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西塔への挨拶



「ようこそおいでくださいました。ミアーレア様」



 馬車から降りると、ベルセは今日もニコニコの笑顔で迎えてくれた。西塔の扉を開き、中へと案内をする。



 廊下を歩く間も 「何か、ご不便はありませんか? 」、「勝手が違い、戸惑うこともあるのではないでしょうか?」、「東の塔で気になること、ご不安なことはございますか? 力になれることが、あるやもしれません」と、優しく気遣ってくれたが、先程のロンルカストとの約束がある。


 私は良い人の塊のようなベルセに、素っ気ない返事しかできない申し訳なさで苦しくなりつつも、「大丈夫です」や、「はい」の一言で、ベルセの質問を、なんとかやり過ごした。


 罪悪感に押しつぶされそうになった時、ようやくディーフェニーラ様の部屋の前に着く。

 いつものドアフォン通信を介して、ギギッと扉が開いた。



「入りなさい」



 部屋の中に入ると、執務机に座る笑顔のディーフェニーラ様が、此方を見ていた。

 私は部屋の真ん中まで歩くと、この前、冷徹貴族がしていたように跪く。



「ディーフェニーラ様。本日は、お時間をいただきありがとう存じます。」


「ミアーレア、歓迎するわ。今日この街へきたのかしら 転居の支度は、大変だったのではなくて?」



 私の荷物など、大きめのトートバッグ一つに詰め込んで、片手で持てる量だった。

 だが、あえて言う必要は無いだろう。私は神妙な顔をして返事をした。



「はい、本日、離れにて居を構える許可を、レオルフェスティーノ様よりいただきました。明日より、ポメラアロマとポメラウォーターの作製に邁進したいと存じます」


「ポメラアロマとポメラウォーターは、春の社交界にてお披露目をする予定ですの。お客様方の反応が、楽しみだわ。」


「かしこまりました。恐れながら、社交界に必要な量をお伺いしたく存じます。 ……また、レオルフェスティーノ様からお聞きになり、ご承知の上かと存じますが、ポメラウォーターの消費期限は作成日から1週間ほどにてございます」


「えぇ、レオから聞いているわ。時を止める道具を使うので問題なくてよ。必要な量は…… そうね。この前の30個分ほどかしら」



 レオって、誰? と、一瞬、首を傾げそうになったが、レオルフェスティーノ様のことかと気づく。そう言えば、彼らは親族だった。

 前回、堅苦しい挨拶や話し方をしていたので、すっかり忘れていた。父方の祖母と、孫の関係だったはずだ。レオというのは愛称なのだろう。


 気になっていた、消費期限問題も解決する。

 貴族達が期限切れのポメラウォーターでお腹を壊し、その責任を追及されることはなさそうだ。ふぅー、良かった。

 それにしても、時を止める道具って。そんな便利なものがあるなんて、なんとも羨ましい。

 青い猫型ロボットも、真っ青だ。……ん?もともと青いか。


 そして、ポメラアロマは、思っていたよりも大量に必要だった。社交界には、沢山のお客様が来るようだ。

 ロンルカストが、アディストエレンは大領地の中心街って言ってたし、大きなパーティーを開き、沢山の招待客を招くことが、一つのステータスなのかもしれない。

 英国や中世のヨーロッパでも、お茶会は財力や富の顕示的な意味もあったという。


 この前の、30倍かぁ……。

 乾燥する時間も含めると、ざっと計算しても2ヶ月以上はかかるだろう。

 春の社交界っていつなんだろう?

 間に合うかな? うん、後でロンルカストに確認しよう。



「承知致しました。春の社交界に、ポメラアロマという花を添えられますよう、努めてまいります」


「あら、大変、結構ですこと」



 私は頭の中でぐるぐると駆け巡った情報を、なんとか整理した後、ディーフェニーラ様に、頑張って作ります宣言をした。


 満足そうに頷いたディーフェニーラ様は、スッと片手を上げ、頭に当てた。

 黒みがかった赤い色の目を細め、こめかみの辺りを、軽く揉むような仕草をする。無意識化で日常的にしているような、自然な動作だった。


「……恐れながら、ディーフェニーラ様。頭の痛みのお加減は、そのご如何でしょうか?」


「そうね。時々休憩を挟むようにしてから、随分と楽になった気がするわ」

 

「さようでございますか。今も少々お辛そうにお見受けしますが」


「時々、休みを入れるのを忘れ、長時間机に向かってしまうことがあるのです。長年の癖ね、仕方の無いことだわ」



 ディーフェニーラ様は、私が薬屋で伝えたアドバイスを取り入れて、デスクワークの間に小休憩を入れているようだ。

 小娘の言うことだと、聞き流されているとばかりに思っていた。 


 嬉しい。アドバイスを聞き入れてもらったことも、それにより患者さんの症状が改善したことも、とても嬉しかった。

 心の中でむくむくと、喜びががこみ上げてくる。

 もっと、力になりたい。何か、私にしてあげられることは他に無いだろうかと考えた時、ある事が閃いた。



「ディーフェニーラ様、僭越ながらもう一つ、献上したいものがございます」


「……なにかしら?」


「はい。時間を知る道具にてございます。瓶の中にスライムオイルを詰めたもので、私が考案致しました。鐘一つを6等分にした時間を、知ることが出来ます。お仕事の合間に休憩を入れる、一つの目安になるかと存じます」


「時間を知る道具、それは……。いえ、そうね、大変嬉しゅう存じますわ。ミアーレア、転居したばかりで不自由もあるでしょう。離れでの生活に、何か不足は無くて?」


「不足でございますか? とんでもございません。過分な配慮をいただき、恐悦至極にございます」


「そう。では、褒賞は如何かしら?」


「褒賞など、この道具は子どもの玩具のような見た目でございます。特恵を受け取ることなど、恐れ多く存じます ……ですが、可能であれば、ディーフェニーラ様に献上するために、新しく作成する為の時間と、平民街の工房への制作依頼、それに伴った外出許可をいただきたく存じます」


「うーん、そうね。いいわ、許可します」


「ありがとう存じます」



 少し考えた後、平民街との連絡許可を出してくれたディーフェニーラ様にお礼返し、そのままお別れの挨拶をして部屋を出た。


 ふぅっと、肩の力を抜き、廊下を歩く。目下の分際で、体調の心配をするなど無尊だと怒られなくて良かった。

 ディーフェニーラ様との謁見は、冷徹貴族とは違う意味で緊張する。

 冷徹貴族との対面は、明確な嫌悪が伝わってきて、背中に冷や汗をかくような恐怖で全身が強張った。


 対してディーフェニーラ様に感じるのは、偉い人とお話ししているんだ、というピリッとした緊張感だ。

 慣れない会話が続くと、さすがに緊張に耐えられなくなる。目を合わせるのも怖くなったので、この前もお世話になったディーフェニーラ様の後ろにある飾り棚の動物たちを眺めることで、ディーフェニーラ様をみているフリをした。


 就活の面接マニュアルにも、緊張したら面接官のネクタイを見て、目を見てるフリをしろと書いてあったしね。うん、バレてないと思う、多分。

 


 帰り道もベルセが色々と話しかけてくれたが、緊張が解けて1日の疲れが押し寄せてきた私は、生返事しか返せなかった。

 フラフラしながら入り口まで歩き、目の前に止まっている馬車へ案内される。


 馬車の扉が開かれ、中へエスコートされた。

 ガタゴトと動き出した馬車の座席で、私は倒れるようにして意識を手放したのだった。




第二話、薬屋の店番を書き直しました。

ミアの転生時の様子と、具体的な容姿を追加した形です。


転生時のことやミアの容姿は、もう少し後に書く予定だったのですが、少々わかりづらいとご指摘がありましたので、思い切って書きました。

今後も、出来る限り読者様の意見は、反映させていきたいと思っています。



お読みいただき、ありがとうございます。

昨夜、初めてレビューをいただきました。

嬉しすぎて、眠れませんでした、、。

本当に、ありがとうございます。感謝です。





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