金色の魔術具
「薬草園をじっくり見るのは初めてだな。少し暗くて、よく見えないのが残念だ」
薬草園に着くと、アルトレックスはそう言いながら、周囲をぐるりと見回した。
いつもロンルカストと2人で歩く離れから薬草園までの道を、アルトレックスをいれた3人で歩くのは、少し変な気分だった。
大柄なアルトレックスの歩幅に合わせて歩いたので早く着いたが、その分息が切れている。呼吸を整えて、返事をした。
「はぁっ、はぁっ、ふぅー……アルトレックス様とは、先日此方でお会いいたしましたが、普段はあまり、薬草園へは足をお運びになられないのですか?」
「此処で其方と? ……あぁ、そうか。あの時は、演習終わりに戦術についてレオルフェスティーノ様と談議しながら歩いていたのだ。レオルフェスティーノ様が突然走りだしたので、私も慌ててここまで追いかけてたのだが、ふむ、あの時は敵襲かと思っていたので、じっくりと周りを見る余裕などはなかったな」
「そ、そうでいらっしゃいましたか…… 」
衝撃の事実が発覚した。あの時、私はリアルに敵認定されていたらしい。
どおりで2人とも怖い顔をしていたわけだ。バッサリ斬り殺されていても、おかしくなかったんだね。
ベルセのおかげで、すぐに誤解が解けて本当によかった。
過去の幸運に心から安堵し、ベルセに感謝を捧げていると、先頭で薬草園の中を進んでいたロンルカストが立ち止まり、足元の右側の花壇に掌を向けた。
「ミアーレア様、まずはこちらの花を一輪、お摘みください」
ロンルカストが手で示した方を見る。
黄色いビロードの毛を被った小花が、ジギタリスのような総状花序に咲いていた。
「こちらはベルクムという花です。陽の属性を強く持つといわれていて、別名、〝精霊のランタン〟とも呼ばれる花です」
「どうぞ」とロンルカストに促され、ベルクムの前に屈んだ。
不思議な見た目の花に少しドキドキしながら、開いている小さな黄色い花弁に、そっと手で触れる。
「あ、フカフカしてる…… 」
柔らかい産毛に包まれた花弁は、見た目通りフカフカとしていて、触り心地が良かった。
ツンツンと触り、ベルクムの花弁のふわふわ感触を楽しんでいると、茎に連なっている他の小花の蕾が一斉に膨らみだす。
見る見るうちに丸く膨らんだ蕾達は、弾けるようにフワッと花を開かせた。
黄色いアンティークランプのような形のベルクムは、仄かに優しい光を帯びていて、次々と花が咲く様子は、まるでクリスマスツリーに飾り付けられた電球のようだ。 黄色一色だけれども。
「わっ! びっくりしました。ベルクムは触れると淡く光りながら咲くのですね。確かに、小さな精霊が手に持ったら、ランタンのように見えてとても可愛いです」
親指ほどの大きさになった小人セルーニが、蝋燭の明かり代わりに、ベルクムを持って行進する姿を想像した。可愛すぎて萌える。
「アルトレックス、私の不手際で大変申しない。護衛の依頼料についての確認がまだでしたね。契約書の第14項を確認してください」
「どうしたのだ? 依頼料はあれで良かったのではないか?」
「友人だからといって依頼料を踏み倒すのは、私の信念に反します。契約書はこちらを見てください」
「あ、あぁ。分かった」
触れるとポンポンと花が開き、優しい光りを放つベルクムで私が遊んでいる間に、ロンルカストはアルトレックスと、依頼料の話をしていた。
ボソボソとした2人の話し声が聞こえた私は、慌ててベルクムと遊んでいた手を引っ込める。
どうしよう。 私、あんまりお金持ってないのに……。
アルトレックスの護衛代は、どのくらいで、どこから出すんだろう。
「ロンルカスト、あの、アルトレックスの護衛代ですが…… 」
「ご安心ください。ディーフェニーラ様よりポメラアロマとポメラウォーターの代金の一部を、製作必要経費として事前に受け賜っております」
「そうですか! 良かった」
出来る側近のロンルカストは、しっかりと我が家の財務管理までしてくれていた。
時々ササッと出かけていくのは、そういう処理や手続きをしていたのかな? こっそり休憩してるだなんて邪推して、ごめんなさい。
アロマ代も出ると聞いて安心する。
ただ働きじゃないと分かり、元手が殆どかかっていない分、ちょっと得した気分になる。
「はい。憂いを抱かせてしまい、申し訳ございません。 ……それでは、儀式の準備をはじめましょう。摘んだベルクムを、こちらへお入れください」
笑顔のロンルカストは、後ろで契約書を読み込むアルトレックスをそのままに、抱えていたものを両手にしっかりと持ち直すと、かけてあった銀色の布を1枚ずつ丁寧にめくる。
めくり終えると、片膝をついて両手を前に差し出した。
魔術具としか聞いていなかったけど、なんだろう? 大切そうに運んでいたし、高級品かな?
近づいて中身を覗き込む。ロンルカストの持ってきたものは、底の深い金色の丸皿だった。分厚い金属の板の上に乗っている。
金皿は、細かく模様や装飾が入っていて、見るからに高そうだ。何処ぞの王宮の、ガラスケースの中に飾られていそうな感じで、ロンルカストが丁寧に扱っていたのにも納得する。
皿の半分ほどの深さまでは、透明な水が張られていた。
揺らめく水底には、同じ金色だがお皿に比べて輝きが鈍いアンティークブローチが沈んでいる。
ブローチには、細やかなドレープのように大きく羽を広げた鳥が、モザイク調で繊細にデザインされていた。
孔雀に似たモチーフの体の真ん中は、大きなピンク色の宝石がはまっていて、鈍く輝くその宝石の周りを、等間隔に配置された6粒のダイヤモンドのような小石がグルリと囲んでいる。
私は美しいブローチに見惚れながら、ロンルカストに言われたように、摘んだばかりのベルクムを、そっと金皿へ落とした。
チャポン……
軽く音を立てたベルクムは、ゆっくりと水の中へ沈んでいく。
静かに水底へたどり着くと、水面がポワッと淡い金色に光り出した。瞬く間に光は、金皿から溢れ出す。
「わわっ!?」
「ミアーレア様っ!!」
「おっと、危ない!」
「わぁぁっ…… ふぅ。 ……アルトレックス様、ありがとう存じます」
ブローチを見つめていた私は、突然の眩しい光に目が眩み動揺する。
軽い立ちくらみを起こし、頭から後ろへ転びそうになったが、魔術具を抱えているため動けないロンルカストの代わりに、近くにいたアルトレックスに支えてもらい、ことなきを得た。
あ、危なかった……。
お皿が光るんだったら、先に教えてくれればいいのに。
アルトレックスにお礼を言い、心の中でロンルカストに文句を言う。
目潰しを仕掛けてきた金皿の光は既に収まっていて、金皿は「私のせいじゃないよー」と知らんぷりをしている。
「あっ! 色が!」
水面も透明へと戻り、代わりにベルクムが沈んだ水底では、6粒の小宝石の中の一粒が金色に変化していた。
不思議に思い金皿を見つめていたが、ロンルカストがサッと立ち上がったため、お皿の下の金属板しか見えなくなる。
むー! さっきから、ロンルカストが少し意地悪な気がする。 お客様のアルトレックスがいるから、迂闊に文句が言えないところが妬ましい。
確かに、準備にあんまり時間がかかると、遅くなっちゃうのは分かってるけどさ。
でも、もうちょっとブローチを見せてくれたっていいのに!
「 ……では、次に参りましょう。こちらは、アルーセという薬草です。月属性でございます。伝承では強い磁力を持ち、常に葉を北に向けているため、〝ディミゴルセオスの杖〟とも呼ばれています」
私の不満げな視線をどこ吹く風と受け流したロンルカストは、シレッと儀式の進行を続けたのだった。
原稿用紙20枚を超えたため、前半と後半に分けました。後半は明日、投稿予定です。
ちょっと長めです、原稿用紙12枚分くらい。
魔術具の先制攻撃を受けました。
悔しかったのでロンルカストに八つ当たりの倍返ししたいミアですが、あっさりとスルーされています。
お読みいただき、ありがとうございます。
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