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久しぶりの解析班



「さすがは祖父上だ。平民街まで撒き散らしたいつぞやの花弁の効果がありありと発揮されたようで大変喜ばしい」



 ルディーを見下ろしたレオ様は、お前如きのために口を開くのさえも億劫(おっくう)だという表情をありありと貼り付けながら、そう言った。



「あれには君のお得意の属性がかかっていた。土の守りでは影の防ぎようがないことくらい、分かるだろう」


「ふむ。守りに穴があることを自ら披露してくださったというわけか」



 鼻に皺を寄せたルディーが声を低くして答えるも、レオ様は口元を歪めながら即座にその言葉を嘲笑する。静かな言い合いにも関わらずお互いへの嫌悪感を隠さない2人からは、バチバチと真っ黒な火花が飛び散っているかのようだ。

 そして私はというと、早速勃発した喧嘩に及び腰どころか、腰どっか行っちゃったんじゃないかくらいの勢いでたじろいでいた。



 さ、最悪だ……。



 サーっと血の気も引いていく。なんでルディーは機嫌の悪いレオ様を睨んで、わざわざ突っかかるマネをするのか。全く理解できないし、今すぐその口を塞いでこの場から逃げ出したい。しかしそんな気持ちをグッと堪える。



 他人事のふりはもうしない! 全部自分のことなんだから!



 浅く深呼吸して自分にそう言い聞かせる。何故ならばまだよく分からない部分も多いけれど、ルディーが怒って消えていた原因の一つは、私のこの思考停止癖による現実逃避への辟易(へきえき)だったんじゃないかと思うからだ。

 やっと出てきてくれたルディーのためにも、前と同じ過ちを繰り返してはいけない。それにもう居なくなって欲しくない。きっとこのやり取りには意味があるはず。逃げずに自分で考えなければ。


 停止しかけていた頭を必死で回転する。“自分の尻尾すらも見えていないのか”と、呆れ顔のルディーからまた(さじ)を投げられてしまわないように、久しぶりの脳内解析班たちが仕事を始めた。まずは最初のレオ様の発言から。



 “平民街まで撒き散らしたいつぞやの花弁”



 撒き散らすって、言い方よ。言葉のチョイス最悪か。

 とはいえ、これはルディーが街全体を囲っている守りの魔法のことだろう。薬草園での杖結びの時に、私の魔力をちゃっかり利用したやつ。



 “効果がありありと発揮されたようで大変喜ばしい”



 そして、その後に続いた言葉。一見褒めているようにも聞こえるけど、あのレオ様が賛辞を送るはずがない。言い方も嫌な感じだったし。

 そうするとこの言葉の意味は……あ、うん。なるほど、理解しました。魔を通すなんて意味がない魔法だと、盛大な皮肉を言ってるんですね。性格悪いなぁ。まぁ知ってたけど。


 でも、うん。言われてみれば確かにそうかもしれない。この平民街にはルディーによる守りの魔法がかけられていた。なのに魔が出たのはおかしい。



 “あれには君のお得意の属性がかかっていた。土の守りでは影の防ぎようがない”



 次はレオ様の嫌味に対してのルディーの反論。魔にはレオ様が得意な月属性がかかっていた。月属性の影魔法だったから、自分の土魔法では防げなかったらしい。

 うーん。土は影、つまり月属性に弱いらしい。なるほど、今回の魔は月属性だったからルディーの土属性と相性が悪くて街中へ通してしまったのか。属性同士の相性が及ばず影響は結構大きいようだ。あれれ? でも、おかしいな。ロンルカストは戦いの最中、“この魔は月属性では無い”と叫んでいたよね?



 ……あっ、そうかっ! 

 首を捻る解析班たちの中の1人が、ポンっと手を打った。両手を広げ、閃きを公開する。

 ルディーは魔が月属性と言ったわけじゃ無い。()()()()()()()()()()と言ったのだ。


 前にユニフィア先生から、月魔法の特性を教えてもらった。陽と対照的に月は隠すのが得意。

 月が得意な人は中央から引き抜きにあうのでこの街に残る使い手は少ないけれど、高度な月魔法ならば香りや音や質感はもちろん、全く違うものに見せかけたり、反対に何も無いように偽りもすると言っていた。

 つまり誰かが魔に高度な月魔法をかけ、影で覆うことで姿や全てを見えなくして、こっそりとこの平民街へ引き入れたのだ。

 


 え!? ちょ、ちょっと待って!? 解析班たちが弾き出した答えの恐ろしさに震える。

 しかし彼らはこれは不運ではなく、人為的に引き起こされた事件だと頷いてた。


 しかもあの時は偶然、私がベルクム粉袋を落としたから良かったものの、ベルクム粉が空に舞っていなかったら魔にかけられた月魔法の解除はできなかった。

 そうなれば、平民街は見えない魔から一方的に蹂躙されていただろう。被害ももっと大規模になって、ともすればこの街は壊滅していた可能性もある。事件というか、もはやテロに近い。


 そういえばロンルカストはあの戦いの最中、らしくない驚きの声上げていた。それはこのことに気がついていたからだと、今更気付く。

 だとしたらルディーが急に現れたのも、自分のかけた守り魔法の抜け穴を突くようなやり方が気に食わなかったからかも。それで機嫌が悪くてレオ様に噛み付いてるとか? ……うん、流石にそれはないか。そうだとしたら、ただの子供じみた八つ当たりだもんね。


 思考を切り替える。今一番に考えなければいけないのは、一体誰がなんの目的でこんな惨劇を引き起こしたのかだ。

 皆から周回遅れで真実にたどり着いた私を差し置いて、睨み合うルディーとレオ様は静かな言い合いを続けていた。



「それよりもレオ、随分と到着が遅かったじゃないか」



 声のトーンを上げ少しとぼけたような言い方をしたルディーに、チラリとロンルカストを見たレオ様は顔を顰める。



「演習場にてあれの伝令を受けてから、ここへは最短距離で来た。これを上回る術はない」


「そうかな? 君ならもっと早く気が付いていただろうに。わざわざ彼からの伝令を待つなんて相変わらず律儀だね」


「お忘れのようだが獣の耳と脚を持たぬ人とはそれなりに不便だ。知覚にも限度がある。そのようなお姿に成り果てた祖父上には、きっと分からぬのであろう」


「ふーん。耳と脚以外にも君には知覚する術があるように思えるけどね。土と火の部隊を引き連れてくるあたり、今回現れた魔の特性も予めわかっていたんだろ?」

 

「なんのことを言っているのか皆目分からぬが、本日は火と土の合同演出であった。この編隊にそれ以外の意味はない」



 ルディーの追及にそう答えたレオ様だが、私はその眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。

 まるでやましい事を隠しているみたい。それにどういうことだろうか。さっきからルディーはしきりに、ロンルカストからの応援要請を受けるよりも早く、レオ様がこの事態を把握していたことを示唆(しさ)している。


 でもいくら平民街とはいえ、騎士団長のレオ様が自分の領地が魔に襲われるのを知っているのにも関わらず、わざと知らないふりをする理由が見当たらない。だって被害の大きさは、騎士団の権威低下へと繋がるだろう。それは団長である自分への評価に直結する。


 レオ様が知らんぷりするメリットなんて無いよね?

 クエスチョンマークで頭がいっぱいになった。しかしその僅かな隙間から、ある不穏な言葉が滲み出す。



 “次は其方にとって替えの効かぬものを失うであろう。分かったか?”



 レオ様から向けられた脅し文句。

 少し前のこと。レオ様に風の講義への出席停止処分を言い渡された私は、ついプッツンしてしまった。そして感情のままにごねて叫んでいた際に、レオ様が言い放った言葉がこれだ。



 ま、まさか……。



 ゴクリと生唾を飲み込む。ルディーのいうレオ様がこの事態を事前に知っていた理由は、それこそ犯人がレオ様だからではないだろうか。

 レオ様は月の講義を受け持つほどに月魔法が得意。魔への対応も騎士団で慣れているので、ここまで誘導することも不可能ではない。


 そして平民街を襲わせた目的は、私が大事にしているものが平民街にあると知っているから。ワザと遅れてきたのは、平民街へそれなりの被害を出すためで、こんなもの簡単に壊せる、失わせることが出来ると脅し文句である言質(げんしつ)体現(たいげん)するため。


 目的、動機、実行力。レオ様は全てを揃えていた。もしくはこれは、あの言葉が本気だと実際に見せつけ、言うことを聞かない私の反抗心を折るために計画された事だったのかもしれない。


 目の前の人物をキッと睨む。いったいこの人は、人の命をなんだと思っているのか。こんな事、あってはならない。そのやり方、また人柱の如く私の大事な場所や人たちをみせしめとして扱う神経に私の体はワナワナと震えだしたのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

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