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精霊と曜日の相性



「こ、怖かったぁ、はぁ、はぁ……」



 ボス部屋から飛び出し、廊下で膝をついた。

 レオルフェスティーノ様の至近距離での迫力、半端ない。

 私は肩で息をしながら、バクバクと音を立てる心臓を左手で抑える。

 片手で支えきれなくなった書類が、胸の動きに合わせてバラバラと落ちた。



「ミアーレア様! 大丈夫でございますか!?」



 駆け足で追ってきたロンルカストが、廊下で蹲る(うずくまる)私の背中をさすってくれる。

 後ろの方で、ギギッ、バタンッと、ボス部屋の扉が閉まる音がした。



「も、もう、はぁ……もう、大丈夫です。はやく、行きましょう……」



 まだ少し息苦しいが、一刻も早くここから立ち去りたい。

 あの扉の奥に冷徹貴族がいる。もしかしたら扉が開いて出てくるかもと思うと、気が気ではない。

 私の言葉を聞き頷いたロンルカストは、私から書類の山をサッと取り上げると、落ちていた羊皮紙を手早く拾い集め、立ち上がった。



「かしこまりました。此方は私がお持ちいたします」



 歩き出したロンルカストの後に続く。

 帰り道も、以前とは違う方向に進んでいる気がした。



「ロンルカスト、あの、できればランプが並んだ廊下を通りたいのですが」


「ランプ? ランプが如何なされたのですか?」


「あ、えーっと、あの炎達を見ると、元気が出るのです……」



 踊る炎が見たいなど、子どもっぽい理由を言うのが恥ずかしいが、今こそ癒されたい。

 ボロボロで冷え切った心を、無邪気で可愛い炎達に温めてもらいたいのだ。

 私のおねだりに、ロンルカストは少し困った顔をした。



「大変申し訳ございません。本日は月の日でございます。ピラフィティーリに捧げるハシバミの枝を持っておりませんので、本日は、難しいかと存じます」


「ピラフィティーリ?」


「はい。 ピラフィティーリとは、小さな子どもの姿をした、悪戯好きの精霊でございます。困ったことに、彼は廊下の長さや階段の位置を変えてしまうのです。」


「え? それは、悪戯で済まされることなのですか?」


一時(ひととき)もすれば元に戻ります。また、階段を迂回したり、廊下の反対側から目的の場所へ向かえば問題はございません。ハシバミの枝を捧げると、満足して帰るので悪戯を避けられるのですが、本日はご用意がなく…… 考えが及ばず、大変申し訳ございません」


「いえ、そんな。私こそ、無理を言ってごめんなさい」



 いつもと違う廊下を使うのは、精霊の悪戯を避けるためだった。全く、はた迷惑な精霊もいたもんだ。

 そして、ロンルカストの説明を聞いて、「あぁ、そうなんだ」と、納得してしまった自分が怖い。

 魔法世界の不思議常識を、簡単に受け入れてしまっている。

 さっきセルーニの、ポメラと鍋の大行進魔法を見たせいだと思う。 衝撃で魔法に耐性がついてしまった。


 前にも、ロンルカストが何もないところから杖を振って水を出していたが、何というか、あれは手品っぽい印象だった。

 でもセルーニが杖を振る姿は、フワフワした見た目の印象も相まって、妖精が魔法を使っているように見えたのだ。まるで、お伽話の1シーンを切り取ったかのようだった。



「ピラフィティーリと月の日は、どう関係があるのですか?」


「月の日は、影や隠す力が強くなります。ピラフィティーリとの相性が良く、彼の悪戯が成功しやすくなるのです」


 

 曜日と精霊とは、深い関係があるようだ。

 私も、薬剤師時代の日曜日の夜は、明日から仕事かと思うと憂鬱だったし、水曜日の朝は、週末の休みまで今日、明日明後日とまだ3日も乗り越えなければならないのかと、湿っぽくなった。

 こちらの世界の精霊達も、そんなかんじなのだろう。 



「今日は月の日だぜ! はっちゃけるぜ! いやっふぅー!」 



 と、ピラフィティーリも張り切っているに違いない。

 精霊について教えてもらううちに、入り口の扉に着いた。扉を出て、塔の前に止まっている馬車へと案内される。


 西の塔までは、馬車で行くようだ。

 私が馬車に乗り込むと、ロンルカストは馬車の扉を閉め、自分は外の御者の位置に座った。


 ガタゴトと、馬車が動き出す。

 少しすると、馬車は離れの前で止まった。

 ロンルカストが書類の山を家の中へ運び込み、直ぐに戻ってきた。

 再びガタゴトと、馬車が動き出す。

 私は窓から顔を出して、気になっていたことを聞いた。



「あの、ディーフェニーラ様の元へは、どのような要件で向かうのでしょうか?」


「はい。本日この街に居を構えたことのご挨拶と、明日よりポメラを作るご報告でございます。」


「分かりました。えっと、今日は普通に話しても、大丈夫なのですよね?」


「勿論でございます」



 念のため、あの二言しか話しちゃいけない命令が続いているか確認したが、杞憂だったようだ。そりゃそうか、あれだけじゃ会話にならないし。

 ロンルカストは後ろに控えていてくれるが、いつも何も話さない。今日は、私1人でディーフェニーラ様と対話しなければならないのだ。


 遠くから、五の鐘が鳴る音が響く。

 大分太陽が傾いてきた。窓からぼぅっと外を眺める私に、ロンルカストが小さな声で話しかけた。



「 ……ミアーレア様、お願いしたいことがございます。ベルセとは、なるべくお話をして欲しくないのございます」


「え? どうしてですか?」


「私達は、各塔毎に派閥がございます。東塔の私達と、西塔のベルセでは、考え方に違いがあるのでございます」


「分かりました。私もロンルカストが不利益を被るような事は、したくありませんので」


「ありがとう存じます。このような派閥争いに巻き込まれるのは、本意ではないかと存じますが、貴族の定めとご容赦いただけますと、幸いでございます」



 今回はロンルカストから緘口令が敷かれた。

 いつも優しいベルセを、警戒する必要なんてないと思うけれど、ロンルカストの嫌がる事はしたくない。

 

 ガタゴトと進む馬車の窓から、西塔の扉の前で立つベルセを見つけ、私はお口にチャックしようと心に決めた。




無事にボス部屋を脱出しました!

やったね!

なお、貴族になってもレオルフェスティーノからの当たりの強さは変わらなかった模様です。



お読みいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークをしてもらえると嬉しいです。

執筆の励みになります。宜しくお願いします。

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