足元の氷
「 ……私、貴族として生きていくなど、無理です。出来ません」
つい、本音が漏れでた。
「ミアーレア様、わたくしはミアーレア様のお世話係です。ご不安かと思いますが、お側でサポート致します」
優しくなだめてくれるロンルカスト様に、抱えきれなくなった本音をぶつけてしまう。
「でも、私が貴族になることなど、誰にも望まれていないです」
「ミアーレア様が貴族になられるのは、ディーフェニーラ様の御心です」
「ロンルカスト様 ……でも、でも、ロンルカスト様にも! この前出過ぎた真似をして、不快な思いをさせてしまいました!」
突然のことに追いつかず、いっぱいいっぱいになってしまった私は、ずっと胸につかえてきたことが抱えきれなくなり、一気に吐き出す。
私の言葉を聞いたロンルカスト様は、目を丸くした後、口を一文字に結んで下を向いた。
子どものように、感情的になってしまった自分の言動に、後悔が押し寄せてくる。呆れられてしまったのだろうか。また、嫌われてしまっただろうか。
ロンルカスト様だって、こんな子どもの、しかも貴族に口出しするような失礼な平民の世話をすることになってしまったんだ。この配属だって、嫌々に決まってる。私のせいで、また迷惑をかけてしまった。
ロンルカスト様に、迷惑なんてかけたくない。これ以上嫌われたくもない。貴族にだってなりたくないのに。
こんな私、もう消えてしまいたい……。吐き出したものよりも、大きな量の不安が返ってきた。無言の時間が流れる。
「 ……わたくしの家が、お取り潰しになったという話は、以前お伝えしたかと存じます」
「へ? あ、はい」
顔を上げた、ロンルカスト様は、何かを決心したかのような顔をしていた。
私を見ているが、もっと遠くの、違うものを見ているような目をしている。急に、なんの話をしはじめたんだろう。
「貴族とは常に、薄い氷の上を歩いているようなものでございます。レオルフェスティーノ様に取りなして頂いたとはいえ、氷の溶け切った私と、関わり合いになりたいと思うようなものは、おりません」
「それは、お家の問題で、ロンルカスト様のせいではないかと思いますが…… 」
私の言葉に、ゆっくりと首を振る。青色の髪がふんわりと揺れた。
「いいえ、ミアーレア様。自分の足元の氷を守れぬことは、貴族として致命的なことです。先を見る力が足りていなかった、私の不甲斐なさが招いた結果でございました」
「そんな……」
それは、自分の命のために、家族をやめる、もしくは見捨てる選択が必要だった、ということなのだろうか。重い話に、胸が締め付けられる。
「先日、ミアーレア様はそんなわたくしを、身を挺して庇って下さいました。文字通り命をかけて」
「それは、いつもロンルカスト様が、私を…… 」
茶色の瞳が、ふっと細められた。優しくて悲しい、泣いているような笑顔だった。
「初めてだったのです。厳粛後、私のために動いてくださった方は。ですので今度は私が、私を守ってくださったミアーレア様のために、尽くしたいと存じております」
「でも、だって、私はただの平民で――」
「今は分からないことも多く、ご不安かと思います。ですが、ご安心ください。私がサポート致します。これから少しずつ学んでいきましょう」
「そんなの、ロンルカスト様の迷惑にしか、ならないではないですかっ! うぅっ……グスっ、私、ロンルカスト様のお荷物になんて、なりたくありません」
「そのような事はございません。どうか、お側で支えさせて下さいませ」
「だって、そんな、私なんか…… グスッ」
「どうかお聴きください。今度は私が、貴方をお守りしたいのです。共に道を進みましょう。ダメでしょうか、私とでは?」
「グスグスッ…… ダメでは、ありません。わ、私と一緒に、ひっく、歩いて、下さいませ」
ロンルカスト様がそっと差し伸べた手を、私は取ることは出来なかった。
涙でぐしゃぐしゃな顔を隠すので、精一杯だったからだ。
困ったような笑顔になったロンルカスト様は、私が落ち着くのを待った後、いつの間にか右手に握っていた杖を優しく振った。
「ネローリア」
静かな声とともに、暖かい光が目の前で弾けた。
ギュッと瞑ってしまった目を開くと、心配そうに眉を下げた顔と、視線が合う。顔の熱さは、引いていた。
「馬車まで、お見送り致します」
そう言うと、ロンルカストは再び私に向かって、再びその手を差し伸べたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
これにて、第1章完結となります。
次話からは第2章が始まり、悩み葛藤しながら進む中、物語の幅やミアの考え方などが広がります。
生きることとは、考え苦労すること。人生のボーナスステージでもない限り、簡単な道なんてないと思うのです。
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