貴族の服
お風呂を上り、体を拭いてもらう。
自分で拭こうとしたらセルーニに「私の仕事ですので」と、タオルを奪われたのだ。
溺死未遂事件の後から、セルーニは普通に話してくれるようになった。
主人の不甲斐なさをみて、自分がしっかりしなければ、と目が覚めたのかもしれない。
おどおどしながら目を逸らされなくなったのは良かったけれど、主人としての威厳を考えるとちょっと悲しい。
体を拭いた後は、用意してあった服を着せてもらった。
手際良くスルスルと支度が整っていく。熟練の技だ。
私はマネキンのようにつっ立って、時々、言われるがままに、右手や片足を上げただけ。ボタン一個も留めさせてもらえなかった。
「いかがでしょうか?」
着替えが終わったようだ。
仕事をやり終え、ちょっと誇らしげなセルーニに言われて、着ているスカートを摘んでみる。
……全然、違う。
厚みと光沢があり、ひと目見て上等だと分かる生地。いつも着ていた服とは、比べ物にならない。肌触りも、なんかツルツルとしている。
形は、膝丈ワンピースのシンプルなドレスだが、スカート部分には何枚も生地が重ねられていた。裾と袖にも、繊細なレースや細かな装飾があしらわれていて、高級品だと分かる。
今日は、先輩達にもらった中でも、1番綺麗な服を着てきたが、平民と貴族の服は、こんなにも違うものかと愕然とした。
さっきまで着ていた古着は、あっちの籠の中で恥ずかしそうに小さく丸まっている。
私は、改めて今着ているドレスに目を落とした。
うん、服だけ見れば、ザ・良いとこのお嬢様だね。 ……服だけ見れば、ね。
こんな高そうな物、誰が用意してくれたんだろう? ディーフェニーラ様?
「セルーニ、これのお洋服は、どなたが用意してくれたのですか? 」
「 ……先日、トレナーセンのご両親がアディストエレンの街へ、ご挨拶においでになったそうですよ」
「え? トレナーセンの? 」
勿論トレナーセンの両親は、私の本当の両親ではない。
本当の娘ではないとばれないように、ディーフェニーラ様と口裏合わせに来たのだとしても、わざわざこんな高そうなドレスを、私に贈る理由は何なのか。
首を捻ったあと、「あぁ、そうか」と、ポンと手を打った。
私の評判は、即ち、彼らの評判なのだ。
娘の私が、ペラペラで貧相な服を着ていると、「フィエスリント家は、まともな服も買えないのか」と、自分たちが馬鹿にされる恐れがある。
かといって、平民の私がそれなりの物を用意するのは不可能だ。しょうがないと諦めて、仕方なく身銭切ってくれたのだろう。
成る程、と納得していると、セルーニは、ギギッと浴室の扉を開けた。
「ミアーレア様、客室へまいりましょう」
セルーニに続いて、階段を降りる。
この家を借りてから、結局、一部屋しか使っていなかった。入口から1番近くて広い、アロマの調剤部屋だ。
だから、お風呂があるのを知ったのも、ついさっきだったし、なんなら、二階への階段だって初めて登った。
大きな家なのに、中を探検する暇も無くて、他の部屋がどうなっているのか気になっていたのだ。
客室ってどんなところだろうと、ワクワクしながら、付いていく。 案内されたのは、調剤部屋だった。
あ…… ここ、客室だったんだ……。
言われてみれば、確かにそうだ。広く、調度品もお高そうなものが揃っている、来客用の部屋である。
でも今は、テーブルの一角をポメラが占領しているし、部屋の中央には、出しっぱなしの蒸留機が、どーんと置きっぱなしだ。
客室と知らず、とっ散らかしてしまった。
どうしよう…… 家の管理を任されているセルーニは、怒ってるかな?
とても、気まずい。
「えーと、ごめんなさい。客室と知らず、作業部屋にしていました。後で、違う部屋に移動しますね」
「これらは、動かしても大丈夫なのですか?」
「はい、大丈夫です。ただ、花弁はグループ分けして置いてあるので、位置をずらしたくなくて。なので、時間がある時にゆっくりと移動しますね。蒸留機はとても重いので、ロンルカストに手伝って貰いましょう」
「それは、この位置をずらさなければ、動かしても宜しいということですか?」
「えぇ、でも、花弁は大量にあるので、動かすのはとても面倒だと思うのです。また今度にしま――」
「問題ありません。ミアーレア様」
セルーニは、エプロンのポケットからサッと小ぶりの杖を取り出した。
「オルガーノキニーシ! 」
杖を振る。テーブルの1番端にある緑の花弁が、ふわりと浮き上がった。
スイっと動き出すと、奥の部屋に吸い込まれていく。
同時に、その隣にある花弁が次々と浮き上がり、最初の一枚の後を追うように動き出した。
緑が全てなくなると青。それも無くなるとピンク。花弁達は、行進するかのように、鮮やかな列を成して飛んでいく。
最後の一枚が動き出すと、部屋の中央の蒸留機がガタガタっと震えた。まるで重さなど無いかのように、フワリと浮き上がり、花弁と同じように、奥の部屋へと吸い込まれて行く。
蒸留機が見えなくなると、指揮者のように杖を振っていたセルーニは、手を下ろした。クルリと此方を振り返る。
「私、お片付けはちょっとだけ得意なのです」
セルーニは胸元でギュッと杖を握りめると、口を“ま”の形でフリーズしている私に向かって、恥ずかしそうにそう言ったのだった。
今日から4連休ですね!
私は仕事をしていました。
明日? 明日はそうですね、出勤予定です。
、、うわぁああーーん!! 連休が欲しいです!!
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも続きが気になる、もしくは、連休中も仕事とか可哀想、プププッ、笑 と、憐んでいただけましたら、ブックマークをいただけると嬉しいです、、




