だと分かって納得する。

 あぁ、ビックリした! あの冷徹貴族が私のためにわざわざ何かしてくれるわけないよね。胸を撫で下ろしていると、毛繕いを終え花を咥えた黒猫はピョンっとベッドを降りる。

 一度、私を振り返って髭をピクピクさせたあと、テトテトと部屋を出ていくお尻を見送った。

 


「五の鐘と六の鐘の間、夕刻に杖結びの続きを執り行います」



 朝食後、お茶を飲んでいると1日の予定を伝えに来たロンルカストから、杖結び再開の時間を告げられる。今日も深緑の側近服の右胸にはシャーラムが付けられている。ちょっと胸がギュッとしたが、気づかないフリをする。



「夕刻…… この前もですが、杖結びは遅い時間に行うのですね」


「一般的に時間の指定はございませんが」


「念のためだよ、その方が彼にとって都合がいいからね」



 ティーポットと追いかけっこで遊んでいた黒猫は、ロンルカストを遮るように話し始めた。

 テーブルの上で遊ぶのはお行儀が悪いと叱るべきなのだが、この前は嫌いと言っていたティーポットと黒猫が仲良く戯れているのが微笑ましくて黙認している。……ずっと黒猫が鬼みたいだけど、まさか虐めてるわけじゃないよね?



「あ、そうでした。アルトレックス様も日中はお忙しいですよね」



 アルトレックスの予定をすっかり忘れていた私は、納得して食後の一杯を飲み終わると、テーブルから離れ勉強部屋へと向かった。

 


 あっという間に時間は過ぎ去る。なんだか一日中そわそわして、落ち着かなかった。

 午後の書類仕事でも、気づいたら同じ箇所を5回も計算し直していたが、ロンルカストがソッとその書類を取り上げて、こちらはもう十分かと思われますよ、と言われるまで、全く気がつかなかった。



 五の鐘が鳴る。遠足の前日のようなふわふわ感が抜けないまま、早めの夕食を取ると出かける準備をした。


 玄関で外用のコートをセルーニに着せてもらう。ロンルカストも深緑の側近服の上に厚みのあるコートを着ていた。

 横にいる黒猫はいつもと変わらないが、防寒着が標準装備なので問題ないのかな。くわぁーあと、緊張感のない欠伸をしながら、尻尾で床をペチペチ叩いている。暇そうだ。

 ロンルカストもいつもと変わらない様子だし、緊張しているのは私だけのようだ。


 セルーニに行って参りますと言い残し、家を出て玄関の前に立つ。

 空の青い色は、赤いグラデーションに侵されはじめていた。カラカラと吹く風が冷たい。朝は穏やかだったが、少しずつ風が出てきたようだ。

 ギュッとコートを握りしめる。ふと、気になり足元の黒猫を見ると、少しだけ寒々しく見えた。



「黒猫ちゃん、寒くない?」


「 ……。 」



 返事がない。ただの屍のようだ。

 頭の中で、有名な青いスライムと某RPGゲームのBGMが流れ出したが、頭を軽く降ってかき消した。口に出しても、この世界で通じるとも思えない。

 その場にかがむと、動かない黒猫を両手でだき抱える。引き寄せて胸元からコートの中に入れた。

 すっぽりとコートに入った黒猫は、モゾモゾと動きピョコリと顔だけ出したので、そのままの位置で黒猫のお尻をコート越しに支え立ち上がった。


 何も言わない黒猫は金色の目を細めて満更でもない顔をしている。お気に召したようで、よかった。私も猫湯たんぽをゲットできて満足でござる。

 ホカホカの黒猫の耳が顎に当たり、ちょっとくすぐったかったので腕の位置を調整していると、アルトレックスが二頭の真っ白なグラーレを引き連れて家の前までやってきた。



「すまない、またせたようだな」



 紫紺色の髪が冷たい風でバサバサと揺れているが、大股でガシガシと歩く姿からは、全く寒そうに見えない。

 今日も重そうな大剣を軽々と腰に差し、割と軽装だった前回と違い、今回はがっつりとした鎧とその上に白いマントを付けている。

 体にフィットした全身鎧は、アルトレックスが歩くたびにガシャガシャと軽く金属の擦れる音を立てた。

 昨日の炎の悪戯を思い出し、アルトレックスの見てはいけない部分をつい想像してしまった私は、少し赤面した顔を隠すように頭を下げて挨拶をした。

 


「アルトレックス様、本日は宜しくお願い致します」


「あぁ、任された。今度こそ役目を全うする所存だ。それにしても、わざわざ外で待っていたとは、寒かったであろう?」


「とんでもございません。護衛を請け負っていただくのですもの、当然のことです」


「ミアーレア様は礼儀を重んじるお方でございますので」



 アルトレックスと玄関からもバッチリ見える燭台とを、ご対面させるわけにはいかない。家に入れたくない理由をなんとかごまかせた私は、ほっとした。


 そして、後ろでシレッと援護射撃するロンルカストに、私もこうして掌で転がされているんだなと、ちょっとだけ怖くなったのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

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