大領地の中心都市
花弁と鍋が独りでに浮かびあがり、スイスイと踊るように飛んでいく。まるで生きているかのような、不思議な光景に目を奪われた。
「セルーニは、凄いのですね……」
「凄いだなんて、そんな。でも、ちょっとだけ、自慢なのです」
照れるセルーニを褒めていると、ギギッと玄関に近い方の扉が開き、ロンルカストが入ってきた。
「ロンルカスト! 見てください! セルーニが、あっという間に片付けてくれたのですよ」
「 ……。セルーニは、優秀な家仕えのようですね」
そう言いながら近づいてくると、スッと跪く。
両手を差し出し、掌に乗せた小さな箱を私の前で開いた。
「ミアーレア様。こちらを、お預かりしております」
「えっ? 」
プロポーズばりの、急なパカキラにびっくりしたが、箱の中身は指輪ではなくブレスレットだった。
「お手を、拝借いたします」
「あ、はい…… 」
言われるがままに、おずおずと左手を差し出す。その手首に、ロンルカストは箱から出したブレスレットを通した。
大人用なのか、子供の私の手にはゆるゆるだ。サイズが合っていない。
ブレスレットは、細い金のチェーンに、小粒のブラックパールのような玉がいくつも連なっている。とても高そうだ。
気を付けないと、落としちゃいそうで怖いな。
繁々と眺めていると、ブレスレットが急にポワッと光った。
「わわっ!?」
ぶかぶかだったブレスレットが、シュルシュルと縮まっていく。あっという間に、私の腕にピッタリのサイズになった。
異世界のブレスレットは、自動調節機能付きだった。
なんて便利! 太ったり痩せたりしても自動で調節してくれるのだろうか。
「お召し物も、宝飾も、大変お似合いです」
ブレスレットが私の腕に、しっかりとはまったのを確認して、ロンルカストが口を開いた。
馬子にも衣装。服に着られている状態なのは、分かっていたが、お世辞でも褒められると嬉しい。
「ふふっ。ありがとう存じます。あの、こちらはどなたから頂戴したのでしょうか?」
「先日、トレナーセンのご両親が、ご挨拶にいらしたそうですよ」
セルーニと、同じ返事が返ってきた。フィエスリント家は、服のみならず、アクセサリーまで贈ってくれたのか。
申し訳ないを通り越して、なんだか不安になってきた。タダより怖いものはない。
見返りとして、法外なものを請求されたりしないよね? 何か言われる前に、御礼と何も返せるものはありません御免なさいと、謝罪をしたい。
「今度、トレナーセンの両親に、御礼を申し上げたいのですが――」
「かしこまりました。時間に都合がつきましたら、面会の打診を致します」
「はい。宜しくお願いします」
「では、ミアーレア様。 お支度も整ったようですので、東の塔へ参りましょう。」
げげっ! そうだ、忘れてた。
冷徹貴族のところへ、挨拶に行かなければいけないんだった……。
素敵な服とブレスレットにワクワクしていた気持ちが、ポシュッと、萎んだ。
「うっ……。 レオルフェスティーノ様もお忙しいかと存じます。わざわざ私の為に、余計なお時間をとっていただかなくても、宜しいのではないのでしょうか?」
「この離れは、レオルフェスティーノ様の管理区域でございます。居を構える許可をいただいた、御礼とご挨拶は必須でございます」
「 ……先触れは?」
「先程、お出し致しました」
「うぅー 」
「後顧の憂いは、無くなりましたでしょうか?」
「 ……はい」
渋々と諦めた私に、にっこり笑顔のロンルカストは、満足そうに頷く。
「では、参りましょう」
「はい……、セルーニ、行って参ります」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
行ってきますと言ったものの、全っ然、行きたくない。鬱々とした気持ちで東の塔まで歩く。重くないはずのドレスが、ズシリと、のしかかってくるように感じた。
やだなぁ…… 今日はどんな嫌味を言われるのかな……。
離れと東の塔は近い。どんなにゆっくり歩いても、10分もかからず着いてしまうだろう。
私はため息を吐きそうになるのを堪えて、目指している東の塔を見上げる。
この前、ヘロヘロになりながらグラーレ小屋まで城半周分の距離を歩いたので、おおよその外観を把握した。
中央に長方形の大きな建物が立ち、その四隅を、これまた大きな四つの塔が守っている。
今向かっているのは、その塔のうちの一つだ。
昔テレビで見たフランスのシャンボール城に似てるような、似てないような。
「このお城は、とても大きいのですね。」
「そうですね。大領地に相応しく、大変格式高いかと存じます。我がアディストエレンの城は、他の領地と比較しても、とても大きいそうですよ」
「他にも、お城があるのですか? 」
「この国には、30程の領地が御座います。其々の領地は、領地の名を持つ中心街に城を持っているのです」
「30も! 沢山の領地があるのですね。 」
「アディストエレンは中央に次ぐ、大領地といわれております」
「はぁー、そうなのですか。アディストエレンの領地には、このアディストエレンの街以外に、どのくらいの街があるのですか? トレナーセンも、その一つですか?」
「さようで御座います。アディストエレン領には21の街があり、その中の一つがトレナーセン、領地の中でも北側に位置する街でございます。」
ふんふん。教えてもらった情報を頭の中で整理する。
日本に例えると、県名と県庁所在地の名前が同じということか。千葉県千葉市、てきな。
この国には、30の都道府県があって、その中の一つである、アディストエレン県は、そこそこ大きな県らしい。
アディストエレン県は、21の地域に分かれていて、中心都市はここ、アディストエレン市。
県庁がわりの大きなお城には、県知事じゃなくて領主が住んでいる。
そして、その領主の補佐はめちゃくちゃ怖い。怖くて会いたくないけど、今から挨拶に行かなければ行けない。
はぁー、折角、気分転換に雑談をしていたのに、話が元に戻ってしまった。
嫌だ嫌だ、行きたくないよ! と、思ううちに、あっさりと東の塔の入り口に着いてしまうのであった。
パカキラされると、つい左手を差し出してしまうようです。はい、想像です。むしろ妄想です。すみません。
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