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杖結びの護衛



「えーっと、あ、そういえば杖結びって、どんなことをするのですか?」



 首を軽く左へ傾けたロンルカストの、まさか、今朝の話を聞いていなかったなんてこと、ありませんよね?と言いたげな視線から逃れるため、私は早口で質問をした。



「杖結びとは、杖となる枝を探しに行く大切な儀式でございます。自身の魔力を光へと視覚化し、精霊の力を借りることで、魔力と相性の良い木への導きを得るのです」



 私からそう聞かれるのは想定内だとばかりに、ロンルカストはスラスラと答える。

 分かるような分からないような内容を、頭の中で整理しながら、質問を重ねた。



「んー? 見えるようになった魔力の光の後を追って、木を探しにいくのですか? 歩いて?」


「その認識で間違いございません。移動方法は、導かれる場所が遠い可能性もありますので、グラーレを使いましょう」


「ふわぁー。なんだか、楽しそうな儀式ですね」



 ユラユラと、誘うように揺れながら飛んでいく蛍と、追いかけっこする様子を想像して、ほっこりする。でもすぐに、乗馬なんてした事ないと気づいた。


 パチンと、妄想が弾ける。

 風を切りながらパカッパカッと、颯爽と走るグラーレの背に乗るロンルカストの横で、グラーレに振り落とされた私が、必死で走りながら蛍を追いかける姿に映像が切り替わった。



「 ……私、グラーレに乗ったことがないのですが、大丈夫でしょうか? 」


「私がお共いたします。ご安心ください」


 

 グラーレはロンルカストと2人乗りだそうだ。

 頼もしい返事が返ってきて、良かったと安心する。

 杖結びは六の鐘に始めるとのことで、いつもより早めに夕食をとり、出かける準備をした。


 玄関でセルーニに、ファーのついたコートを肩からかけてもらう。

 エプロンのポッケからは、今日もシャーラムが、ピンク色の鳥頭を覗かせていた。

 

 セルーニにシャーラムを渡してからもうすぐ一週間経つが、ポッケのシャーラムは、なぜか枯れずに鮮やかな色を保っている。

 セルーニに理由を尋ねると、ミアーレア様の魔力を、たっぷりと含んでいますので…… と、恥ずかしそうに教えてくれた。

 照れる理由も、魔力を含むと枯れなくなる理由も分からなかったが、セルーニも、セルーニが動くたびに揺れるシャーラムもとても可愛いかったので、私は納得することにした。


 時を置かずに、ロンルカストがやって来る。

 銀色の布で包まれた少し大きめの荷物を、大事そうに両手で抱えていた。んー、何を持ってるんだろう。



「ロンルカストが持っているのは、儀式で使うものですか?」


「はい、これからミアーレア様に集めていただく、六属性の神饌を入れるための魔術具です。私の魔力が通らないよう、不通布で包んでおります」



 六属性とは、曜日を司る七体の大精霊のうちの、オイタをした陰の精霊を抜いたものだろうか? 気になったので、再度ロンルカストに尋ねる。



「六属性とは、陰の精霊以外の大精霊が司る、月、火、陽、風、水、土の属性ですか?」


「さようでございます。 私達は、お隠れになられた陰の精霊の代わりを勤めるため、他の六体の精霊から、魔力と杖を授かるのです」



 座学の勉強の成果が出てにっこりとしたロンルカストだが、急に表情を真顔へと変える。

 片足を折って跪くと、私に視線を合わせた。その顔には、少し緊張しているような、真剣な色が現れている。



「ミアーレア様、最後の確認でございます。この儀式を行うと、ミアーレア様は、貴族としての証である、杖を得ることになります。 ……宜しいのですか?」



 んん? 宜しいも何も、失敗して杖を得られなかったら、処刑って言われてるんだよ。

 ロンルカストも一緒に冷徹貴族の言葉を聴いていたはずなのに、急にどうしたんだろう? うーん……私の決意表明が必要ってことかな?


 私はロンルカストの真意が分からなくて少し悩んだ後、ゆっくりと口を開く。言葉を選びながら、慎重に発言をした。



「はい。わたくしは杖結びをして、貴族としての杖を得たいと思っています。 ……少し不安ですが、これからもロンルカストやセルーニに支えてもらえるのなら、頑張れる気がするのです」



 ロンルカストは、ジッと私の言葉を聞いた後、ふわりと笑う。



「承知いたしました。これからもミアーレア様と共に歩くことができ、光栄でございます」


「至らないことが多いですが、宜しくお願い致します」


「貴族教養に関しましては、私が粉骨砕身、尽力いたしますのでご安心ください」



 いい感じの雰囲気だったが、何故か最後にスパルタ教育宣言をされた気がする。



「お、お手柔らかにお願い致しますね?」



 辿々しく手加減の申請をしたが、ロンルカストは笑顔を崩さないだけで、何の返事も返してこなかった。ダメなんですね、分かりました。


 最後は少しだけ話が逸れたが、杖結びに向けての最終確認が終わった。 いよいよ、儀式の準備が始まる。

 まず薬草園で6種類の神饌を集め、その後、離れの前に戻り儀式を行うそうだ。


 初めての儀式にワクワク、ドキドキする。

 両手が塞がっているロンルカストの代わりに、セルーニが玄関の扉を開けてくれた。

 ウキウキしながら、外へ出ようとする。開けた扉の向こうには、大柄な男が立っていた。



「ひゃぁっ!?」



 陽が落ちはじめ薄暗くなった外の景色の中、逆光で灰色に見える体とは対照的な、燃えるように赤い瞳と目が合った。驚いて、思わず後ずさる。

 紫紺髪で大柄な体躯の男性が腰にさしている、大剣が見えた。記憶が蘇る。


 わわっ!! この人! 初めて貴族街にきたときに、レオ様の横にいて、私を斬り殺そうとしてきた人だ! 

 バッと、後ろに下がった。後ろにいたロンルカストの背中に隠れ、深緑の側近服の袖をギュッと握る。



「おっと、驚かせてしまい申し訳ありません。私は本日の杖結びの護衛を務める、アルトレックスと申します。」


「 ……アルトレックス、約束の時間よりも、少し早いようですが」


「騎士団の練習が、予定よりも早く終わったのだ。遅れるよりは良いだろう? それにしても、随分と懐かれているようだな」


「不敬ですよ。利発なミアーレア様は、其方の粗雑な雰囲気を察して、警戒なされているのです」



 赤目の男は、アルトレックスと名乗った。

 ロンルカストとは、随分と仲が良いようで、軽口を言い合っている。こちらを害する様子が無いことが分かり、私も安心する。 


 護衛をするって言ってた? 

 出会い頭に、失礼な態度をとってしまったかもしれない。

 おずおずと、ロンルカストの背中から顔を出し挨拶をした。



「大変、申し訳ございません。この家に客人がいらっしゃるのは初めてでしたので、少々驚いてしまいました。わたくしは、フィエスリント家のミアーレアと申します。アルトレックス様、本日は護衛をしていただけるとのこと、とても心強く存じます」


「ほぉ。 これはロンルカストが傾倒するわけだな」


「何のことですか?」


「アルトレックス。其方の口にはクロトタエーニヤの糸が必要なようだな」


「いや、申し訳ない、こちらの話だ。私は受けた仕事は、しっかりとやり遂げる主義だ。護衛役は完璧に果たすつもりなので、安心して欲しい」


「アルトレックス、杖結びの予定は6の鐘です。此方はまだ準備が整っていないので、少しここで休んでいて貰えますか? これから、導きに捧げる供物を、集めに行きますので」


「ふむ、そうだな。ただ待っているのも退屈だ。せっかくなら供物集めから護衛しよう」


「 ……分かりました。では、只今の時間から護衛契約の開始と致します。ミアーレア様、此方へどうぞ。 薬草園へ向かいます」



 ロンルカストにエスコートされ、離れの前で大人しく寛ぐ、二頭のグラーレの横を通り過ぎる。

 ここへ戻ってきて、導きの光を追うときに乗るグラーレ達だそうだ。

 宜しくお願いしますの意味を込めて、ペコリと頭を下げると、二頭は同じように会釈を返してくれた。 グラーレ賢い。


 薬草園へと歩いていると、肌寒い風が頬をかすめ、すっかり季節が変わったことを教えてくれた。 


 この世界に来た時は、まだまだ暑かったのに、もう季節が2つも過ぎたんだ。


 私は胸懐に感じた切なさを振り切るように、歩幅の大きいアルトレックスの後を、小走りで追いかけたのだった。



 杖結びまで、辿りつきませんでした。

 すみません、、。 次回は必ず杖結びを行いますので、予告詐欺だと言わないでください。本当にごめんなさい!



 お読みいただき、ありがとうございます。


 少しでも続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや、下の⭐︎を押してくださると嬉しいです。

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