転居の挨拶
東の塔に入る。
いつも人気が少なくて、静まり返っている廊下だが、今日は人の気配がした。
私とロンルカスト以外にも、話し声や歩く足音が聞こえる。
歩き進むと、何人かとすれ違った。
まだこの前の、液体ぶっかけ事件の事を思い出してしまう。
知らない貴族が横を通るたびに、無意識にビクビクとしてしまった。
貴族達からは、じろじろと観察するような視線を感じる。
私、そんなに浮いているのかな……
しょんぼりと、ドレスに目を落とす。
上辺だけ整えても、駄目だったらしい。
中身は平民なのに服だけ上等だから、釣り合いが取れず、かえって奇異の目で見られているのかもしれない。
素敵なドレスなのに…… 着ているのが私でごめんね……
恥ずかしさと申し訳なさで、前を先導するロンルカストを、早足で追いかけた。
見慣れない階段を登る。今日は、ランプ達が浮かぶあの廊下を通らなかった。てゆうか、この塔、広すぎる。
ボス部屋まで、いくつのルートがあるのだろう。案内がなかったら、絶対に迷う自信がある。
ディーフェニーラ様がいる西の塔も迷路みたいだった。敵に侵入されても簡単に制圧されないように、わざと分かりづらい造りにしてるのかもしれない。
炎ダンスの癒しもないままに、ボス部屋へと着いた。ロンルカストが、恒例のドアフォン通信をしてる間に、私は深呼吸をして、少しでも落ち着こうと試みた。
「入れ」
冷ややかな声と共に、ギギッと扉が開く。
中に入ると、ラスボスの周りには沢山の中ボス…… もとい貴族達がいた。
この部屋に、こんなに人がいるのを見るのは、はじめてだ。
ロンルカストと同じ、深緑の袖がビラビラした服を着ている。彼らは側近なのだろう。
あちこち動き回ったり、積み重なった書類を整理したり、右端にある長い机で何かを書きつけたりと、其々忙しそうにしている。
「ごきげんよう、レオルフェスティーノ様。本日はお時間をいただき、嬉しゅう存じます」
「ふんっ。さすがであるな。どうやらトレナーセンには、貴族の挨拶すら、伝わっていないようだ」
冷徹貴族は鼻で笑うと、私には目もくれず、見ていた書類に何かを書きつけながら返事をした。
「ご無礼を、お詫び申し上げます。病弱でしたので、貴族の教養に明るくございません。どうか、ご容赦いただきたく存じます」
「無知蒙昧の其方と、時間を無駄にする気はない。用件を言え」
「はい。この度は、離れに居を構える許可をいただき、誠にありがとう存じます」
「甚だ不服ではあるがな。この塔内に部屋を与えるより、幾分かはマシであろう」
周りの貴族達から、チラチラと嘲弄の視線を感じる。私は、深く深く頭を下げた。
「恐れ入ります」
「ふむ。しかし、遊ばせておくのも癪だな」
そういうと、執務机に積まれた書類の山の一つを肘で押した。
ドサドサッ!
大量の書類が床に落ちる音が、部屋に響く。
側で動いていた側近達が、慌てて拾おうとすると、レオルフェスティーノ様は彼らを目で制した。
そして、別の山から書類を一枚抜き出すと、再び何かを書きつけ始める。
「え?」
自分で書類を落として、側近達が拾うのを止めた?
冷徹貴族の行動の、意味がわからなくて戸惑う。
周りの貴族達は、何も無かったかのように仕事を再開している。
何秒か、床にばら撒かれた書類を見つめた後、ハッと気づいた。
もしかして、私に、これを拾わせたい……?
恐る恐る執務机に近づく。「失礼いたします」と言い、膝をついて落ちている書類を一枚拾った。
冷徹貴族をチラリと盗み見る。私の行動に何も言わずに、作業を続けていた。羽のついたペンが、羊皮紙を走る音だけが部屋に響く。
どうやら、正解なようだ。怒られなかった。ホッとして残りの羊皮紙や紙を拾う。量が多く、手で持ちきれないかと思ったが、何とか拾い終えた。
立ち上がり、両手で抱えた書類を執務机の上に戻そうとする。
上から冷たい声が降ってきた。
「要らぬ」
「え? あ、あの……?」
驚いて声のした方を見上げると、眉間に深いシワを刻みながら、私を睨み据える深い青色の瞳と目があった。ひぇっ!!?
「要らぬ、と言っている。其方が触れたものをこの部屋に留めるなど、不愉快極まりない」
「あっ! は、はいっ! 大変申し訳ご――」
「去れ。これ以上、私の気分を害するな」
「はいぃっ!!!」
心の芯まで凍るような、冷たい目と声で射抜かれた私は、両手に書類を抱えたまま、逃げるようにして部屋を出たのだった。
4連休? カレンダーの文字が赤い? それは都市伝説ではないのでしょうか?
え? だって私は今日も仕事、、、 うわあぁああぁん!!
ひっそりと、章を追加してみました。
39話までが第一章、40話からが第二章となります。
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