表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/229

貴族の心構え



 薬屋での大号泣が落ち着くと、皆んなで白壁まで、見送ってくれた。


 ワイワイ賑やかな常連さん達と、無言無表情の店長や先輩達が一緒に外を歩いているのは、すごく変な感じだ。でも、私は大好きな人達に囲まれて、とても嬉しかった。

 道中では、さっき泣いたこともあって、少し変なテンションになっていたかもしれない。


 最近泣きすぎだよね……

 前世では、こんなに泣いたことあったっけ? 

 ふと、そう考えたが、よく思い出せなかった。


 ロランさんとミグライン店長を握手させたり、常連さん達に今後もケチらず回復薬を使うように言い含めたり、いつか取りに来るから薬のデータをとり続けて欲しいとサルト先輩に頼み込んだりした。


 ずっとこうしていたい、私の願いとは裏腹に、あっという間に白壁に着く。

 最後に、一人一人とハグをした。

 店長や先輩達が、おずおずと困惑しながら受け入れてくれるのが、面白くて笑ってしまう。

 私達のお別れが一段落したのを見届けると、門番の騎士が、壁に向かってを操作した。



「どうぞ、お進みください」



 溶けるように消えた白壁の向こうへ行くように促される。

 私は頷いて、貴族区域へと足を踏み入れた。

 二歩三歩と進んでから、くるりと振り返る。みんなを見た。



「今までありがとうございました。本当にお世話になりました。どうか、皆さん、お元気で」



 最後は、笑顔でお礼を言うことができたと思う。

 私と皆んなの間の何もなかった空間に、スルスルと壁が出来ていく。

 地面と貴族壁の両側から生えるように伸びてきた白壁は、あっという間に元通りの継ぎ目のない一枚の壁に戻った。



 あ、見えなくなっちゃった……

 壁に阻まれて皆んなの顔が見えなくなった後も、私は動くことができない。

 白壁の前で立ち尽くす私を、門を守る騎士は引っ張るようにして馬車へ誘導した。


 馬車に乗り、バタンと扉が閉まる。

 思ったよりも大きな音に、体がビクッとした。

 グラーレがゆっくりと歩き出し、つられるように馬車もガタゴトと動き出す。

 私は、窓から身を乗り出して、後ろの白壁を見続けた。


 もう、壁が開かないのは分かってる。

 みんなの姿が見えないのも分かってる。

 馬車はガタゴトと進み、ついに白壁は見えなくなった。

 それでも、あの向こうに皆んながいるって思うと、私は目を離すことが出来なかった。

 



 ガタゴト



 ガタゴト



 ガタゴト





 あの向こうに平民街がある、馬車がどんなに進んでも、そう思い揺れる窓から貴族の家々の先をジッと眺める。

 どのくらいそうしていただろうか、ふいに馬車が止まった。

 いつの間にか、離れに着いたようだ。



「お帰りなさいませ」



 ロンルカスト様が、いつもと違う言葉で迎えてくれた。

 そっか、私、今日からここで暮らすんだ……

 心にポトリと、不安の雫が落ちた。



「ありがとうございます。ロンルカスト様」


「ミアーレア様、私はミアーレア様の側近でございます。敬称は不要でございます」


「あ、でも、ロンルカスト様は…… 」


「ミアーレア様、病弱で外へ出ることが困難でしたので、慣れないことも多いかと存じます。少しずつ、私とお勉強していきましょう」


「 ……はい、ロンルカスト」



 

 貼り付けた笑顔で私を窘めるロンルカストは、どこか少し遠く感じた。

 なんだか、私の知っているロンルカスト様ではないような気がする。


 この前、心が通った気がしたけれど、あれは気のせいだったのかな……

 それか、私を言いくるめて、貴族区域に戻ってくるように仕向けるための嘘?ジワリと、心に落ちた不安が広がっていく。



「どうぞ、此方へ」



 笑顔のロンルカストに促されて、俯いたまま、離れの中に入った。

 自分も中に入り、ギギッと扉を閉めると、ロンルカストは私の前に来て、膝をついた。

下を向く私に視線をあわせ、真剣な顔をしている。



「ミアーレア様、先程は申し訳ありませんでした。」


「あ、ロンルカスト、いえ、私こそ申し訳ありません。」


「 ……心に留めていただきたいことがございます。 何気ない一言でも、ここでは足をすくわれる危険があるのです。 私は、ミアーレア様の足元の氷を守りたく存じますが、()()()()()()()()()にも、守っていただきたいのです。」


「あ……  」



 そうか…… ロンルカストは貴族としての立場を失う辛さを、身をもって知っている。

 だからこそ、私が同じ目に合わないように、細心の注意を払ってくれているんだ。


 なんてバカだったんだろう。私は、ここで貴族として暮らしていく覚悟が全くできていなかった。

 ロンルカストの優しさに気づかず、勝手に落ち込んで拗ねていた。甘ったれていた自分が恥ずかしい。



「 ……ロンルカスト、ありがとう存じます」


「いえ、平民街を離れたばかりで、御心が辛くいらっしゃるのも存じております」


「違うのです。私、甘えておりました。 ……分からないことだらけですが、これから貴族社会のこと、勉強致します。沢山、教えてくださいませ」


「勿論でございます。一緒に頑張りましょう」



 大きく頷いたロンルカストの笑顔は、私の知っているものだった。ほっと安心していると、ロンルカストが口を開いた。



 「では早速ですが、本日のご予定でございます。身支度を整えた後、東の塔のレオルフェスティーノ様へ到着のご挨拶。その後、西の塔のディーフェニーラ様へお会いになっていただきます。」


「え…… ?」



 貴族として生きる心構えはできても、冷徹貴族に会う覚悟のできていなかった私は、その場で固まったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ