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連戦の疲れ



 昨日のことを思い返すと、ちょっと恥ずかしい。


 貴族区域から平民街へ戻って、緊張の糸がプツッと切れた私は、迎えにきてくれたロランさんに、しがみつくようにして大泣きをした。


 ロランさんは、私の肩を優しく抱いて、「頑張ったね」と、頭を撫でてくれた。それに甘えて薬屋までの道中、ずっとくっ付いたまま、泣きじゃくってしまったのだ。ふわふわのオレンジ色の髪が頬に当たって少しくすぐったかった。



「ははっ! ロランの制服、すげぇことになってるな!」


「ぐずっ、あ、ロランさん、、ひっく、ごめ、んなさい」


「こんなの大丈夫だから。気にしなくて良いよ」



 薬屋に着いた時、ロランさんのワンピースの上に着ていたギルド服は、胸からお腹部分だけぐっしょりと濡れて色が変わっていた。

 一緒に迎えにきてくれた常連さん達に、指摘されて謝る。ロランさんは「大丈夫だよ」と笑いながら、逆に冷やかしてきた常連さん達を叱っていた。


 気兼ねのないやりとりに、安心する。平民街ならではの空気感が嬉しくて、私の涙は泣き笑いになった。


 皆んなでヤイノヤイノと騒ぎながら、店の中に入る。

 店内のカウンターには、サルト先輩が座っていた。ミグライン店長も店の裏から顔を出してきたが、私の顔を見るなりサッと店の裏へ帰ってしまった。


「え……?」


 もう少し心配してくれたっていいのに、店長ひどい。私がショックを受けて、ブラウンのポニーテールが消えていった店の奥を睨んでいると、スタスタとサルト先輩が近づいて来た。ポケットから取り出した、綺麗な布を手渡される。



「あ、ぐすっ。ありがとう、ございます」


「使え」


「いつも、ひっく、持ってる、んですか? 女子力、ぐすっ、たかい、ですね」


「ジョシリョク? そろそろ必要になる気がしたから、用意しておいた」



 なんと、私のことを(おもんばか)って準備してくれていたようだ。サルト先輩は、女子力もママ力も高かった。


 薄情な店長と対照的な心配りに感動する。嬉しくて、つい抱きつくと、ロランさんとは違う硬い胸板にガツンと鼻が当たった。



「うぐぅっ!」



 衝撃で正気に戻った私は、パッとサルト先輩から離れた。この前、異種族の恋愛事情について、釘を刺されたばかりだ。危ない、危ない。


 心のガード力が下がっている今、サルト先輩に、またあの冷ややかな目を向けられたら、耐えられない。今のは一瞬だったからセーフのはず、ふー。


 サルト先輩とのやりとりを経て、泣き止んだ私を確認した常連さんたちは、「じゃぁ、またな!」と装備や腰の武器をガチャガチャとさせながら帰っていく。

 ロランさんも皆んなに続いて帰ろうとしたので、慌てて呼び止めた。



「あ、ロランさん、ずびっ、体調は、もう大丈夫なんですか?」

 

「え、あぁ、そうなの。ちょっと風邪をひいてたんだけど、もう大丈夫よ」


「そうですか。治って、良かったです。ギルドを、ずっとお休みしてたって聞いて、すんっ、心配しました。」


「心配かけてごめんね。こんなに長引くとは思わなくて」


「今度から、言ってください。お薬とか、食料とか、届けたかったです」


「ありがとう。ここの薬ならすごく効きそうだね。今度風邪ひいたら、お願いしたいな」


「もちろんです!」


 「宜しくね、また遊びに来るから」と言って、残っていた冒険者達と共にロランさんは帰って行った。


 店内は、騒がしい冒険者達が居なくなって、一気に静まり返った。さっきのこともあり、私とサルト先輩と気まずい空気だけが残っている。

 衝動的とはいえ抱きついてしまったのは、かなりバツが悪い。



「先輩! コレ、ありがとうございました。洗って明日、返します! お休みなさい!」


「……。」



 居心地の悪さから逃げるように、わたしは無理やりそう言って、二階の自室へと帰った。










 



 次の日、私は熱が出て寝込んだ。

 中ボス、ラスボスとの連戦が効いたのだと思う。



「ミグライン店長、熱が出て辛いのでお薬をください」


「疲れが出たのさ。薬で無理やり抑えるよりも、休んで直した方が、あんたの為だよ」



 ボスの一言で、お薬はもらえなかった。

 正論の裏に、見習いに高い薬を渡すのは勿体ない、という本音が見えた気がしたが、熱による幻だと思う。店長は私のためを思って言ってくれたんだ。そうに違いない。


 ギシギシと軋む、年代物のマイベッドの上で腫れぼったい目蓋を、ぐしぐしと解す。腫れた目が重い。昨日泣きすぎたせいだ。



 する事がないので、熱でボーっとする頭で考える。

 サルト先輩に借りた布、洗って返さなきゃ。あ、あと、ロランさん。昨日ギルドの制服を、ぐしょぐしょにしちゃったから、何かお詫びの品を持っていかないと。



「うーん、何がいいかな?」



 前にロランさんが気に入っていた、モルテのアロマが真っ先に思い浮かんだが、頭を振って却下する。あれの販売、譲渡はやめたのだ。


 誰かに強制されたわけではないが、アロマの販売は諦めた。理由は、貴族に献上したものを平民街で扱う事が、いいのか悪いのか分からなかったからだ。

 不敬だと言われたら、困る。もうこれ以上の火種も、貴族との関わり合いも自分から作る気はない。


 棚に並べていたアロマは、全て回収して自室に置いてある。



「うーん、でも、苦労して作ったのに余ってて勿体無いし。せっかくロランさんが気に入ってくれてたしなぁ」



 渡した小瓶に入っていたアロマの量は、多くない。毎晩、子どもへの読み聞かせに使っているのならば、そろそろ無くなる頃合いだろう。


 どうにかして、アロマを貴族に渡したものとは別物として、有効活用出来ないだろうか。うーん、うーんと考えるうちに、私はいつの間にか寝てしまっていた。













 目を覚ますと、日が傾いていた。半日近く寝ていたようだ。

 汗をぐっしょりとかいた。おかげで熱が下がって、体の怠さと頭痛が和らいでいる。


 体は楽になったが、汗で濡れた寝巻きが体に張り付いている。髪もベタベタして気持ち悪い。私はまだ怠さの残る体に、鞭を打って上半身を起こす。

 ベッドの横の棚をあけて、毛玉のつき始めた布を2枚取り出した。


 よしっ! と自分に活を入れて立ち上がると、服を脱ぐ。

 脱いだ服はカゴの中にペイッとした。


 部屋の隅に置いてある、身支度用の水に布を浸し、硬く絞ると体と髪を拭く。もう一枚の布で乾拭きし、風邪を引かないうちに、新しい服に着替えた。


 「ふぅ、さっぱりした」


 当たり前だが、この屋根裏部屋にお風呂は完備されていなかった。というか、お風呂文化自体あるのかもわからない。今は水拭きでなんとか体を綺麗にしているが、冬になって寒くなったら耐えられるだろうか。今度先輩達にどうしているか聞いてみよう。


 すっきりしたら、お腹が空いて来た。そういえば、昨日のお昼以降、何にも食べていなかった。

 1日以上、食事をとっていない。早く回復するためにも、食料を買いに行った方がいいだろう。


 外に出るのはまだ辛いが、しょうがない。外用の服に着替える体力も惜しいので、寝巻きの上にバサっと布を羽織る。

 この頃、めっきりと秋めいてきたので、寒さ対策とボロの部屋着を隠すためだ。


 重い足をのろのろと動かし、外へ続く扉を開く。


 トンっ



「ん? あれ?」



 開けた扉に、何かが当たった鈍い音がした。扉の裏を覗く。

 そこには、緑色の布が丸まったものが、ちょこんと置いてあった。



「なんだろう?」



 拾い上げて広げてみる。布の中には、串焼き10本と果実3が個、入っていた。


 あ! 私がいつも買っている、謎肉の串焼きと、ピムソムだ!

 動けないだろう私を気遣って、買ってきてくれたんだ!

 

 嬉しくて、自然と口角とテンションが上がる。



「ふふっ、こんなに沢山、食べきれないよ」



 それにしても、緑色の布を使うなんて、サルト先輩って、意外と自己主張が強いんだから、ふふっ。



「早く元気になって、お礼を言わなきゃ!」



 まだ暖かい串焼きとピムソムを緑の布ごとギュッと抱きしめ、私はルンルンと扉を閉めたのだった。





テレレレッテッテレー!

サルトはママみレベルが上がった!

しかし、エルフ界では使いどころがない能力だ!




お読みいただきありがとうございます。

初投稿から1ヶ月が経ちました。

読んでいただける幸せを噛み締めています。

ご覧いただき、本当にありがとうございます!

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