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二度目の登城



 青髪の貴族は、私を扉の前までエスコートすると、真っ黒で重そうな扉に手を触れる。扉はギギッと音をたてて独りでに開いた。

 わゎっ、 タッチ式の自動ドア!?

 私は気を引き締めて扉の中へ脚を踏み入れる。中に入ると、扉はまたギギッと音を立てて、オートマチックに閉まった。



「レオルフェスティーノ様のもとへご案内いたします。此方へどうぞ」



 彼の背中に続く。城の中は人気が少なく静かだった。ディーフェニーラ様のところへ向かった時とは大違いだ。同じ建物なのに、場所によってこんなに雰囲気が違うんだね。


 前回の登城では、何人もの貴族と廊下ですれ違った。そのたびにジトっと観察されたり、顔を顰められたりしたことを思い出す。あの時は嫌に思う余裕もなかったけれど、今日同じ目に合えば萎縮してしまうだろう。

 銀髪騎士改め、レオルフェスティーノ様が私を見ながら酷く顔を(しか)めていた様子を思い出す。彼と対面する前に、他の貴族からの先制攻撃を受けなくて良いことに、こっそりと安堵した。


 階段を登って降りて、廊下を進んでまた階段を登って、迷路のような道を、青髪貴族の細く無言の背中に続いてひたすら歩く。

 なんとなしに、廊下に灯るランプを見上げると、ランプは壁にくっついているのでは無く、壁から少し離れて浮いていた。わぉ。


 ランプの中で炎が楽しそうに踊っている。私に気がつくと、一緒に踊ろうとばかりにクイクイッとされた。誘う動作が可愛くて、見ていて楽しくなってくる。


 廊下に並ぶランプの炎達と、アイコンタクトを楽しんでいると、青髪貴族はある扉の前でピタリと止まった。入り口の扉と同じ、真っ黒で不吉そうな扉で。ゲームだったら絶対にラスボスの部屋だ。

 浮かぶランプの炎ばかり見ていたので、危うく青髪貴族の背中にぶつかりそうになった。ふぅ、危ない危ない。


 彼はベルセ様がしていたように、壁についている透明な水晶に触れる。あの水晶、ドアフォンなのかな。



「レオルフェスティーノ様、ロンルカストでございます。ミア様をお連れ致しました」


「入れ」



 温度のない言葉とともに、扉が開く。

 そこは、ディーフェニーラ様がいた部屋と同じような広い執務室だった。だが、豪華な家具や高そうな調度品が飾られていたディーフェニーラ様の部屋と比べると、シンプルでやや殺風景に見える。


 機能性以外を全て取っ払って必要最低限の気品だけを残した執務机と執務椅子、その両側には側近用なのか、さらにシンプルな作業用の机と椅子が並んでいる。奥の棚には、本や紙束がぎゅうぎゅうに詰め込まれ、飾りひとつ置いてなかった。どの机にも大量の書類が高く積まれている。


 執務机に肘をつき、前回は後ろに流していた銀色の長髪を今日は後ろで結んだレオルフェスティーノ様は、まだ私は何もしていないというのに、既に機嫌が悪そうな顔でこちらをを睨んでいる。

 私は前回の反省を生かして、部屋に入ると自分から口を開く。



「薬屋見習いの、ミアでございます。本日はお貴族様の区域へと足を踏み入れることができましたこと、身に余る光栄でございます」


「ふん、先触れもだせぬのか。流石は下賤(げせん)の身だな」


「大変申し訳ございません。以後、(しか)と心がけて、同じ誤りを繰り返さぬようにいたします」


「平民の分際で、貴族言葉を使うな。耳障りだ」


「はい、承知いたしました。本日はアロマをお持ちいたしました。ディーフェニーラ様にお渡ししたものと、同様のものでございます」



 怖すぎる。もう私が何を言ったって、気に触って機嫌悪くなるだけでござるよ! このゲームの正解ルートが見当たらない。目の前にいるのは、攻略不能のラスボスだ。

 来てそうそう、周れ右して走って帰りたくなった。グッと歯を食い縛って耐える。なんとか抱えていた木箱を前へ差し出した。早くアロマを渡して帰りたい。


 後ろで控えていた青髪貴族が、ススっと出てきて私から木箱を受け取った。ベルセ様がしていたように、銀の小さなお皿で、毒鑑定をしてから冷徹貴族へ渡す。



「ふむ。 植物の香りを凝縮した精油、と言っていたな」



 冷徹貴族は小瓶から精油を数滴垂らして、観察しながら言う。顔を下に向けた拍子に、一つに結んだ長髪が揺れた。光の加減なのか、今日は銀色というよりもほぼ灰色に見える。私は彼の冷たい視線から外れたことに、心底ホッとした。



「はい、植物の葉や枝、果物の皮などから抽出して作成致しました」


「ポメラからも、可能か?」


「植物自体に含まれる油量により、精油の取れる量に差があります。恐れ入りますが、一度作成してみないことには、なんとも言えないと存じます」


「貴族言葉を使うなと、言っておるであろう。平民ごときが、不快だ」


「申し訳ございません」


 ひっ! また、睨まれた!


「ポメラから、アロマの作成を許可する。だが貴族区域のものを、平民街へ持ち込むことは許されない。貴族区域の中で作製する様に」


「承知いたしました」


「其方のようなものが塔内を彷徨(うろつ)くなど、目障りだ。作業は外の離れで行え。低俗な身には十分であろう」



 おっかない貴族がいる塔になど、近づきたくはない。こちらから願い下げである。私は諸手(もろて)を挙げて喜びたいのを我慢して、神妙な顔で頷いた。



「承知致しました。作製にあたり、精油を抽出するための蒸留機を持ち込んでも、宜しいでしょうか? また、火を扱う許可も頂ければと思います」


「ミア様は、壁のランプにとても興味を持たれておられるようでした。持ち出し用のランプをお渡しするのは、いかがでしょうか?」



 おっと。 青髪貴族は、後ろにも目がついていたようです。慌てて弁明する。



「踊る炎を見たのは、初めてでございました。炎一つとっても、平民街との違いを痛感いたします」


「平民は道具に頼らねば、何もできぬのか。哀れだな。許可する。蒸留機とやらを持ち込む際には、先触れで申請する様に」


「承知致しました」


「ふん、下がれ。ロンルカスト、其方も、ゆけ」


「はい、レオルフェスティーノ様。畏まりました」



 お別れの挨拶をして、ラスボスの部屋を出る。ラスボスは机から一歩も動かなかったのに、精神的にガリガリとHPが削られた。

 緊張の糸が切れた私は、はぁーーっと、大きく息を吐く。良かった。今日のメインクエストは無事に達成された。HPは減ったがライフは減らなかった。ミッションクリアである!



「ミア様、私はロンルカストと申します。先程レオルフェスティーノ様より、ミア様のお世話係を申し付けられました」


「ロンルカスト様、平民の私に過分な配慮をいただき、恐れ多い事と存じます」


「ミア様はレオルフェスティーノ様、ディーフェニーラ様の訪客でございます。私に敬称は不要でございます。貴族言葉もご無理をなさらず、使用せずとも宜しいのですよ」


「ロンルカスト様、その、貴族様に対して敬称を外すのは難しいです。あと、私の貴族言葉は、そんなに下手で耳障りでしょうか?」


「そのような事はございません。よく出来ていらっしゃると存じます」



 ロンルカスト様はいつのまにか私のお世話係になっていた。優しそうで安心する。

 ロンルカスト様に、私の言葉遣いが下手なせいでレオルフェスティーノ様の機嫌を損ねたのかと気になっていたことを尋ねてみたが、そうではないらしい。じゃぁあの冷徹貴族は、単純に平民の私が貴族言葉を使うのが癇に障ったのか。どんだけ嫌われてるんだ、私。



「ミア様、離れへご案内致します。こちらへどうぞ」



 ロンルカスト様の物腰は、丁寧だ。質問にも、にっこり笑って優しく返してくれる。

 口を開けば罵詈雑言の冷徹貴族とは、すごい違いである。本当に2人は同じ貴族? 違う種族なんじゃないかな。普通に会話ができるだけで、嬉しくて涙が出そうになってきた。


 ロンルカスト様の後に続いて、城の廊下を歩く。来た時には通らなかった場所に出た。廊下の両端に、西洋甲冑(せいようかっちゅう)の全身鎧がずらっと並んでいる。


 なにここ、恐っ!今にも動き出しそうな鎧の横を、通りすぎる。前を向いていた冑がガシャッ、と此方を見た。

 ひぇっ!? ほ、本当に動くんかい!


 横を通り過ぎるたびに、甲冑(かっちゅう)達の顔がガシャッ! ガシャッ! ガシャッ! と、動くのでビクッとしてしまう。(かぶと)の奥から、見えない暗い目がこちらを見ている気がする。すごく怖い。

 私は、いつの間にお化け屋敷に迷い込んだのだろうか。前を歩くロンルカスト様に、抱きつきたくなった。



 鎧達の廊下をなんとか通り過ぎると、来た時に通った廊下に出た。はぁ、良かった。壁の横に浮かぶランプの中の炎達の、楽しそうなダンシングに癒されながら歩く。


 入ってきた入り口につき、ロンルカスト様が真っ黒な自動扉を開いてくれた。そして私は、ラスボスが住まう城から無事に脱出を果たしたのだった。




迫りくるファンタジー感!

薄れゆくヤクザイシー感!?




初投稿から20日と少しが経ちました。

自分が考えたものを、読んでいただいて評価してもらえる喜びを、かみしめています。

お読みいただき本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤクザイシー感は新しい [気になる点] そういや服は一張羅のまま? 少なくとも貴族街にふさわしいのはないだろうし 服を変えたら評価もかわりそうですね
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