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セルーニの朝食と本日の予定



 貴族は朝起きたら合図をして家仕えを呼び、支度を整えてから寝室を出るらしい。


 でも、今朝の私は、なかなか起床の合図を出さなかった。

 昨日の転居や東塔・西塔への挨拶で、きっとお疲れなのだろうと思いつつ、もしかしたらトレナーセンでは合図の仕方が違い、困惑しているのではと、セルーニは心配した。


 それで、合図が分からなくても、呼ばれたら支度を手伝いに行けるように、私の声が聞こえやすい扉の前で待機してくれていたそうだ。

 いや、もう本当に御免なさいとしか言えない。



「 ……でも、何で花弁を千切って小皿に浮かべると、それがセルーニへの合図になるのですか?」


「はい。私達家仕えは、お仕えする家が決まると、その家と契約するのです」


「家と契約?」


「はい。この家の主人はミアーレア様ですので、同時にミアーレア様と契約したことにもなります。私達は契約により、主人に害をなすことは出来ません。勿論、私はそのような事をするつもりもございません」



 この前、貴族社会のことを教えてほしいとお願いしたからか、起床の合図も知らないのかと呆れられたからかは不明だが、セルーニは懇切丁寧に説明してくれる。



「私は先日この家と契約を交わしましたので、この家の中のことであれば、大体のことは察知できます。お花を用いるのがお嫌でしたら、この方法でなくとも良いのですが、精霊の力が強くない私達にとっては、水を通した方がミアーレア様の魔力が伝わり易く――」


「ちょ、ちょっと待ってください! あの、私って、魔力があるのですか?」


「え? あ、はい。魔力をお持ちかと存じます。先日のポメラ達も、ミアーレア様の魔力を含んでおりましたので、とても御行儀がよくいらっしゃいました」


「そ、そうですか」



 なんと、私は魔力を持っているらしい。

 おかしいなぁ、魔力って陰の精霊探索を委託された貴族だけが持っているんじゃ無いの? 

 

 私は腕を組んで、その場で黙考した。

 この体の元の持ち主のことだ。


 この体は、数ヶ月前にこちらの世界に転生してきた私に合わせて、突然出現したわけでは無い。元の持ち主がいたのだ。元のというか、本来の持ち主。

 転生した当初はパニックで分からなかったが、薬屋での生活が落ち着いてから、薄らとだが思い出してきたのだ。


 この体と共に生まれ、育ち、生きてきた彼女は、ある日、森の中で強い衝撃とそのショックにより死んだ。 

 そして、おそらく本来であれば彼女と共に朽ちゆく定めだった、魂が無くなり空っぽになった体に、なぜか転生してきた私がシレッと入り込み、定着してしまったようだ。


 こんな体のリユース的な使い方、すごく不道徳な感じがするけど、私にはどうしようもない。 

 故意にこの現象を引き起こしたわけでもなく、私自身も意味のわからないままに気付いたらこうなっていたのだから。


 それに、「体を乗っ取ってごめんなさい、お返しします」と言っても、受け取るべき彼女はもういない。


 後付けになるが、それならば私なりに一生懸命生きるのが、せっかく貰った命と体を精一杯使い倒してからお返しするのが、せめてもの彼女への(はなむけ)なのではと思い、今日まで頑張って生きてきた。

 もし彼女が、「人の体を勝手に使いやがってあの野郎!」と、憤りを感じているのならば、あの世であった時に、平謝りしようと思うのだ。


 彼女の、私が転生する前の、この体の元の記憶を辿る。

 うーん、どう考えても貴族の生活では無いな。というか、平民以下の結構酷い生活だった。


 貴族じゃないのに、魔力があるってどういうことだろう?

 頭の中が、クエスチョンマークだらけになり、扉の前で動かなくなった私は、いつの間にかセルーニに寝室の中へ誘導され、あれよあれよという間に、支度を整えてもらっていた。



 昨日のドレスの時も思ったけど、手際よすぎ!

 ベテランの技か! ……いや、ベテランなのか。

 ふわふわとした笑顔で、匠ばりに手早く仕事をするセルーニは、一体何歳なのだろうか、と考える。 



 昨日、私の10倍以上は生きているって言ってたよね? ってことは、100歳は超えてる? ミグライン店長以上の顔面詐欺がいたとは、世界は広い。

 どう見ても小学生低学年にしか見えない見た目のセルーニに、直接年齢確認をしたくなったが、躊躇われた。

 女性に年齢を聞くのは、マナー違反な気がしたのだ。


 支度が整った後は、セルーニに案内され一階の一室へ降りる。大きなテーブルの前の、シンプルながらも高級そうな椅子に、勧めらるがまま座った。セルーニは、当然のように朝食の給仕をし始める。



「わぁ! すごく美味しそうっ!」


「 ……ありがとう存じます」



 コトリとテーブルに置かれたお皿の上のお料理は、クレープ生地のようなものに、刻んだ野菜と果物と肉が包まれた不思議な見た目の一品だった。私は歓喜する。


 最近、お気に入りのファストフードである謎肉の串焼きばかり食べていたので、カトラリーを使ったおしゃれ料理に飢えていた。

 フレンチのような見た目に、テンションが上がりつい叫ぶと、セルーニは頭を下げながら、小さな声でモゾモゾとお礼を述べて、足早に調理場へ戻っていった。


 うー、どんな味なんだろう! ワクワクとしながら、目の前の初めての料理に手をつける。

 ナイフとフォークを使って切り分けると、肉汁と果物の果汁が合わさった澄んだ旨味成分が、切断面からジュワッと溢れてきた。 切り分けた生地にたっぷりと染み込ませ、ゆっくりと堪能する。



「んんっ! 美味しい!!」



 因みに私は、酢豚にパイナップルが入っていても、気にならない派だ。サラダのレーズンも問題ないと思う。

 先に食べ終わったスープ皿を片付けにきたセルーニに、聞いてみた。



「セルーニは、もう朝食は食べたのですか?


「え? あ、はっ、はい、あの、お先にいただきました。大変申し訳ありません」


「? そうですか。そのぉ、やっぱり、主人と家仕えが一緒に食事を取るのは、良くないことですか? せっかく美味しい食事だったので、誰かと一緒に食べたいと思ってしまって…… 」

 

「もっ、申し訳ございません。家仕えが、主人と共に食事を取ることはできません。でで、ですが、そう思っていただき、とても光栄に存じます」



 酢豚のことを考えていたら、小学校の給食を思い出した。ルーティンなのか、月に一回は必ずメニューに酢豚が出てきたんだよね。

 給食の時間は、班ごとにみんなで机を合わせご飯を食べた。 あれ、なんの意味があったんだろう? と考えていたら、1人で朝食を取るのが寂しくなった。今朝発症した、ホームシックが残っていた影響もあると思う。


 セルーニの朝食がまだだったら、一緒にどうかなと思い、いちおう聞いてみたが、素気無く断られた。

 一緒のテーブルに座らない時点で、無理かなと思っていたが、やっぱりダメだったか。

 

 セルーニは、私と受け答えをしながら何故か青くなったり、モジモジと俯いたりしていたので、かなりおかしな質問をしてしまったようだ。

 反省しながら食後に出てきた紅茶を飲んで一息ついていると、ロンルカストがやってきた。



「おはようございます、ミアーレア様。昨日はお疲れのようでしたが、お体は如何ですか?」


「はい、もう問題ありません。昨日は、ロンルカストが部屋まで運んでくれたのでしょう? ありがとう存じます」


「お加減が宜しいようで、安心致しました。さて、本日のご予定でございます。午前中は、座学のお勉強を、四の鐘で昼食をお取りいただき、午後からはポメラアロマ制作と、レオルフェスティーノ様よりいただいた書類仕事をしていただきます」


「あっ! 昨日のあれは、あの書類を私に任せる、という意味だったのですね」


「さようでございます」



 当然です。他に何があるのですか? と言わんばかりの笑顔で返事をするロンルカストだが、私は動揺を隠せない。

 わざわざ書類を落として私に拾わせ、お前が触ったものは汚いから持って帰れ、と言い放ったのは、仕事斡旋の意味だったらしい。とんだパワハラ上司である。


 仕事を頼むんだったら、もっと普通に渡してくれればいいのに。

 あの人は、嫌がらせを挟まないと会話できない呪いにでもかかっているのだろうか。

 理不尽な仕打ちに、むーっ!と、頬を膨らませた後、そうだ、みんなに会いに平民街に行くんだった、と思い出す。



「ロンルカスト! 私、ディーフェニーラ様に時計を献上するために、平民街に行きたいのです!」


「心得ております。三日後の水の日に、東の塔へ参上する予定となっております」


「え? それは今の話と、どういう関係があるのですか?」



「ミアーレア様。 ディーフェニーラ様へ献上するためには、事前にレオルフェスティーノ様の許可が必要です。少し順番が前後してしまいましたが、先触れにて説明致しましたので、問題はないかと存じます」



 瞬間、頭から冷水を浴びたように感じた。

 そうだ、忘れてた……。何かする時は、レオ様に許可取りが必要なんだった。


 アロマの時もそうだったのに、なんでこんな大事なことを、忘れていたのか。

 ディーフェニーラ様のために何かしてあげたいという思いが先走り、冷徹貴族の許可が必要ということが、すっかり頭から抜けていた。


 褒賞云々の前に、スラ時計の話した時点で、ボス部屋行きは確定だったのだ。

 なるべく関わり合いになりたく無いと思っているくせに、自分からその機会を作ってしまった。なんてこった、迂闊すぎる。


 目の前のティーポットがフワリと浮き上がり、空になったカップに紅茶を継ぎ足す様子に、焦点の合わない目を向けながら、私はなんて馬鹿なんだろうと自嘲した。


 注ぎ終わったティーポットは満足そうに定位置に戻ると、パサリと保温用の布、ティーコジーを被る。

 私は再び満たされたカップを手に取った。コクリと、一口飲む。


 同じ茶葉なのに、なんの味も感じられなかったのは、注いでくれたのがセルーニか勝手に動くティーポットかの違いではないことは、明白だった。



ミアは、心の中で勝手にレオ様呼びをしています。

いつか本人の前でも、ポロリと口に出してしまいそうで怖いですね。

いやっ、全然、体験談とかじゃないですから。



お読みいただきありがとうございます。

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