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騎士団の実力


「ロンルカスト、ミアーレア嬢、無事か!? 平民街に魔が出たと伝令を受けた時はまさかと思ったが、間に合ってよかった!」



 いの一番に駆けつけたアルトレックス様は、グラーレが地面に足をつけるのを待たず、結構な高所から飛び降りると早口でそう言った。

 アルトレックス様がいなくなったことで、翼を失い白馬へ戻ったグラーレは、よろけながらもなんとか着地する。


 せっかちな主人に鼻を鳴らすグラーレを不憫に思いながらも、自分やロンルカストへ純粋な心配を向けてくれたアルトレックス様の気持ちが嬉しい。あと地面に突っ伏したまま肩で息をするロンルカストが心配だったので、早急に助けを求めた。



「アルトレックス様、来ていただいてありがとうございます! 私は大丈夫ですがロンルカストが倒れてしまいました! 助けていただいてもいいですか!?」


「ロンルカストが倒れたのか!? 分かった!」



 私の言葉を受けたアルトレックス様は、驚きながらもすぐさまダウン状態のロンルカストの元へ駆け寄る。腰につけている袋から何かの薬を取り出しグイグイと飲ませた。

 そんな慌ただしい私たちから少し離れた場所では、一目散に駆けつけたアルトレックス様とは対照的なゆったりとした操縦で二頭のグラーレが地面へ降り立つ。そのグラーレに騎乗しているのは、メルカール(土の講師)先生とレオ様だ。


 グラーレから降りたメルカール先生は丸顔に人の良さそうな笑顔を浮かべたまま、自分が部隊長を務める土属性で作られた障壁が気になるようで上を見上げる。

 同じく地面に足をつけたレオ様は、いつにも増して不機嫌そうな顔をしていた。なんだか顔色が悪く体調も悪そうだ。


 不用意な接触でレオ様といらぬトラブルになるのは避けたい。というか通常でも怖いのに、体調に難があるせいで更に崩れた機嫌による被害を被るのはごめんだ。呼ばれない限りは極力近づかないようにしようと決める。ルディーを抱っこしながら視線を逸らした。


 顔を戻すと既にロンルカストは薬を飲み終えていた。体に力が入るまでに回復したようで、アルトレックス様の肩を借りるも自力で立ち上がる。そして感謝を述べた。



「すまないアルトレックス。手持ちは戦闘前に服用したので尽きていたのです。助かりました」


「補給薬を事前に飲みきっただと!? お前、そんな無茶な戦いをしたのか!?」


「あれの大きさを見ただろう!? そうでもしなければ最悪の事態が起きることは目に見えていた! ……ごほんっ、悪いが頭に響くので少し声を抑えてくれないか。それに私は必要な時に必要なことをしたまでです」



 アルトレックス様の勢いに触発にされて一瞬地が出るも、ロンルカストは直ぐに咳払いと塩対応で誤魔化し口調を戻す。しかし反対にアルトレックス様は怪訝そうな顔をした。



「いや待て。平民街へ出向くのに、わざわざこの薬を用意していたのか? まるで戦闘が起こることを予想していたようだな?」


「不測の事態を想定することの重要性を、先の経験により学んでいただけです。確かアルトレックスもその場にいたはずですが?」


「ぐっ!? そ、それは分かっているが……はぁ、もういい。これも飲んでおけ。後からくる反動を押さえられる」


「感謝します」



 ぶっきらぼうな男の友情を見せたアルトレックス様は、空を見上げ眉を下げた。



「ところで魔を倒したいのだが、あの障壁が硬すぎて近づけない。守りを解くか緩めてはくれないか?」


「障壁ですか。あれを発動しているのは私ではありません。そうですね、ルディー様。障壁の上方のみを解放していただけますか?」


「んー、面倒だけどしょうがないか。騎士団にはこのくらい自力で突破できるようになって欲しいものだね」



 ルディーはロンルカストの言葉に小憎らしく応えると空を見上げる。視線につられて私も顔を上げると翼を生やした白馬、もといグラーレたちがバサバサと飛び交っていた。先発隊に遅れてやってきた騎士たちだ。彼らは障壁の中に囚われた魔の様子見をしている。


 ルディーがピンッと耳を立てる。すると騎士たちが見守る中、魔を球状に囲んでいる障壁の頂点が歪む。

 歪みは障壁全体へと緩やかに広がる。まるで水面に垂らされた一滴の水が産んだ波紋のようだ。同心円状に広がった波は徐々に高さを失い、やがて静かに消えた。

 気がつけば障壁の上方には、頂点を起点とした直径10メートルほどの大穴が開いていた。


 障壁の一部が解放されたことを確認したアルトレックス様が手を上げる。頭上に飛び交う騎士たちに合図を出した。彼らの半数、グラーレから赤い翼を生やした火部隊の騎士たちが体育会系っぽい掛け声と共に機敏に動き出す。

 空へ駆け上がり障壁の天辺へと降り立った。ルディーが開いた大穴の縁をぐるりと取り囲む。


 もう半数の騎士たちは障壁から少し離れた場所に留まり、様子見を続けていた。メルカール先生が先に来ていることから、彼らは土の部隊かもしれない。

 

 騎士たちが体制を整える中、障壁内で暴れていた魔もこの変化に目敏く気づき既に動き出していた。障壁の両側面を交互に蹴り上がり、ついに見えた唯一の脱出口へ向かって飛び出さんとする。

 火部隊の騎士たちは、猛スピードで自身へ迫りくる巨大で醜悪な怪異を見下ろす形となった。常人ならば正気を保っていられないほどの恐怖にたじろぐだろう。しかし彼らはカケラも動揺も見せなかった。

 魔へ向かって冷静かつ瞬時に杖を構える。照準を合わせ、一斉に魔法を放った。


 各々の杖先から放たれた魔法は、炎という一点を除けばまるで統一性がない。あるものの炎は渦を巻く爆炎となり唸りをあげ、またあるものの炎はその渦の中心を突き抜け一直線に魔へと向かう。

 一瞬にして多種多様な炎に包まれた魔の輪郭は、別のものの炎が障壁を覆うようにその尾を広げ、内部の空間を猛火で埋め尽くしたことにより、これまた一瞬で見えなくなった。


 初めて見た騎士団の持つ圧倒的な火力。彼らの実力にただただ呆然とする。だが私の腕に抱えられたルディーは、同じ光景を見てるとは思えないほど全く興味のなさそうな顔をしていた。

 ルディーは騎士たちの攻撃が途切れたのを確認して、半目のまま鼻先をクイっと動かす。障壁の天辺に空いていた穴が閉じた。


 嬉々として追加攻撃をしようとしていた騎士たちが渋々とその杖を下げる中、閉鎖空間となったことで逃げ場を失った熱は互いに高まりあう。

 そして炎の色を赤よりも高い燃焼域を示す明るい黄色や青に変化させながら、灼熱の業火となった。


 また障壁が閉じたのと同時に、宙に留まっていた土部隊も動きをみせていた。

 火部隊のやりすぎ攻撃が障壁の耐性を上回る懸念を抱いたのか、障壁の周りをぐるぐると回り崩壊箇所がないかを確認する。

 炎上に必要な障壁内の酸素を使い切った炎は、その勢いを弱める。やがて消えた。土部隊の心配をよそに障壁にはひび一つ入らず、その強度を私たちへ見せつけ、内部では塵と化した魔の残骸が舞っている。


 陰の講義から魔は完全に倒せないことや時間が経てばまた復活することを学んでいたが、これは極秘事項。それに勝利は勝利だ。水を差す気はない。

 私とロンルカストへ何度も命の危機を与えた恐ろしい魔との戦いは、こうしてあっさりと終焉を迎えた。対峙している時は死の象徴としか思えなかった魔だが、最後は複数の大人から一方的に殴られるも抵抗できない子どもみたくなっていた。なんとも言えない。

 


 圧倒的な勝利だったのにも関わらず何故か悔しそうな顔をしている火部隊と、反対にやや浮き足立っている土部隊がサクサクと撤退をはじめる中、私は魔の討伐が無事に終わったことはもちろん、彼らの炎よりもルディーの障壁耐性が強かったことを心の底からほっとしていた。


 だって万が一にも障壁が崩壊してあの灼熱の業火が下に落ちれば、地獄絵図だ。平民街は一瞬で焼け野原となるだろう。

 それは平民街の一角を崩壊させた魔の襲撃よりもずっとずっと広範囲な被害を(もたら)すのにも関わらず、きっとお貴族様はその惨劇により全てを失った平民たちの生活と絶望への補償なんてしてくれないだろう。


 人知れず胸を撫で下ろす私の前で、朗らかな笑顔を消していつの間にかうっとりと空を見つめていたメルカール先生が、軽いため息とともに口を開く。



「障壁を防御ではなく囲いとして応用なさるとは、敬服(けいふく)です」


「…………。」



 言葉を向けられているだろうルディーは、口をつぐんだまま何も答えなかった。私も自分へ言われたわけではないので黙っていたが、何故か腕に鳥肌が立つ。

 メルカール先生は、誰からの返事もないことを気にした様子もなく、独り言に近い形でペラペラと話し続ける。



「とても素晴らしい策です。私たちが同様のことを行うには複数の人員が必要ですが、次回の演習からは新たな戦法として組み込みましょう。これにより土部隊の可能性はさらなる広がりをみせます。はぁ……そしてあの美しくも鉄壁な強度。完成された造形の妙妙(みょうみょう)たるや、言葉にできません。あのようなものをお見せくださるとは、やはり貴方様は私たちの希望でしたのね!」



 その言葉は後半になるほど語気を強め、最後は陶酔に近い叫びとなっていた。腕の鳥肌がゾワリと全身に回る。


 七冠くぐりの儀式で土の輪から現れたルディーの正体が亡き先先代領主だと気がついた先生は、自分の初講義にて私を言葉巧みに誘導して講義室へルディーを呼び出したことがあった。

 ルディーとメルカール先生は騎士団で上司と部下の関係だったと聞いていたので、メルカール先生は生前お世話になった元上司に会えて喜んでいるのだろうと思っていた。だが、さすがにこれはおかしいと気づく。というか何か怖い。執着に近いものを感じた。


 あの日、講義室からさっさと逃げ出したルディーの行動も、メルカール先生のこのちょっとヤバたんな片鱗に気がついていたからかもしれない。

 薄情とか思っててごめん。ルディーの危機察知能力は的確で高かった。


 いや、もしかしたらメルカール先生って、元からこういう人なのかもしれない。いつも朗らかで口調も優しいから、良い人だと思い込んでいた。人の内側というのは印象や見た目では分からないものだと学ぶ。



 それにしても、この状況どうするんだろう?



 先生の思いがけない一面を見てしまった私は、どう対応していいのか分からず困惑して腕に抱えているルディーを見る。

 メルカール先生から現在進行形で熱烈な視線を向けられているルディーは、背中の毛をハリネズミのように逆立てていた。視線の圧に耐えかねたのか、私の腕を抜け出しツイッとジャンプすると地面へ着地する。


 そして先生を完全無視して、ある人物を睨んだ。レオ様だ。さっきから私も気になっていたけれど、わざとそちらには目を向けないようにしていた。

 非常に機嫌と顔色の悪そうなレオ様は、ルディーの視線を受けゆっくりとこちらに歩いてくる。



 ひー!? こっ、来なくていいのに! それにルディーもレオ様を煽るのやめてよっ!?



 そう思う私の気持ちとは裏腹に、目の前までやってきたレオ様はルディーへ同様の視線をむける。彼らは戸籍上血縁であるという事を全く感じさせず、お互いがまるで親の仇のように睨み合ったのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

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