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ポメラの採取



 薬草園についた。足が棒のようです。もうお家に帰りたい。と思ったが、ポメラの花園へ着くと元気が復活した。

 先週、冷徹貴族からの嫌味で傷ついた心を癒してくれたポメラの美しさは、疲れた体さえも治してくれるようだ。まぁ、気のせいだろうけど。なんともホリスティックな花である。

 今日も艶やかに咲き誇るポメラに近づく。ロンルカスト様がサッと大きな籠を差し出した。



「採取した花弁を入れる用にどうぞ」



 さすが領主補佐様の側近、サポート力が高い。

 あんな怖い人に仕えていたら、嫌でも気が利くようになるのかもしれない。だって、ちょっとでも不足があれば、嫌味のオンパレードに晒されそうだもん。

 でも、ロンルカスト様のような有能で優しい人が、何故わざわざあの人に仕えているのだろうか。つい疑問が口をついてしまった。



「ロンルカスト様は、どうしてレオルフェスティーノ様の側近に、なられたのですか?」


「……私の家は、先の政変でお取り潰しになりました。粛清の対象であった私を、レオルフェスティーノ様が、先代領主にお取りなしをして救ってくださったのです」



 おぉっと、かなりヘビーな話が飛び出してきた。

 粛清とか、家のお取り潰しって、一家で処刑ってこと? 貴族って、紅茶飲みながら悠々自適に暮らしてるだけじゃないんだ。平民には無縁の、権力争いの一端を垣間見た気がした。

 優しいブラウンの瞳の奥に時々よぎる影の理由もわかった気がする。


 ロンルカスト様があの冷徹貴族に仕えている理由も、納得した。なんほど、そんな事情があったのか。確かに、命を救ってもらった恩があるのなら、どんなに冷徹な人にでも尽くすよね。



「それは、お辛い経験をされたのですね。不躾な質問をしてしまい、申し訳ございません」


「いえ、私の家だけではなく、多くのものが粛正に遭いました。珍しいことではございません。レオルフェスティーノ様のお陰で命を繋ぐ事ができた私は、大変幸運なのです」



 そっかそっかと解しかけたが、いや待てよ。「命を救ってやる代わりに、この私に忠誠を誓え!」って、脅された可能性もある。

 すごく言いそう。あの冷たい目で、ロンルカスト様に壁ドンしながら、命の選択を迫っている図が、簡単に想像できた。



「……本当は、仕えたいお方が他にいたのではないですか?」

 

「私の家の階級から、領主様の一族に仕えることができるなど、想像もしておりませんでした。レオルフェスティーノ様にお仕えする事こそが、私の本望であり喜びでございます。」


 ロンルカスト様は少し遠くを見た後、ニッコリと笑って答えた。ブラウンの瞳が少し揺れているように見えた。

 やっぱり他に仕えたい人がいたんじゃないかな。なのに、無理やり魔法か何かで、レオルフェスティーノ様に主従を縛られてるんじゃない?

 きっとそうだ。そうに違いない。お優しいロンルカスト様を無理やり契約させて、いいように使うだなんて、あの冷徹貴族はやっぱり酷いやつだ! 改めて憤慨する。



「耳苦しい話をお聞かせして、申し訳ありません」



 ロンルカスト様が頭を下げたので、それ以上は聞くことが出来なかった。どうぞ採取を、と促される。


 釈然としない気持ちを、さっき渡された大きな籠に押し込めて、どんどんとポメラの花弁を集めていく。

 花を手で包み込むと、花弁がホロホロと独りでに崩れては、近くに新しいポメラの花が咲いた。ファンタジックな光景と、優しいポメラの香りに、荒ぶっていた心も癒されていく。私は、夢中で採取をした。






※※※※※ ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※






 どのくらいたったのだろうか。

 なんだか違和感を感じて顔を上げた。


 あれ? 蝶達、どこに行っちゃんたんだろう?

 楽しそうに飛び回っていた沢山の蝶達が消えて、辺りは静まりかえっている。なんだか不安になった。キョロキョロと、消えた蝶を探していると、ポメラでできた花のアーチの上の方が、キラリと光った。


 ポメラの花と枝葉の合間を縫って、アーチから一筋の日差しが溢れる。日の光と共に、一匹の大きな蝶が舞い降りてきた。



「わぁ! 金、色?」



 光が反射して虹色に見えていた蝶達と違い、その蝶自身が太陽のような色をしていた。

 ふわりと蝶の羽が揺らめき、私の頭上で弧を描く。羽の先から金色の鱗粉が舞い天の川を作った。輝く星達は、暫くその場に留まった後、ゆったりと降りてきて、静かに消えた。


 ふわぁ、綺麗……

 幻想的な光景に、頭がぼーっとなる。



 カーン ゴーン カーン

 ゴーン カーン



「わっ! え!? 5の鐘!?」


 鳴り響く鐘の音で、ハッと我に返る。

 5の鐘!? もうこんな時間!? 私と同じくぼぅっとしていたらしいロンルカスト様と、急いで離れへ戻る。調剤部屋の床に、一心不乱に摘んできたポメラの花弁を並べた。


 ふぅ、なんとか終わった。

 前回、テーブルにポメラを並べた広い部屋の床一面は、花弁で埋め尽くされ真っ赤となっている。お上品な家具達との、コントラストが凄い。この部屋を設えた人が見たら卒倒するかも。

 遠目で見ると、さながら殺人現場のようだ。自分でやっておいてなんだけど、ひどい有様だね。


 先週テーブルの一角に並べた三原色のポメラは、そのままにしてある。

 また色が変わったり時間経過による変化があるかもしれないからだ。しばらく放置して、経過観察をする。検証と考察は、いつだってリケジョのポーチの中に入っている。


 日が傾き始める中、あわててグミット改めグラーレが先導する馬車に乗る。



「次は蒸留機を持ってきます!」



 ロンルカスト様にそう言い残し、私は貴族区域を後にしたのだった。



子どもの頃は平気だった昆虫に、大人になると触れなくなるのは何故なのでしょうか。

朝、玄関先にセミが落ちていないか、ビクビクしている毎日です。



お読みいただきありがとうございます。

本当に嬉しいです。感謝致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たぶん大人になると虫に触ることにメリットを感じなくなるからや!
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