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映画のワンシーン


 


「えっと、失くしたのは、どんなものかな?」


「ふぐっ、だいじな……もの、グズッグス、わたしの、だいじな…… 」



 うーん、これ以上は聞いてもダメみたい。みたところ、幼稚園生くらいの子だ。おもちゃとか、綺麗なシールとかかな?



「探すから、ちょっと待ってね?」



 何十と並ぶ引き出しの中の、一つの取手に手をかける。 

 力を入れて引くと、木でできた引き出しは摩擦による少しの抵抗を見せたものの、カコンと軽い音を立てて簡単に開いた。


 良かった、鍵はついていないようだ。どんなものが入ってるんだろうと、少しワクワクしながら引き出しの中を覗いたが、何も入っていなかった。

 うーん、本当に飾り用の棚なんだ。お城だから、それっぽいものが入ってると思ったのに残念。まぁ、こんなところに無用心に高級品を置くわけないか。

 

 後ろで見ているかもしれない女の子に、落胆した様子を見られてがっかりさせないように、カコン、カコンと、手当たり次第に引き出しや戸棚を開ける、それっぽいものが見つかると、女の子に確認をした。



「んー、この虹色の羽ペンかな?」


「ちがっ、ぐすんっ、 それじゃない…… 」


「じゃぁ、この蒼い綺麗な石?」


「ひっく、それも、ちがう…… う、うぇーーん!」


「わわっ! 泣かないで、ごめんね!」



 ついに女の子は、大泣きをし始めてしまった。

 焦りとなかなか当たりを引けない罪悪感から、ガコンガコンと片っ端から乱暴に開けまくるも、殆どが空っぽだ。



「うわぁーーーん!! ひっくぅ、うぇーーん!!」


「すっ、すぐに見つけるからね! もうちょっとだけ待ってね!」



 徐々にボリュームが上がる泣き声への焦燥感と、安請け合いした自分への後悔とが合わさり、このカオスな状況の原因を作った苛めっ子への怒りに責任転嫁される。

 ただでさえ迷子で大変なのに、誰なの!? こんな幼気(いたいけ)な女の子のおもちゃを隠して泣かせるいじめっ子は! 



 開けっぱなしになったハズレの引き出し達をそのままに、次々と引き出しや扉を開けて中を覗き込む。

 空っぽばかりが続いた。もぉー! 何も入ってない棚なんて、置いとかなきゃいいのに!

 飾り棚の意味を全面否定していると、ある引き出しの中に真っ赤なブローチを見つけた。


 掌サイズで、バラのようなデザインだ。 この女の子には、ちょっと大人っぽいかもしれないけど、いちおう聞いてみよう。

 お母さんに貰ったものかもしれないしね。



「もしかして、これかな? 赤い綺麗な…… 」



 女の子に見せようとブローチに触った瞬間、ブローチからぶわりと眩しい光が溢れ出す。目を閉じる間もなく、目の前が真っ白になった。



「え!? わわっ!!」



 一瞬の浮遊感の後、ストンと地に足が着いた感覚がした。

 光攻撃はすぐに落ち着いたが、後遺症で目がチカチカと眩んでいる。頭もクラクラして、ちょっと気持ちが悪い。

 胸に手を当てて、深く息を吸い込み吐き出しを繰り返すことで、上がってこようとする酸っぱい液を胃の中へ押し込めた。

 


「もぉ、今日は何なのほんとに…… 」



 深呼吸と悪態を吐いた効果で気分は落ち着いた。

 少しして、うざったかったチカチカが落ち着き、目の前の色彩も戻ってくる。そんな私の前には、薬草園が広がっていた。



「え? あれ? ここ……薬草園!? 城から出れた!! あ、でも、あの女の子は!?」



 キョロキョロと辺りを見回すも、女の子は見当たらない。

 どうしよう、置いてきちゃったみたいだ。 城に戻る? いや、離れに戻ってるかもしれないロンルカストに相談した方がいいかな?

 とにかく薬草園から出ようと通路を歩く。ポメラの咲く一角に辿り着いた。


 しまった。この先は行き止まりだ。動揺して反対方向に歩いてきちゃった。

 ロンルカストがいないと、城どころか通い慣れた薬草園さえも満足に歩くことができない自分の方向音痴さに辟易する。

 現実逃避気味に、咲き誇るポメラを眺めた。



 今日も、綺麗だなぁー。ん? でもいつもよりも、元気がないような? 気のせい?

 微妙な違和感を感じてしげしげとポメラを眺めていると、遠くから声がきこえてきた。

 朗らかな話し声はだんだんと近づき、会話の内容も聞きとれるまでになった。声の感じからして、1組の男女のようだ。



「クスクス…… またそんなこと仰るのですね。わたくしは騙されませんよ?」


「いいや、ほんとの話さ? 疑うのならば、今度ベルセに聞いてみるといい」


「ふふっ、ベルセと仰いましたね? 貴女は困った時は、すぐに彼の名を出しますもの。知ってらっしゃって?」



「あぁ、シャトネット。私の負けだ。君の聡明さには、今日も感嘆が尽きないよ。どうかこの償いに、次の社交界で君をエスコートする重責を、私に与えてくれないだろうか?」



「まぁ、それが目的でいらしたのね。ふふふっ。イリスフォーシアの光を望まないセリノーフォスはいなくてよ」


「そんな事はない。私はいつだって私のオケアノードルの連珠を盗もうとするスコダーティオの足音に怯えてるのさ」


「クスクス…… 」



 なにやら甘々な雰囲気だ。

 カップルのようだが、2人の後ろからは、それぞれの側近が少し離れてついてきている。

 貴族はデートの時も側近つきなのか、プライベートが無くて大変だなと、変なところに同情していると、二人はどんどんと私の方へ近づいてきた。

 

 どうしよう、この先は行き止まりだ。隠れる場所も無い。

 困った私は可能な限り通路の端に寄り、二人の後ろに控える側近たちのように頭を下げた。

 きっと私に気づいた向こうが、邪魔者のいない方へと勝手にルートを変えてくれるだろう。


 そう思いながら軽く頭を下げて様子を見守っていたが、私の願いも虚しく、二人は私から少しだけ離れた位置で立ち止まった。

 二人きりの世界に入った彼らはお互いの姿しか見えないらしく、邪魔者の私がいても御構い無しのようだ。ラブラブ薬草園デートを続行している。


 気まずい。二人は何とも思わなくたって、私は凄く気まずいよ。

 いい感じのところに水をさしてしまっている申し訳なさと、この甘い雰囲気に耐えられない気持ちでムズムズする。

 でも行き止まりの後ろに進むこともできないし、向こう側に行くためには、2人の間に割って入らなければならない。

 たとえ相手が貴族じゃなくても、私にそんな度胸はない。


 空気、景色、私は壁紙…… 心を無にして透明人間になろう……

 せめて2人の雰囲気を壊さないように、気配を消して景色と同化した。



「これはポメラという花だよ」


「まぁ、とても綺麗な花ね」


「あぁ、そうだね。ほら、見ててごらん」



 男の方が、顔の横に咲くポメラを一つ摘んだ。

 摘まれたポメラの近くの蕾が一つ膨らみだし、花を開かせる。



「まぁ、なんて不思議なこと…… 」


「驚いただろう? このポメラは、土持ちの魔力の影響を強く受けるんだ。僕が摘めば、新たな花が咲く」


「このような花があったなんて、わたくし、初めて知りましたわ」


「ここに来る貴族は少ないからね。このことを知るものなど、ほとんどいないだろう」



 そういった男性は、片膝をつき、摘んだばかりのポメラを差し出す。柔らかい笑顔を浮かべていた表情を、真剣なものへと変えた。



「シャトネット、君も知っての通り私は土持ちだ。この土持ちの矛の柄にかけて、私はアディストエレンを守ることに誇りを持っている。だがしかし、騎士として先頭に立てぬなど家の恥だと、後ろ指を刺さすものがいることも事実だ」


「そんなことは…… 」


「聡明な君ならば分かるだろう、私と一緒になれば、待ち受ける未来の重さが。でも、それでも、君を願う私を許して欲しい。君のことは、必ず僕がまもるよ。だから、どうかこの先も、僕のそばにいて欲しい」


「 ……。 」


「私が摘む限り、このポメラたちは永遠に枯れることはないだろう。僕の変わらぬ心を込めて、このエーダフィオンの加護を受けたポメラを、毎朝君に捧げたい。私の可愛いシャトネット。どうか私の願いに応えて、このポメラを受け取ってはくれないだろうか」



 何ということでしょうか。突然の、プロポーズが始まった。

 初めて薬草園にきた時、ここで告白されたら素敵だろうなと妄想したが、本当にする人がいるとは! 私もドキドキしながら、お相手の返答を待つ。



「 ……。わたくしのテーレオ。貴女を支え、共にこのアディストエレンを守る助力となることに、一つの否もございません。わたくしの知は、全てあなたの為にあるのです」



 心を尽くした彼からの告白に、彼女がイエスと答えた。

 もう、なんでだろう。全然知らない人たちなのに、素敵すぎて感動する。

 部外者の私がいて、本当に申し訳ないけれども、後ろに控える満足そうな顔の側近達と同じように、私も心からの祝福とエアー拍手を送った。


 女性の方は、後ろ向きなのでよく見えないが、男の方は結構な美青年だ。きっと彼女も美人なんだろう。

 バラに似たポメラに囲まれた美男美女が、幸せと夕陽に包まれていく。



「あぁ、セリノーフォスの目覚めの時が近いな。私は君の髪色を纏うこの時間が好きだが、同時に君と離れなければならないことが憎らしくもあった。だが今日からは、もうセリノーフォスを厭わしく思うこともない」



 跪く彼から差し出されたポメラを、彼女が両手で愛しむように受け取った。

 美青年は、彼女を見上げながら心底嬉しそうな顔で微笑む。

 それは、この世の全てが輝いて見えているかのような笑顔だった。


 

 今日は色々あって大変だったけど、最後にいいものを見せてもらったなぁ。心がほんわりと暖かくなる。

 まるで、幸せのお裾分けをもらったような気分だ。


 飴色の空をバックにした映画のように素敵なワンシーンと、笑顔を崩し幸せを噛みしめるような表情を見せる彼につられて、私の口元も自然に上がる。

 そして、そのままグラリと後ろに倒れたのだった。



 お読みいただき、ありがとうございます。

 精霊の名前や、貴族の会話についての答え合わせは、もう少し先のお話になります。

 大丈夫です。ミアもよく分かっておりません。


 少しでも続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや、下の⭐︎を押してくださると嬉しいです。 

 創作の励みになります。どうぞ宜しくお願い致します。

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