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お皿の発注



「おぉ、ほんとに嬢ちゃんだ! 久しぶりじゃないか、相変わらず嬢ちゃんは急に来るなぁ!」

 


 逞しい二の腕と肩をタンクトップからのぞかせたザリックさんは、額の汗を手の甲でグイッと拭きながらそう言った。



「ザリックさんお久しぶりです! いつも急ですみません」


「いやいや、いいんだよ! 大歓迎だ! それで? 今日はどうしたって?」


「実はお願いしたいものがあるんです。武器じゃなくてお皿が欲しいんですけど、そういうのも注文して大丈夫ですか?」


「皿? 日用品なら俺のとこよりも、専門の店に行ったほうがいいんじゃないか?」


「それも考えたんですけど。この前スラ時計をお願いした時のザリックさんの細工が、繊細で丁寧ですごく綺麗だったのが印象的だったんです。だからお皿も素敵なものにしてくれるかなって思って。それに大事な人へのプレゼントだから、知らない人よりも信頼できるザリックさんに頼みたいなっていうのもありました。でも無理だったら他に行くので言ってください」


「ハッハッハ! そこまで言われちゃ断れねぇな。いいぜ、皿の注文だな?」



 そう言って豪快に笑ったザリックさんに、私も笑顔を返す。冒険者からの人気が強すぎて武器専門工房みたいになっているが、申し訳程度に店内の隅っこに飾られている雑貨から、武器以外のものも製作可能と知っていた。

 というか武器以外のものしか頼んだことないしね。天秤も薬研もスラ時計だって、武器じゃないけど作ってもらえた。それに何よりザリックさんの腕は、ミグライン店長のお墨付きだ。


 実際は100才を超えているのに、全くそうは見えない外見詐欺のミグライン店長。その店長の過ごした長い年月により培った慧眼(けいがん)により見込まれたザリックさんは、人柄も腕も良い。

 凶悪な顔といかつい体格に似合わず、気さくで細やかな作業の得意な彼なら、きっとこの注文も引き受けてくれるだろうと思っていた。


 

「やった! ありがとうございます!」


「まぁ、自慢じゃないが装飾に関してその辺の店に負ける気はしねぇしな」


「私もそう思います! ザリックさんの細工は天下一品です!」



 会話に気をつけなければいけない貴族と違って、こういう堅苦しくないやりとりは楽しいなと思いながら、フランクな会話を続ける。



「嬉しいねぇ。こりゃ張り切って作んねぇとな! それで? どんな皿がいいんだい?」


「はい。お皿はですね。平たくてこのくらいのお花を乗せる用のものをお願いします」


「花を乗せるだって? 嬢ちゃんは花なんか食うのか?」


「あ、いえ。私のじゃなくて猫用です」


「はぁー、猫ねぇ。お貴族様の猫ってのはやっぱり違うんだな。皿に乗っけて花を食うなんて、俺たちよりよっぽど上品だ」



 貴族あるあるとして納得しかけているザリックさんに、私もそう思っていた時期がありましたと思いつつ、間違った情報が広がらないように訂正する。



「んーと、正確にはお花に含まれている私の魔力を食べてるんです。あと、これは内緒なんですけどね? 猫っていっても元は先先代領主様なんです。だからそれに見合ったものを作りたくて。ほら、贅沢品に囲まれてたから目が肥えてるでしょ? あ、そうそう。お皿に乗せるのはオレンジ色のお花です。なのでオレンジが映えるような配色で……ってザリックさん? 聞いてますか?」



 ルディーの正体については念のため小声で伝えたが、それを聞いたザリックさんは笑顔のままフリーズしてしまった。

 しまった。人が猫になったなんて話して、驚かせちゃったよね。申し訳ないと思いながら、注文を続けるためにザリックさんの意識の復旧を待つ。思いの外、ザリックさんの再起動は早かった。



「俺の作ったもんが、今度は先先代領主様の手に? いや、猫だから前脚なのか? ……あっ! いやいや何でもないんだ嬢ちゃん。皿だな!? うん、とにかく皿だ!」

 


 前半は自分に言い聞かせるように何かを呟いていたザリックさんに、聞きとれた後半部分への返事としてお皿で問題ないですよと声をかける。ルディーには何度か僕のお皿はまだ?と、せっつかれた事があったのでそれも伝えてみた。

 



「はい、お皿です。宜しくお願いしますね。実は、結構前からお皿のことは約束してたんですけど、なかなかここへ来ることができなかったので待たせちゃってて。その分、本人は楽しみにしてるみたいなんです」


「楽しみにっ!? そっ、そうかそうか! そりゃ、益々やりがいがあるな!?」



 ザリックさんの頼もしい返事に満足した私は、忘れないうちに追加発注をする。だってルディーに作ってあげるなら、もう1匹の使い魔にも作ってあげなきゃだよね。



「あと、もう一つ小さめのお皿をお願いしてもいいですか? こっちは小鳥用で、うーん、見てもらった方が早いかな? フィンちゃんこっちに来てー!」



 呼び声に反応してスィーッと工房内へ入って来たフィンちゃんは、ヒラリと一回転して速度を落とすと私の左肩にストンと止まり、最後に高く柔らかな声で一鳴きするという華麗なご本人登場をした。

 急にやってきたピンク色の小鳥に、ザリックさんは声を漏らす。



「おぉ!? 珍しい色の鳥だ!」



 外でグラーレと仲良くしてたのに邪魔しちゃってごめんねの意味を込めて、フィンちゃんの頭を撫で撫でしていた私も、うちの子自慢ができるチャンスを逃さない。



「ふふっ、可愛いでしょ? それに可愛いだけじゃなくてフィンちゃんは凄く賢いんですっ! この子用のお皿もお願いしますね」



 フィンちゃんの愛らしさに目が離せないのか、中腰になってじっと見つめていたザリックさんは、何故かおずおずと口を開く。



「……これ。いや、このお方も先代領主様か何かなのか?」


「え? いえ、フィンちゃんはただの鳥ですけど?」


「タダノトリ?」


 

 ザリックさんは怪訝(けげん)な顔で私の言葉をおうむ返ししながらも、フィンちゃんから視線を外さなかった。急にフィンちゃんへの敬称を目上に対するものへと変えた彼の意図が分からず、私も困惑する。

 お互いに無言でフィンちゃんを見つめるという謎の時間を過ごしていた私たちの沈黙を破るきっかけを作ったのは、頭を撫でる私の指をいつもの甘噛みではなく、ガシガシと強めに噛んだフィンちゃんだった。



「あいたぁっ!? フィンちゃん痛いよ、どうしたの!?」


「ピィィイッ!」



 その非難が込められたいつもと違う鳴き声に、先の言葉の訂正を求められたと気づいた私は言い直す。



「えーっと、間違えました! フィンちゃんはただの鳥じゃなくて、賢くて可愛い私の大切な使い魔です」



 そう言うや否や、途端にスリスリと身体を擦り付けてきたフィンちゃんは、うん、凄く可愛い。憎めない使い魔との仲直りが済んだ私は、ザリックさんとの打ち合わせを再開する。

 施して欲しい細工やそれぞれのお皿に入れて欲しい模様の希望を伝え、ついでに他のちょっとした注文もお願いした。


 ザリックさんからはそれなりの素材を集めたいとの要望を受けたので、私からも急いでいない旨と、これからは定期的に来るので集まった素材を確認しながら改めて打ち合わせを重ねる約束をする。


 金額的な話も出たが、ザリックさんには気にせず自由にやっちゃってくださいと丸投げした。事前にうちの財務大臣ロンルカストから、全く問題ないと許可が出ているので、その辺の抜かりもない。

 理由を聞いたところディーフェニーラ様から定期発注となったポメラウォーターと、レオ様のお手伝いをしている書類仕事は、それぞれから相応の金額が支払われているからだそうだ。

 今日ミグライン店長の監査を通り今後騎士団で活用されるだろう回復薬からも、その量に見合った収入が見込めるらしい。我が家の財政事情は安定していた。

 今日のところの注文を終えて、晴れ晴れした私はザリックさんにお礼を言う。



「ザリックさんに注文を受けてもらえて、本当に良かったです」


「あぁ! 任せてくれ!」



 ザリックさんはいつものようにニカッと笑いながら答えた。額の汗が最初よりも増えているように見えるのは、筋肉量が多くて新陳代謝がいいからだろうか。



「それじゃぁ、また来月に来ますね!」


「分かった。次までにはそれなりの素材を用意して待ってるよ。そういえば嬢ちゃん、薬屋はこれから行くんだろ?」


「親方ぁ! 俺が薬屋まで付いて行きますっ!」



 コクリと頷いた私が返事をする前に、当たり前のようにアズールさんが付き添いを申し出てくれた。

 ザリックさんにお別れの挨拶をした私は、既に使っていた道具の片付けをし終えた準備のいいアズールさんと一緒に工房を出る。



 外に出るとフィンちゃんはパタパタと羽を動かし、御者席に鎮座した。そしていつもより手狭な馬車に、私とロンルカストがぎゅぎゅっと乗り込む。スペースが少ないのは、大量の回復薬が地味に場所をとっているせいだ。


 まだ未熟な私が回復薬の成功率を急にあげるのは難しい。そのため、監査に出す本数を多くして査定を通る数をあげようという魂胆で、ある分の素材全部を使って回復薬を作りまくったのだ。

 私とロンルカストが座席につくと、馬車は来た時よりもゆっくりと動き出す。2頭のグラーレ達が馬車を守るように横を歩くアズールさんに合わせて、意図的に速度を緩めているのが分かった。グラーレ優しい。そして賢い。


 そんな事を思いながら、馬車の窓越しにアズールさんの辛子色の髪を見ていると、ふとこの前ザラクス先生(陰の講師)が言っていたことの裏取りをしてみようと閃いた。

 窓からヒョッコリと顔を出して呼びかける。



「アズールさん。聞きたいことがあるんですけど、質問してもいいですか?」



 そんな私にロンルカストはやや渋い顔をしたが、シレッと気付かないふりをする。ここには他の貴族もいないし、多少お行儀が悪くても許されるでしょ?

 早歩きで馬車の横を歩くアズールさんは、そんな私とロンルカストの顔を見比べながら少し困ったような顔をしたのだった。




 ミアからザリックさんへ 

 注文履歴とザリックさんの感想


 ・薬研→面白いもん考える子だなぁ

 ・スラ時計の瓶の溶接(自分用)→変な玩具を欲しがる子だなぁ

 ・天秤→本当に面白いもん考える子だなぁ

 ・スラ時計→はぁ!? 先先代領主夫人様と現領主の弟様用ッ!?

 ・皿→こっ、今度は先先代領主様用ッ!?

 ・小皿→タ ダ ノ ト リ ッ !?

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